2025年3月、かねてより目標の1つに掲げていた東京・日本武道館のステージでデビュー5周年ライブを行ったDUSTCELL。ますます勢いづく2人から、新曲「灯火」が届けられた。
夢の舞台を経験したDUSTCELLが、テレビアニメ「ガチアクタ」のエンディング主題歌である「灯火」を通して伝えたいメッセージとは? 音楽ナタリーではEMAとMisumiにインタビュー。集大成的なステージを展開した武道館公演をメインに2025年上半期を振り返ってもらいつつ、新曲「灯火」に込めた思いを聞いた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 日吉“JP”純平、森好弘
「決して終着点ではない」初の武道館公演を振り返る
──このインタビューではDUSTCELLの2025年上半期を振り返りつつ、新曲「灯火」についても伺えればと思います。今年上半期の大きなトピックは、やはり3月に開催された日本武道館公演「ONE」ですよね(参照:DUSTCELL初の武道館公演で作り上げた“巨大な怪物”「心臓は響くし、物語は続く」)。
EMA 武道館は、まず何よりセトリの曲数がヤバすぎて(笑)。31曲も歌ったのは、自分でもいまだに信じられないですね。体力的につらかった部分もあったし、最後のほうはぐちゃぐちゃになりながらも、それでもなんとかアドレナリンが出て歌い切った感じがします。間違いなく、死ぬ前の走馬灯に出てくる1日になったんじゃないかなと思う。燃え尽き症候群になっちゃうかなと思ったんですけど、武道館を経て、もっと大きいステージでたくさんの人と一緒に楽しみたいなっていう新しい目標が生まれました。今は、それに向かってがんばっている最中ですね。
Misumi 僕は高校時代に軽音部でバンドを組んでドラムを始めたところから音楽活動がスタートしていて、そのときから武道館でライブをやるのは夢だったので「継続していれば願いは叶うんだ」と身に染みてわかりました。ドラムはバンドをやめてから離れていたんですけど、武道館で電子ドラムを叩かせてもらって。それも楽しかったし、挑戦してよかったなと思います。自分の人生の中で、本当に大きな出来事でした。ただ、ずっと武道館が目標ではあったものの、僕もこれが決して終着点ではないと思っていて。ここから先の景色を見たい。そういう思いで今改めて音楽と向き合っています。
──ステージ上の雰囲気もそうですし、武道館公演の映像作品に付属するドキュメンタリーを観て思ったんですけど、サポートバンドの方々との空気感がとてもいいですよね。武道館を終えてから、バンドメンバーの方々と何かお話はされましたか?
Misumi ライブのあとは「最高だったね」と言い合いました。僕らのバンドメンバーって、ただのサポートバンドメンバーという感じではなく、本当に家族のような存在なんです。みんなでディズニーランドに行ったし(笑)、この夏も「みんなでどっか行こう」と話していて。本当にかけがえのない存在です。
──夏も皆さんで旅行に行かれるんですね。
Misumi そうなんですよ(笑)。みんなでEMAの実家に行こうって話をしていて。
──いいですね。EMAさんは、バンドメンバーの方々との関係性は今、どんなものになっていると感じますか?
EMA バンドメンバーのみんなにはすごく感謝していて。話がちょっと脱線してしまうんですけど、今でも忘れられない1日があるんです。武道館公演を発表したのが2024年10月に行った「光」ツアーのファイナル、Zepp Haneda公演だったんですけど、その「光」ツアーの名古屋公演で、ひさしぶりのライブだったのもあって、私がライブ中に全然ゾーンに入れなくて。そのときのパフォーマンスが自分で認められなくて、すごく悔しい思いをしたんです。ファイナルで武道館の発表もするのに、こんなんじゃダメじゃんって。で、キーボードの及川創介さんは年上だけど波長が合って、普段からすごく仲がいいんですけど、名古屋公演のあと、そのソウちゃんと、いつもお世話になっているヘアメイクの方に「名古屋公演つらすぎたんだけど、本当にどうしよう」とホテルの部屋に集まって相談したんです。そのときにソウちゃんが言っていたのは、「壁は自分で乗り越えるしかないんだ」ということ。「音楽をやっていて、ずっと調子がいい人や壁にぶち当たらない人は、アーティストじゃない。苦しいことを乗り越えたときにこそ、また違った景色が見れると思うよ」って。人生の先輩として、その日は2人にすごく支えられた思い出があります。で、そこからさらに深い話になって、最終的に3人とも号泣、みたいな(笑)。
──(笑)。
EMA おかげで、名古屋の次の大阪公演はすごくいいパフォーマンスができて。そんな感じで、ソウちゃんに限らずバンドのみんなは、音楽的なキャリアの先輩としても、人生の先輩としても、すごく信頼していますね。普段あまり言えない悩みもバンドのみんなには相談できる。そのくらい尊敬しているし、私も、かけがえのない仲間だと思っています。
──武道館のMCでは、お二人ともご家族のお話をされていました。武道館公演のあとでご家族と話しましたか?
