はしメロ「aero」特集|日常に溶け込む26曲の物語を解説、著名人7組からのメッセージも

2025年にメジャーデビューした新鋭シンガー&トラックメイカー・はしメロがメジャー1stアルバム「aero」をリリースした。

本作にはインディーズ時代から現在に至るまでに生み出された全26曲を収録。人の数だけ存在する“視点・温度・物語”を1枚に閉じ込めた集大成的な作品となっている。タイトルの「aero」には「リスナーの日常に溶け込み“空気”のように自然で身近な存在であってほしい」という願いが込められているという。

音楽ナタリーではアルバムの全収録曲をレビュー形式で解説。26曲の物語から、はしメロが紡ぐ世界を紐解く。さらに特集後半には、はしメロと親交のあるEmpty old City、7co、yowa(CLAN QUEEN)、秋奈(黒鉄たま役)from 電音部、十明、豊田穂乃花、ポップしなないでの7組からのメッセージも掲載する。

文 / ナカニシキュウ

メジャー1stアルバム「aero」全曲レビュー

01. サイキック
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:Omamurin]

アッパーなエレクトロポップチューン。マイナーキーの2コード循環をベースとしたミニマルなループ構造でありながら、次々に展開する歌メロの多彩さに類まれなるメロディメイカーぶりがうかがえる。また、はしメロの重要な特性の1つである音韻重視のリズミカルなリリックが全編を通して容赦なく降り注ぎ続けるのもポイントだ。構造だけを見ればストイックかつマニアックな作りであるにもかかわらず、あくまで親しみやすいライトなポップソングとして響かせてしまう、常軌を逸したポップセンスを十二分に味わえる。

02. ブルーシャドウにのっかって
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:MEG.ME、Louis]

スリリングかつヘビーな四つ打ちビートを中心に展開する、ダンサブルなディスコポップ。闇を切り裂くようなギターカッティングや地を這うファットなシンセベースが、奔放に跳ね回るボーカルと絡み合いながら、どうにもならない感情のうねりに飲まれていく歌世界を加速させる。中盤からは4ビート風のパートやメロウなエレピパートなども顔を出し、セクションごとにがらりと色を変える現代的な目まぐるしいジェットコースターさながらの構造がリスナーを一瞬たりとも飽きさせない。昭和歌謡や平成J-POPを彷彿とさせるラストの半音転調も心憎い演出だ。

03. ときはなて!
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:⌘ハイノミ]

テレビアニメ「ウィッチウォッチ」第2クールオープニングテーマとして書き下ろされた、自身初のアニメタイアップ曲。ハイテンションなスラップベースとささやくようなラップ調ボーカルで幕を開けたのち、四つ打ちビートに乗せて「1、2、3、1、2、3……」とポリリズムで歌われるテクノパートや、シンコペーションを多用したキメパートなど、多種多様なリズムトリックがこれでもかと盛り込まれている。かと思えば、サビでは一転して「愛はノット・テクノロジー」とわかりやすくキャッチーなリフレインでポップソングとしての強度を誇示し始める。油断も隙もない1曲である。

04. meter
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:石田勇喜]

何本も重ねられたエレクトリックギターを軸とするバンドサウンドを基調としながら、あくまでデジタルな音像にまとめあげられたアーバンでダウナーな高速ダンスポップナンバー。エモーショナルなワウギターのソロなども盛り込まれているが、全体的な肌触りはロックよりもテクノやクラブミュージックに近く、機械的なビート感になすすべなく連れ去られる心地よい無力感をリスナーにもたらす。その音響体験が、タクシーで運ばれる際の焦燥感と安心感が同居する独特の感覚と見事にリンクしている。

05. わるいゆめ
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:Diz]

かつて“夜好性”と呼ばれたムーブメントの直接的な影響を強く感じさせる、マイナーキー×ギターサウンド×四つ打ちビートのダンスロック歌謡。サビのハーモニーにはこれまた大流行したいわゆる“丸の内サディスティック進行”(4度→3度→6度→1度)が採用されており、2010年代のネットミュージックカルチャーへの強い愛情があふれ出た1曲だ。明確なプリコーラス(Bメロ)を持たないスピーディな展開や、突然挟まれる休符なども非常に効果的で、めくるめく悪夢のイメージを大いに増幅している。

06. メリみ
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:Diz]

休符を強調したブルースロック風コードリフと、サンバライクな付点8分リズムのサビメロが特徴的な、ミディアムテンポのポップロックチューン。セクションごとにさまざまなジャンルを横断していき、ブリッジパートでは3連シャッフルへのリズムチェンジも行われる現代的なジェットコースター構造を備える。楽曲構造としての情報量は多いものの、局面局面の聴き味は常にシンプルに保たれておりまったく難解ではない。また近年では非常に珍しい、16小節に及ぶ長尺ギターソロが含まれるのも特筆すべきポイントだ。

