ソニー・ミュージックレーベルズのアナログ盤専門レーベル「GREAT TRACKS」と音楽ナタリーによるコラボレーション再発企画がスタート。この第1弾として、市井由理のソロシングル「恋がしたかった」の7inchアナログが本日4月3日にリリースされた。
「恋がしたかった」は、
取材・
ディレクターが攻めるタイプだった
市井由理 以前、豪さんにインタビューを受けたとき、「『JOYHOLIC』は名盤だから、中古盤が売ってたらとにかく買うんです」とおっしゃってたじゃないですか? だから今日、家にある「JOYHOLIC」を持って来ました。最後の1枚です。
音楽ナタリー え! これ未開封ですか?
市井 未開封です。それ以外にも今日はいろいろ持って来ました!(当時のプロモーションキットをカバンから取り出す)
吉田豪 うわー、このカセットは画像だけ見たことありますけど、プロモーションキットの存在すら知らなかったです!
市井 Tシャツとかも、どうぞ。差し上げます。当時、アルバムの宣伝用に放送局とか出版社にセットで配ってて。いつか豪さんに渡したいと思ってたんです。
吉田 いいんですか! (プロモーション用ミニブックを見て)へー、ナインティナインがコメントしてるんですね。つんく♂さんもコメントしてる。
市井 ナイナイはよく番組にゲストで呼んでもらってたので。
吉田 つんく♂さんは東京パフォーマンスドール(以下TPD)が好きだったからですか?
市井 つんく♂さんはテレビの仕事で一緒になることがあって、「曲を作らせろ」って当時よく言われていたんですよ。「女の子の曲を書けるんですか?」とか言ってたら、のちにモーニング娘。が大ブレイクして(笑)。
吉田 惜しかった(笑)。
市井 そう(笑)。もしかしたら曲を書いてもらえてたかもしれない。
吉田 最初のつんく♂プロデュースになった可能性が(笑)。以前インタビューしたときはこれまでの人生を語ってもらったから音楽活動についてそこまで深く掘り下げなかったんで、今日はそのあたりをじっくり聞いていきたいと思ってます。
市井 昔すぎてあんまり覚えてないですね(笑)。
吉田 周辺のミュージシャンの方から、いろいろ話を聞いているので大丈夫ですよ。
市井 豪さんのほうが詳しいと思う。
吉田 いろんな情報を聞いてるので(笑)。例えば、センチメンタル・バスの鈴木秋則さんに聞いた話でいうと、当時、市井さんとセンチメンタル・バスのディレクターが同じ人だったと。そのディレクターが「JOYHOLIC」のジャケットについて、「食べてる姿を見ると、人間は性的なものを潜在的に感じるんだ」っていう話を鈴木秋則さんにしてたみたいで(笑)。
市井 そうなんだ(笑)。
スタッフ ディレクターがエッジィでしたよね。すごく変わった方で。市井さんとDEMI SEMI QUAVERを同時に担当したり。あとはオナペッツとか。
吉田 かなり攻めてますね(笑)。
市井 櫻田宗久くんも担当してた。
吉田 ボクが引っかかるような作品ばかり作っていた方なんですね。
スタッフ 「こんなの売れるの?」みたいなことをやってましたよね(笑)。先輩に対して失礼ですけど当時はそう思ってました。
市井 当時「DA.YO.NE」が大ヒットして会社から3万円の商品券が出たみたいで。
吉田 あんなに売れたのに、そんなものなんですか!
