高垣彩陽がフィーチャリングアーティストに城田優を迎え、テレビアニメ「悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される」のオープニング主題歌「愛のファンファーレ」とエンディング主題歌「魔法の音」をデュエットで歌唱した。
声優、音楽アーティストとして活躍しながら、卓越した歌唱力を生かしてミュージカルにも出演している高垣。一方で城田は俳優として数々のヒット作に出演しながら音楽活動にも情熱を注ぎ、近年はアーティストへの楽曲提供も積極的に行っている。そんな2人が歌う「愛のファンファーレ」は高揚感あふれるスイングジャズ調の楽曲。「魔法の音」はドラマチックなミディアムバラードで、城田自らが作詞作曲を手がけた。
音楽ナタリーでは高垣と城田にインタビュー。挑戦的なデュエットについてたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝
今回のフィーチャリングはまだ夢のようです
──お二人には歌手であり舞台俳優でもあるという共通点がありますが、接点などはあったんですか?
高垣彩陽 接点と言えるかわかりませんが、以前「IRIS-アイリス-」(2009年放送)という韓国ドラマの吹き替えでご一緒したことがありまして。確か、城田さんが声優に初挑戦されたときですよね?
城田優 そうです。懐かしいですね。
高垣 ただ収録は別々だったので、打ち上げの席で簡単にご挨拶した程度だったんです。でも、ビジュアル撮影でお話ししたとき、共通の知り合いがけっこういることがわかって。
城田 そうそう。特にミュージカル界に多いんですよね。
高垣 ちょうど今公演中の、城田さん主演の「PRETTY WOMAN The Musical」にも、かつて私もミュージカルで共演したspiくんや、友人のエリアンナちゃんが出演していたりして。実は私、東京公演のチケットを取っていたんですけど、タイミング悪く肺炎にかかってしまい……。
城田 それは大変でしたね。
高垣 残念ながら私は観に行けなかったんですが、代わりに妹が行ってくれまして、大変楽しませていただいたと申しておりました。
城田 ありがとうございますと、妹さんにお伝えください。高垣さんは、大阪公演でお待ちしています(笑)。
高垣 そうだ! まだチャンスはありますね(笑)。接点の話に戻すと、私にとって城田さんは、一方的に客席から舞台を拝見していた方なんですよ。特に印象に残っているのはミュージカル「ピピン」(2019年上演)や、あと、シンシア・エリヴォさんが出演されていた「4Stars」(2017年上演の「4Stars 2017」)。
城田 うれしいです。シンシアは、最近だったら映画「ウィキッド ふたりの魔女」(2024年公開)で……。
高垣 主人公のエルファバを演じられていますよね。そのシンシア・エリヴォさんをはじめとする、ブロードウェイで活躍する3人のスターと、日本のミュージカルスターである城田さんが共演されたという。
城田 「4Stars」は、城田が出ている舞台の中で特に観てほしい作品の1つです。本当に。
高垣 素晴らしかったです! そうやって世界的なミュージカルスターとステージで共演されている城田さんを拝見していたので、今回のフィーチャリングは夢のようです。
城田 いえいえ、こちらこそですよ。僕は恥ずかしながらアニメについてはそこまで詳しくはないんですが、高垣さんは声優として声を当てられるだけでなく、アーティストとしてたくさんの主題歌を歌われていて。舞台俳優としても、例えば僕が大好きな韓国ミュージカル「SMOKE」(2018年上演)に出演なさったりしていますよね。それに高垣さんと僕は同い年で、僕だけかもしれないけれど、同じ年に生まれて同じ年齢のときに同じ何かを経験しているというだけで、自動的にお互いの距離が縮まる気がするんですよ。
「高垣彩陽 城田優 なぜ」
──お二人が歌われた「愛のファンファーレ」と「魔法の音」はアニメ「悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される」のオープニングとエンディングの主題歌ですが、同じアーティストがオープニングとエンディングの両方を担当するのはけっこう珍しいですよね。
高垣 私は最初、オープニングを歌わせてもらえるとしか聞いていなくて。「主題歌はデュエットになります」とスタッフの方から言われて、それだけでも初めての経験だったのですごくうれしかったんですが、続けて「お相手は城田優さんです」と言われてさらにびっくり! しかも私は、これまでソロアーティストとして、またはスフィアとしていろんなアニメの主題歌を歌わせてもらってきましたけど、この「あくでき」のように、自分が出演していないアニメの主題歌を歌うのは初めてなんです。さらに、のちにエンディングも城田さんとのデュエットになると聞かされまして、初めて1つの作品のオープニングとエンディングの両方を担当することになったという。私はアーティストデビューして15年になるんですが、まだまだ新しいことにチャレンジさせてもらえるなんて、とても恵まれていると思いました。
城田 それで言ったら、僕は高垣さん以上に恵まれているとかもしれません。僕はアニメの主題歌を歌わせてもらうのは初めてですし、デュエットの経験も多くはないので、すべてが新しかったです。同時に、エンドソングは自分で書かせてもらって……正直、それを自分が歌うとは思っていなかったんですけど。
高垣 そうなんですか?
