いきものがかり新解釈コラボアルバム「いきものがかり meets」第1弾レビュー

いきものがかりのコラボレーションアルバム第2弾「いきものがかり meets 2」が3月11日にリリースされる。

「いきものがかり meets」は、いきものがかりの既発曲をコラボレーションアーティストとともに新解釈のもと生まれ変わらせ、その魅力を拡張する企画アルバム。サウンドアレンジはもとより、楽曲構成や歌詞に至るまで参加アーティストのクリエイティブに委ねられる。

「いきものがかり meets 2」の発売を前に、本特集では2024年2月にリリースされた第1弾作品「いきものがかり meets」をおさらい。Awesome City Club、幾田りら、SUPER BEAVER、緑黄色社会、梅田サイファー、TOMOO、上白石萌音、yama、アイナ・ジ・エンド、ゆず、伊藤沙莉×ハンバート ハンバート、wacciといった豪華アーティスト12組が参加した本作の収録曲を、音楽ライターの森朋之と蜂須賀ちなみがレビューし、“新解釈コラボアルバム”の魅力を改めて深掘りする。

文 / 蜂須賀ちなみ、森朋之

1. 花は桜 君は美し / Awesome City Club
[編曲:atagi、KOHD(agehasprings)]

原曲のピアノと同じメロディを奏でるシンセサイザーから始まるも、その後は独自の展開を繰り広げるAwesome City Clubの「花は桜 君は美し」。“架空の都市のサウンドトラック”をコンセプトに、2010年代のシティポップブームの中で音楽シーンに登場した彼らにとって、日本的情景の象徴である“桜”をどう鳴らすかは挑戦的な課題だったはずだ。

atagiとKOHD(agehasprings)による編曲は、打ち込みを軸にした都会的なサウンドスケープに笛の音色を織り込むなど、音響的な遊びに富み、聴くたびに新たなレイヤーが立ち上がる。その洗練された音像の中心で、PORINの歌声が可憐に咲いている。原曲のギターソロに対し、モリシーがまったく異なるメロディで応答する場面も印象的だ。形式を継承しながら、完全に別の風景を描く。時代も場所も異なる都市から、桜の美しさを捉え直す試みだ。(蜂須賀ちなみ)

2. ノスタルジア / 幾田りら
[編曲:中野領太(agehasprings Party)]

2010年公開の映画「時をかける少女」(主演:仲里依紗)の主題歌として同年にリリースされた17thシングル。インディーズ時代から存在していた楽曲で、当時からファンの間で強く支持されていた失恋ソングだ。

原曲には生々しいバンドサウンドと大らかなオーケストレーションを軸にしたアレンジが施されているが、中野領太(agehasprings Party)の編曲による幾田りらのバージョンは、打ち込みをベースにしたシンプルな音像。その意図はおそらく、彼女のボーカルをしっかり際立たせることだろう。イヤフォン / ヘッドフォンで聴けば、“すぐそばで語りかけるように歌っている”という感覚をより強く得られるはず。

切なくて可憐、イメージとしては10代後半の女性を想起させる歌の表情も印象的。幼い自分から少しずつ脱し、自立した女性へと踏み出そうとしている姿が目に浮かぶようなボーカルこそが、このテイクの最大の聴きどころだと思う。要所要所で効果的に使われるハモリの妙にも耳を傾けてほしい。(森朋之)

3. コイスルオトメ / SUPER BEAVER
[編曲:SUPER BEAVER]

水野良樹という男性作詞家が描いた乙女心を、吉岡聖恵という女性ボーカリストが歌う。そのねじれの構造がマジックを生んだ「コイスルオトメ」。あまりにも無邪気で、どこかファンタジーのように思える言葉に彩られながらも、誰もが胸の奥に秘めている純真さが形になっているから、この曲は時代を超えて愛されてきたのだろう。

SUPER BEAVERは、ロックバンドとして真正面からこの曲と向き合った。イントロでギターが鳴らしているリフや、落ちサビでアカペラになるアレンジは原曲にもあるもの。しかし今度は渋谷龍太という男性ボーカリストが、この恋心を自らの体温で歌っている。「好きだよ 大好きだよ」というシンプルな言葉に揺るぎない説得力が宿るのは、人としてどうありたいか、自らの信じたいことをまっすぐに歌い続けてきた彼らだからこそ。「好き」と直接言わずに思いを表現するラブソングも多い中で、正攻法を貫く者同士だからこそ到達できた音楽がここにある。(蜂須賀ちなみ)

