左からFORK、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.3(前編) [バックナンバー]

押韻特化の“ICE BAHNスタイル”:FORK

“即興と韻”という方法論の定番化

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常にカウンターを打つような存在でありたい

左からFORK、KEN THE 390。

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──「BLAST」2002年12月号で、玉露くんはインタビュー担当の古川耕さんに「良く“クレヴァ・スタイル”って言われて、その気持ちも分かりますけど、そこで比較されたばっかりに、クレヴァを目指しているみたいな捉えられ方をされちゃうのが凄くイヤなんです」と冒頭から話していますが、そう捉えられることが多かった?

FORK 最初はバトルのやり方がわからなかったから、KREVAさんのスタイルを参考にしてたし、確実に当時のバトルスタイルはKREVAさんの方法論が基になってる。それが図星だからこそ、そう言われるのは嫌だったんですよね。KREVAさんに影響を受けたほかのラッパーとひとくくりにされるのも納得がいかなかったし。なぜなら、KREVAさんに影響は受けてるけど、KREVAさんが脚韻でしっかり落としていくスタイルなら、俺らはもっと細かくバチバチに韻を固く落としていこうという、その先のスタイルを目指してたから。

──2001年の段階では模倣であったかもしれないけど、2002年のときにはもう別のスタイルを目指していたと。

KEN KREVAさんが「フリとオチ」を効かせるとしたら、ICE BAHNはとにかく韻を連打して数で勝負する方向に進んでたと思うし、それがフレッシュでしたね。

FORK もう「ずっとオチ!」みたいな感じだよね(笑)。でも、それによってオリジナリティを見せるという方向性は3人で考えてた。だからこそ玉さんは古川さんにそう言ったのかもしれない。本当に当時はライムのボキャブラリーを増やしていく訓練をひたすらしてたし、ライムを蓄えるのに必死だった。

KEN そうやって蓄積されたライムの中に、「これは読めないわ」というサプライズがあったんですよね。

──「フリースタイルセッションで同じ韻が何度も出ると体が拒否反応を覚えて、それを乗り越えると新しい韻が見えるようになる」という異常な話もインタビューでしていて。

KEN 意味がわからない(笑)。どういうことですか?

FORK 2時間も3時間もICE BAHNの3人でフリースタイルしてると、「この韻はもう使ったな」みたいな“韻の2周目”が生まれる。それを繰り返すと自分でも嫌になってきて、それに限界が来ると身体が勝手に新しい韻を生み出してくる(笑)。

KEN そんなスパルタな韻の生み出し方があるんだ(笑)。

FORK 筋トレも最後の1回が大事だっていうじゃない。そういう玉さんが日体大で培った経験則がラップの練習に取り込まれてた(笑)。でも実際、普通だったら「これはもう出てこないな」とあきらめるところを、3人でやってれば何かひねり出そうとするし、そこで自分の想像してない言葉が口をついて生まれるというのはあるんだよね。それでポロッと出た韻を誰かが拾って、そこから新しい方向に連れてってくれるというのは確実にある。

KEN その意味でも、ICE BAHNの強さとオリジナリティは練習量に裏打ちされてるということですよね。

FORK そうかもね。

──体温を低めに設定したラップと抑揚を抑えたフロウを“FORKスタイル“と想定する人が今は多いと思いますが、BBPのバトルを見直すとフロウに高低差や強弱が付いてますね。

FORK あの当時は韻を際立たせて、「ここで踏んでる」ということを強調するために抑揚を付けてたし、それもKREVAさんの影響で。でも、その先を考えるようになって、それこそバンバン韻を踏んでいくようなスタイルになったときに、そういう抑揚が抜けてきたんじゃないかな。そして、そういう“韻のマシマシ”から引き算が始まっていって、厳選された韻や、踏み方のうまさや表現の妙味みたいな部分を、今は形にすることを目指してるから、フロウにも変化が生まれてると思う。

KEN 確かに、特に最近は韻をとにかく重ねていくスタイルではないですね。

FORK だから、また1周回って「フリとオチ」にたどり着いてるのかもしれない。同時に最近は俺の真似をするやつが増えてるから、じゃあさらに違う方向に、と考えてるし、常にカウンターを打つような存在でありたいとは思ってる。そうじゃないと通用しないしね。

DVDで全国に広がった、UMB伝説の試合“HIDADDY VS FORK”

左からFORK、KEN THE 390。

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──そしてUMBが2005年にスタートし、FORKくんは2006年の第2回大会で全国優勝を果たします。

KEN FORKくんがUMBに出場した経緯は?