城田 そうなんですよ。オープニングを歌うことは決まっていて、エンディングに関しては、自分が最近、作詞作曲や楽曲提供に力を入れているというのもあって、ありがたいことに「じゃあ、作ってみてください」という流れになったんです。そこから、アニメのスタッフさんからレファレンスやオーダーをいただいたり、自分で原作のコミカライズ版を読み込んだりして楽曲を制作したんですが、自分が歌うことになると知ったのは、楽曲を作り終えたあとでした。そのとき僕は「アニメのオープニングとエンディングの両方を同じ人が歌うことってよくあるのかな?」と思ったんですけど、お話を伺う限りそれはけっこうレアなケースとのことで、最初からめちゃくちゃ貴重な経験をさせていただいて光栄です。
高垣 もっと言うと、デュエットのアニメ主題歌というのもあまりないんですよ。私はこの間、自分のホームページを見ようと思って「高垣彩陽」と検索したんです。そしたら、サジェストで「高垣彩陽 城田優 なぜ」と出てきて。
城田 (笑)。
高垣 「うん、私もそう思った!」みたいな(笑)。実際、私もアニメの制作サイドの方に「なぜですか?」と聞いたんですよ。その方がおっしゃるには、オープニングとエンディングはミュージカルテイストで、男女のデュエットにするという構想がもともとあったそうで。それを任せられる歌手として、城田さんとともに選んでいただけたのは、大変ありがたいことです。
「いったい何が始まるんだろう!?」という高揚感
──オープニング主題歌「愛のファンファーレ」はスイングジャズ風の、極めてポップかつアップテンポな曲ですね。
高垣 最初に「愛のファンファーレ」のデモを聴いたとき、とにかくワクワクしました。このデュエット自体、先ほどから言っているように夢のようで、ずっと信じられない気持ちがあったんですけど、楽曲がこんなにもポップで楽しくて、仕掛けもたくさんあって。「これを歌えるんだ! しかも城田さんと!」「この年齢になってもこんなにときめけるんだ私!」と驚きましたね。
城田 「愛のファンファーレ」は自分が今まで歌ってこなかった、聴いてこなかったジャンルだったので、すごく新鮮でしたね。1曲の中で、例えば2コーラス目はゲームっぽい8bitサウンドに変化していったり、言葉を選ばずに言えば自分の思うアニソンっぽさもあって。高垣さんが「ワクワクしました」とおっしゃったように、まさしくファンファーレが鳴り響いて「いったい何が始まるんだろう!?」という高揚感を聴く人に与える楽曲だと思います。あと、僕は相対音感でわりとすぐ音が取れるタイプなんですけど、この曲のハーモニーはかなり難解で、ハモるのが難しくて。そういう意味では緻密に計算された、ゲームのような楽曲でもあります。
──レコーディングは別々だったと思いますが、どちらか一方が先に録って、もう一方がそれを聴きながら歌う形ですか?
城田 高垣さんが先で、僕が合わせにいきました。
高垣 でも同じ日に録りましたよね。お互いのレコーディングには立ち会えませんでしたけど。
城田 そうそう、時間差で。
高垣 どういうわけか、私のほうが先になってしまったんですが……。
城田 いやいや、当然ですよ。僕からすると、高垣さんが先に歌ってくださったことで世界観をつかみやすくなると同時に、ちょっとしたニュアンスや言葉の切り際を合わせていく繊細な作業を要求されるという、どちらの楽しさもありましたね。レコーディングでは「愛のファンファーレ」の作者である、ふるーりさんとSAKURAmotiさんのお二人がディレクションしてくださったんですけど、自分が普段あんまりしない歌い方を求められたのもすごく面白かったです。
──「普段あんまりしないような歌い方」とは、具体的には?
城田 たぶん、これは城田の声をめちゃくちゃよく聴いて分析している人にしかわからないレベルかもしれないんですが、普段だったら、もうちょっと個性を出しちゃうかな。僕は基本的に、自分がプランした歌い方で何パターンか録ったものの中からディレクターにチョイスしてもらっていて、誰かにディレクションしてもらう機会がそこまで多くないんですよ。でも今回は、作家のお二人の中に「こういうふうに歌ってほしい」という明確なビジョンがあったので、そこに自分を導いてもらうような感じでした。もちろん歌っているのは城田優自身なんですけど、楽曲にふさわしい役を演じるのに近いかもしれません。それも新鮮な体験でしたし、とても勉強になりました。
高垣 楽曲を作った方々がディレクションしてくださったのは、心強かったですね。城田さんがおっしゃった通り、お二人が思い描く完成形があるので、まずはそれに応えたいという思いでした。ただ私は、先ほど言い忘れちゃったんですけど、最初に「お相手は城田優さんです」と聞かされたときにどちらかというと大人っぽい、カッコいい曲を勝手に想像していたんですよ。そしたら実際はとってもかわいい、私としてもソロではあまり歌ったことがないタイプの楽曲で。
城田 そうなんですね!
