7月8日にデビュー10周年を迎えたMrs. GREEN APPLEが、7月26、27日に神奈川・山下ふ頭特設会場でアニバーサリーライブ「MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~FJORD~」を開催する。
WOWOWではこのライブの2日目の生中継をはじめとしたアニバーサリー特集「Mrs. GREEN APPLE MAGICAL 10 YEARS SPECIAL」が展開されている。7月25日まで2022年の活動再開後初のライブ「Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW "Utopia"」、初のドーム公演「Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 "Atlantis"」の模様をWOWOWオンデマンドで配信中。このあと2023年のアリーナツアー「Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 "NOAH no HAKOBUNE"」、2024年の初のスタジアムツアー「Mrs. GREEN APPLE ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~」、2025年のエンタテインメントショー「Mrs. GREEN APPLE presents 『CEREMONY』」の模様が放送・配信される。
音楽ナタリーではWOWOWでのライブ放送・配信を前に、2022年の“フェーズ2”始動以降の彼らの歩みを振り返る。
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文 / 中川麻梨花
生中継!Mrs. GREEN APPLE「MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~FJORD~」
2025年7月27日(日)18:00~
リピート放送:2025年8月3日(日)18:00~
アーカイブ配信:WOWOWオンデマンドで2025年8月3日(日)0:00~23:59まで。
Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW "Utopia"
WOWOWオンデマンドで2025年7月27日(日)23:59までアーカイブ配信中。
Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 "Atlantis"
WOWOWオンデマンドで2025年7月27日(日)23:59までアーカイブ配信中。
Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 "NOAH no HAKOBUNE"
2025年8月3日(日)13:00~
Mrs. GREEN APPLE ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~
2025年8月3日(日)15:30~
Mrs. GREEN APPLE presents 『CEREMONY』
2025年9月放送・配信予定
Mrs. GREEN APPLE 10th Anniversary 一挙放送スペシャル
2025年9月放送・配信予定
心の内側をさらけ出した“フェーズ2”
- 3月18日
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活動再開を発表し、“フェーズ2”開幕を宣言。新曲「ニュー・マイ・ノーマル」を配信リリース。
- 7月8日
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4thミニアルバム「Unity」をリリース。
フジテレビ系「めざまし8」テーマソング「ダンスホール」、ABEMAオリジナル恋愛番組「今日、好きになりました。初虹編」の主題歌「ブルーアンビエンス(feat. asmi)」など計6曲収録。
活動再開後初のワンマンライブ「Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW "Utopia" supported by PIA 50th Anniversary」を神奈川・ぴあアリーナMMで開催。
- 11月9日
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10thシングル「Soranji」をリリース。
表題曲は映画「ラーゲリより愛を込めて」の主題歌として書き下ろされた。
- 11月9日~12月27日
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初のZeppツアー「ゼンジン未到とリライアンス~復誦編~」を開催。
活動休止中の1年8カ月間、本人たち不在の音楽シーンでミセスの楽曲は広まり続けていた。配信チャートの上位には「青と夏」「インフェルノ」「ロマンチシズム」「僕のこと」などが常に並び、ミセス楽曲のストリーミング総再生回数は20億回を突破。各曲のミュージックビデオの再生回数も勢いを止めることなく、彼らの活動再開を待ち望む人々の数は日に日に増えていた。