4. 月とあたしと冷蔵庫 / 緑黄色社会
[編曲:穴見真吾、LASTorder]

「ノスタルジア」と同じくインディーズ時代から人気を得ている楽曲。吉岡聖恵が書きかけていた歌詞に山下穂尊が曲を付け、詞を加えたミディアムナンバーで、オリジナルは2008年発表のメジャー2ndアルバム「ライフアルバム」と、2010年発表のベストアルバム「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」に収められている。ややマニアックなセレクトだが、だからこそ余計に、緑黄色社会のいきものがかりへの愛の深さが伝わってくる。

10代の頃からめちゃくちゃ聴き込んでいたんだろうな……と思わずにはいられない長屋晴子の歌声がまず心に残る。強いリスペクトがあるからこそつい原曲の表現を追ってしまいそうになるが、「それじゃダメ。自分らしく歌わなきゃ」と試行錯誤したのだろうと勝手な想像を膨らませ、さらにグッと来てしまう。1番と2番の間にジャズ風味のつなぎを入れてシーンを変える演出も見事。楽曲後半の生き生きとしたバンドのセッション感、長屋の心地よいフェイクからは、この曲を演奏できてうれしい!というメンバーの感情がはっきりと感じられた。(森朋之)

5. SAKURA / 梅田サイファー
[編曲:Cosaqu]

原曲のサビをサンプリングし、5名のラッパーがそれぞれの人生を刻む梅田サイファーの「SAKURA」。旅立ち、別れ、季節の巡り──。夢や喜びだけではなく痛みやあきらめの感情も抱えながら、それでも前を向いて歩む人の姿がラップから立ち上がってくる。人生の異なる局面を切り取った言葉がリレーのように紡がれる中、吉岡聖恵の歌声は「さくら舞い散る」と繰り返す。春が来れば毎年咲く桜のように。

このヒップホップによる解釈によって浮かび上がるのは、原曲にすでに内包されていた普遍性だ。ラッパーが原曲を下敷きに物語を語る構造そのものが、多様な人生に寄り添ってきたいきものがかりの楽曲の性質、今日まで変わらない営みを映し出している。楽曲が持つ本質への鮮やかな応答である。(蜂須賀ちなみ)

6. 茜色の約束 / TOMOO
[編曲:小西遼(象眠舎、CRCK/LCKS)]

結婚式をテーマにして制作された楽曲にもかかわらず、大事なところで「別れ」という言葉を使う。“いつかは離れ離れになる”という事実から目を逸らすことなく、それでも大切な人を選び続ける──そんな意思がはっきりと伝わってきて、「いきものがかりって、ただのポップスグループじゃないんだな」と感じた7thシングル「茜色の約束」。消費されるヒット曲ではなく、ずっと誰かの心に残る音楽を生み出していきたいという思いが確かに宿ったこの曲を、おそらくは同じようなモチベーションを貫いているTOMOOがカバーしたことはまさに必然だったと思う。

すべてのフレーズを強く引き寄せ、体の中に入れたうえで“自分の言葉”として発している歌声がTOMOOバージョンの「茜色の約束」の軸。歌詞に乗せた思いが少しずつ重ねられ、それはやがて聴く者にとっての大切な人への思いへと結び付いていく。彼女の歌声を支えることに心を砕いた、小西遼(象眠舎、CRCK/LCKS)の真っ向勝負なアレンジメントにも心を打たれる。(森朋之)

7. 帰りたくなったよ / 上白石萌音
[編曲:佐藤直紀]

コントラバスの低音がじっくりとフェードインし、束の間のブレイクとブレス。音数を極限まで削ぎ落とした、ほぼアカペラの状態から始まる上白石萌音の「帰りたくなったよ」。この曲は、孤独に耐える日常と、大切な人がいる場所を思い浮かべる瞬間を往復しながら、少しずつ前を向いていく構造を持つ。上白石はその構造を豊かなボーカルで体現している。

