a子「MOVE MOVE」インタビュー|新曲「MOVE MOVE」に見る、アニソンとの向き合い方

a子が新曲「MOVE MOVE」を配信リリースした。

「MOVE MOVE」はTOKYO MX、BS11ほかで放送中のテレビアニメ「宇宙人ムームー」第2クールのオープニング主題歌として書き下ろされた1曲。幼少期からアニメ好きだったa子にとって、念願叶っての初アニメタイアップ曲であり、主人公・ムームーの名前をもじった曲名や、アニメの世界観を反映させたリリックからは彼女なりの作品への愛が感じられる。

音楽ナタリーではポップかつ親しみやすい1曲となった「MOVE MOVE」の制作秘話や、a子のアニソンとの向き合い方を掘り下げるべく彼女にインタビュー。5月にイギリス・ブライトンの音楽フェスティバル「The Great Escape」に出演するなど、海外での活動も活発化しているa子に現在のモードを語ってもらった。

取材・文 / 高岡洋詞撮影 / Goku Noguchiヘアメイク / NATSUKO(UpperCrust)スタイリスト / Yuki Yoshidaスタイリストアシスタント / Rin Yajima

お客さんと一緒に歌えるかも

──以前からアニメソングを歌ってみたかったそうですね。

はい。アニメは子供の頃から大好きなんで、今回お話をいただけてめっちゃうれしいです。

──初めてのアニメタイアップですが、制作はどんな形で始まったんですか?

まずは原作マンガの単行本を買うところから。原作を読ませていただいて世界観のイメージを膨らませつつ、メロディもいつもよりアニソン感を意識して作りました。londogのメンバーもアニメ好きが多くて、曲を一緒に作ってる中村(エイジ)さんも、ギタリストの中松ブンちゃん(文吾)もオタクなんですよ。

a子

──ちなみに「宇宙人ムームー」はどんな作品なんですか?

自分の星が滅亡しちゃった猫型の異星人・ムームーが地球に来て、家電から星を復活させるためのヒントを得ていく、簡単に言うとコメディですね。しかもかなりユルユルの。2期からはちょっとアクション要素が入ってくるみたいです。

──曲を聴くと主人公の名前を連呼しているように聞こえるけれど、タイトルを見ると「MOVE MOVE」なんですね。面白いですね。

うちのバンドにいる齊藤真純というギタリストが英語が堪能なので、彼に「『MOVE MOVE』で『ムームー』って歌ってもいいかな?」と聞いたら「そうは読まないけど、読みたいんでしょ? だったらいいんじゃない。そこまで変じゃないよ」と言われて、「じゃあいいか」って(笑)。キャラクターの名前をタイトルに入れるというかなりベタなことをやりました。

──(笑)。いいアイデアだと思いますよ。

私は本来は作品に寄り添う歌詞のアニソンじゃなくて、「るろうに剣心」の「そばかす」(JUDY AND MARY)くらい少し距離があるほうが好きなんですよ。今回もそのことは意識していたけど、自分が作るとなると寄せちゃいました(笑)。聴いてくださった方がどう感じるかはわかりませんけど。

──「寄せた」とおっしゃるのもよくわかりつつ、単体でも十分に楽しめる曲だと思いましたよ。

ありがとうございます。ライブでやるのが楽しみなんです。私の曲にはあまりお客さんと一緒に歌えるようなものがないから、これは「ムームー」って言ってもらえるかもしれないなって(笑)。

a子

自分の中のオタクに素直に従って

──曲作りはどんなふうに進めていきました?

トラック始まりというか、ドラムとベースを作ってコードを決めて、ギターをちょっと入れたら、そのあとメロディを適当な日本語を歌いながらぶち込みました。タッター(サビの始まりを歌って)というメロディだったので、中村さんに「ここはキャッチーな歌詞にしたほうがいいよ。繰り返すと耳に残るから」と提案されて。その言葉がヒントになって「『ムームー』だし、『MOVE MOVE』でハマるんじゃない?」と思いついたんです。私はいつも洋楽を意識してカッコつけちゃうけど、今回はThe Ventures風のギターだったり、ド頭に銅鑼の音だったりを入れて、あまり神経質にならず遊びながら作りました。“自分の中のオタク”に素直に従って、ポップスを作ろうとものすごく意識しましたね。

──a子さんが常々意識されている“ポップスvs.カッコいい”の構図ですね。「自分の中のオタクに素直に従って」はいい言葉です。

でも、これだけ聴き手に寄り添った曲、自分が中高生の頃だったら聴いてないかもしれない。ひねくれたタイプのオタクだったんで(笑)。

──そんなこと言わないでください(笑)。

ミックスのときに音の感じをつかむために、いろんなアニソンをスマホで流してみたんですよ。イヤフォンを着けずにスマホのスピーカーから音を出してアニメを観る方が多いかなと思って。それでエンジニアの浦本(雅史)さんにお願いして、ボーカルの音量をかなり上げてもらいました。聴きやすくて、すごく気に入ってます。

a子

──今回はどんな曲をリファレンスに?

イントロのリフレインは、モーニング娘。の「ハッピーサマーウェディング」とドナ・サマーの「Hot Stuff」をオマージュしています。ポップな感じにしたくて。ドナ・サマーもモーニング娘。も聴いたことのない斉藤雄哉っていうyonawoのギタリストに弾いてもらったら、絶妙にリファレンスを避けた感じというか、私のイメージしていたタイムの取り方とグルーヴ感が全然違くて、それがむしろいい感じになりました。

──あははは。ベンチャーズ風のギターは?