2022年3月18日、「ニュー・マイ・ノーマル」という新曲を携えてミセスは私たちの前に再び姿を現し、“フェーズ2”の開幕を告げた。“フェーズ1”完結と同時にメンバーのSNSも一度終了したため、活動休止中にメンバーの状況や直接的なメッセージが私たちの元に届く機会はほとんどなく、彼らがどのようなスタイルで再始動するのか、当時のリスナーには正直予測できない状況だった。新たな動きに期待する人がいれば、ある種の緊張感を持って彼らの変化に身構える人もいたかと思う。しかし、3人で鳴らされた再始動一発目の楽曲「ニュー・マイ・ノーマル」は、あまりにもピュアなMrs. GREEN APPLEの歌だった。“あなた”に対するこれまでの感謝の思い、ポピュラーミュージックを鳴らしていく決意……そこには武装を解いた、偽りのない彼らの姿があった。
ほどなくして7月8日のデビュー記念日に届いたミニアルバム「Unity」も、自身が抱える痛みや憂いをさらけ出すような、嘘のない作品だった。活動休止中にバンドが直面した挫折や寂しさに対して、決してごまかすことはせず、目を逸らさずに向き合う。正確には、気付かぬふりなんてできるはずのない痛みに、向き合わざるを得なかったのかもしれない。初めてレコーディングを飛ばしたほど、大森元貴(Vo, G)が時間をかけて言葉をつづった「Part of me」をはじめ、本作の楽曲からはこれまで以上に心の内側にある思いをさらしていくという、フェーズ2への覚悟と決意がうかがえる。
活動再開後初のライブ「Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW "Utopia"」の1曲目に、ミセスの“心臓”とも言える楽曲「Attitude」を選んだことにもその覚悟を感じた。4thフルアルバムの表題曲でありながら、その後のツアー、ライブでも披露されることはなく、自らの砦を守るようにYouTubeで公開中のMVのコメント欄も閉鎖されていた“不可侵領域”の楽曲「Attitude」。重厚な砦の門を開け、自身が歌う理由を直接的につづったこの曲を歌うことで、彼らはフェーズ2の道を力強く進んでいく決意を示した。ライブ終盤、自身の目にあふれる涙に驚きながら、「やっぱりすごい怖かったよね、走り出すの」と本音をこぼした大森。普段ステージ上で涙を見せることも不安を口にすることもない彼は「自分で言うのも変だけど、真面目に活動しすぎてきたものですから、すごくつらかったし、休みたいって言っちゃったし、いなくなっちゃう人とか出てくるし、すげえ怖いし不安だったんだけど、もう本当に今日よかったです。ありがとうございます」と、これまでに見せたことのないようなあどけない表情で言葉を口にした。心の内側をさらけ出せるフェーズ2のミセスはきっと強い。出会いと別れを経て大きな一歩を踏み出したミセスに、さらなる可能性を感じた夜だった。
この年の11月に発表された「Soranji」が世に知れ渡ったことは、フェーズ2のここまでの動きを振り返るうえで、おそらくミセスにとって非常に重要な出来事だったと言えるだろう。決してきれいとは言えない世界の中で愛情と希望を忘れずに生きること、人を信じることの大切さを歌い続けてきたミセス。「Soranji」はそんなミセスの本質そのものと言っていい楽曲だ。「Soranji」のストリーミング累計再生数は5億回を突破。フェーズ1の頃はポップで明るいという音楽性のイメージが先行して世に浸透し、そこに内包された本質的な部分が正しく伝わらず、本人たちがフラストレーションを抱えているところもあったように見えたが、「Soranji」は深い絶望の中であがき続ける彼らの真の姿を多くの人々に伝える楽曲となった。この曲が広く受け入れられたことは、彼らが誤解を恐れずに数多のバラエティ番組でポップスターとして輝き、一方でのちの「The White Lounge」のような、観客に信頼を置いて“表現”に振り切ったツアーに挑戦できたきっかけの1つだったかもしれない。
ありのままの姿でたどり着いた、目標のステージ
- 4月25日
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ABCテレビ・テレビ朝日系ドラマ「日曜の夜ぐらいは…」の主題歌「ケセラセラ」を配信リリース。
- 7月5日
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5thアルバム「ANTENNA」をリリース。
「コカ・コーラ」のCMソング「Magic」、花王「メリット」CMソング「Doodle」など計13曲を収録。
- 7月8日~8月4日
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アリーナツアー「Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 "NOAH no HAKOBUNE"」を埼玉、大阪、愛知で開催。
- 8月12日、13日
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バンド初のドームライブ「Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 "Atlantis"」を埼玉・ベルーナドームで開催。
- 12月30日
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楽曲「ケセラセラ」で「第65回 輝く!日本レコード大賞」受賞。
- 12月31日
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「第74回NHK紅白歌合戦」出場。