07. 百面相
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:⌘ハイノミ]

テレビアニメ「顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君」のオープニングテーマとして書き下ろされた、高速四つ打ちビートにオルタナティブロック要素やエレクトロ成分がハイテンションに混じり合うハイパーな1曲。得意の丸の内サディスティック進行とハイトーンボーカルが炸裂するサビは、一度聴いたらそう簡単には頭から離れない魔力にも似た得体の知れないパワーを備えている。どこでブレスをしているのかよくわからない連続的な歌メロの忙しさや、次々に様相を異にするアレンジにも“百面相感”が内包されている。

08. かわいいkm
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:MIMiNARI]

CANMAKE TOKYO「メタルックマスカラ」タイアップソング。「化粧品タイアップといえばEPOや松原みきなどのシティポップ」というイメージはおそらく本人にはなかったと思われるが、当時を知る世代には間違いなくその連想をさせるスタイリッシュな四つ打ちディスコポップに仕上がっている。メロウなエレクトリックピアノ、クリーントーンのギターカッティング、シンセストリングスなどAOR / シティポップの作法を忠実に踏襲しており、「かわいい」と「km(キロメートル)」という一見つながらない単語同士を組み合わせる言葉遊びの手法も、どことなく昭和の広告文脈と通ずるセンスを感じさせる。

09. パレット
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:MIMiNARI]

テレビドラマ「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる」オープニング主題歌。DTM感を前面に出したいわゆるベッドルームポップの色彩が濃い1曲で、ポリリズムの手法を取り入れたサビのリフレインや、一時的に9th音で解決するメロディライン、Aメロとサビで共通する和声構造(しかもAメロは曲中でリハーモナイズもされる)など、比較的テクニカルな作曲技法が散見されるのも要注目ポイントだ。これまた丸の内サディスティック進行がベースになっているが、4-3-6-1ではなく4-3-6-2となっているあたりに非凡なセンスがうかがえる。

10. ナイナイラブ - album version
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:maeshima soshi]

ボーカル、リズムセクション、シンセサイザーなどのすべての要素が“早口”な、ハイスピードエレクトロポップナンバー。今回のアルバム収録にあたってmaeshima soshiが施した新アレンジによって、はしメロ自身が編曲を手がけたオリジナルバージョンから大幅にBPMが上げられたほか、意図的にコード感を薄くしたローファイサウンドを採用することで、壊れたおもちゃのようなスラップスティック感を加味することに成功している。元バージョンとの聴き比べもぜひ楽しんでいただきたい。

11. みらみら
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:KidMollin]

雅楽テイストのループと不穏なトラップビートが融合した、“和トラップ”とでも呼べそうなEDMポップチューン。伝統的なラップミュージックに近い作法でまくし立てられるフロウは、はしメロのラッパーとしての基礎力の高さを端的に示している。彼女独自の作法で奏でられるユニークなラップスタイルがひとつの武器として確立されている一方で、ここでは「普通のラップもできますけど?」と言わんばかりの堂々たるライミングを披露。アルバム全体の流れとしては、このあたりからぐんぐんとディープな方向へと深化していく。

12. がなかむ
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:Black Rose Beatz]

「みらみら」が“和トラップ”なら、こちらは“バロックトラップ”だろうか。バロック期のピアノ曲を思わせるゴシックなムードのピアノリフに現代的なビートが組み合わさった古今混淆トラックに、耳元でささやきかけるようなハスキーボイスのウィスパーラップが重なる。そのラップパートと好対照をなすように、「がながなかむ」とリフレインするフックパートなどでは超然としたキャンディボイスが駆使されており、“1人ツインボーカル”のような聴感を実現。ボーカリスト・はしメロの“楽器”としてのポテンシャルの高さも垣間見える。

13. en-en
[作詞・作曲:はしメロ / 編曲:illdo]

ドリーミーでメロウなトロピカルエレクトロ歌謡。調性の曖昧な3コードのループが独特の浮遊感を生み出す中、リラックスムードのガーリーな歌声が淡々とユーモラスに不平不満をこぼし続けるミニマルかつパーソナルな1曲だ。次第に張り詰めつつあったアルバムのムードをいったん落ち着かせる砂漠のオアシス的なポジションを担う側面もあり、曲数的にもちょうど折り返し地点となる。「ナイナイラブ」「みらみら」「がなかむ」「en-en」と、思わず続けて声に出して読みあげたくなるような曲順も秀逸だ。