冒頭、とつとつと言葉を置いていく歌唱は切実な寂しさを帯びているが、サビで「帰りたくなったよ 君が待つ街へ」と思いを向ける瞬間、ストリングスとともになめらかに響き始める。静謐な宇宙空間を思わせる音像の中、ハープが星のようにきらめき、2番では足音が、終盤では鐘の音が鳴る。世界が開かれ、最後に歌われる「笑ってくれたらうれしいな」には、わずかに口角が上がるような温かさがにじむ。作詞作曲の水野良樹が自らボーカルディレクションを担い、俳優としても活躍する上白石とともに築いた、心と声が一体となった繊細な解釈だ。(蜂須賀ちなみ)

8. ブルーバード / yama
[編曲:tofubeats]

身を切られるような切迫感、清々しさも似た潔さを併せ持ったボーカリゼーション、そして、先鋭性とポップネスを同時に放つトラックメイクがとにかくカッコいい。テレビアニメ「NARUTO-ナルト-疾風伝」の主題歌としても話題を集めた10thシングル「ブルーバード」は、それまでのいきものがかりのイメージを大きく刷新したロックチューンだ。自分たちのパブリックイメージを守るのではなく、常に新しさを求め、音楽性を広げていく。この曲に込められたアグレッシブな姿勢は、yamaバージョンにもしっかりと反映されている。

原曲のポイントでもあったハーモニカの音色を生かしつつ、とことん攻めたリズムを繰り出すtofubeatsの創造性。とがりまくったビートを的確に捉え、楽曲のメッセージと言葉の響きの美しさを描き出すyamaの歌。本作「いきものがかりmeets」の中でも最も刺激的なコラボレーションを挙げるとすれば、やはりこのトラックということになるだろう。(森朋之)

9. じょいふる / アイナ・ジ・エンド
[編曲:西田修大、君島大空]

言葉の意味以上にリズムで楽しませるライブ定番曲「じょいふる」。アイナ・ジ・エンドはこの曲を音の遊び場として解釈し、徹底的に楽しんでいる。原曲同様にバンドサウンドを主軸としながらも、西田修大と君島大空のサウンドプロデュース&プログラミングによって、楽器の音色は目まぐるしく変化。デジタルに変形したかと思えば、極端に歪み、スクラッチやバズィングも飛び交う。アイナのボーカルも自在だ。気怠げに語尾を投げ出したかと思えば、腹に力を込めながら唸りを上げるなど、ニュアンスを次々と変えながら言葉を転がしている。そしてラストのサビでは、転調とともにハイパーポップを思わせる刺激的な音像へと変貌。世界が一気に極彩色で塗り替えられる。BiSH解散後、ソロとして表現の幅を拡張する彼女の遊び心と実験精神が凝縮された1曲だ。(蜂須賀ちなみ)

10. YELL / ゆず
[編曲:トオミヨウ、北川悠仁]

神奈川県出身、路上ライブからキャリアをスタートさせ、地元への愛着を感じさせる活動を継続するなど、いろいろと共通点が多いゆずといきものがかり。地上波のバラエティ番組における水野良樹の「(ゆずはいきものがかりの)生みの親です」という発言が示す通り、その影響はとてつもなく大きい。

大先輩のゆずが選んだ楽曲は「YELL」。2009年、NHK全国学校音楽コンクール課題曲として制作されたシングルで、小田急線・本厚木駅の接近メロディとしても使用されている。ゆずバージョンの「YELL」は疾走感にあふれたロックチューン。ギターのストロークと北川悠仁の歌で幕を開け、生々しいスピード感に貫かれたバンドサウンドへと移行する。さらに緊張感に満ちたストリングス、鋭利なギターソロなどが加わり、「サヨナラは悲しい言葉じゃない」というワードを力強く響かせる。北川、岩沢厚治の個性がぶつかり合うようなハーモニーも驚くほどにスリリング。吉岡聖恵と水野が参加した掛け合いのパートも大きな聴きどころだ。(森朋之)

11. なくもんか / 伊藤沙莉×ハンバート ハンバート
[編曲:佐藤良成]

