ジェーン・スー

GREAT TRACKS×音楽ナタリー Vol. 4 [バックナンバー]

ジェーン・スーが振り返る「ジングルガール上位時代」

“戦わないアイドル”Tomato n' Pine──最強のクリスマスソングはいかにして生まれたのか?

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2010年前後の“アイドル戦国時代”に、ハイクオリティな楽曲と味わい深いキャラクターで“戦わないアイドル”として人気を博したTomato n' Pine(トマトゥンパイン)、通称トマパイ。その活動期間はわずか3年程度だったが、その短い時間の中でトマパイは数々の名曲を世に送り出している。中でも2011年12月にリリースされたシングル「ジングルガール上位時代」は今なお根強い人気で、アイドル界屈指のクリスマスソングとして愛され続けている。

あれから14年。音楽ナタリーとSony Music Labels内のアナログ盤レーベル・GREAT TRACKSのコラボレーションによるアナログ再発シリーズの一貫として、「ジングルガール上位時代」が12inchシングルとなって復刻した。アナログ盤には表題曲のほか、「ジングルガール上位時代」に並ぶトマパイの人気曲「ワナダンス!」やウインターソング「雪がふるから…」、リミックス音源「なないろ☆ナミダ -snow bossa remix-」とカップリング曲も収録。ジャケットのみならずスリーブ(帯)もCD版のデザインをそのまま12inchサイズで再現している。

この稀代の名作はいかにして生まれたのか。現在はコラムニスト、ラジオパーソナリティとして八面六臂の活躍を見せるトマパイのプロデューサー、ジェーン・スーに話を聞き、当時の制作背景を振り返ってもらった。

取材・文・撮影 / 臼杵成晃

おっとりとしたトマパイだからこその、クラシカルなクリスマスソングを

──このたび、音楽ナタリーとGREAT TRACKSのコラボ企画により、Tomato n' Pineの「ジングルガール上位時代」が12inchアナログで再発されることになりました。僕個人としては「ついにこの名盤がアナログで……」という喜びがあるのですが、ジェーン・スーさんはアナログレコードに思い入れはありますか?

学生時代はソウルミュージック研究会(※RHYMESTERらを輩出した早稲田大学の音楽サークル・GALAXY)に所属していて、12inchでしか出ていない曲とかをチェックしていましたね。レコードプレイヤーも家にありましたけど、それはDJ用じゃなくて普通のプレイヤーでした。今の家にはプレイヤーがないので、聴くとしたらどこかに持っていかなきゃなという感じです。

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──このタイミングで「ジングルガール上位時代」が再発されるという話を聞いたときはどう思いましたか?

ありがたいなと思いました。Tomato n' Pineは別に一世を風靡したグループというわけではないので。好きな人たちが今でも何かとトマパイを話題に挙げてくださるんです。あとは楽曲をカバーしてくれるアイドルグループがいたり、本当にありがたいですよね。そうやって解散後も愛され続けるようなガールズユニットって、なかなかいないと思うので。

──とりわけ「ジングルガール上位時代」は、毎年クリスマスの時期になるとファンの皆さんが話題にしますよね。今回はたまたま12月24日にリリースすることができますが、今はどのアーティストもあまりクリスマスソングを出さないようになりました。

そうなんですね。私は今の若い人たちが聴くような音楽をちゃんと押さえられていないので、そのあたりのことはよくわからないんですけど。

──クリスマスシーズンにクリスマスソングが出せるうれしさと懐かしさもありながら、改めて「ジングルガール上位時代」はJ-POPクリスマスソングの究極系というか、機能的に完璧な曲だと感じました。懐かしいJR東海のCMのような雰囲気しかり、楽曲に漂う冬の雰囲気しかり、アートワークしかり。そもそもこの曲はどのようにして生まれたんですか?

最初は単純に、共同プロデューサーの玉井健司(agehasprings代表)と「クリスマスソングを出そう」というところから話が盛り上がって。そこで、あえてクラシカルな雰囲気のクリスマスソングを作ることになったんです。当時「アイドル戦国時代」と言われる中で、Tomato n' Pineは周りのグループと比べてガツガツしてないところがあって、どこかおっとりしている、そんな彼女たちだからこそできるクリスマスソングがあると私は思っていて。そこで思い浮かんだのが、クラシカルなクリスマスソングというアイデアだったんです。1950年代っぽい衣装だとか、ミュージックビデオの雰囲気とかも含めてトータルでイメージを固めていきました。

──クラシカルな雰囲気というのは、やっぱりTomato n' Pineというグループの持つキャラクターによるところが大きかったわけですか?

そうです。本人たちにないものをやらせるのは嫌だったんで、3人が持っている要素の解釈を変えたり、光を当てる場所を変えたりしながら毎回楽曲を作っていました。

──トマパイ楽曲の特色であるブラックミュージック、ダンスミュージック色の強いサウンドは、玉井さんが中心になって考えていたんですか?

