PAS TASTA|J-POPという大海原を目指して

楽曲やライブなどを通じてリスナーの生活に潤いを与えてくれるアーティストやクリエイターは、普段どのようなことを考えながら音楽活動を行っているのだろう。日本音楽著作権協会(JASRAC)との共同企画となる本連載では、さまざまなアーティストに創作の喜びや苦悩、秘訣などを語ってもらいつつ、音楽活動を支える経済面に対する意識についても聞いていく。

第13回は、国内外で注目を浴びる音楽プロデューサー / シンガーソングライターによるユニット・PAS TASTAが登場。ウ山あまね、Kabanagu、hirihiri、phritz、yuigot、そして顔出ししていないquoreeの6人はどのようにしてユニットを結成したのか。またソロでも活動している彼らがあえてユニットを組む意味とは。JASRACが提供するクリエイターDXプラットフォーム・KENDRIXが3月20日に開催するイベント「KENDRIX EXPERIENCE」に出演する彼らに話を聞いた。

取材・文 / 張江浩司撮影 / 小原泰広

プロフィール

PAS TASTA(パスタスタ)

羊文学

ウ山あまね、Kabanagu、hirihiri、phritz、yuigot、quoreeという、国内外で注目を集める音楽プロデューサー / シンガーソングライターによるユニット。2023年3月に1stアルバム「GOOD POP」、2024年10月に2ndアルバム「GRAND POP」を発表。2026年1月にテレビアニメ「正反対な君と僕」のエンディングテーマ「ピュア feat. 橋本絵莉子」を配信リリースした。

公演情報

KENDRIX EXPERIENCE

KENDRIX EXPERIENCE

2026年3月20日(金・祝)東京都 渋谷ストリームホール
<出演者>
PAS TASTA / Peterparker69 / ALYSA / Ryo'LEFTY'Miyata / ヤマモトショウ / 宮野弦士 / 戸澤直希 / 谷のばら / 星銀乃丈 / Cygames ミュージックチーム / Watusi(COLDFEET) / エンドウ. / and more

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PAS TASTA結成のきっかけ

──PAS TASTA結成のきっかけはphritzさんだったんですよね?

phritz 24時間で曲を作って、それをコンピに収録するという企画を「FORM」というオンラインコミュニティがやっていて、僕とhirihiriが2020年に参加したんです。アメリカ人が中心のネットコミュニティなんですけど、全世界に向けて自分たちの音楽を発信するチャンスでもあるので。翌年にはあまねさんとKabanaguさんも誘って4人で参加してみたら、国内外から反響があったんですよね。曲作りに関しても意外とすんなりできたので、もうちょいやれるんじゃないかなと思って。yuigotさんとquoreeにも声をかけて、今のPAS TASTAの形になりました。

──いわゆるロックバンドだと3、4人の編成が多いですし、ゆるいつながりのグループを志向するのであればもっと大人数になった可能性もあると思うんです。6人組に落ち着いた理由はあるんですか?

hirihiri 「FORM」周辺で活動しているSix Impalaというグループがあって、世界中からプロデューサーが集まってるんですけど、それが最初は6人だったんです。PAS TASTAはみんなSix Impalaが好きで、自然と6人組になった感じですね。

──ロールモデルがあったんですね。

hirihiri やり始めた当初は「Six Impalaみたいになりたい」という気持ちがあった気がします。

PAS TASTA。左からKabanagu、yuigot、ウ山あまね、hirihiri、phritz。

PAS TASTA。左からKabanagu、yuigot、ウ山あまね、hirihiri、phritz。

──いろいろなインタビューで「曲を作るときにはあえて役割を決めない」とおっしゃってました。イニシアチブを取る人もいないんですか?

ウ山あまね いるにはいるんですけど、そういうことをちゃんと考え始めたのはけっこう最近です。

yuigot みんなが編集できるプレイリストを作って、そこに各々がイメージに近い曲をアップしていくんです。その中で擦り合わせていく感じなので、誰が発端というわけでもないというか。プレイリストも、アイデアに詰まったら参考にする程度だったりもするので、ゆるいきっかけの1つでしかないんですけど。

phritz オンライン上でプロジェクトファイルを投げ合って作業するので、誰かの作業中はほかのメンバーが干渉できない時間なんですよ。プロジェクトファイルを持っている間はその人のターンになるので、口出しできない。その話し合わない時間が、逆に曲作りをスムーズに前進させてる気がしますね。

──プロジェクトファイルをボールみたいに回していくんですね。

phritz そうですね。「次はこの人」とパスしていくような感じです。そういう意味では、全員に一度は参加する機会があるんです。

奇跡的な噛み合い方をした6人

──「この曲はここで完成」というのはどの段階で決まるんですか?

