ナカシマ(Vo, G)、峯岸翔雪(B)、原駿太郎(Dr)からなる3ピースバンド・おいしくるメロンパンは、2015年の結成以来コンスタントなリリースと精力的なライブ活動を重ね、10年にわたり着実に活動の規模を広げてきた。そんな彼らが今年10月に通算10枚目となるミニアルバム「bouquet」をリリースし、トイズファクトリーからメジャーデビューを果たす。
おいしくるメロンパンはなぜ結成10年目という節目の年に、活動のフィールドをメジャーに移すことを決意したのだろう? 音楽ナタリーでは、メンバー3人に6月リリースのテレビアニメ「フードコートで、また明日。」のオープニングテーマ「未完成に瞬いて」、8月リリースの新曲「群青逃避行」の制作エピソードと合わせて話を聞いた。
取材・文 / 金子厚武撮影 / 草場雄介
“その先”に行きたいと思った
──結成10年目にメジャーデビューすることについて、現在の率直な心境を聞かせてください。
ナカシマ(Vo, G) メジャーデビューに対して特別な思いがあるわけではなくて。ただ単純に、もっとたくさんの人に自分たちの音楽を聴いてもらえたらうれしいなっていう感じですかね。
──メジャーデビューが目標というわけではなかった?
ナカシマ 全然なかったですね。でもインディーズでやれることはひとしきりやって、自分たちのモード的にも“その先”に行きたいと思っていたタイミングでお話が来たので、これはぜひやりたいなと。
原駿太郎(Dr) バンドを始めた頃は漠然と「メジャーデビューできたらすごいんだろうな」と思っていましたけど、活動を続けていくうちに「メジャーデビューしないのかも」という気になっていたんです。なのでメジャーデビューできるのはとてもありがたいんですけど、自分たちがやることはこれまでとあまり変わらないのかなと思っています。
峯岸翔雪(B) 友達のバンドとかがメジャーに行く中で、「俺らはまだやな」って、都度都度思っていて。中途半端にメジャーデビューしちゃいけないなという感覚がずっとあったんですね。でも自分たちで自分たちを押し上げて、最近ようやく「メジャーの力を借りたい」と思うようになった。だから、すごくいいタイミングでメジャーデビューできます。これまでの10年間、自分たちだけでやってきたことで自力はしっかり付いていると思うから、自信を持って新しいステージに上がれるかなと。
──「俺らはまだやな」と思っていたのは、バンドの実力、気持ちの部分、もしくは環境的な部分、どんな面で「まだ」と感じていたのでしょうか?
峯岸 「まだ行きたくないな」っていう、気持ちの面が一番大きかったと思います。少し前までは「メジャーになったら僕らの進みたいスピードではなくなってしまうだろう」という懸念があって、まだ自分たちのペースで、自分たちだけでやりたいことがあったんです。実際、過去にも一度お話があったんですけど、そのときは「まだタイミングじゃない」という判断でお断りしました。
──直近の取材では、今年の4月に出たEP「antique」がこれまでの総括のような作品になったと話されていました。その手応えも「今ならメジャーに行ける」という気持ちの後押しになりましたか?
ナカシマ そうですね。「antique」はインディーズの締めくくりの作品として、ふさわしいものができたなと思っています。一旦自分たちの力だけでというか、メジャーの力を借りずにバンドの世界観を確立するところまでは行けたので、ここからはメジャーの方々の力を借りてやっていくのもいいなと。
──これまではロッキング・オン・グループの「rockin'on JAPAN」の所属で、「RO JAPAN RECORDS」からのリリースだったわけですが、どんな関係性だったと言えますか?
ナカシマ クリエイティブに関しては「任せるよ」というスタンスで接してもらってたので、やりたいようにやってきましたね。
原 そもそもロッキング・オンの中にマネジメント部署が立ち上がったタイミングで僕らが入っているので、お互いに協力し合いながら、手探りでいろいろがんばってきた感じなんです。
──6月29日の日比谷野音公演でメジャーデビューを発表するそうですが、そこに向けて考えていることはありますか?(参照:おいしくるメロンパン初の日比谷野音ワンマン、結成10年でのメジャーデビューは「前向きな選択」)(※取材は6月中旬に実施)
ナカシマ あんまり考えてはいないですね。反応はそこまで気にしていません。
──メジャーデビューは事実だけど、それぞれの受け止め方で受け止めてもらっていいよと。
ナカシマ そう思います。
なぜ3ピースなのか?
──メジャーデビューというタイミングで皆さんのことを初めて知る人もいると思うので、少しだけバンドの基本的な話をさせてください。おいしくるメロンパンは3ピースのバンドであることに対するこだわりが強い印象があって、これまで基本的に3人以外の音は入れてないですよね。3ピースで表現することにどんなこだわりがありますか?
ナカシマ 楽器を制限することで生まれる個性や、振り幅があると思います。あと3ピースバンドが今の音楽シーンに少ないので、それでどこまでやれるのかなというのも、面白さの1つですね。
──ナカシマさんはもともとのルーツとしてクラシックがあったり、ジャズも好きだったり、ケルトやアイリッシュも好きだったり、音楽的には幅広くいろんなものを吸収していると思いますが、それを3人でやることに面白さがある?
ナカシマ それはありますね。「こういう表現をしたいけど、この楽器しかないからうまく工夫して」というときに個性が生まれる。逆になんでも際限なくできてしまうと、一貫性という点では薄れていっちゃうかもしれない。僕らはサウンド面でずっと一貫してやってこれたと思うので、過去作を聴き返してみても面白いと思います。
原 3ピースのバンドはカッコいいんですよ。3つの音だけ、3つのパートだけでっていう、その潔さがカッコいいし、それが僕らの特徴でもあるので、やっぱり大事なポイントですね。
──3ピースとしての理想像はありますか? 具体的なアーティスト名でもいいし、抽象的なイメージでもいいですし。
原 3つのでっかい柱になって、でっかい家になるみたいな感じですかね。
──平坦な柱じゃなくて、身長差があるけど、でも3人が並んだときのバランスがすごくいいから、個性的な家になってる感じがします。
原 ありがとうございます(笑)。
──歌がちゃんとある音楽にしては、峯岸さんが手数も音数も多くプレイする場面があって、それも3ピースだからこその特徴かと思いますが、何か意識していることはありますか?
峯岸 3人だとアンサンブルの自由度が高いので、そこでそれぞれの楽器の面白さ、カッコよさがより出るんじゃないかと。「攻めつつも攻めすぎない」みたいな、そのギリギリを狙うのはこだわっていて。たまにはみ出しちゃって「もうちょっと抑えて」と言われたりもするんですけど(笑)、そういう考え方がすごく好きですね。あとは3ピースだとアンサンブルに隙間が生まれて、それがバンドの本質をより際立たせるんじゃないかと思うんです。隙間を埋めちゃうと、没個性になるというか、ノーマライズされちゃう感じがあるけど、隙間が空くことでまた個性が出て、おいしくるメロンパンの色が出るのかなと思います。
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ミニアルバムにこだわるワケ