左からR-指定、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.8(後編) [バックナンバー]

バトルから距離を置いて:R-指定

MCバトルにはまだ可能性がある

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ラッパーのKEN THE 390がホストとなり、MCバトルに縁の深いラッパーやアーティストと対談する本連載。EPISODE.8の前編では、ゲストのR-指定がフリースタイルを始めたきっかけ、梅田サイファーとの出会い、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」前人未到の3連覇について振り返った。

後編では、“絶対王者”としての重圧、「フリースタイルダンジョン」で火が点いたMCバトルブーム、今後のバトルシーンについて語り合う。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

究極的には“相手の言葉を聞いて、上手いこと切り返す”しか考えてない

左からR-指定、KEN THE 390。

左からR-指定、KEN THE 390。

KEN THE 390 数字だけ見ても、大阪という激戦区で5連続代表になって、UMBの全国トーナメントを3連覇するというのは、異常な戦績だよね。

R-指定 ただ、やっぱりきつかったですよ。「俺みたいなもんが日本一という称号を取れんねや」という喜びはあったけど、それで生活が劇的に好転することもなく、ちょっとライブが増えたかな、ぐらいで。2回目の優勝は、まずDOTAMAさんにリベンジできたのがうれしかったですけど、「優勝してしまった」という気持ちもありましたね。「KREVAさんの“B-BOY PARK3連覇”という前例を考えると、これは3回目を目指すしかないんかな」という気持ちも生まれたし。

"DOTAMA vs R-指定" UMB2013 GRAND CHAMPIONSHIP 12/30(MON)

──結果が次の目標へ直結したと。

R-指定 3回目の全国大会は変な感じでしたよ。俺は3連覇したいし、観客もその姿が見たいと思ってる。それと同時に俺が“死ぬ”とこも見たがってる空気も漂ってて。

KEN 全員がRを軸に大会を見てたもんね。

R-指定 対戦相手はもちろん、お客さんも全員敵に思えて、かなり胃が痛む大会でしたね。優勝したときは、喜びよりも「生き残った」「負けずに終われた」という気持ちのほうが強かったです。

──あの年は「SPOTLIGHT」「ADRENALINE」と大きなイベントでも優勝を果たしていますね。

R-指定 自分でもゾーンに入ってると思えることが多かったですね。「ADRENALINE」でのGOLBYさんとの決勝は、延長を重ねてもずっと楽しいと思えるバトルやったし。

R-指定 vs GOLBY【ADRENALINE 2014】

KEN その時期も含めてなんだけど、バトルでは着地は見えてるの?

R-指定 着地までは考えてないですね。99%のラッパーは、バトル前にある程度、「こいつには何を言ったろうかな」と想定してると思うんですよ。

KEN ゲームプランは一応想定するよね。

R-指定 俺も当然プランを考えるけど、結局想定通りにはいかないし、有効打になるのは“ちゃんと相手のラインに即興で切り返したとき”なんですよね。だからプランはあくまでもお守りやし、トップオブザヘッドで出てきた言葉じゃないと、勝つことはできないのかなって。当時は、曲を作る以上にフリースタイルばっかりしてたし、とにかく頭の中に無数のラインと韻を詰め込んでたんですね。そして、バトルで相手の言葉を受けて、その引き出しがきれいに開いて、うまく言葉や韻が数珠つなぎになったときに、「これは調子ええな、ゾーン入ってるな」と。

KEN どんな言葉が来ても踏み外さないように、そのストックがしっかりあるというか。

R-指定 だから相手の言葉をよく聞いてますね。何かしら拾って、そこから自動的に韻の引き出しがバババっと開くときが、一番気持ちいいかもしれない。韻だけじゃなくて「いや、それ矛盾してるよな」「でも、そう言うけど結局こうやんけ」みたいなことも、相手の言葉で引き出されるし。逆に言えば、言葉が聴き取れないタイプのラッパーは苦手ですね。