高垣 そうなんです。高垣彩陽としてどう歌うかは悩みました。「かわいい曲だから!!」とかわいい表現をしすぎると、自分の場合どうしても演じすぎてしまうというか…キャラクターソングではないのにキャラクターっぽくなってしまう。逆に城田さんはキャラクターソングのようには絶対にならないはずだから、デュエットなのにお互いの世界観が乖離してしまうのは嫌だったんです。かといって、大人っぽく作りすぎても曲のポップさに合わなくなるので、そのへんの塩梅をいろいろ探りながらレコーディングしました。
城田 めちゃくちゃ面白いお話ですね。
高垣さんとのハーモニーが僕を新しい世界に連れていってくれた
──お二人の声もよく調和していると思いました。高垣さんの高音が曲の華やかさを増幅している一方で、城田さんの艶っぽい声が曲に潤いを与えていて。
高垣 本当に、城田さんの声は艶があってセクシーですよね。城田さんの声と自分の声が重なると「わあ、こうなるんだ!」という驚きと新鮮さを感じて。私はミュージカルの楽曲でも男女のハーモニーがすごく好きなので「ずっと聴いていたい」と思いながら完成してから何度も聴いていました。
城田 僕は単純に「高垣さん、さすがだな」と。今お話をお聞きするまでは、高垣さんは「愛のファンファーレ」のような方向性の楽曲もお得意なんだと勝手に思っていたので、余計に。僕自身の歌に関しては、艶があると感じてくださったのなら、おそらくそこには城田の個性がちゃんと存在しているとは思うんですけど、先ほど言ったように普段の自分だったらチョイスしない表現を試みていて。その中で、高垣さんとの調和、あるいはケミストリーが起こっているのがとても興味深いです。
高垣 確かに。私の知る限りですが城田さんがミュージカルで演じられている役や歌は、語弊があるかもしれないんですけど、ここまで元気に溌剌としてはいないというか……。
城田 おっしゃる通りです(笑)。基本的に病んでいたり、死んでいたり、ヴァンパイアだったり、影のある役柄を演じることが多いので、「愛のファンファーレ」みたいなキラキラした世界観の楽曲をまっすぐ歌うことはほとんどないんですよね。
高垣 うんうん。そのキラキラ感も新鮮でした。
城田 自分で聴いても新鮮でしたし、高垣さんとのハーモニーが僕を新しい世界に連れていってくれた感覚があって、すごく素敵でした。
──先ほど城田さんは「楽曲にふさわしい役を演じるのに近い」、高垣さんは「どうしても役を演じすぎる」という言い方をされましたが、やはり役者であることは歌唱表現に影響していますか?
高垣 「愛のファンファーレ」について聞いていただいているのに申し訳ないんですが、表現の部分で言うと、私としてはエンディングの「魔法の音」もチャレンジさせてもらった感が強いんです。「魔法の音」では城田さんにディレクションしていただいて、そのときに城田さんが最後の1音まで、音がなくなる瞬間まで大事にされていることを知りました。ただ、それは私にとっては難しいことで。城田さんはとても丁寧に教えてくださいましたし、私もやるべきことは頭ではわかっていたんですけど、いかんせん技術が追いつかなくて「ああ、応えきれなかったな」という悔しい思いも正直あったんです。それでも、例えば力の抜き方ひとつで言葉の聞こえ方、歌の響き方がいかに変わるのかとか、得るものがたくさんあったので、「魔法の音」は私の中で革命が起きた1曲でした。
城田 たぶん、「愛のファンファーレ」よりも「魔法の音」のほうが表現の歌唱をしていて。「愛のファンファーレ」に感情を込めすぎると、高垣さんもおっしゃっていたようにキャラクターっぽくなりすぎて、とっ散らかってしまう。むしろ、あの曲はポップにさらっと歌うからいいんです。きっとふるーりさんとSAKURAmotiさんもそういうお考えでディレクションされたと思うんですよ。もちろん「愛のファンファーレ」で表現の歌唱をまったくしていないわけではないんですが、俳優であることが大きく作用しているのは「魔法の音」と言えますね。これは楽曲や歌の優劣の話では決してなくて、方向性あるいは目指した歌唱表現の違いという意味です。
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忖度はいらない




