Little Black Dressのメジャー1stアルバム「AVANTGARDE」が、7月23日にキングレコードからリリースされた。
2019年にデビューした遼のソロプロジェクトLittle Black Dressにとって初のフィジカルリリースとなる「AVANTGARDE」は、全楽曲の作詞作曲を本人が手がけた意欲作。キングレコードへの移籍第1弾シングル「チクショー飛行 / 猫じゃらし」やドラマ「マイ・ワンナイト・ルール」の主題歌「PLAY GIRL」といった既発曲、社会で闘う人々への応援歌として制作されたリード曲「アヴァンギャルド」などの新曲、活動初期からライブで披露され音源化が望まれていた「十人十色」の計7曲で構成されている。
音楽ナタリーでは本作の魅力を掘り下げるべく、Little Black Dressに全曲解説という形で、各楽曲に込めたこだわりや、新たにトライしたことについて語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦撮影 / YOSHIHITO KOBA
「アヴァンギャルド」は闘うすべての人に捧げる応援歌
──Little Black Dress待望のメジャー1stアルバム「AVANTGARDE」が完成しました。遼さんは本作すべての作詞作曲を手がけていて、「アヴァンギャルド」「チクショー飛行」の2曲では編曲にも挑戦されています。音楽ナタリー読者の中にはメジャー1stアルバム完成までの長い道のりをご存知の方も多いと思いますので、まずは第一声として喜びの声をお聞かせください。
メジャー1stアルバムという言葉の重み、深み、ありがたみを感じています。これに勝る特別感はなかなかないと思うので、「いいスタートになったらいいな」というのが今の気持ちですね。けっこうなボリュームを感じるぐらい1曲1曲が濃厚な仕上がりになっていますが、収録時間は30分くらいなので、まずは興味本位でピッ!と聴いていただきたいです(笑)。
──このアルバムを聴けば、遼さんが標榜する“ロック歌謡”とはどういうものかが伝わると思います。制作はどのような流れで進んでいったんでしょう?
キングレコードに移籍して「チクショー飛行 / 猫じゃらし」「PLAY GIRL」と続けて作品をリリースする中で、ある程度アルバムの方向性が見えてきました。インディーズの頃から「次はどんな作品を出してくるんだろう?」と毎回期待してくれているファンの方が持っているであろう、「シティポップを追求したアルバム『SYNCHRONICITY POP』を経て進化したLittle Black Dress」のイメージを裏切りたいという気持ちもありましたね。それで1曲目の「アヴァンギャルド」という曲を書いたんです。
──「アヴァンギャルド」はどのように作られたのですか?
「アヴァンギャルド」は楽曲制作のヒントをもらおうと、いろんな芸術家の方の本を読んでいたときに出会った言葉なんです。アバンギャルドという言葉からはすごくマニアックなものを連想しがちですが、私は普遍的な日常に馴染んでいるように見えるけど実はえぐい、みたいなものこそアバンギャルドなんじゃないかと思いました。あとは「カバーしようがない」というくらいに作り込んだ曲をやってみたかったんです。これをカバーした方のそれぞれの色が思わず出てしまうといいますか。そんな不思議なパワーが宿ったものになったと思います。
──聴き込んでいくうちに、今まさに社会の最前線で闘っている人に向けた応援歌的な意味合いも感じられました。
そうですね。自分しか持っていない内に秘めた何かを外に向けて表現することをテーマにしていて、おっしゃっていただいた通り社会で闘うすべての人に向けて書きました。私自身、「SYNCHRONICITY POP」(2024年6月発表の配信アルバム)を作った頃、作家さんに提供していただいたメロディに歌詞を乗せるという挑戦をしていたときに、1つ壁にぶつかった感覚があったんですね。芸術って良し悪しの評価も全部好みで構成されるものだから、正解もなければゴールもない。期限がなければいつまでも作り続けられてしまう。そういうときにいろんな方からヒントを得て、未完成であることの美学を学ぶ中で、結局は自分がこれだと決めたものが正解だってことに気付いて、自分との戦いの境地から抜け出せたんです。「何者かになりたい」ともがいているときは何者にもなれないもので、その呪いが解けたときに蝶みたいに自由に飛んでいける。そこで得た気付きを、いろんな場所で闘ってる人に届けたかったんです。
──そういうことだったんですね。
例えば、みんな自分で撮った動画をSNSに上げたりするじゃないですか。それも一種の表現の世界なのに、誹謗中傷に悩まされたり、いろんなコメントで良し悪しをジャッジされたりする。好みの世界なのに、正解があるように錯覚して、自分を見失いがちな世の中になってきちゃったなと感じているんです。世の中は「個性や多様性を認め合おう」という風潮になっているはずなのに、実際はその真逆で、みんな相手を型にはめたがっているように見えてしまう。私と同じように、正解がないことに対して悩んで闘っている人たちは、どの分野にもいると思うんです。
リラックスした雰囲気を表現するために
──「アヴァンギャルド」の共同編曲にクレジットされているのは、女王蜂などの楽曲を数多く手がけられている塚田耕司さんです。
最初にSEやボーカルエフェクトなど全部入れて作り込んだ状態のデモをお渡ししたら、塚田さんに「えっ、これ本当に遼ちゃん1人で作ったの?」とびっくりされました。「遼ちゃんが作ってくれた土台を崩さないようにがんばるね」と言ってくださって、第1稿からめちゃくちゃカッコよかったです。
──SNSに椅子に座ったまま歌うレコーディング風景の動画をアップされていましたが、どういった経緯で座ったまま歌うことになったんですか?
