芸能やクリエイションを気軽に学べる場所を作りたかった
──「B-TOWN」は、月額500円で従来型のファンクラブに近い「Resident」と、月額5000円払うオンラインサロン型の「Architect」を組み合わせた点が新しいですが、この形を取り入れようと思った理由は?
日本は新卒採用されて芸能事務所で働き始める方が多くて、芸能にまつわるメソッドとか根本の知識を22歳以降に学び始めますよね。専門的な職業でもあることを考えると、ちょっと遅いんじゃないかという疑問がある。ひと括りにするのは難しいんですが、韓国のファンダムと日本のファンダムの違いで言うと、韓国ではファンの人もクリエイションやマネジメントに対する意識が高いじゃないですか。ここ数年顕著でBTSは特に象徴的ですけど、いろいろな意味でファンのリテラシーが高くなっている状態というのは理想的だし、エンタテインメントのあるべき姿だなとも思っていて。日本でも芸能やクリエイションの根本の部分を気軽に学べる場所を作りたくて、それがサロン型を取り入れた理由の1つ。
──なるほど。
あとは会社をオープンしたもののオーディションでメンバーが決まって実際に走り出すまでは運営資金がないという経営的な理由もあります。本当にやばいと思ったので(笑)。
──それは確かに(笑)。
その点は非常に助けていただいている意識があって、なのでその分楽しんでもらえるものにしたい気持ちはすごくあります。そのうえでファン目線で何が楽しいのか、自分も学ばせてもらっている感じですね。
──「THE FIRST」でも日高さんは「一緒にやっていこう」というスタンスですが、「B-TOWN」に関しても音楽マーケティング的なことをサロンのメンバーと一緒に学ぼうという意識ですか?
そうですね。アーティストはステージ上でパフォーマンスして、ファンはそれを享受するだけという旧来の関係値は時代的に難しい。ただ旧来の時代が長すぎたから急には方向転換しづらいところもあるので、興味を持ってくれる近しいコミュニティやファンベースみたいなところから始めようと思って。ステージに立つ人間を支える人たちの意識を向上することができたら、それはエンタテインメント業界に変革を起こす最初の波になると思うし。
──そうですね。
自分がジェイ・Zの「BACK STAGE of Hard Knock Life Tour」(※ロッカフェラ・レコード主催の大規模ライブツアーに密着したドキュメンタリー)が大好きだというのもあって、アーティストのステージの裏側を見せることでサロンのメンバーの方にも喜んでもらえてるんじゃないかと思っています。
──ツアーはもちろんまだ行われていませんが、裏側を見せるという意味では「THE FIRST」もまさに同じですね。
それは本当に意識しているし、書類選考の段階で素敵なグループができるという確信はあったので、ただ才能のある子が輝いてがんばっているところを見せるだけというより、過程をしっかり見せたい気持ちがあって。今まだオーディションは継続中ですけど、心身ともにワールドスターになる状態へとちゃんと育成したい気持ちと、そのプロセスを見せたい気持ちがすごくあるので、自分が見ていても本当に面白いですね。彼らはどんどん変わっていくので。
──ドキュメンタリー番組だと人間性が生々しく映し出されてしまうからこそ、メンバーに対する誹謗中傷につながる危険性もあると思うのですが、そこを映す映さないの線引きはどう考えていますか?
