Daoko インタビュー|“kawaii”全開の渋谷系ポップチューン「前世は武将」完成

Daokoが配信シングル「前世は武将」をリリースした。

「前世は武将」は作詞をDaoko、作編曲をQUBITでも活動をともにする永井聖一(相対性理論、TESTSET)が手がけた楽曲。“渋谷系”テイストを意識したキュートなポップチューンに仕上がっている。

音楽ナタリーではDaokoにインタビューを行い、近況から移籍後のビジョン、新曲の制作過程まで幅広く話を聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 山口真由子

“届ける”という選択

──まずは昨年リリースされたアルバム「Slash-&-Burn」について聞かせてください。初のセルフプロデュース作品ですが、Daokoさんにとってどんなアルバムになりましたか?

その前の「anima」もセルフプロデュース的な側面があったのですが、独立してから初めてのアルバムということもあり、完全にそちらに舵を切ることになって。すべて自分1人で監修してやるというのは、いいところと大変なところがあるなと気付きましたね。細部まで納得のいくクオリティを追求できるのはとてもいいなと思いますが、自分との戦いになり、「相談できる人がいたらいいのに」と思うこともあって。それも含めて、いい経験になりました。DTMに真剣に取り組み始めたのも「Slash-&-Burn」からだし、自分が好きな音楽の要素を突き詰めることができたので。

──クリエイターとしても向上できたと。

そうですね。「Slash-&-Burn」は“焼き畑農業”という意味なんです。内容的にも、今までストックしていたデモ曲をアレンジして形にしたものが多いし、過去の清算みたいなところもありました。すべてを昇華し、燃やして、新たな土地を育てるイメージもありました。作り終わったときは燃え尽き症候群になりましたが、それくらい絞り切ったと思えるアルバムだし、そのあとは「これからどうしていこうか?」と試行錯誤していて。その中でバンダイナムコミュージックライブさんと一緒にやることになった、という流れですね。

Daoko

──バンダイナムコミュージックライブの新レーベル・UNIERAですね(参照:バンダイナムコミュージックライブ新レーベルにLINKL PLANET、INUWASI、majiko、Daokoが所属)。

私自身、ポップフィールドにもう一度行きたいと思っていたんですよね。末長く音楽を続けるためにも、20代のうちに自分の地盤を固めたいという気持ちがあって。このタイミングでポップスと向き合うことが、今後の音楽生活をより健やかにするのに必要なことなのかなと。

──「Slash-&-Burn」でやりたいことを突き詰めたことで、大衆的なポップスへと視点が移ったのかも。

そうですね。それと、ここ数年はボカロやアニメを含む二次元にまつわるカルチャーがさらに盛り上がっているなと感じていて……ニコニコ動画を糸口に音楽を始める前からもともとアニメもマンガもゲームも好きだったのですが、あまりの面白さに再熱しましたね。なので自然とこの文化やコンテンツに携わりたい、アニメの曲もやりたいというのも、モチベーションの1つになってます。

──「ポップフィールドに戻る」という意識と、オタクカルチャーへの回帰が重なっている?

はい。ここ最近感じているんですけど、私が10代の頃に好きだったニコニコ動画のネタがリバイバルしてるんですよ。例えばマクドナルドさんが、昔のニコ動の楽曲(2006年リリースされた東方Projectのアレンジ楽曲「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」)をモチーフにしたオマージュ動画を作ったり。平成レトロじゃないけど、懐かしいなと子供の頃に戻っちゃうような感覚があって。10代の頃にニコ動のカルチャーを楽しんでいた方々が、エンタメ業界で活躍し始めているのかもしれないです。私も中学生のときにニコニコ動画に出会って、「なんて面白い世界なんだ」と魅了されました。学校生活がうまくいってなかったこともあって、ニコ動に救いを求めるかのように夢中になってたんですけど、あのとき体験していたカルチャーがここまで覇権を取るとは思ってなかったです。すごく細かいネタまで掘り起こされて、リバイバルしてるので。音楽とは違う文脈ですけど、バキバキ童貞さんが昔のニコ動のコンテンツを特集してたり、ちょっと俯瞰でメタっぽく見れて、面白い時代に生きてるなと感じます。

──そもそもDaokoさんご自身も、ニコラップ(ニコニコ動画に投稿されたオリジナルのラップやトラック等の総称)出身ですからね。

当時のニコラップみたいなフロウは、最近のポップスでもけっこう耳にするんですよ。もちろんニコラップ自体にもルーツがあると思いますが、その流れにも影響を受けているかもしれないです。ただ、私がニコラップに投稿してたのは高校生くらいの頃なので、授業中ノートの端っこに書いてたポエムがバイブス的には近いと思います。でも、その中には「今は絶対に書けないな」というものもあって。「Slash-&-Burn」に入ってる「BLUE GLOW」は15歳のときに書いた曲で、歌詞も当時のままなんですけど、「今より色っぽいのでは?」と思ったり……(笑)。

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“好き”と“時代”が重なった瞬間

──「ポップフィールドに戻る」ということについてもう少し聞きたいのですが、今のポップミュージックのシーンをDaokoさんはどう見ていますか?

どこからどこまでがポップシーンなのかということもあると思うんですけど、私が最近感じているのは、「またボカロが面白くなってる」ということで。私よりちょっと下の世代、例えばいよわさんたちが登場してから、どんどんクリエイターが新規参入している印象があります。「プロセカ」のアプリ(「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」)だったり、いろんな要因もあると思うんですけど、今のボカロの曲は心地いいものが多いですね。TikTokの流行は早すぎて、そこまでチェックできていないんですが、渋谷系の流れを感じる曲がけっこうリールに流れてくるんですよ。私がそういう曲が好きなせいもあるんでしょうけど、例えばLampというバンドの曲が海外のリスナーから評価されてたり。Serani Pojiさんの「さよならいちごちゃん」もそう。曲に合わせて女の子がデジカメ風の画質で自撮りしてたり、すごくいいなと思って。私にとってのTiKTok層解釈の渋谷系はCAPSULEやCOLTEMONIKHAだったりするんですけど、今のTikTokの流れは「これは私も乗れる流行だな!」と感じるんです。いくら流行ってるものでも、「これは乗れないな」というときは傍観者でいるんですけど、渋谷系の流れは即刻「やりたい!」となりました。自分の声や魅せ方にも合ってると思うんですよね。

──新曲「前世は武将」に渋谷系のテイストがあるのも、そういうことなんですね。

そうなんです! やっと話がつながった(笑)。最初は渋谷系みたいな曲というより、ローマ字で“kawaii”というざっくりしたテーマが自分の中にあって。海外のファンの方も“kawaii”カルチャーがお好きな方は多いと思いますし、それをテーマにしてEPを作ろうと思ったんです。20代のうちに“kawaii”をやり切っておこうという気持ちもありました。制服デートができるうちにやっておこう、みたいな(笑)。