FORK 実は2005年にも1人で出てるんだけど、そのときは予選で負けてて。ICE BAHNとしては、2005年に「3on3」でチーム優勝したときに俺たちの売名行為は完結したと思ってたし、2006年は出る気持ちもなかった。だけど、2006年に神奈川予選が開かれることになって、俺は横浜、ほかの2人は横須賀や葉山の出身だから、神奈川代表としてチャレンジしてみようかなと。

KEN 名前を売ることの延長線みたいな感じだったんですね。2006年のUMBでのHIDADDYさんとFORKくんのバトルは、「アーカイブ化されたバトルが最初に強い影響力を持った対戦」じゃないかなと。あの3回の延長戦は改めて振り返ってもすごいクオリティだし、「即興でのライミングがこれだけのクオリティを生み出せる」という1つの到達点であり、それがDVDとして全国に広がったことで、現場で観られなかった人や、リアルタイムではない世代にもMCバトルの凄味が伝わって、めちゃくちゃ影響を与えたと思う。

──特に30代のラッパーからは、影響を受けたバトルとして頻出します。

FORK このインタビューの前日が「フリースタイル日本統一」の収録だったんだけど、打ち上げで歩歩とCIMAにずっとその話されたもん(笑)。

KEN 17年前の話を(笑)。

FORK 昨日のことのように。でもやっぱりそれはめちゃくちゃうれしいよね。もう「俺とHIDAやんのよさ、言って言って」って感じ(笑)。俺とHIDAやんだったからあのバトルができたと思うし、お互いが相手の熱に乗せられてあの試合になったと思う。

KEN 同時に「ターン性のバトル」が浸透していくきっかけになったと思うんですよね。BBPのような持ち時間制だと、自分でトピックや言葉の供給をしなくちゃいけないけど、ターン制という相手の言葉やトピックに乗ることのできる構成で、それが即興でできる人にとっては「言葉の供給」が無限に可能になって。

FORK 1分間まっさらでラップしろというのはかなり地獄。だからターン制という方式によってフリースタイルができると気付いた人も多いかもね。

KEN そのシステム上で伝説の試合が生まれたからこそ、その面白さが広まった。さらに、韻をお互いに踏み続けることがターン制でも可能だということをバトルで証明することで、リアリティを持ってリスナーに届いたと思う。

──再延長での「日本刀か知らないけどばっちりと落とすこれが伝家の宝刀」から始まる8小節の踏み方は今の耳で聴いても究極だと思うんですが、あのパートの最後を「やばいぞまるでHOO」と終わらせますね。それについて、R-指定くんが「あまりにも韻を踏めすぎてる自分が怖くなって、そんな自分を抑えるために漏れ出た言葉が『HOO』だったんじゃないか」と話していて。

FORK はっはっは! そんなわけない。

KEN 「自分の力が怖い! これ以上いくとヤバい!」みたいな(笑)。

FORK 確かに、あのバトルはKREVAスタイルから脱却するための韻をマシマシにして、韻の連想ゲームが止まらなくなった1つの到達点ではあるし、いろいろ深読みしてくれるのはうれしいけど、それはRが妄想しすぎ(笑)。

後編に続く>

FORK(フォーク)

横浜を拠点に活動するラッパー。2001年にヒップホップクルー・ICE BAHNを結成し、同年の「B-BOY PARK」出場を皮切りに、多くのMCバトル大会に参加。ICE BAHNで出場した「3 ON 3 MC BATTLE」で優勝し、個人でも2006年の「ULTIMATE MC BATTLE」、2021年の「KING OF KINGS」で優勝を飾っている。2017年8月からテレビ朝日にて放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」には、2代目および3代目モンスターとしてレギュラー出演した。徹底した押韻スタイルでシーンに大きな影響を与えている。

Ice Bahn

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。これまでに11枚のオリジナルアルバムを発表している。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。テレビ朝日で放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。2023年11月に新作EP「Unfiltered Red」を配信リリースした。

KEN THE 390 Official

※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。

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連載第三回のゲストはFORKさんがきてくれました!

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