私が自宅で録ったデモを塚田さんにお渡ししたら、「感情がこもりすぎてない、リラックスした感じの歌声がすごくいいね」とおっしゃってくださって。それで本当に家でくつろいでいるリラックスした状況を再現しようと思って、椅子に座って歌ってみたんです。立ってる状態と座った状態を比べてみると、グルーヴの出方や歌声のニュアンスがだいぶ変わるんですよ。「アヴァンギャルド」も立って録ってみたけど、少し声が強すぎたりして。間奏の「HAAA~AHHH~」のところは、音響環境を整えてない自宅のリビングの真ん中で歌ったものを採用していただきました。
リスナーの日常に寄り添っていたい
──続いて「PLAY GIRL」は、足立梨花さんの主演ドラマ「マイ・ワンナイト・ルール」の主題歌です。「愛された分だけ さびしい夜をこえて 女は強くなれるの」という歌詞に、80年代歌謡曲の王道を感じました。
ただ女性の強さを歌った楽曲ではなく、例えば10年後に「あ、こういう時代だったな」とか「世間はこういう動きをしていたな」と思えるような曲にしたくて。こうしてアルバムに入ることで、楽曲に込めた時代性のようなものを未来に振り返ることができたらと考えました。サウンド面でいうと、アン・ルイスさんのように颯爽と肩で風を切りながら街を歩く女性像を表現したくて笹路正徳さんにお願いしました。笹路さんが緻密さや繊細さの中に哀愁の要素もちゃんと入れてくださって、そのクオリティに感動しました。聴くたびに楽曲のストーリーが浮かぶアレンジになった思います。
──こういう女性の強い気持ちを歌った楽曲は、聴いていてスカッとしますよね。
そうですね。街中で歩きながら音楽を聴いていると、自分の歩くペースと曲のテンポが合ったタイミングで「いいな」と思うことあるじゃないですか。「PLAY GIRL」のテンポも街の景色を見ながら聴くのにぴったりだから、たちまち自分の人生のBGMになると思うんです。なので皆さんにとってもそういう曲になってほしいです。私の音楽は聴いてくださる方の日常にいつも寄り添っていたいという思いで作っています。
頭を空っぽにして聴けるような曲を
──3曲目の「Lonely Shot」はギターリフやベースラインなど、バンドアンサンブルの勢いが感じられるロックナンバーです。
シンプルなロックが作りたかったんです。「チクショー飛行」で初めてアレンジに挑戦したんですけど、たくさんの音が鳴っている曲は「アヴァンギャルド」と「チクショー飛行」で満足したので、頭を空っぽにしてライブで聴けるようなものも1、2曲欲しいなと思って。デモ作りの段階から曽我淳一さんの力をお借りしつつ、ギタリストの方と一緒にスタジオに入ってイチからリフを考えました。実はこの曲、ドラムのパターンから作っているんです。昭和歌謡って当時海外で聴かれていた音楽を輸入してポップスに昇華してるじゃないですか。だから私も「Lonely Shot」を作っていた頃に聴いていたブリティッシュロックのドラムパターンと音作りを念頭に置きながら、レコーディング現場ではドラムの青山英樹さんとエンジニアの中山佳敬さんにサウンド作りを突き詰めてもらって、カラッとした音作りと楽器同士のグルーヴを重視した曲を目指しました。
──レコーディングはいかがでしたか?
「せーの!」でボーカルも一緒に録らせていただいたので、まさにライブの雰囲気が出ていると思います。最初のBPMよりもっとグルーヴが出るようにテンポを少し上げてもらって、よりバンドの皆さんがノリノリで「楽しい!」と思って演奏してもらえるものになったんじゃないかなと。
──途中の「独りになりたい それでも会いたい」の部分は符割りがユニークですね。
4分の5拍子を入れて、“酔っ払って平行感覚がない”みたいな(笑)。今自分がどこにいるのかわからない感覚を表現してみました。
──遼さんは「Lonely Shot」の歌詞のようにテキーラをショットで飲み干すこともあるんですか?
若気の至りでやったことあるけど今は無理ですね。そういうタイミングがあったとしても、今ならこそっと中身をお茶に変えちゃうと思います(笑)。
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誰かにとって特別な1曲を作りたい