「虎に翼」主演の伊藤沙莉と「ばけばけ」主題歌を手がけたハンバート ハンバート。今振り返れば、朝ドラの縁を感じさせる顔合わせだ。水野良樹はこれ以前に、HIROBAの楽曲「光る野原」で俳優である伊藤をボーカリストとして招聘していたが、本作を聴けばその理由は明らか。倍音豊かなハスキーボイスは深みとザラつきを併せ持ち、1人の人間が抱える強さと弱さを同時に響かせる。その声の複雑性と伊藤の表現力が重なり、リスナー1人ひとりの心のひだに触れる。「ひょっとしたら皆ひとりぼっちで 歩いているんじゃないかな」という冒頭の呟きは、日々を生きる私たちの内なる心の声とも重なるだろう。曲の主人公として生きる伊藤のボーカルは、同時に、聴く人が自分自身を投影できる余白を持つ存在でもある。そこにハンバート ハンバートの2人のコーラス、フィドルやスティールギターを配したカントリー / フォーク調のサウンドが温かく寄り添う。歩調に馴染むテンポとともに、優しく包み込んでくれる1曲だ。(蜂須賀ちなみ)

12. 笑顔 / wacci
[編曲:久保田真悟(Jazzin'park)]

ソウルミュージックを想起させる華やかなサウンド、そして、目の前の“あなた”ににこやかに語りかけるようなボーカル。wacciによる「笑顔」は、この曲が持っている明るくて前向きなパワーをさらに増幅させている。

いきものがかりが以前所属していた事務所の後輩であり、吉岡、水野とも交流があるwacci。“親しみやすさと質の高さを備えたJ-POP”を志向しているのも両者の共通点だろう。彼らがセレクトしたのは、映画「劇場版ポケットモンスター ベストウイッシュ 神速のゲノセクト ミュウツー覚醒」の主題歌として制作された「笑顔」。原曲はフォーキーな手触りのミディアムバラードだが、少しテンポを上げ、体を揺らして手拍子しながら聴けるようなアレンジに仕上がっている。編曲はMrs. GREEN APPLEやimaseのヒット曲に数多く関わっている久保田真悟(Jazzin'park)。バンドのグルーヴに生のホーンセクションを加えることで開放感を演出し、橋口洋平の豊かで大らかな歌声を引き立てている。(森朋之)

コラボレーションアルバム第2弾「いきものがかり meets 2」特集、近日公開予定


公演情報

超いきものがかりフェス デビュー20周年だよ!! ~ありがとうって伝えたくて~

  • 2026年3⽉14⽇(土)千葉県 LaLa arena TOKYO-BAY
    OPEN 12:00 / START 13:00
    <出演者>
    いきものがかり / アイナ・ジ・エンド / 上白石萌音 / JUJU / スキマスイッチ / 槇原敬之
  • 2026年3⽉15⽇(日)千葉県 LaLa arena TOKYO-BAY
    OPEN 12:00 / START 13:00
    <出演者>
    いきものがかり / 鈴木雅之 / TOMOO / 秦 基博 / ゆず / wacci

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プロフィール

いきものがかり

吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(G)によるユニット。水野と⼭下穂尊が1999年にユニットを結成し、そこへ吉岡を迎えた3人組で活動を始める。地元・神奈川で路上ライブを中心に活動したあと、2003年にインディーズで初CDをリリース。2006年に発売したメジャー1stシングル「SAKURA」がスマッシュヒットを記録し、全国区の人気を獲得する。2007年3月には1stフルアルバム「桜咲く街物語」を発表。切なくて温かい等身大のポップチューンが老若男女問わず幅広い層から強い支持を集め、2008年には「NHK紅白歌合戦」へ初出場を果たした。2009年9月発表のシングル「YELL / じょいふる」で初のオリコンデイリーチャート1位を獲得し、さらに「YELL」で「第51回日本レコード大賞」優秀作品賞を受賞した。また、2010年にリリースされた初のベストアルバム「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」はミリオンセラーを記録。2016年3月にはメジャーデビュー10周年記念ベストアルバム「超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~」を発表した。2017年1月に「放牧宣言」と題して一時活動を休止し、2018年11月の「集牧宣言」をもって活動を再開。2021年夏には山下がグループを離れ、吉岡と水野の2人体制での活動がスタートした。2024年2月にいきものがかりの既発曲をコラボレーションアーティストとともに新解釈のもと生まれ変わらせる企画アルバム「いきものがかり meets」、2026年3月にその第2弾作品「いきものがかり meets 2」を発表。3月14、15日には千葉・LaLa arena TOKYO-BAYで初の主催フェス「超いきものがかりフェス デビュー20 周年だよ!! ~ありがとうって伝えたくて~」を開催する。