これも斉藤雄哉です。うちのバンドに白川詢というギタリストがいるんですけど、彼はベンチャーズのコピバンをやってるから、彼が弾くともうめちゃくちゃベンチャーズになるんです。でも雄哉くんに弾いてもらったら、全然違う感じになってそれがめっちゃよかった。そのジャンルを通ってない人がリファレンスをもとにしたフレーズを演奏すると、新しく聞こえて面白いという発見がありましたね。

アニメの世界観を表現するために

──ほかにもインスピレーション源があったら教えてください。

DメロはDaft Punkをオマージュしていて、トークボックスをギターに通してレコーディングしました。ポップに楽しいサウンドにできたらいいなと思って、意識的にガチャガチャした感じにしましたね。あと、タイアップのお話をいただいたときの最初の打ち合わせでアニメの放送が夏だとお伺いしていたので、夏の曲というのもすごく意識しました。

──ガチャガチャした感じはa子さんにとってのポップということでしょうか。

はい。明るく感じてもらえたらうれしいなと思って。でも、聴いてもらった人から「明るすぎず暗すぎず、ちょうどいいんじゃない」と言われて、全力で明るい曲を作ったつもりだったんで「え……」みたいな(笑)。ちょっとズレますよね、本来の自分の感覚とは。

──僕も「言うてa子さんの曲だよな」とは感じました。

やっぱり? 自分としてはめちゃくちゃ明るいつもりだったんですけどね。

──いい意味で、ですよ。ご本人がどう思うかはわかりませんけど、a子という枠の中で振り幅があって、成長とともにその枠がだんだんと広がっているように感じました。

ではその認識でお願いします(笑)。オープニングの絵コンテを見せていただいたんですけど、自分が原作マンガから連想したポップなイメージ通りでビックリしました。それとプロの方々が描く絵がうまくて感動しました。

a子

──リリックもストーリーを踏まえた内容になっていますね。

ストーリーというかワードですね。「銀河」のような言葉はわざと使っています。で、歌詞に少し厨二感を出したかったから、自分が通ってきた昔のボカロの雰囲気を意識したりして。そしたらバンドメンバーに「僕がくだらなくなった」の部分を「ここ厨二っぽくていいね」と言ってもらえました 。

──ミュージックビデオはどんな感じになりそうですか?

今回はロビンさんというクレイアーティストの方に制作をお願いしています。クレイアニメの合間に実写の映像も挟むんですけど、そっちの撮影はもう終わっていて。最終的にどうなるかわからないけど、制作途中の映像を観させていただいた限りではめっちゃかわいらしいMVになりそうです。色彩も独特で面白いし、完成が楽しみですね。あとロビンさんには「アニメの主題歌になる」としかお伝えしてなかったのに、ムームーじゃないけど猫が出てきてすごいなって(笑)。

──完成が楽しみですね。ちなみにアニメサイドの皆さんは「MOVE MOVE」について何かおっしゃってました?

すごくいい人たちで「OK!」って感じでした。気に入ってくださったのかな。私は小さい頃からアニメをずっと観ていたのに、アニソンは1曲を89秒尺で完結させなきゃいけないってことを全然知らなくて、自分のやりたいことをちゃんと詰め込めるかビビりながらの制作でした(笑)。

──今はアニメのタイアップは幅広い層に作品を届けられるから、やりたい人は多いですよね。

そうですよね。今の時代、いろんな人に認知してもらうにはアニメのタイアップが一番大きいと思いますし。

a子

海外に意識が向いてきた

──a子さんは去年から海外でライブをする機会が多いですよね。以前は「あまり海外は意識していない、まずは国内で」とおっしゃっていましたが。

この前、イギリスでライブをする機会があったんですよ。アメリカに行ったときはごはんが合わないし、すべてがデカすぎるし、陽気な人も多くて圧倒されちゃったんですけど、イギリスは「住めるな」と思いました。現地で会った方々の雰囲気が落ち着いていたし、ごはんもおいしいと思うものがけっこう多くて。

──海外でのライブは、昨年のアメリカ、台湾、韓国に続いてイギリスと4カ国目ですか?

フランスにも行きました。少しだけパリシンドロームになったけど(笑)、また行きたいし、「海外けっこういいな」って思い始めてますね。だから今作ってる曲はめちゃくちゃ海外のリスナーを意識しています。前と言ってることが違いますけど。

──いいと思いますよ。

レーベル長がイギリス大好きなんですよ。私は正直、これまでは「海外で戦うなんて滅相もない」「私には無理っす」みたいな気持ちがあったけど、だんだん興味が湧いてきました。

a子

──今は日本語の曲を海外でヒットさせているアーティストがたくさんいますよね。

そうなんですよね。海外でウケてる日本のアーティストの楽曲や傾向を調べたりするようにもなりました。

──変化の真っ最中ですね。

はい。海外に行くといろんな刺激を受ける機会が多くて。ロンドンで「となりのトトロ」の舞台を見たんですよ。CDの音源が流れていると思ってたら「あれ? 舞台の左右に演奏隊いるぞ。もしかして弾いてる?」みたいなことがあって。それぐらいロンドンのミュージシャンって演奏のレベルが高くて、めちゃめちゃオリジナルに忠実なんですよ。ロンドン滞在中で一番感動したし、ビックリしすぎてバンマスの人を調べたりしました。若めのピアニストで、ありえないぐらいうまいし、めっちゃ余裕そうに片手でピアノを弾きながら指揮をしていて。中村さんは「ダメだ。もうピアノやめる」とか言ってました(笑)。私もショックを受けたけど、勉強にもなりましたね。