7月18日より全国の劇場で公開中の映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」。この主題歌の1つであるLiSAによる新曲「残酷な夜に輝け」が7月23日にCDリリースされた。
これまでも「鬼滅の刃」シリーズの音楽を手がけてきた梶浦由記が書き下ろした「残酷な夜に輝け」は、映画に登場する無限城を音で表現したかのような聴き手を翻弄する複雑な展開、さまざまな感情を呼び起こす深淵な歌詞が特徴だ。「テレビアニメ『鬼滅の刃』竈門炭治郎 立志編」のオープニングテーマ「紅蓮華」を皮切りに、“歌”という形で「鬼滅の刃」とこれまで5曲、並走してきたLiSAはこの曲とどのように向き合ったのか。登場キャラクターたちへの思いを交えながら明かしてもらった。
取材・文 / 岸野恵加撮影 / 映美
炭治郎たちと一緒に
──LiSAさんが「鬼滅の刃」シリーズの主題歌を担当するのは、2021年放送の「テレビアニメ『鬼滅の刃』無限列車編」のオープニングテーマ「明け星」とエンディングテーマ「白銀」以来、約4年ぶりとなります。今回オファーを受けたときは率直にどう感じましたか?
「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」では、煉獄さんと猗窩座が激闘を繰り広げて、煉獄さんは命を落とすことになりますよね。私はそのときの気持ちをずっと引きずっていたので、この「第一章 猗窩座再来」に呼んでいただけることがすごくうれしかったです。
──4年ぶりというのは、LiSAさんとしてはかなりひさびさの感覚でしょうか? それとも煉獄さんと猗窩座の戦いを、ついこの間のように感じますか?
とても時間が経っている感覚がある一方で、「4年しか経っていないんだ」とも感じたり。もちろんその間に放送されたアニメのエピソードも、視聴者の1人としてずっと楽しませていただいて。「鬼滅の刃」という作品は、鬼にも感情移入してしまうほど全員が主人公のような作品なので、登場人物全員の気持ちに没入していました。
無限城を表現する複雑な展開
──主題歌「残酷な夜に輝け」では、「明け星」「白銀」と同じく梶浦由記さんが作詞・作曲・編曲を手がけています。LiSAさんのもとには、楽曲が完成した状態で届いたのでしょうか?
はい、最初に梶浦さんから楽曲をいただきました。最初の段階ではけっこうダークな楽曲だったので、梶浦さんのスタジオにお邪魔して、自分がこの作品にどう挑みたいかをお話しさせていただきました。「無限城編」はもちろんダークなストーリーではあるけど、作品サイドのスタッフさんが「悲しい気持ちだけではない楽曲にしたい」とおっしゃっていたんですね。私の役割って、きっとそこなんじゃないかなって。梶浦さんは悲壮感を楽曲でまっすぐに表現されるので、梶浦さんが影だとしたら、私は光を表現する存在として呼んでもらったのではないかなと。梶浦さんに私ならではのニュアンスでご相談したあとに、サビをまるごと書き換えたものが改めて届きました。
──もともとはまったく違うサビだったんですね。原作で壮絶な戦いが繰り広げられるので、かなり重たい楽曲をイメージしていたのですが、「残酷な夜に輝け」を一聴して、確かに希望が湧いてくるような楽曲だと感じました。
そうですよね。映画を拝見したら「悲しい気持ちだけではない楽曲にしたい」とおっしゃっていたスタッフさんの気持ちがすごくよく理解できたんです。第一章ではそれぞれの戦いが描かれるのですが、そのすべてが本当に過酷だし、つらい内容で。でも「残酷な夜に輝け」が、必死に戦う彼らの姿に重なる楽曲になっているので、世界観を壊さずにこの楽曲を作られた梶浦さんは本当にすごいなって。本編は梶浦さんと一緒に拝見したんですが、観終わったあとにすぐ「梶浦さん、すごいです!」とお伝えしました。
──映画で聴けるのが楽しみです。「残酷な夜に輝け」は組曲のような複雑な曲構成が印象的ですが、楽曲もかなりのボリュームですね。
さまざまな形に変化する無限城を表現するため、展開が多い曲になっています。梶浦さんらしい楽曲だと思いました。これだけ1曲の中でいろんな表情を見せられることも、各場面に合わせた要素をきれいに1曲にまとめられることも、本当にすごいなって。さらに梶浦さんは「LiSAの楽曲として残っていくものだから、ポップソングとしてもいい曲にしたい」と思ってくださっていたみたいで。作品に寄り添うプライドと、作家としてのプライド、その両方を凝縮した楽曲になっていると思います。
──レコーディングは細かく区切って歌ったんでしょうか?
はい。ブロックごとに録りました。
──LiSAさんの力強い歌声は健在ですが、「残酷な夜に輝け」では、歌い方や声色に優しさを強く感じたんです。声の表情で意識したことはありますか?
「鬼滅の刃」は鬼殺隊にも鬼にも全員に物語があって、みんな傷を背負って戦っているんですよね。「全員をしっかり讃えられるようなサビにしたい」と梶浦さんに相談しました。そういう気持ちで歌っていたので、みんなを抱き締めるような歌い方になったんだと思います。
──とても納得感があります。特にこだわったパートはどこでしょうか?
1サビのあとの「白く凍えた想いも痛みも ずっと側に」の部分です。今にも消え入りそうな声から、オペラのような「匂い立つ闇から生まれた」に展開していく流れが好きですね。序盤ではABサビと、ポップスとして成り立つように梶浦さんがベーシックな流れを意識してくれていますが、そこから急に場面が変わっていく。それでもすべてが1つの楽曲として成り立っていて、本当にすごいと思います。
──歌詞を最初に受け取った際はどう感じましたか?
梶浦さんらしい楽曲なんですけど、歌う私自身のことをすごく意識してくださっていて、言葉遣いも私に合わせてくれていると感じました。例えば「一人じゃないと叫びながら」のあたりは特にそうですね。梶浦さんの楽曲ではもっと複雑な言葉使いが多いと思いますが、私の曲ではストレートな言葉で歌わせてくださっていると思います。
──歌詞に何度も出てくる「行け」という言葉がすごく印象的だったのですが、LiSAさんとしては誰から誰に「行け」と言うイメージで歌っていますか?
私自身がライブなどで歌うときは、自分を鼓舞するように歌うと思います。物語をイメージして歌うときは、炭治郎や鬼殺隊のみんなに向けて歌う。俯瞰した視点で、天からの目線で歌うような感覚ですかね。
──なるほど。ライブではどのように披露されるのかも楽しみです。
そのままのアレンジで披露するのは難しいかもしれないですが、どこかでオーケストラやコーラス隊と一緒に披露したいですね。
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梶浦由記は悲しみを、LiSAは希望を