KEN Rはハイブリッドだよね。ライミングは固い、切り返しもうまい、相手の矛盾点も突く、自由にやらせても内容があって、といろんなパターンが組み合わされてる。

R-指定 それは先人のせいですよ。HIDAさんやFORKさんのライミングはもちろん、KENさんのめっちゃうまい切り返しやディベート力、鎮座DOPENESSさんのフロウ、般若さんや晋平太さんの熱気……そういう抜きん出たものは先人がみんな先にやってるし、だから全部やるしかなかったというか。逆に「ちょっと待ってくれよ、もう枠ないやん……後輩の身にもなってよ」とも思いますけど(笑)。

KEN それを全部吸収するRには、「ちょっと待ってくれよ、全部同時にやんないでよと」とこっちも思うよ(笑)。

R-指定 でも究極的には「相手の言葉を聞いて、切り返して、観客を盛り上げる」しか考えてないですね。自分で自分のバトルの分析は難しいし、ほかの人の分析を聞いて「そうなんや」と気付くというか。晋平太さんには「変な固有名詞を使う」と言われましたね。

KEN それはRの特徴だし、R以降、そういうラッパーが増えたよね。

R-指定 でも、俺の使う固有名詞は、ほんとに日常で使ってる言葉で、韻を踏むために調べてきて使ったり、奇をてらってるわけじゃなくて。それはサイファーが大きいと思います。サイファーで英語のスラングを使ったり、USっぽい言い回しをしても、仲間は喜ばせられないし、それよりも普段話してる映画やマンガやお笑いの話を織り込んだほうが、自分たちにとってはリアルなんですよね。その言葉遣いがバトルにもつながったというか。

KEN 語彙がヒップホップ的ではなかったことが、逆にオリジナルになった感じだ。

R-指定 もし日常で使ってないような言葉が出てきたら、俺もFORKさんよろしく“こういう目して”で見ますよ(「フリースタイルダンジョン」でのFORKのバース「いろんな調べてきた固有名詞出して韻踏まれても 全員こういう目して見てると思うよ」のオマージュ)(笑)。

「フリースタイルダンジョン」ブームの渦中で

R-指定

R-指定

──「フリースタイルダンジョン」のお話が出たので、Rさんがモンスターとして番組に参加された経緯を教えてください。

R-指定 UMB3連覇を果たして「もうバトルは十分やろ。これでCreepy Nutsに集中できる」と思ってた時期に、Zeebraさんからの電話ですよ。

──最近のRさんなら、ひと晩寝かせてからかけ直すというZeebraさんからの直電が(笑)。

R-指定 失礼な話ですね、ホンマ(笑)。でも、そんときはまだジブさんとは接点がなかったんで当時のマネージャーに連絡があって。それで「MCバトルの番組が始まるんだけど、それにはRがいないと成立しない」「般若もRが出るならと言ってる」と。「……いや、ちょっと待ってくださいよ」という話じゃないですか。

──プレッシャーが強すぎる(笑)。

R-指定 ただ状況としては、またミュージシャンとして下積みに入った時期だったんですね。平日、客もまばらなライブハウスでバンドと一緒に出て、俺らのライブが始まったら客がバーカンに引いていくのを、松永のターンテーブルプレイと、俺の“聖徳太子フリースタイル”で引き止める、みたいな時期で。だから「テレビに出たらちょっとは知名度上がってライブしやすくなる」というのと、「好きなラッパーばかりやけど、テレビでMCバトル……コケたらどうする? もうどこにも戻られへんようになるやん」みたいな気持ちがせめぎ合ってましたね。

KEN 「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」があったとはいえ、「ダンジョン」はまた方向性が違ったし。

R-指定 ヒップホップ自体、今みたいな認知度はなかったし、バトルはその中でもサブジャンルだったんで。ただ、「ダンジョン」に漢さんや般若さんが参加するのは驚いたし、これは本気で何かを変えようとしてるんやなと。

