くるりの15枚目のオリジナルアルバム「儚くも美しき12の変奏」がリリースされた。
本作は、メジャーデビュー時より在籍していたSPEEDSTAR RECORDSから離れ新体制となって以降初のアルバム。「La Palummella」「ワンダリング」「Regulus」「瀬戸の内」など独立以降配信リリースされた楽曲を中心に、タイトル通り12曲が収められている。
本作の発売を機に、音楽ナタリーではくるりの2人にインタビューを実施。2016年に書籍「くるりのこと」をメンバーとともに上梓したライター宇野維正を聞き手に、アルバムの制作背景を語ってもらった。
取材・文 / 宇野維正撮影 / 小財美香子
歌もの中心にしようというなんとなくの意識
──自分が最後にくるりにインタビューをしたのは、「くるりのこと」が文庫になるときの文庫用の追加取材だから、もう7年前くらいのことになりますね。
佐藤征史(B, Vo) まだファンファンがいる頃でしたよね。
──そうですそうです。その後も、映画「くるりのえいが」(2023年公開)のときに寄稿をさせていただいたりもしましたけど。
岸田繁(Vo, G) 今回の「儚くも美しき12の変奏」は、なんというか、非常にしゃべりづらいアルバムなんですよ。取材もまだあまりしてないんですけど、何をしゃべっていいか全然わかんないアルバムで。だから、これはもうひさびさに宇野さんに出てきてもらって、なんの話でもいいから、宇野さんとこのアルバムについて会話ができたらなと思って。
──これまでくるりのアルバムは、レコーディングした場所や、そのときの参加メンバーによってある程度性格が規定されてきたと思うんですけど、そういう意味では今回の「儚くも美しき12の変奏」はかなり長期にわたってレコーディングされたアルバムで、参加してるミュージシャンも曲によってかなりバリエーションがあって。でも、アルバムを通しで聴くと実はそんなにバラけてるわけでもない。くるりがいろんな音楽的な手札を見せてくるアルバム、というのは過去にありましたけど、それともちょっと違う、ある種の統一感がある作品というのが第一印象で。
岸田 だいたい1年ぐらい、だらだらと作ってきたアルバムなんですけど、新たに書いた曲がほとんどというのはこれまでを踏襲していて、昔に書いたモチーフを引っ張り出してきたのは9曲目の「押し花と夢」だけですね。ほかは、この1、2年に書いた曲ばかりで。前作(2023年発表の「感覚は道標」)はもっくん(森信行)と3ピースで演奏するというところから広げていったアルバムだったので、今回は歌もの中心にしようというなんとなくの意識以外は、編成も含めてかなり自由に書いていった曲がほとんどです。
──基本バンド編成で、そこにプラスアルファでゲストミュージシャンが入ってくるという感じで。
岸田 そう。だから音数で言うと多い、ゲストミュージシャンも多い作品なんですけど、デモの段階でアレンジまで含めて曲を書き上げて、そこからスタジオで録っていったので。あとからいじったりというのはほとんどない、ちょっとプロっぽい仕事の進め方をしていった感じでしたね。
──そういう意味では、なんか過去のくるりのアルバムの作り方とはちょっと違いますよね。
岸田 だいぶ違います。これまではわりと巻き込み型でしたから(笑)。
佐藤 3カ月ずっとスタジオに一緒にいて、みんなで作るみたいなことばかりしてきたから(笑)。
──歌詞ができてないままスタジオに入るのとか、当たり前でしたもんね。
佐藤 今回は、あらかたデモができあがってから「この曲はあのドラマーの人がいいね」とか話して、そこからピンポイントでスケジュールを合わせてもらって2日でこの曲とこの曲を録るみたいな、そういう有効な時間の使い方をしていて。
岸田 もう僕らも50(歳)前だし、ちょっとはプロっぽく(笑)。
2部構成だけど古臭くないものを
──「歌もの中心」というのは、確かに聴けばそういう作品なんですが、もうちょっと詳しく言うとどういうイメージだったんですか?
岸田 便宜上「歌もの」という言葉を使いましたけど、ボーカルが叙情詩的な、あるいは叙事詩的な歌詞を歌うっていう部分だけで。2作前の「天才の愛」とかはインストゥルメンタルの曲も多かったんですけど、正直、そっちのほうがやってて楽しいから、放っておくと増えがちなんですよ。
──くるりで「歌もの」と言うと、当たり前のようにも思えるけど、今の岸田くん的には意識しないとインストゥルメンタルのほうに引っ張られると。
岸田 そう。だから今回は「歌の入ってる曲」を軸に作ろうと最初から思っていて。もうフィジカルでシングルを出す時代じゃないですけど、昔で言ったら半分くらいの曲は、サイズも、曲のフックも、リード曲的なものを狙って作ったほうがいいなと思って。これでもがんばってシングルっぽく作っていったんですけど(笑)。過去くるりはそれこそ「ワールズエンド・スーパーノヴァ」とか、「ばらの花」とか、「ブレーメン」とかもそうやったかもしれないですけど、フックのある曲を作るときっていうのは、1つの曲の中に2、3の要素の組み合わせで「これは!」というものを作ってきた自負があるので。今回、わりとそれに近いことを、まあまあ薄味でやったと思ってます。
──薄味?
岸田 はい。あんまり濃い味ではやってないですね(笑)。
──面白いのは、曲が抽象度を増していくのと反比例するように、「感覚は道標」、そして今回の「儚くも美しき12の変奏」と、アルバムのタイトルがどんどん具象度を増していることで。これは、クラシック音楽の作曲家のタイトルの付け方に近いのかなって。
岸田 そうそうそう。多少それを狙ってやってるところもあるんですけど、最近、くるりの音楽が観念的なものになっていってるので、そのくらいのタイトルにしたほうがしっくりくるんですよ。バンド形式のポップスって、僕らも何かの主題歌を作るときはそうでしたけど、限られた時間の中でかなり構成を工夫して、そこでサビメロを作らないといけないとかあるじゃないですか。でも、ライブで演奏することを意識すると、自分たちが好む構成というのは、やっぱりバース&コーラスなんですよね。The Beatlesと一緒で、2部構成がほとんどで。
──特別な理由がなければCメロはいらない?
岸田 はい。だから、2部構成やけども古臭くないものを作ろうっていう意識が最近はあって。それをどれだけ立体的に聴かせるか、構成だけ並べたら普通だけど、それでどれだけ一瞬で時間が通り過ぎていくかみたいなことをすごく考えていて。そうすると、例えば音はレイヤー上で鳴ったりとか、歌詞は観念的かもしれないけどそれが2番では違うように聞こえたりとか、実験って言ったらあれなんですけど、自己満にならないように、実際聴いたときにリスナーが退屈しないだろうっていうとこまで詰めて構成を作っていくことにこだわってやってて。ただ、それを宣伝文句として「こだわりました」って言うのって難しい話で。若い頃の僕だったらたぶんイキって「お前らこれがわかるのは5年先やで」とかって言ってたと思うんですけど(笑)。実は、そのくらい画期的に新しい方法を試みていて。いわゆるJ-POPのみんながサビ前に派手な転調とかをしているのを傍目に、気付かれないような転調を入れたりしながら。
──ただ構成がシンプルというわけではない。
岸田 はい。例えば、ダブルキーって言うんですけど、実は別のキーが同時に走るように作っていたり、場面によって別のキーで歌ったりとかして、それが歌詞の世界とうまくリンクするようにしていたりとか、そういう小賢しいことたくさんやってて。でも、普通の曲に聞こえるように作ってるから、5年後ぐらいに気付かれるんちゃうかな。
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