アニメ「えぶりでいホスト」特集|下野紘(コーイチ役)×鬼龍院翔(主題歌提供アーティスト)対談

元サラリーマンのハジメ(CV:八代拓)が身ひとつで飛び込んだホストクラブ「クラブ・ワン」を舞台に、超個性的なホストたちがハチャメチャな騒動を繰り広げるショートアニメ「えぶりでいホスト」。ごとうにもの4コマWebマンガを原作としたこのアニメは、1話3分で駆け抜ける濃密さに加え、作品の勢いを加速させるオープニング主題歌「えぶりでいホスト」が話題を呼んでいる。その主題歌を手がけたのがゴールデンボンバーの鬼龍院翔。彼が生み出したハイパーなパーティソングを、えぶホスPlayersこと総勢8名のキャストが歌い上げている。

TikTokを中心にヒット中の主題歌の制作秘話を探るべく、音楽ナタリーでは楽曲を生み出した鬼龍院翔と、「クラブ・ワン」のNo.1ホスト兼代表のコーイチ役の声優・下野紘の対談を企画。作品の魅力から主題歌「えぶりでいホスト」の制作秘話まで、たっぷり語り合ってもらった。

取材・文 / 後藤寛子撮影 / 曽我美芽

30秒で終わらせて

──お二人が直接顔を合わせるのは初めてですか?

下野紘 はい。もちろん一方的にはご活躍を拝見していましたが。

鬼龍院翔 僕はあんまりアニメを観ないほうなんですけど、そんな僕でも下野さんは知っていたんです。大げさではなく、それが今回の楽曲提供を決めた要因の1つでもあって。僕が知っているくらい有名な方が出演されることが決まっているなら、きっと大きなプロジェクトなんだろうと……。

下野 はははは! よかったです(笑)。キャスト側でも、「えぶりでいホスト」というホストの世界を描いた作品でゴールデンボンバーの鬼龍院さんに曲を書いてもらえるなんて、もう完全にできあがってるよね!と話していました。歌うのは本当に難しかったですけど(笑)。

鬼龍院 難しいと思います。作った僕としても、よく皆さん歌えてるなあって。だから、「ちょっとここは歌えないから変えたいです」みたいな意見が返って来ても全然いいと思っていたんですよ。もし来たら修正するし……と思っていたら、いつの間にか完成していました。

左から下野紘、鬼龍院翔。

左から下野紘、鬼龍院翔。

下野 鬼龍院さんが作ってくださった曲ですし、できあがっている曲を作り直してくださいと我々声優側から言うことは基本的にないです。難しいところがあったら、レコーディング現場でどういうふうに歌えばいいか相談する形ですね。今回も「ダメな部分があったらまた歌い直すのでお願いします」と伝えていたんですけど、結局歌い直さずにいけました。

──畳みかけるように言葉が詰まっていますし、歌い切るのは相当難しそうですね。

下野 そうですね。やっぱりテンポの速さとキーの高さがネックで。

鬼龍院 それは楽曲の制作依頼者が悪いんです(笑)。ある意味、僕も被害者です(笑)。

下野 あはははは! 詳しく聞きたいところですね!

鬼龍院 まず特筆すべきは、「オープニングテーマを30秒で終わらせてほしい」というオーダーですよね。通常、アニメのオープニングは90秒なんですよ。だから、30秒で「えぶりでいホスト」の世界観を表現するにはどうしたらいいんだろうと。これだけにぎやかで個性的なキャラクターが大暴れしている作品を30秒でまとめるとなると、そりゃワードも詰め込むし、テンションの昂ぶりを表現するために高いキーのメロディになりますし。

下野 なるほど!

鬼龍院 僕はアニメサイドから言われたことに対して、さらにブーストをかけただけなんです。だから、そういう要求にしっかり歌声で応えていらっしゃる声優の皆さんは本当にプロだなと思って感心しちゃいました。コメントにも書きましたけど、実は何年もずっと楽曲提供を断っていたんです(参照:ゴールデンボンバー鬼龍院翔、ホストクラブ日常系アニメでひさびさ楽曲提供)。今回のお話をいただいたときは特にライブツアー中のタイミングだったし、マネージャーも「いつも通りお断りしておきましょうか」みたいなテンションだったんですね。ただ、原作を読んだら、僕に依頼が来たことにすごく納得がいったんですよ。誰でもいい中でイチ作家として声をかけてもらったのではなく、僕がぴったりだと思って声をかけてくれていることが伝わってきたので、すごく心が揺れ動いて。さらにダメ押しとして、原作がとにかく面白かった。だから、今となっては、最初断ろうとしていてすみませんでした!という気持ちです。

下野 こちらこそ、「えぶホス」のキャストを代表して言わせてください。ありがとうございます!