KEN メンツによる信頼度は大きかったよね。

R-指定 サイプレス上野さんやT-Pablowも含めて、この総力戦で沈む船やったらもうしょうがないな、コケても胸張って前のめりに倒れられるなと思ったんですよね。自分としてもフリースタイルには自負があったし、ほかの人がやるぐらいなら俺がやろう、と腹をくくって。

──結果「ダンジョン」でMCバトルブームが起きますが、その中でCreepy Nutsは「未来予想図」をリリースしますね。

R-指定 「未来予想図」には、それまでの自分の人生が反映されてますね。小さいバトルで3万とか5万の賞金を獲得して、たまのライブでちょっとしたギャラをもらって、年末のUMBの賞金で「これであと1年はなんとかなる……」みたいな、ほぼ「カイジ」みたいな生活やったんで(笑)。だから「ダンジョン」が始まって、ブームが起きても「ウソウソ、こんなん」と。

KEN 信じられなかったんだ。

R-指定 俺らの大好きなグループが全然知られてない、フッドスターでさえも食えてない、ヒップホップが音楽シーンから無視されて、「ラップしてる」なんて言えば半笑いな反応が返ってくる……そんな状況しか見てないから、「絶対このブームは信じたらあかん」と自分に言い聞かせてましたね。「手のひらなんてすぐ返されるよ」と。

KEN マインドがアンダーグラウンドの芸人が売れたときみたいになってる(笑)。

──永野のYouTubeかと思った(笑)。

R-指定 確かに「ダンジョン」が盛り上がって、Creepy Nutsも大きなライブにも呼ばれるようになった。でもこんなん一瞬で吹き飛ぶかもしれん、むしろその可能性のほうが高いから、地道にやるのは忘れんとこな、と松永と2人で話してましたね。それぐらいテレビやメディアだけじゃなくて、増えたお客さんのことも信用してなかった。「こんなんすぐ終わんねやから」「10人、5人のお客さんの前からでもやり直せるマインドはちゃんと持っておこう」って。そう考えてたら「未来予想図」ができてた(笑)。

KEN みんな盛り上がってるとこに完全に冷水をぶっかけにいって(笑)。

──しかもそれを「ダンジョン」でフルサイズでやるっていう(笑)。

R-指定 あいつなんやねん!……俺か(笑)。「なんでそんなこと言うん? もっと若い子に夢持たせるようなこと言わんと! BAD HOPせんと!」と、今は思います(笑)。

KEN ブームの波を一番感じてたのはRだろうし、誰よりも先にそういう気持ちになるのは、よく理解できる。

──2000年付近の“日本語ラップバブル”の時代の恩恵は当然受けていないし、それ以降の音楽不況も含めた“ヒップホップ冬の時代”しか知らないから、現在のようにラップが市民権を得るなんて、想像も難しかったし、ブームがにわかには信じられないのは当然だと思います。

R-指定 いわゆる冬の時代は、ひたすらヒップホップの純度やスキルの濃度を上げてくれた時代やったと思うんですね。その時代に俺はヒップホップを好きになったし、エントリーしたから、しぶといんやないかなと。もし流行りから入ったら、廃れた瞬間にまた別の流行りに目移りしたかもだけど、そうじゃないんで。DABOさんが最近の「流派-R」のインタビューで、「俺らの頃は、DJとダンサーがモテて、ラッパーは一番モテなかった。それでもラップを選んだから、今でもやってる。今の子にそれができる?」と話したんですけど、それを見て「できますよ! やりましたよ! それ俺っすよ!!」と(笑)。

KEN あと、10年以上地下で磨かれてた多種多様なスタイルが、一気にメディアに登場したらそれはみんな驚くよね。だからブームになったのは必然だったとも言える。

R-指定 ホントそうなんすよね。

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バトルから距離は置いてるけど、“スイッチ”はある

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