市井 それで革パン買ったって言ってた(笑)。今回も取材を受けるにあたって話を聞いたんですけど、あのジャケットも最初は「髪を切る瞬間を撮影したらどう?」って私からアイデアを出したんです。そしたら「女性が髪を切るシーンは意味深すぎてダメだ」って言われて。いろいろアイデアを出し合う中で、結局パスタを食べてる写真を使うことになったんですけど。
吉田 結果、すごくいいジャケになってますよね。
市井 さっきお渡しした小冊子の中に美容院で撮影した写真も載ってるんですけど、あれは私のアイデアです。髪を洗ってるカットとか、いろいろ。
吉田 そういうアートワークも最高なんですよ。
市井 デザイナーの陽子ちゃん(小林陽子)のおかげですね。
おうちからレコード会社までスケボーで行ってました
吉田 以前インタビューをしたとき、ご自分から意見を出される人なんだなっていうのはわかったんですよ。それこそTPD時代にTLCみたいなことをやりたくて提案していたとか。
市井 CDシングルのジャケットで首からコンドームをぶら下げてね(笑)。
吉田 先鋭的すぎるんですよ(笑)。アイドルラップの先駆けというべきViVA!(※市井、穴井夕子、八木田麻衣からなるTPDのグループ内ユニット)はそういう企画だったわけですよね。TLCをやりたかった結果がこれだったという(持参したViVA!のCDシングルを見せる)。
市井 すごい! 持ってる! さすが(笑)。
吉田 以前のインタビューでも話したんですけど、当時一瞬だけ市井さんにお会いしてるんですよね。「ピコ エンタテインメント」っていうテクノ雑誌のTPD特集でボクは穴井夕子さんのインタビューを担当したんですけど、帰りのエレベーターで市井さんと一緒になったんですよ。そのとき市井さんはニットキャップに短パン姿で、しかもスケボーで取材に来てて。ストリートカルチャーと直結した、そういうノリのアイドルを初めて見たから驚いて。
市井 当時は古着が大好きで、おうちからレコード会社までスケボーで行ってました。
吉田 スケボーで移動するような人が普通にラップをやりたいと言って、実際にやってもいたわけですよね。そんな中で「JOYHOLIC」にも収録されるソロシングル「レインボー・スキップ」がリリースされるわけですが、最初に楽曲をもらったときはどんな印象がありましたか?
市井 「かわいい曲!」って。
吉田 ……それくらいしか出てこないですね?(笑)
市井 かわいい曲だなと思って一生懸命歌った(笑)。
吉田 このシングルって、要はTPDのメンバーが全員ソロシングルを同時発売する企画で、TPDのほかのメンバーのソロ曲とは明らかに方向性が違ったわけじゃないですか。ほかの作家陣は角松敏生、中崎英也、エース清水って感じで。
市井 ほかのメンバーの曲、全然聴いてない(笑)。
吉田 なぜ!(笑) 興味なかったんですか?
市井 たぶん。わかんないけど(笑)。
吉田 気持ちはわかりますよ。市井さんの音楽の趣味とは違っていたはずなので。聞きづらい話を聞きますけど、TPDの音楽性は当時どう思っていたんですか?
市井 自分にしかできないことをやりたいってちょっと思ってた。だから、こういう曲(「レインボー・スキップ」)は、ほかの人じゃできないからラッキーって感じだったと思う。別にTPDの曲が嫌だとかそういうのじゃなくて。そうそう、全然関係ないけど来月、麻衣ちゃんとごはん食べるんですよ。
吉田 八木田麻衣さん。市井さんと八木田さんのシングルをボクは見つけるたびに買ってるんですよ。八木田さんのROLLYさん提供作品が本当に素晴らしくて、これはROLLYさん本人にも伝えました。八木田さんは、のちにROLLYさんとジャングルブッダというユニットも組んで。
市井 ROLLYさんとやってたね、そういえば!
吉田 市井さんと八木田さんでジョイントコンサートやってほしいくらいですよ(笑)。
市井 麻衣ちゃんとこじんまりラジオやりたいと思ってるんです。会ったときに言ってみよう(笑)。
吉田 協力できることは協力しますからぜひ歌ってください。市井さんと八木田さんの2本柱なんですよ。ボクの中でTPDは。
市井 うれしい。麻衣ちゃんに伝えます(笑)。豪さん、「JOYHOLIC」の中で「レインボー・スキップ」が一番好きなんですよね?
吉田 大好きです。というか、この曲を最初に聴いたとき衝撃を受けたんですよ。こういう方向性のアイドルポップは珍しかったから、「これはとんでもない曲だ!」ってできる限りの大騒ぎをしたんですけど、当時はまだ声が小さく……(笑)。
市井 ははは。
キョンキョンの事務所に電話で歌詞をオファー
吉田 このシングルが出たのが、94年の2月2日ですね。「JOYHOLIC」が出る2年前。
市井 もうその頃には「JOYHOLIC」を出そうって言ってたと思う。
吉田 アルバムを出すならこういう方向性でいこうっていうのはこの時点でできていた?
市井 そうですね。ASA-CHANGにプロデュースをお願いしようとか。
吉田 そのへんの人選はディレクターと?
市井 そう。いろいろ相談して、「キョンキョンに歌詞をお願いするのどうかな?」とか言って。
吉田 「どうかな?」も何も、そもそも書いてもらえるのかっていう(笑)。
市井 「聞くだけ聞いてみる?」とか言って(笑)。ディレクターも若かったし、業界のルールとか全然知らなかったから。
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