ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.9(後編) [バックナンバー]
コロナ禍の停滞を経て:Authority&怨念JAP
ニュースターを生み出す環境を
2024年8月15日 19:00 13
ラッパーの
後編では、コロナ禍の2021年2月にバトルイベントとして初のアリーナ興行に挑んだ怨念JAP、2022年に日本武道館で開催された「BATTLE SUMMIT」で優勝し、賞金1000万円を獲得したAuthorityが、それぞれ当時の思いを回想。さらに、今後のバトルシーンや世代交代について、KEN THE 390と語り合う。
取材・
「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)のDVDにアンサーする練習
──Authorityさんは前編でのお話にあった「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)や「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」(「高ラ」)などを経て、さまざまなバトルに出るようになります。
Authority 最初は「地元以外のバトルに出られて楽しい」みたいな、ちょっとした旅行感覚でしたね。YouTubeでもバトルが流れるようになったんで、地元を離れても、地元の仲間がめちゃくちゃ応援してくれるし、いい成績を取れば喜んでくれて。でも反面、負けて帰るとすげえ惨めな気持ちになりましたね。
KEN THE 390 回を重ねることでバトルの手応えは変わった?
Authority 手応えというよりは、「今回はここがダメだった」「次はこうすればいいかな」といった、課題を見つける感じでしたね。バトルや対戦相手に対しても、感情移入するというより、「こういうスタイルでいこう」と冷静に考えられるようになって。
怨念JAP バトルに向けて準備ってする?
Authority マインドセットはやってました。そのときにブチ上がる、バイブスの上がる曲を聴いて、「よし! やってやるぞ!」と気合いを入れたり。相手が名のあるラッパーとか、キャリアのある人の場合は、「こう来るかな」「こういうスタイルだな」というのは一応頭に入れてはいました。でも、そこで具体的に「何を言うか」を考えると、それが滑ったときに取り返しがつかないから、それよりも「どうやったら相手より会場を沸かすか」というイメージを高めてましたね。
KEN 勝ったときの情景を想像しておくというか。
Authority そうですね。“思い込みの力”を高めてたと思います。
──サイファー以外に練習はしていましたか?
Authority 例えばUMBのDVDを流しながら、そこでのラップに対してアンサーする方法はかなり考えてましたね。
──再生して、ラップを聴いて、停止して、ラップで返して、また再生する、という流れですか?
Authority まさにそうです。やっぱり地元だけで戦っていると相手は限られてくるし、言うことも似通っちゃうんで、それを解消するためにも、その方法は青森に住んでるときからやってました。
怨念JAP 一流の試合にアンサーし続けるわけだから、それはかなり効果的な練習かも。
KEN 実践的な練習だね。強豪相手にスパーリングし放題だもん(笑)。
Authority 単純に楽しかったですよ。「このアンサーだったら俺が完全に勝ってたな~」って(笑)。でも、最近はそういう動画があるんですよね?
──「誰々対策動画」みたいなのがありますね。
Authority それこそ「BATTLE SUMMIT」に出る前に、「ヤベえ、練習のためにどっかサイファーに行こう」と思って、とあるサイファーに参加したら初対面のラッパーから「YouTubeで何度も対戦してます」って言われて(笑)。
怨念JAP その感覚、新しすぎるね(笑)。
Authority 「俺の傾向と対策が練られてるし、なんなら俺はすでにいろんなやつと対戦させられてたんだ」と(笑)。それは置いといて、音源制作をまだやってなかった時期は、意識をMCバトルに振り切って、とにかくバトルに強くなろうとしてましたね。
これは絶対すごいことになる
──UMB青森予選で2016年から2019年まで4連覇されましたが、その後半はもう東京に本拠地を移していましたか?
