sumika「Honto」特集|「映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城」に重ねたメッセージとは

sumikaの2026年は、国民的キャラクターとの夢のタッグから始まる。彼らが2月25日にリリースしたニューシングル「Honto」には、2月27日公開の「映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城」の主題歌として書き下ろされたタイトル曲をはじめ、幾田りらをフィーチャリングゲストに招いた「赤春花(feat. 幾田りら)」、小川貴之(Key, Cho)がリードボーカルを務める「Blue」、荒々しさのあるアグレッシブな「ルサンチマンの揺籠」の全4曲が収録されている。ドラえもんの世界観にインスパイアされながらも、sumikaの世界を大きく広げるバラエティ豊かな作品だ。

音楽ナタリーでは「Honto」の「正解なんていいから、本当をしよう」というフレーズに込めた思い、バンドの変化、そして4月から始まる新しいツアーについてメンバーに聞いた。2026年初春の、sumikaの本音とは?

取材・文 / 宮本英夫撮影 / 後藤壮太郎

どんな感情のときもそばにいてくれた、ドラえもんという存在

──「ドラえもん」の世界にsumikaとして参加するのは、どんな体験でした?

片岡健太(Vo, G) 自分が生まれる前からある作品であり、少年時代から観て育ってきたものに音楽家という形で携わらせてもらうのは、不思議な気持ちがします。大先輩とご一緒するような喜びがありました。

荒井智之(Dr, Cho) 「ドラえもん」は昔から大好きな作品で、僕はマンガも読んでいました。楽しいときも悲しいときも、ボーッとしているときも読めちゃう。どんな感情のときもそばにいてくれた作品で、本当にいろんなことを教えてくれたので、今回ご一緒できるのはうれしいし、光栄です。

小川貴之(Key, Cho) 僕が生まれたときにすでにドラえもんはいたので、「ドラえもんのいる世界に生まれた」という感覚なんですよね。たぶんみんなの中でも、ドラえもんというキャラクターの存在感は、人生単位においてけっこう大きいと思うんですけど、音楽家としていざ関わるとなると、とても遠い存在に感じるところもあって。いち少年・小川貴之はすごく近い存在だと感じているけれど、音楽家としてはすごく遠いところにいるというギャップがあり、最初にお話をいただいたときは「本当の話なのか?」という気がしました。でも、日を追うごとにどんどんオファーをいただいたありがたみを感じてきて、「音楽を続けてきたからこそ、こんなに素晴らしい出会いがあるんだな」という思いを噛み締めながら、制作をさせていただきました。

sumika

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──「Honto」は随所に「ドラえもん」の世界観がちりばめてあり、それでいてsumikaのエッセンスもしっかりある、素敵な曲だと思います。

片岡 「ドラえもん」のイメージや作品が持つ価値観を考えつつ、「映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城」にアジャストできるアレンジにしたいと思っていて。前に行進していくような感じがありつつ、水中感や深海感みたいなものもちゃんと入れ込みたくて、一緒にやってくれた宮田‘レフティ’リョウくんと話し合いながら、アレンジを組んでいきました。

──曲調などに関して映画の製作サイドからリクエストはありましたか?

片岡 曲を作る段階で明かせる限りの情報を教えていただいたうえで、1983年に公開された映画「のび太の海底鬼岩城」や、原作にあたる「大長編ドラえもん のび太の海底鬼岩城」をヒントにしながら、sumikaが思うものを存分に表現してください、というお話をいただきました。僕たち自身は作りながら、これを最終的にsumikaの曲として背負っていかないといけないという気持ちもありました。

のび太のセリフから生まれたテーマ

──制作において何かキーワードやテーマはありましたか?

片岡 すでに公開されている予告映像の中に、「分かっていても、正解じゃないほうを選んじゃうんだ」というのび太くんのセリフがあるんです。それを自分たちに置き換えたときに、バンド活動自体がそうだなと思ったんですよね。バンドっていわゆるタイパもコスパも悪いし、正解だとはあまり捉えられない生き方だと思うんですけど、「それでも僕らがやってきたことはなんだったんだろう?」と考えたときに……歌詞の最後にあるんですけど、「正解なんていいから、本当をしよう」というところに行き着いて。正解か不正解かで僕らの人生は判断できないけど、少なからず自分たちは“本当”というものを生きてきた。そういったことを、映画を観てくださった方にも、sumikaの楽曲としてこの曲を聴いてくれる方にも、2026年に改めて伝えたいなと思いながら歌詞を書きました。

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G)

──なるほど。

片岡 映画の中に「水中バギー」というひみつ道具が出てくるんですけど、これは今の世界に置き換えるとAIのようなもので。新しい技術やテクノロジーと自分たちがどう向き合って生きていくのかは、まさにリアルタイムで2026年の現在みんなが悩んでいることだと思うんですね。あと映画の中に出てくる、陸上人と海底人との考え方や生き方の違いは、今の世界の人種間の問題にも置き換えられる。「行くところまで行って行き詰まる前に、解決策をみんなで1回考えたほうがよくない?」と思ったりもするので、このタイミングでそういうことを伝えられる曲を書けて、本当によかったと思っています。

──「ドラえもん」は常に現代的なテーマが含まれていますよね。

片岡 この思想が何十年も前からあるということが、藤子・F・不二雄先生のすごいところですよね。この機会に、メンバーで川崎市の藤子・F・不二雄ミュージアムに行って、そのアイデアの源泉に触れる機会があったんです。僕らの音楽にも通底していることですが、複雑な問題を難しいまま発表するのではなく、難しいことほど簡単に伝える、楽しく伝えることが大事だということをそこで感じました。藤子・F・不二雄先生みたいな大人になりたいなと改めて思いましたね。

──演奏については、どんなことにこだわりましたか?