EMA 私、兄弟が多いんですよ。兄2人とお姉ちゃん1人。みんなけっこう仲がよくて。兄2人はLINEで「本当によかったよ」と言ってくれましたね。お姉ちゃんとは、特に大人になってからすごく仲がよくて、2人でディズニーに行ったり、よく飲みに行ったりするんですけど、武道館のあとお姉ちゃんと飲みに行ったとき、ライブの話になって。あの日やった「PLAIN」の歌詞に、2人で一緒に暮らしていたときの描写があることにお姉ちゃんは気付いてくれていて、泣きながら「よかった」と言われました(笑)。
Misumi 僕の母親は初めてDUSTCELLのライブを観に来てくれたんですよ。武道館のゲストパスを「私が死んだときは棺桶に入れる」と言っていました(笑)。それくらい大切にしてくれているみたいです。あと、高校時代に僕を軽音部に誘ってくれた、当時僕の前の席に座っていたサイトウってやつがいるんです。ギターの。そいつも観てくれて、「本当によかったね」と言ってくれました。本当に、いろんな人に支えられてここまで来たんだって改めて実感しましたね。
大事な曲になった「心臓」、今のEMAだから歌えた「SCAPEGOAT」
──武道館公演直前の2月下旬に、「心臓」と「SCAPEGOAT」の2曲がリリースされました。武道館に向けてリリースされるにふさわしい2曲だったと思いますが、会場で観客の合唱が起こった「心臓」は、どんな思いから生まれた曲ですか?
Misumi 僕はずっと、人と深く関わらずに生きてきたタイプの人間で。そこには、傷付けることも、傷付くことも怖いという感情があったと思います。「心臓」は、「それでも深く人と関わって生きていこう」という決意の歌でもあるんです。合唱曲って、DUSTCELLとしてこれまで1回も作ったことがなかったんですけど、武道館は「ONE」というタイトルのライブだし、会場のみんなも含めてひとつになるには、やっぱり合唱がいいんじゃないかと思って、合唱パートを取り入れて作りました。あの日の会場で聴いたみんなの合唱が本当に感動的で、これからのライブでも大事な曲になると思います。
EMA 私は武道館で実際に「心臓」をやったとき、みんなの声が目の前にあるというか……自分の目の届く範囲からみんなの声が聞こえてきて、感極まりましたね。改めて、この曲の力強さやエネルギーを感じました。生きていて、心の奥底まで震えるような体験ってあまりないじゃないですか。でも、武道館で「心臓」を披露したとき、それくらい強いパワーを感じて。この曲は、武道館で終わらせてはいけないなと思いました。「これからも心臓は続く」というか。今後もきっとDUSTCELLのライブで素敵な景色を見せてくれる、大事な曲になりました。
──もう1曲の「SCAPEGOAT」は、「心臓」とは違うカラーの強さを持った楽曲だと思うんですけど、この曲はかなり前からあったらしいですね。
Misumi はい。1stアルバムの「SUMMIT」を作った頃なので、4、5年前くらいにはあった曲で、ふいにLINEでEMAが「今やろう」と言ってくれて完成しました。あのとき、EMAはなんでこの曲を掘り起こしたの?
EMA この曲がMisumiさんから出てきた当時は、難しすぎて歌えなかったんですよ。それで気付いたら4、5年寝かせちゃっていたけど、「あの曲めちゃくちゃカッコよかったよな」と、ふと思い出して。それで聴いてみたら、今の曲として十分通用するくらい、やっぱりめっちゃカッコいいし、「今の私なら歌えるかも」と思ったんです。武道館には「初期のDUSTCELLを味わいたい」と思って来てくれる人もいるはずだし、あえて今こういう曲調をやってみたら面白いんじゃないかな?と。実際に武道館でやったとき、すごくライブ化けする曲だなと思いましたね。
──歌詞も4、5年前から変わっていないんですか?
Misumi そうですね、ほとんど変わってないと思います。この頃から人間をやめたがってたなあと思いますね(笑)。そこが自分っぽいなと。初々しさもあり……。
EMA 青々しさもあり(笑)。めちゃくちゃいい曲だなと思います。
──あと、武道館では本編の最後の最後にステージのブレーカーが落ちるという事態も発生したんですよね。
Misumi そうなんですよ。リハーサルのとき、実は1回落ちまして。でも原因がわからず、そのままライブを始めるしかないって状況で。奇跡的に、アンコール前の「ONE」という曲の、本当に最後の最後でステージのブレーカーが落ちたんです。あそこ以外のタイミングで落ちたら不自然になっていたと思うし、「演出なんじゃないか?」ってくらい完璧なタイミングでした(笑)。この話をgo!go!vanillasのしんちゃん(柳沢進太郎)に話したら、彼らが武道館で初めてライブをやったときも機材トラブルがあったみたいで。武道館にはそういういたずらをする何かがいるみたいですね(笑)。
EMA 歴史ある建物ですしね(笑)。そういうことがあってもおかしくない。むしろロマンがあっていいなと思いました。
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「灯火」で歌う「正しく落ちる」ということ