Authority そうですね。だからその関係でいろんなことも言われましたよ。1回戦で「地元で見ねえ」って言われて、2回戦で「地元でライブしねえ」とか。こっちとしては「またそれか。当たり前じゃねえか。俺は東京に住んでるし、東京でライブやってるから、それを観に来い!」という感じでしたけど、地元の現場にいないしライブもしない、UMBだけ地元のバトルに参加して、しかも強かったら嫌われるし、一部の人間からしたらヒール的な感じですよね。
──特に“地方”がテーマとして大きくなるUMB予選ではそうなりますね。
Authority 自分としては地元を背負ってるとは思いつつ、そういう地元との関係性で、バトルの内容は口喧嘩になることが多かったし、関係性が濃くなると余計にそうなりがちで。でも東京だとまったく知らない人がいて、いろんなバトルスタイルがあったので楽しかったんですよね。あと、DVDで戦ってた人と実際にステージに一緒に立てるのもいい経験になって。
──練習ではボコボコにしてたのに……。
Authority 「実際に戦うとやっぱ違うわ!」みたいな(笑)。そこで地肩の強さも感じるっすよね。やっぱり現場叩き上げの人の対応力や場のつかみ方、空気の持っていき方は、本当に勉強になることが多かった。
──怨念さんにはAuthorityさんのバトルはどう見えていました?
怨念JAP すごいやつが出てきたと思いましたね。特に準決勝まで進んだ2018年のUMB本戦は一気にギアが変わった感じがした。
Authority ダイエットしたんですよ。
怨念JAP そこだ(笑)。
Authority それで違う人に見えたんじゃないかな?(笑)
怨念JAP 言葉にするのは難しいんですけど、アーティストとして一気に殻が破れるとき、人気に火が点くようなバトルを見せるタイミングって、“放つもの”があると思うんです。華が咲くというか、「こいつは来る」というオーラのようなものが生まれるし、オウソの場合は2018年にそれが一気に放出された感じがあって。だからMU-TONとの決勝まで登り詰めたのは必然だったはずだし、「これは絶対すごいことになる」と感じてましたね。
バトルに特化してた時期、誰にも負ける気がしなかった
──Authorityさんは、別のインタビューで「2018年のUMBで勝てなかったら、ラップをやめようと思っていた」とお話しされていました。
Authority 腐ってましたね、シンプルに。2016年は1回戦、2017年は2回戦負けで、地元ではめっちゃ威張ってるのに、外に出たらこんなもんかと。地元ではちょっとは名前が通ってるはずなのに……という反動がさすがにきつくなってきて、「ここで勝てなきゃ、もうやめようかな」と思ってたんですよね。
KEN それが結果、2019年にUMBの本戦でも優勝して。実際、2018年から2019年にかけては無双状態だったよね。
Authority 2019年は特にそうだったと自分でも思いますね。
KEN 韻も固いし、ディベートも強い、しかも超機転の効く返しを即興でぶつける、オールラウンダーというイメージだった。
Authority とにかくバトルに特化してた時期ですね。バトルに集中して、ほかのことは一旦置いといて、勝てるときに思いっ切り勝ちまくっておこうと。考えるのはそれだけ。完全に誰にも負ける気がしなかったし、同時に「ほかのことに意識がちょっとでも向いたら、このモードは崩れる」とも感じたから、余計にバトルに集中してて。
KEN 明らかにノリまくってるやつと当たると「これはヤバいかもな」って、空気に気圧されるし、逆にノッてるほうは「これはいける」と自分を信じられるよね。
──オーガナイザーとしてはAuthorityさんの快進撃をどう見ていましたか?
怨念JAP バトルに出なくならないでほしいという一念ですね(笑)。“名前を売る”ということに関しても、もう2019年で広げ切ったから、そのモチベーションでは難しいだろうなって。
KEN 確かに。
怨念JAP ラッパーにとって、MCバトルの最大の利用方法は名前を売ることだと思うんですよ。バトルに勝つことで、多くの人に、より早く認知してもらえるけど、達成するとその目的は消滅してしまう。それに、名前が大きくなると、バトルでの行動や発言がキャリアにとってデメリットになる可能性も高くなるんですよね。
──特に、今のようにアーカイブとして残る、観客が動画をアップできる環境にあると、デジタルタトゥーとして残りやすくなってしまいますね。
怨念JAP 露出の範囲をコントロールできなくなる。そういう問題や、ギャラなんかも含めて、ラッパーにとってバトルに出るメリットとデメリットのバランスは時期ごとに変わるんですよね。だからオファーするにしても、年に4回出てもらってたのを年1とか、大規模な大会にだけ出てもらうとか、そういう調整も考えたり。もちろん、本心としてはオウソには毎回出てほしいと思ってますけど(笑)。
KEN やっぱりスタープレイヤーには出てもらいたいもんね。
怨念JAP でも相手の考えが第一なので、それを尊重しようと。
“新世代を始めるぞ
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