鬼龍院 いえいえ、とんでもないです。ゴールデンボンバーというバンドをやりつつも、僕はシンガーソングライター気質なので、基本的に曲を書くんだったら自分に書きたいんですよね。その中でも、これは自分が書くべきだなと思わせてくれた作品でした。

下野 歌詞ひとつとっても作品愛にあふれていますし、掛け声とかでホストの世界の空気をイメージできる。本当に「えぶりでいホスト」のために作られた曲なんだということが、聴いたら一発でわかります。最初に聴いたときは感動しました。

下野紘

下野紘

下野も鬼龍院もホスト歴20年のコーイチに親近感

──30秒という尺のほかに、何かリクエストはあったんですか?

鬼龍院 なるべくホスト用語を入れてほしいという要望と、「言葉遊びを入れてください」と言われました。それで僕、逆に聞いちゃったんですよ。「言葉遊びってなんですか?」って(笑)。よく聞く言葉ですけど、言葉遊びを意識して曲を作ったことがなかったので、まずはホスト用語をたくさん書き出して眺めながら、どうやって並べたら面白いかな?とずっと考えてました。がんばった分この曲の歌詞は気に入っていますね。「姫 悲鳴 締め日」とかうまく並べられて「あっ、言葉遊びできたかな」って。

下野 テンポが速い短い尺の中で、あれだけ言葉遊びがしっかりできていて。しかもリズミカルに聞こえるのはすごいですよ。

鬼龍院 大変ではありましたが、いいものができてよかったです。

鬼龍院翔

鬼龍院翔

──冒頭の「えぶりえぶりでい」と連呼する部分は、最初からイメージしていたんですか?

鬼龍院 原作に魅力的なキャラがわんさか出てくるというところから、連呼するイメージが湧いたんじゃないかなと思います。

下野 なるほど。あの部分、歌うのが本当に大変で、最初は全然言えませんでした。何回録り直したかわからない。

鬼龍院 ははは! 無茶な言葉のハメ方をしましたけど、その無茶加減も作品の雰囲気にあるじゃないですか。キャラクターみんな弾けた人が多いので、落ち着いた曲ではダメだなと思って、極度に弾けた感じにしました。デモの段階で思いっきり濃い目に仕上げて、「薄めたければ薄めてください」みたいな気持ちで出したのがそのまま通ったという感じですね。

下野 歌うのは大変でしたけど、やっぱり歌っているとテンションが上がるんです。だんだんノッてくる感覚があって、だからこそもっとよくできないかなと思って、自分から「もう1回歌わせてください」と言ったり。結果的にいい汗をかけて、歌い終わったあとにシャンパンを飲みたくなりました(笑)。

左から下野紘、鬼龍院翔。

左から下野紘、鬼龍院翔。

──(笑)。30秒バージョンのインパクトも強いですが、フルで聴くと、ピアノが目立つ歌謡曲風のパートがあったり、ラップがあったり、意外な展開に驚かされました。

鬼龍院 30秒バージョンのあとにフルサイズバージョンが公開されるということで、30秒バージョンを聴いた時点ではフルを想像できないような展開にしました。それを面白いと受け取るのか、イメージと違うと受け取るのかはお任せします。

下野 僕としては、「♪この街に憧れ抱いて~」のあたりが好きで。雰囲気が後半から急にガラッと変わるのが面白いんですよね。ちょっとアンニュイな、蛇のような艶かしい感じで歌ってみました。

鬼龍院 まさにそういうイメージで作った部分です。原作を読み進めていくとキャラが苦労している部分が出てきたりするので、ただにぎやかで元気なだけでは「えぶりでいホスト」のすべてを表現できていないなと。少しダーク寄りの部分があるほうがいいと思ったんです。

下野 アニメもそうですからね。みんなでわちゃわちゃしているシーンも多いけど、いきなりシリアスなムードが挟まれたり。コーイチも一見するとかわいいですが、20年以上ホストを続けているということはたぶん40代ですし、味覚障害が起きるくらい苦労もしてる。

左から下野紘、鬼龍院翔。

左から下野紘、鬼龍院翔。

鬼龍院 ちゃんとホストとしてダメージを受けているという。僕自身、ちょっとコーイチに共感しちゃったんですよね。バンドが去年20周年を迎えた中、ずーっと髪色が明るいですし、テンション的にも明るくい続けることに対しての気持ちがわかるというか。特にホストの場合、年齢について影で言われたりするのかもしれないと思うと、なんだか応援したくなって。

下野 僕もコーイチには勝手に親近感がものすごく湧きます。同じ世界で20年以上やっているところとか、弟系ホストと呼ばれて、お客さんにかわいがってもらうタイプだったりするところに。

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あきらめも必要