玉井を筆頭にagehaspringsのクリエイターたちが本気で遊んでいた感じですね。彼女たち自身に「こういう音楽をやりたい」という気持ちがそれほどなかったからこそ、いろいろな曲にチャレンジしてくれる可能性があった。どんどん曲を渡していって、本人たちも楽しんでやってくれていましたね。

Tomato n' Pine「ジングルガール上位時代」

彼女たちを頭の中で動かすだけで、どんどん歌詞が出てくる

──「ジングルガール上位時代」は詞先、曲先どちらですか?

曲先ですね。トマパイの曲は全部曲先です。曲がまずあって、そこからイメージを膨らませていきました。

──ストーリー展開が素晴らしい歌詞ですよね。作詞家として「すごい歌詞を書けた」という手応えがあったのでは?

どうだろう? (アナログサイズの大きな歌詞カードを開いて)今、歌詞を見ると懐かしいですよね。地下鉄にケータイの電波が届かなかったんだ、とか(笑)。私はいつも「彼女たちの魅力を伝えたい」とだけ考えて楽曲を作ってきたので。この曲に意味を持たせてくれたのはファンの方たちだと思います。

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──ジェーンさんはよく「作詞の仕事は行きがかり上スタートした」ということをお話しされていますよね。経験のない中で作詞を始めて、ご自身なりの作詞術みたいなものは実際に歌詞を書きながら見つけていったんですか?

はい。やったこともないし、やりたいと思ったこともなかったので、毎回試行錯誤でしたね。

──お手本にしたのは、リスナーとして聴いていた音楽の歌詞とか?

そうですね。あとは玉井が「ここはこうしたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしてくれたり。その言葉が音に乗ったときにどんなふうに聞こえるかというところで、母音が「あ」で始まったほうが歌いやすいとか、そういうことを徐々に覚えていきました。

──「ジングルガール上位時代」の歌詞では、「日比谷線」「7時58分」「8時23分」といった、すごく限定的なワードをあえて選んでいらっしゃいますよね。なぜそこに着地したんですか?

時刻に関して言うと、たぶんメロディに一番ハマる時刻を探したんじゃないかな。あとは「仕事が終わらない彼氏」を描写するうえで、あまり不自然じゃない時間とか。もちろん歌いやすさも意識したと思います。

──確かに、音と言葉がぴったりハマっている感じがします。

トマパイの曲は、すごく作詞しやすかったんですよ。彼女たちを頭の中で動かすだけで、どんどん歌詞が出てくる。あまり悩んだこともないし、頭の中で勝手に動いてくれる子たちだったので。この曲の歌詞もそんなに苦労した覚えはないですね。

──マンガ家がよく言う「キャラが勝手に動き出す」状態ですね。曲中に出てくるセリフも、あの3人を思い浮かべたら自然と出てきた?

そうです、そうです。「ファンの人があの3人に言ってほしいのは、どういう言葉だろう?」とイメージして。そのイメージが本人たちのキャラと大幅にかけ離れていたら歌詞にならないので、ちょうどいい接点を見つける作業ですね。

──そのセリフパートが元気いっぱいな「〇(まる)!」という言葉で締められることも印象的でした。

あれはなんで「〇」になったか覚えてないですけど……なーんか「〇」になったんですよね。あの3人が歌うということを考えたら、比較的スムーズに突拍子もないアイデアが出てきたんだと思います(笑)。

アイドルになって有名になりたいという子が1人もいなかった

──当時のジェーンさんは、メンバー3人のことをどういうふうにご覧になっていましたか?

トマパイのメンバーは、もともとアイドルになって有名になりたいという子が1人もいなかったんです。かといって嫌々アイドルをやっているというわけでもなく。YUIは芸能歴が一番長かったので、なんやかんや言いながらもちゃんと練習してきたり、しっかり準備していましたね。WADAは学校に行きながらがんばっていたし、HINAは器用な子ではなかったけど一生懸命。ただ、Negiccoみたいに10年も20年も続くタイプのグループではないとは思っていました。時間が限られているところがガールズユニットの魅力だったりもするんで、本人たちが楽しくやれるうちはやっていきたいなと思っていました。

Tomato n' Pine。左からHINA、YUI、WADA。

Tomato n' Pine。左からHINA、YUI、WADA。 [高画質で見る]

──YUI、HINA、WADAという名前の並びも強烈なインパクトがありました。1人だけ名字なんだ!?っていう(笑)。

名前もそうですけど、トマパイに関しては、会議をやって真面目にコンセプトを考えるようなことが1回もなかったんです。彼女たち自体がインスパイアの源泉になっているところがすごくあって。「どうやって決めたんですか?」と言われるような突拍子もないアイデアがポンポン出てくるような存在だったんですね。彼女たちじゃなかったらTomato n' Pineにはならなかったと思います。

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Tomato n' Pineはクリエイターの創作意欲を刺激する、ラボのような存在

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