DREAMS COME TRUEのCD ファースト チャレンジ!|中村正人×映秀。×野村ケンジ(オーディオビジュアル評論家)が紐解く「THE BLACK ◯ ALBUM」をCDでリリースする理由

DREAMS COME TRUEが前作から約9年ぶりとなるオリジナルニューアルバム「THE BLACK ◯ ALBUM」(ザ ブラック アルバム)を3月18日にリリースする。

ドリカムは「CD ファースト チャレンジ!」と題し、今作をまずはCDのみでリリースすると宣言。「“CDアルバム”というカタチで伝えたい」という思いを込め、オープニング、エンディング、曲順、曲間、そのつながりに至るまでこだわった“ひとつなぎの音楽作品”を制作した。

サブスク配信でのリスニングが主流となりつつある今、ドリカムはなぜ、あえてCDのみの流通を選んだのか。CDに向けられた熱い期待を紐解くべく、音楽ナタリーでは中村正人に加え、CDになじみが薄い世代代表アーティストとしてシンガーソングライターの映秀。と、CDに造詣が深いオーディオビジュアル評論家の野村ケンジを招いて座談会をセッティング。野村が持参したプレーヤーとヘッドフォンで「THE BLACK ◯ ALBUM」を試聴しながら、再ブームの兆しを見せるCDの魅力について、そして“アルバム”の意義について語り合ってもらった。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / YOSHIHITO KOBA

ドリカムのニューアルバムは「ひとつなぎの大秘宝」

──DREAMS COME TRUEにとって9年ぶりのオリジナルニューアルバム「THE BLACK ◯ ALBUM」が完成しました。「CD ファースト チャレンジ!」と題して、まずはCDのみでリリースされますが、そうしようと思われた背景からお聞かせください。

中村正人(DREAMS COME TRUE) Mrs. GREEN APPLEの大森(元貴)くんもベストアルバム発売時に「CD聴こうよ。」キャンペーンをされていましたが、僕らの「CD ファースト チャレンジ!」も決して「昔に戻りたい」という考え方ではなくて。実は僕らは1989年、当時所属していたレコード会社初のCDだけでデビューしたアーティストなんです。僕や吉田美和が憧れた1960年代、70年代のアーティストの音楽は、マーヴィン・ゲイの「What's Going On」のようにアルバムで聴かないと本当の意味がわからない作品がいっぱいあったわけ。いわゆるロックの名盤と呼ばれるアルバムはアナログのA面とB面でひとつの物語を醸し出していたから、A面の終わりにすぐB面にしたくなるような曲を入れたり。アルバム単位で楽しむことは音楽の醍醐味のひとつだった。

中村正人(DREAMS COME TRUE)

中村正人(DREAMS COME TRUE)

──先人たちへリスペクトを込めて。

中村 ただ、今回の「THE BLACK ◯ ALBUM」は全14曲のうち10曲がすでに配信されているから、プレイリストに4曲足しただけ、となるとアルバムとしての価値をあまり感じない。それでも吉田にはその10曲をどうしてもアルバムに収めたいという考えがあって。じゃあ、ここに新曲を10曲足そうかとも思ったけれど、ちょっと待てよと。9年かかってやっと10曲出せたのに、あと10曲待っていたらさらに9年かかる。完成する頃、僕は生きてないんじゃないかと思って(笑)。じゃあ、どんな価値観を作れば今まで聴いたことのある曲でも初めてのような感覚で体験してもらえるだろうか? そこを出発点に、バラバラの楽曲たちを映画のサントラのように、オープニングがあって、エンディングがあって、クレジットが流れ出すような構成にまとめ上げて、51分47秒の“ひとつなぎの音楽作品”にしようと思ったんです。これは「ONE PIECE」の「ひとつなぎの大秘宝」からインスパイアされたから、さっそくおだっち(尾田栄一郎)に電話して「使っていい?」と聞いたら「いいっすよ!」と言ってくれて(笑)。その音楽作品をCDアルバムという新しい媒体として聴いてもらいたいんです。

──今の10代、20代の音楽ファンにとって、CDアルバムはまさに“新しい媒体”です。

中村 僕は決してアンチ配信ではないけど、配信音源っていつなくなるかわからないじゃない? CDにも寿命があると言われていたけど、今のところ40年から45年の実績が出ている。ということは、CDで持っていればあと40年はあなたの手元からいつでも引っ張り出せる。ということで、今のCDプレーヤーの最新事情も含めて、オーディオビジュアル評論家の野村ケンジさん、そしてCDになじみのない若手アーティストを代表して映秀。くんをお招きしたわけです。

──2002年生まれの映秀。さんは、これまでほとんどCDに触れてこなかったそうですね。

映秀。 はい。でも、最近サントラをよく聴くので、今のお話を伺ってすごく伝わってきました。

中村 あ、ホント? サントラは配信がほとんどないうえにCDの生産枚数も少ないから、あっという間に市場からなくなっちゃうのよ。サントラ盤は絶対買っておいたほうがいい。そういう意味ではまさにCDという媒体が必要なんだ。

映秀。

映秀。

アルバムとは何か?

