左からR-指定、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.8(前編) [バックナンバー]

UMB3連覇の絶対王者:R-指定

“相手を打ち負かすラップ”から、“キングだと認めさせるラップ”に

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このテキストを読む人には説明不要かもしれないが、“Creepy Nutsのラッパー・R-指定”といえば、もはやヒップホップリスナーだけではなく、お茶の間レベルでもその存在を強く知らしめる、音楽シーンのトップランナーだ。そして、その彼がスターダムに登り詰めるまでのキャリアを考えるうえで欠かせない要素として“MCバトル”がある。

「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)グランドチャンピオンシップ3連覇という前人未踏の功績に加え、数々のバトルで優勝し、「フリースタイルダンジョン」では初代モンスター、二代目ラスボスに就任。2010年代のMCバトルブームを牽引し、追従する多くの新たなラッパーを生み出し、スタイルや構造自体に影響を与えた存在であることは間違いないだろう。

“MCバトルを完成させた”とも評される彼は、どのようにMCバトルに挑み、絶対王者となったのか、そして距離を置いた現在はバトルシーンをどう見ているのか。KEN THE 390がその胸中を聞いた。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

UMBの“HIDADDY 対 FORK戦”は世代の歌

左からR-指定、KEN THE 390。

左からR-指定、KEN THE 390。

KEN THE 390 RがMCバトルを知ったきっかけってなんだったの?

R-指定 もう恥ずかしいぐらい映画「8Mile」ですね。びっくりするほどド真ん中で「8 Mile」(笑)。中1ぐらいでヒップホップを聴き始めて、映画観て、「エミネム、めっちゃカッコええな」と普通に憧れましたね。

KEN 日本のMCバトルより先に「8 Mile」だったんだ。

R-指定 ほぼ同時ぐらいですね。ネットにKREVAさんが「B-BOY PARK」(BBP)で3連覇したときの映像が上がってて、「日本でも、日本語でもできんねや!」と思った記憶があります。それから2002年のBBPでの漢さんと般若さんのバトル。特に漢さんのリリックは衝撃的でしたね。「え、腐乱死体とか言ってる? 怖い!」みたいな(笑)。

KEN そこだ(笑)。

R-指定 それから中3のときに、バスケ部の後輩からMSCやCOE-LA-CANTHみたいなアンダーグラウンドのヒップホップを教わって、「この漢ってBBPに出てた人やんな?」というつながりから「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)にたどり着いて、そこで2006年のUMBでの“HIDADDY 対 FORK戦”に出会ってしまうわけですよ。

──Rさんの世代はあのバトルに影響を受けている人が本当に多いですね。

R-指定 80年代後半から90年代前半生まれまでのラッパーは、みんなあの内容を暗記してんちゃうかな。「俺FORKさんやるから、お前HIDAさんな」って分けたら、みんなカバーできますよ(笑)。世代の歌ですよ、もはや。

──「NOW」みたいな年代別コンピがあったら……。

R-指定 2006年版の1曲目(笑)。当時、もうすでに自分でリリックは書いてたんですよ。でも「こんなレベルで即興ができるんやったら、俺もやってみたい」と、あの試合を観て自分でもフリースタイルをやろうと思ったんですよね。

KEN あれは相当コミュニケーション性の高い試合だったよね。

R-指定 「俺もできるかも」と思った根本の理由は言語化できないんですけど、「勉強も運動も苦手で嫌いやけど、これはできそうやし好きかも」っていうワクワクを感じたのは間違いなかった。もともと「ああ言えば、こう言う」減らず口が得意やったし(笑)。

──Rさんにとって“HIDADDY 対 FORK戦”の魅力は?

R-指定 味がめっちゃ濃いうえに、HIDAさんの面白い言い回し、FORKさんのクールな言葉の展開みたいに、スタイルも対照的という部分ですかね。「このHIDAさんの切り返しや引き出し方は完璧やな」「このFORKさんの韻の踏み方すごない?」と何回観ても発見があるし、噛んでも噛んでも味が出るんですよ。それこそ「中学校時代」「バトルにガンガンに出てた時代」「今現在」と自分の状況によっても見え方が変わるバトルですね。

KEN KREVAさんが即興で韻が踏めることを証明して、漢さんが会話するようにラップできることをスタイルとして成立させた、という両方の流れを汲んだうえに、それをすごいクオリティで形にしたという意味でも、“HIDADDY 対 FORK戦”は1つの到達点だよね。

“R指亭狂HEY”時代、梅田サイファーとの出会い

R-指定

R-指定

KEN “HIDADDY 対 FORK戦”に影響を受けたのが中学生のときで、さらにすでに自分でリリックを書いてたというのは早熟だね。

R-指定 一緒に梅田サイファーに参加した同級生のラードってやつに「お前、ラップうまいやん」とか言われて調子乗ってたし、「同世代で一番ラップがうまいの俺やろな」と思ってたんですよ。そういう14、5歳ならではの「俺は何者かであるはずだ」ということを、根拠もなく確実に信じてる時期にバトルとも出会って、さらに「これや! きたきた!」みたいな(笑)。

KEN 実際にそれが今に至るんだからすごいよね。梅田サイファーに参加したのもその時期?