Kabanagu 全員から文句が出なくなったら(笑)。

hirihiri 「もうやることないな」って。

Kabanagu そうなったら終わりにすることが多いです。

yuigot 逆に言えば、それまでは各々がやりたいことをやりきるという。

hirihiri 最後のほうにプロジェクトファイルが回ってくると「あんまりやることないな」ってこともあります(笑)。

phritz だいたい1周半か2周くらいするとそうなりますね。ここまでいったらもうミックスして終わりかなと。

yuigot それ以上回しちゃうと誰かの色が強くなりすぎることもあるので。あえて自分のターンでもあまり触りすぎないというか、余白を残しておくようなことを意識してます。

──自分1人で完成まで持っていったらグループの意味がないですもんね。

yuigot 「このままパスしたらどうなってしまうんだろう」ということを楽しむ気持ちが、結果的にPAS TASTAっぽいのかなと。突拍子もない展開になったり、思いつかないような組み合わせが混ざり合った作品になりますね。

左からphritz、yuigot。

左からphritz、yuigot。

──自分の前に作業してたメンバーの想定とは違うものにしてやろうみたいな、ちょっと意地悪な気持ちもあったりします?

yuigot そこまで器用じゃないです(笑)。

hirihiri できないことには挑戦したいし、それが面白くなることもありますけど、「ここから先はこの人にやってもらったほうがよさそう」という感じでメンバーの得意分野を考えながらつないでいくこともあります。

ウ山 みんな突出した技能があるから、自然と役割が見えてきた感じがします。quoreeはほかの人が作れないエレクトロニカみたいな音楽が得意だし、phritzはミックスができる。そういうのを全員初めから持っていて、それをうまく生かせるようになってきた感覚かもしれない。

yuigot それぞれの役割が見えてきたからこそ、「普通に作り進めるとこうなるよね」という方向性もわかってきたので、あえてそこから外してみようとしたり。自分が慣れていないジャンルにチャレンジしたデモを投げて、みんながどう思うかとか。なるべく決め事をしないことが本当に大事だと思ってるんですよね。常に音楽に導かれるままに。

hirihiri おお、おお(笑)。

ウ山 導かれるままに(笑)。

phritz 結成したときの人選にも関わってくるんですけど、全員の作風がまったくかぶっていないことが、今の奇跡的な噛み合い方の要因のような気がしていて。同じようなジャンルの音楽を作っているアーティストだったらこうはいかなかったと思います。

左からKabanagu、phritz、yuigot。

左からKabanagu、phritz、yuigot。

J-POPとタイアップ

──2024年に2ndアルバム「GRAND POP」をリリースした際、phritzさんは「J-POP自体が1つの産業だとわかった。タイアップありきでもある」というようなことをインタビューで答えていました。PAS TASTAも最近は、ももいろクローバーZへの提供曲「Cosmic Commotion」、エナジードリンク「ZONe」とのタイアップ「THUNDA」、テレビアニメ「正反対な君と僕」のエンディングテーマ「ピュア feat. 橋本絵莉子」と、タイアップという観点から見てもさまざまなレイヤーの楽曲を発表しています。

phritz 狙って取りにいったわけではなく、本当にたまたまいただく機会が重なったんですけど、最初に目指した“大きなJ-POP”みたいなものへの道をタイアップを通して進めているなという感覚が、僕はあります。

ウ山 「正反対な君と僕」の曲をやれたのは大きかったです。個人的にはやりたいことがようやくできたというか、最初に目標として掲げていたものを1つ得ることができた感覚がすごくありました。今までアニメを観ていて「自分だったらこういう曲にするのに」みたいなオタク的な妄想があったんですけど(笑)、「GOOD POP」を作っている頃から「この曲はこの人の声で聴きたい」というディレクションを実践してきて、それをアニメというメディアの中でもちゃんと形にできたことには達成感があったし、楽しかったです。続けていきたいと思いました。

左からyuigot、ウ山あまね、hirihiri。

左からyuigot、ウ山あまね、hirihiri。

Kabanagu 僕は活動し始めて4年目にしてはすごく順調だなと思いつつ、この先の途方もなさも見えてきた感覚があって。自分らでJ-POPを名乗りながらやっていくうえで、いろいろ大変なことがあるなと(笑)。ようやくスタートが切れた気がします。J-POPの最前線でやってる人たちのヤバさにも改めて気付きましたし。

yuigot いろんなスタイルのタイアップをやらせてもらって、音楽を通じて社会とつながっている感じがして。すごく安心しました。

ウ山 ニートの発想だ(笑)。

yuigot 独りよがりに音楽を作ってきて、PAS TASTAもその延長ではあるんですけど、やっぱり弟から「アニメで使われてるの、兄ちゃんたちの曲じゃね?」とか言われたから(笑)。そんなことはつい最近までは考えられなかったので。我々の音楽に社会的な居場所が見つかって、それが他人事のように興味深いです。社会にパスタを受け入れる土壌があるし、自分も社会に出ていいんだ、という(笑)。

hirihiri yuigotが言うように、自分が作りたい音楽しか作らないし、作れないんですけど、パスタで作ると、みんなの「作りたい」が合わさった曲になると思うんですよね。タイアップって、いろんなものに合わせて曲を作らないといけないので、1人だとやっぱり難しくて。6人だとできることが増えるのもありますし。これからももっとやっていきたいです。

quoree 個人制作をしてると、視野がグーッと狭くなるんですけど、PAS TASTAはそれを広げてくれる感覚があります。いまだにプロジェクトファイルを開くと「こんなことやってるんだ」みたいな驚きがあります。PAS TASTAの音楽を通してリスナーとか知り合いが想像の何倍も喜んでるのを見ることができて、元気度が高まります。