小川 まっすぐにピアノを弾こうと思いました。それこそ海底を探検するように、リズムに乗ってまっすぐ前に進んでいくイメージを、ピアノで出せればいいなと。

荒井 僕が一番気を使ったのは、音量のバランスです。全体としてリズムはシンプルになっていますけど、シンバルの鳴らし方だったり、スネアの音だったり、アンサンブルと曲の世界観を壊さないように、かつ音として主張していくところのバランスを考えました。

──マーチングっぽい、軽快なリズムですよね。

荒井 片岡さんが作ったデモの段階からそういったリズムで上がってきて、曲にもハマっていたし、映画の世界観にもハマってた。一歩ずつ前に進む様子を表現したリズムが、この曲のアレンジにもマッチしているなと思いました。それと、ドラえもんのひみつ道具の中に「ムードもりあげ楽団」というものがあって、その楽団の音楽もマーチングのイメージなんです。自分も作品の中でドラえもんたちと並走している気持ちでドラムを叩きました。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井智之(Dr, Cho)

自分が生まれ育った場所の“風”

──今回のEPには、「Honto」を含めて全4曲が収録されています。いつも以上にバラエティ豊かな曲がそろっていますが、2曲目「赤春花(feat. 幾田りら)」はどのような曲ですか?

片岡 「赤春花」は、2025年に大阪のFM802の春のキャンペーンソングとして作らせていただいた楽曲で(片岡を含むシンガー10組によるユニット・Studio Aprilが歌唱した)。今回のEPのリリースが春を目前にした時期ということもあって、2026年の春にsumikaとしてリリースするならどういうものがいいかと考えて、幾田りらさんをお迎えする形に帰結しました。

──幾田さんとの共同作業はどうでしたか?

片岡 幾田さんはそもそもいろんな表現をできる方ですけど、事前にデモ音源を何度も聴き込んでくださってからレコーディングに来ていただいて。曲からイメージしたものを話し合う機会がレコーディング前にあって、幾田さんが考えて作ってきてくれた表現と、僕のこの曲に対するイメージがぴったり重なりました。春風が吹いている感じとか、風で桜が舞っていく感じとか、「それを歌で表現できたらいいよね」という意見が一致したんですね。示し合わせたわけではなく、普通にそういうワードが出てきたので、レコーディングが爆速で終わって助かりました(笑)。素晴らしかったです。

──その、風の表現を具体的に言うと?

片岡 ちょっと抽象的ですけど、「自分が生まれ育った場所の風」。「旅先でもなく、戦う場所でもなく、少年少女時代や学生時代に感じていた風をイメージしてほしい」という話をしました。僕と幾田さんは生まれ育った町は同じではないので、幾田さんが感じた風を僕は知らないですけど、“故郷の風”ということでイメージをつなげて。でも、お互いはその風を実際には知らない。そんなニュアンスがちょうどよかったんだと思います。それは聴いてくださる方も同じで、今いる場所と生まれ育った場所がもし違っても、この曲を頼りに生まれ育った場所を思い出してもらえたらいいなと思っていますね。

──この曲を聴いて改めて感じましたが、幾田さんは素晴らしいシンガーですね。

小川 幾田さんの声が入ることで、曲が可視化できるようになった感じがしますね。映像が歌詞以外からも感じ取れるのは、やっぱり声の色なんだなと思いますし、なおかつ片岡さんの声とのコントラストというか、今までにないハーモニーが生まれたので、そういった面でも制作はすごく面白かったです。たくさんの方が参加してくださった「赤春花」のオリジナルバージョンもとても素敵だし、今回作らせていただいた「赤春花(feat. 幾田りら)」もとてもいい仕上がりになって。ハードルは高かったですが、素晴らしい形になったんじゃないかなと思います。

小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

荒井 いい曲ですよね。しかも「赤春花(feat. 幾田りら)」は、今回の音源の中ですごく大事な位置に入ってくれているんです。

──というと?

荒井 このシングルは全体的に、「ドラえもん」を感じさせる要素があるなと個人的に思っていて。「Honto」はもちろんですけど、3曲目「Blue」にもドラえもんの要素があるし、4曲目「ルサンチマンの揺籠」にも、映画の中で対決する相手側の、おどろおどろしい感じがある。作品とリンクする部分を個人的に感じていて、どの曲も映画の中で使っていただいたらハマりそうだなと思っていたんです。そんな中で「赤春花」はもともとFM802のキャンペーンソングということもあって、いろんな縁でつながった方々と一緒に発表させていただいたものなんですが、今回も幾田りらさんという新しい縁とのつながりを作ってくれた。「ドラえもん」という作品も、いつものメンバーがいる中で新しい出会いがあったり、いろんな縁がつながりながら物語が進んでいくじゃないですか。まさにこの瞬間、僕たちの中での新しいつながりを描いている楽曲な気がするんですね。

──本当にそうだと思います。

荒井 あと、僕らは去年「Vermillion's」という“朱色”をテーマにしたアルバムをリリースしましたが、朱色は赤に近い色ですし、「赤春花(feat. 幾田りら)」は赤でつながった縁を感じます。「ドラえもん」の世界を色で表現するなら青ですが、青で構成されている作品の中に、赤でつながった曲が入ることによって、我々の作品と「ドラえもん」が重なった気がして。そういった縁が形になることがすごくsumikaらしいなと思います。今回のシングルは「入れるならこの4曲しかない」というものになっているので、そこが我ながらすごく好きです。

小川 言葉にしないまでも、みんなが共通する思いを持つことで、この作品ができあがったと思うんですよね。1曲目から4曲目まで、曲順を何度も入れ替えて、歌詞と音ができてから最終的にこの曲順になったんですけど、改めて聴き返してみると、4曲共通して感じるものは確かにあるなと思います。