R-指定 その1、2年後ですね。モバゲーで同世代を調べてたら、「15歳です。自分でラップ録ったんで聴いてください」とアップしてたのがKOPERUやったんですよ。同い年で曲が作れる、録れる、アップできる、しかも大阪で……嘘やろ! ヤバ!と衝撃でしたね。それで情報を見たら「梅田サイファーに行きます」って書いてて、ほぼ同じタイミングでラードからも梅田の情報が入ってきたんで「じゃあ行ってみるか」と。

KEN ネットで存在を知ったんだ。

R-指定 モバゲーかmixiか……基本的にはみんなネットやったと思いますね。テークエムもモバゲーにおったんですよ。モバゲーの掲示板でライムし合うカルチャーがあって、そこで存在は知ってたんですけど、梅田で出会って「ネットライムしたことあるで」と言われて。

KEN その掲示板ではすでに“R-指定”だったの?

R-指定 そのときは“R指亭狂HEY”でしたね。

KEN 思ってた数倍ヤバかった(笑)。

R-指定 ちゃんと恥ずかしい(笑)。梅田に参加する前は、この歳でラップができて、しかもちゃんとHIDAさんやFORKさんのラップのすごさも理解してるやつはほかにおらんやろと思ってたんですよね。だけど、サイファーに参加したら、全員淀みなくバチバチにラップできてるし、同い年のKOPERUは普通にうまいし、「え、なんなん? これ?」と。ある程度ラップできてるという自負がグラッと揺れた瞬間でしたね。

KEN ほかの人もちゃんとクオリティが高かったんだ。でも、サイファー自体が当時は珍しいよね。全国にサイファーができたのは「フリースタイルダンジョン」ブーム以降だし。

R-指定 それこそKENさんやダメレコ(Da.Me.Records)周辺の人たちがやってた、「ハチ公前サイファー」の影響は大きかったと思いますね。それから毎週土曜日に梅田に遊びに行くようになって。その中で、みんなバトルにも出てるし、俺も出てみるかというのが、バトル参加のきっかけで。

KEN 「高校生でバトルに出る子がいるらしいよ」という話はその時期から増え始めたんだけど、RやKOPERUはそのはしりだよね。サイファー内でもバトルはやってたの?

R-指定 やりましたね。2、3時間サイファーして、ひとしきり終わったら、「じゃあ、ちょっとバトルでもやってみようか」と。

KEN 予行演習みたいな。

R-指定 サイファーの段階から「俺がもしこの人と戦うんやったら、どんなこと言うんやろな」とか、ちょっとしたシミュレーションもしてた甲斐があったのか、その梅田内バトルで優勝もできて。

KEN もうその頃から強かったんだ。

R-指定 どうなんすかね……みんなサイファーの延長線上で、相手を笑かすぐらいの温度でバトルをやってた中で、俺だけめちゃくちゃキルなラップをしてたんで(笑)。

KEN 遊びのバトルで相手を殺しにいくのは一線超えてるよね(笑)。

R-指定 「あれ、ちょっと空気ちゃうかな……」と思いながらも、「ぶちかましたい」という欲望を止められなかった(笑)。

KEN でも、そこにRの強さの原点がある気がする。Rって、オールラウンドな強さがあるけど、根本的にハートが強いし、それを仲間内でも出せてたというか。空気の読み方は間違えてたかもしれないけど(笑)。

R-指定 KENさんにそう言ってもらえるとうれしいです。俺、日本人ラッパーの中で根性がある人を挙げてくださいと言われたら、真っ先に浮かぶのがKENさんと般若さんなんですよね。

KEN そうなんだ。

R-指定 根性が具現化して人間の形になると般若さんになる(笑)。KENさんは見た目としてはそうは見えない、ナードでもない、サブカルでもない、いい意味で“普通の人”なのに、最高にイケイケのときの漢さんとゼロ距離でバトルしてるんですよ? その感じはやっぱりエグいし、奥底に秘めた根性の座り方がすごい。

KEN ありがとう(笑)。

R-指定 梅田の連中も、かなりKENさんの影響を受けてますよ。梅田のメンツは基本的にハードではないし、どっちかと言えば普通な、ラップ好きな人間の集まり。でもUMBのDVD観て、「おい見ろよ、KENさん、こんなイカつい人にバチバチいってるやん! 俺らもできるよ!」と勇気をもらったというか。

KEN でも、結局それで“裏でゼロ距離”もあるわけだからね。

R-指定 そうなんですよ! KENさんと同じようにバチバチにいって、結局裏で胸ぐらつかまれて「あれ? DVDと違って普通に詰められるやん! 契約違反ですよ、そんなん!」みたいな(笑)。

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相手も武器を持ってるし、俺も刺していいんでしょ?

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