2023年、ミセスは国民的バンドへの階段を駆け上がっていったわけだが、彼らは肩肘を張ることなく、着飾らずにありのままの姿で進んでいったように見えた。「『これが最後の作品でもいいな』と思いながら書いた」と言い切るほど、自分の最深部まで潜り込んで作り上げた「Soranji」を経て、次なる一手はどのような作品になるのか──そんなタイミングで届いたのが「ケセラセラ」だった。“ケセラセラ(なるようになるさ)”という言葉が大森から出てきたことに、当時驚いたファンも多かったのではないだろうか。Mrs. GREEN APPLEと言えば、目の前にある状況を自分たちの手でなんとか改善しようと必死にもがいてきたバンドだった。そんな葛藤の時期と活動休止を経て、3人で肩を組んで2022年を駆け抜けたフェーズ2の彼らには「ケセラセラ」という言葉を高らかに歌える強さがある。痛みを抱えながらも、自分を鼓舞しながら日々を生きていく。そんな彼らの飾らない思いが反映された「ケセラセラ」のストリーミング総再生回数は累計6億回を突破。ミセスが等身大の自分たちのまま音楽を鳴らし、その音楽に多くの人々の心が動かされて共鳴したという、とても健全な現象だった。
飾ることのない風通しのいい空気は、「ケセラセラ」のあとにリリースされた約4年ぶりのオリジナルフルアルバム「ANTENNA」にも通底している。それまでミセスは「Variety」(2015年7月発表)、「ENSEMBLE」(2018年4月発表)、「Attitude」(2019年10月発表)など、自らに課題を与えるようにアルバムにタイトルを付けることが多かったが、今作ではテーマを掲げずに自由な発想で音楽を生み出し、そのすべての楽曲に共通するものとして、フェーズ1からずっと大切にしてきた“アンテナ”という言葉を冠した。アルバムはスケール感のあるハイブリッドなロックナンバー「ANTENNA」で幕を開ける。心地のいい風をまとうように歌われる「全てを抱きしめて どこまでも行ける そんな気がしてる」というフレーズは、開放感あふれる2023年のMrs. GREEN APPLEの空気そのものだ。そのあとに続くのは高揚感に満ちた極上のEDMナンバー「Magic」、狂気的でダークな楽曲「Loneliness」、牧歌的なケルティック音楽に乗せて全編スウェーデン語で物語が描かれる「norn」、心地のいい旋律に身を任せるように音が紡がれる「Feeling」といった粒立った楽曲たち。大森から若井滉斗(G)と藤澤涼架(Key)に宛てたストレートなメッセージソング「BFF」が結成10周年のこのタイミングで生まれたことも大きい。このアルバムは各ストリーミングサービスの年間アルバムチャートで1位に輝いた。デビューからの10年間、バンドという形態を取りながらも、一貫してジャンルの枠にとらわれずに活動してきたミセス。そんな彼らが最も自由な発想で作り上げた作品が広まったことで、その類い稀なる多面性も世の中に浸透した。
この年の夏、ミセスは7月8日から8月4日までアリーナツアー「NOAH no HAKOBUNE」を行い、そのわずか1週間後の8月12、13日に初のドームライブ「Atlantis」を開催した。今日までのミセスのライブにはいくつかの“ライン”がある。デビュー前の2014年から実施してきた「ゼンジン未到」シリーズ、2019年開催の「The ROOM TOUR」から発展した2024年開催の「The White Lounge」のような音楽劇、2019年開催のアリーナツアー「EDEN no SONO」から「NOAH no HAKOBUNE」「Atlantis」を経て、2025年10月から開催のドームツアー「BABEL no TOH」へとつながる、聖書などをモチーフにしたストーリーライン──これらの中で、「NOAH no HAKOBUNE」「Atlantis」といったストーリーラインは、1つのコンセプトに沿って展開されるアトラクション的な没入型のライブだ。アリーナツアー「NOAH no HAKOBUNE」の舞台となったのは1隻の船。雷鳴の中で船員たちが一斉に踊り乱れる「Viking」を皮切りに、ミセスは押し寄せる荒波を乗り越え、壮大な航海を繰り広げた。ドームライブ「Atlantis」のテーマは、9000年前に海中に没したと言われている伝説上の帝国・アトランティス。ミセスは100トンの水を使った夏らしい演出を取り入れながら、神殿を舞台にアトランティスの最盛期の豊かな祝祭を表現した。大勢のキャストを引き連れて巨大なエンタテインメントを築き上げるストーリーラインは、まさにミセスの真骨頂。特に2日間で計7万人を動員した「Atlantis」は、バンド結成当初からドームでのライブ絵図を明確に持って活動していたミセスにとって、ついに頭の中で描いていたイメージと現実が一致した瞬間だったと言えるだろう。
結成当初と言えば、ミセスはずっと「NHK紅白歌合戦」出場を目標に掲げてきたバンドだった。数々のバンドが日本武道館やアリーナ、ドームといったライブハウスの先にある目標を口にする中で、一貫して「紅白」を掲げ続けるミセスのバンドシーンにおける異質さは10年前から目立っていた。「紅白」は多くの人々に愛される国民的アーティストを象徴するステージ。大森は当時10代にして、その舞台に向けての未来図を着々と描いていた。結成10周年を迎えた2023年12月30日、ミセスは「ケセラセラ」で「第65回 輝く!日本レコード大賞」受賞。そしてその翌日、ついに「紅白」のステージに立ち、番組後半のトップバッターを務めた。華やかに鳴り響く「ダンスホール」を聴きながら胸が高鳴る──バンド初期からの目標を叶え、これから3人はどこを目指して進んでいくのだろうか。しかし、すでにずっと前から、彼らの目はこのステージの遥か先にある、まだ誰も到達したことのない景色を捉えていた。
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2024年──国民的バンドが3本のツアーで見せた表情
2025年7月22日更新