──ではここでCDの成り立ちについて、野村さんに解説をお願いします。

野村ケンジ わかりました。簡単に歴史を説明しますと、1970年代から次世代音楽メディアを独自開発していたソニーとフィリップスが組んで、光ディスクという方向性で作ったのがCDです。最大収録時間は約74分。これはベートーヴェン「交響曲第9番」を1枚に収めることを基準に設計されたと言われており、ここからデータ量やbit数、直径12cmという規格が決定しました。

中村 コンパクトディスクたる所以だよね。

野村 発売開始は1982年、CDソフト生産第1号はビリー・ジョエルの「ニューヨーク52番街」でした。スタート時の総生産枚数はわずか数万枚程度でしたが、その後の数年で飛躍的に伸びて、90年代初頭にはアナログレコードに取って代わります。主な優位性として、サイズが小さい、音質が劣化しない、ノイズがないことが挙げられます。

野村ケンジ

野村ケンジ

中村 アナログレコードは針が溝をトレースするからどうしてもノイズが発生するけど、CDは非接触のピックアップで信号を読みとるからね。僕が若い頃は、趣味といえば音楽鑑賞、スポーツ、山登りくらいしかなかったから、アナログレコードをいい音で聴きたい欲求はものすごかったんだ。最近また純喫茶が流行ってるけど、ハイエンドのオーディオが置いてある喫茶店に行くと、お客さんはみんなひと言もしゃべらずに流れる音楽に耳を傾けている。それくらい憧れていたノイズがない音楽をCDが実現したことは、我々音楽ファンにとって夢のようだった。当時16bitの再生は究極だったし、トラックナンバーがあって簡単に頭出しができて曲順も変えられるなんて、アナログでは考えられなかったからね。

野村 その後、SACDとかDVD-Audioといったハイエンドな規格が登場しても、CDで充分という時代が30年以上続きました。配信の時代になった今、物理メディアである利点は先ほど中村さんがおっしゃった「なくならない」ことです。自分が聴きたい曲を生涯手元に置いておけるという重要性があります(注:CDの耐用年数は約25年という説が主流だが、製造の質や保存方法によってそれ以上保ち続けるとも言われている)。これは今回のアルバムにも関わることですけど、映画とかオペラが頭から終わりまで通すことで1つの感動を生むように、ミュージシャン、アーティストの方々はアルバムとして1つの作品を作ってくださっているんですよね。1曲3分にアイデアを詰め込むのもすごいけど、そうした楽曲たちをつなげて1時間の流れを作って、いかに感動的なものにするかというアルバム独自の作品性において、CDは非常に深みを持たせられるメディアです。今回の「THE BLACK ◯ ALBUM」も、これまで配信された楽曲とアレンジが全然違ううえに、曲間のつなぎもライブのように演出されていて、まさにCDアルバムとして作る意味を感じることができました。

ポータブルCDプレーヤー「SHANLING EC Smart」について解説する野村ケンジ。
ポータブルCDプレーヤー「SHANLING EC Smart」について解説する野村ケンジ。

ポータブルCDプレーヤー「SHANLING EC Smart」について解説する野村ケンジ。

中村 うれしいなあ。ありがとう。映秀。くんはどう? 忌憚なき意見を聞かせてよ。

映秀。 僕はこれまでアルバムを3枚出してるんですけど、単曲の詰め合わせという感覚がそもそもあったので最初に「ジャケット写真は1枚」と言われて、「えっ、なんで1枚しか作れないんですか?」って聞いたんです。1曲1曲まったく違う絵のイメージだから困惑したことを覚えてます。

中村 なるほど。10曲配信してれば10曲それぞれにジャケ写があるもんね。

映秀。 はい。そもそもアルバムを目がけて作るというよりは、1曲1曲違うものを作っていたから、どうまとめればいいんだ?って。

──そこで初めて「アルバム」という概念を知った感じですか。

映秀。 そうです。そもそもアルバムを作る話になったときに「アルバムとはなんですか?」みたいな。

中村 まさに雷に打たれたような気分だね。「アルバムとは何か?」か……概念のないところに、どうやってリーチさせていくか。これはとても大きな課題だね。