本当に台本なしでやっているので、映せないものは映せないで当然いいんだけど、意識的に映さないのはちょっと違うなという気持ちはすごくあります。例えばぶつかり合いがあったときって、どちらか一方、もしくは両方が悪く見えやすくて自分も懸念はしてるけど、かと言って完全に映さないということはしないようにしています。自分が編集に参加しているHuluやYouTubeでの番組本編は本当に気を付けているけど、それ以上に拡がっていくときに望んでいない方向に注目が集まりやすいポイントでもあると思うので、懸念がある放送の前後には参加者の方とBMSGで直接やりとりをしています。
自分自身の心情がリンクして生まれた「To The First」
──「THE FIRST」のテーマソング「To The First」についても聞かせてください。「怖くても進め」という歌詞が、オーディション参加メンバーや日高さんご自身の心情とリンクしているようですごく印象的でした。
自分自身、人生懸けた勝負になるというのは感じていたけど、2mくらいの断崖絶壁をジャンプするような感じではあって。2mって普通だったら飛べるけど、踏み切るまでが怖いみたいな(笑)。このタイミングで「THE FIRST」のオーディション受けてくれた子たちも何かしらの傷や過去を抱えている子が本当に多いので、未来に対してのリベンジという気持ちを入れたかったし、「怖くても進むんだ」っていうのは本当に思いましたね。それをそのまま曲にしたかったので、オーディションで彼らが語る話や自分自身の心情がリンクして生まれた楽曲なのは間違いないです。
──日高さん自身も曲に勇気付けられている感じでしょうか?
まさしくそういう感じです。奮い立たせてもらいましたし、いまだに恐怖を感じるときは曲に励まされてるし。それだけではなくて実際に彼らが少しずつ壁を乗り越えるところもリアルタイムでずっと見ているので、彼らに力をもらっているし、がんばってほしいとも思っている感じですね。
──この曲を使って日高さんがフリースタイルで踊る動画が公開されていて、ダンスのレベルの高さに驚いたのですが、このダンスビデオに込めた思いも聞かせていただけますか?
あのダンスは本当にエモーションだけでやっているので(笑)。本当に感情をそのまま出すつもりで作ったんですけど、あれでまだ終わりじゃないです。まだ続きがあるので楽しみにしていてください。
ファンと1対1の関係をフォローしていく
──テックカルチャーについての話も伺いたいのですが、ジェイ・Zやナズなどアメリカのラッパーがテック系のベンチャー企業に投資するなど、アーティストとビジネスシーンが密接だと思う一方で、日本ではあまりそういう話を聞きません。日高さんの問題意識の中で、アーティストがテックカルチャーとの取り組みをもっとやっていかないといけないと考えることはありますか?
やったら面白そうということは山内奏人くん(WED代表取締役 / 17歳だった2018年、レシート買取アプリ「ONE」をリリースして話題となる)と日常会話レベルで話をしているという段階ですね。テックカルチャー自体には興味あるし夢もあると思うのですごくリスペクトしてる一方で、スタートアップ界隈に関してはエンタテインメントとの組み合わせが悪い部分が多くて。誰が悪いとかではなくて、エンタテインメントが大事にすべきことやマナーとスタートアップにおける価値観とは、少し考え方が違うなと思うことが多いんですよね。山内くんのように芸術やポップアートに本当の意味での興味や理解がある人はなかなかいないので、大事にしたい関係ですね。自分でもやっぱり慎重になる部分は本当に多いので、日本のアーティストがそういうところと親和性を持ちづらいのはすごくわかります。
──最後に、これからのアーティストとファンについて、日高さんの思う理想の関係性についてお聞かせいただければと思います。
まず意識しなきゃいけないのはアーティストやアイドルが人間のままいられるという状況。同時にファンの方っていうのもひと括りにせずに、1人ひとり別の人間であるということを忘れてはいけないと思ってます。「ファンはこういうもの」という考え方を持たずに、1万人と接するというよりは1対1の関係を1万個作る考え方が我々には必要ですね。ステージ上でパフォーマンスすると目を見られるのでわりと簡単に意識できるんですけど、インターネット上だとそれができないので。ネット上の関わり合いは今後どんどん増えていくと思うから、その状態でちゃんと1対1を何かしらの形でフォローしていかなければいけない。なかなかハードルの高いことですが大事なことなので、それができる形のコミュニケーションを僕もずっと探している最中ですね。
SKY-HIプロフィール
ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなど幅広く活動を行うアーティスト。2005年に
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