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さよならポニーテール 恋よりチョコレート
素朴で美しいアコースティックワルツ、わずか56秒に詰め込まれた音楽の喜び
文 / ナカニシキュウ
「音楽って本来こういうものだよね」と思い出させてくれる1曲だ。すぐ目の前の人にしっかり届くことだけを考えて──いや、下手をするとそれすら考えずにポロッとつぶやかれただけのような非常に親密な佇まいが、現代の音楽シーンにおいてはひときわ異彩を放って響く。ここにはバズを生むことを目的に計算された刺激的で戦略的なフレーズもなければ、存在を大きく見せるための虚飾アレンジもなく、「普通そうだから」という理由だけで無思想に追加される2コーラス目も存在しない。なんならアコースティックギターのちょっとしたミスタッチなどもそのまま採用されている。
音楽、とりわけ歌というものは、本来は半径数メートル程度の範囲内でなんとなく発せられ、なんとなく共有されるもの。わずか56秒で無愛想に終わるこの美しいアコースティックワルツには、そんなファンダメンタルな音楽の喜びが詰まっている。あまりにも牧歌的で素朴にもほどがある童謡のようなメロディラインや、ぼんやりしたチョコレート愛がつぶやかれるだけのほぼノーメッセージな歌詞などは、普段“商品”として整えられすぎた音楽にばかり触れている人々を「こういうのでいいんだよな」とホッとさせてやまないことだろう。
ちなみにこの「恋よりチョコレート」は、もともとは2017年にさよポニの“未収録作品”としてYouTubeにて発表され、のちに2018年リリースの5thアルバム「君は僕の宇宙」の限定特典CDに収められた楽曲。今回のリリースに際して、オルガンのトラックを追加した新ミックスおよびリマスタリングが施された。つまり前作「宇宙の片隅」(2019年リリースの7inchシングル「ハミングの色」カップリング曲のリメイク)に続く、レアトラックス再生シリーズの第2弾に相当する。いずれもストリーミングサービスでの配信は初となる。
さよならポニーテール(サヨナラポニーテール)
これまで一度もライブを行わずソーシャルメディア上のみで活動を続けるなど、実態が謎に包まれているポップグループ。2011年4月、自主レーベル「音楽と魔法」から1stアルバム「モミュの木の向こう側」を発表。2019年11月に結成10周年を記念した初のベストアルバム「ROM」、2024年9月に10枚目のアルバム「You & I」をリリースした。
