石川裕也

令和のアーティストとファンベース 第5回 [バックナンバー]

Gaudiy石川裕也に聞く、NFTがエンタメ業界に起こす革命的変化

ファンが稼ぐことのできる理想的な経済圏

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SNSが日常生活に根付いた今の時代において、アーティストがファンとどのように関係を築いていくべきかを探る本連載。第5回では、株式会社Gaudiyの石川裕也CEOへのインタビューをお届けする。NFT(※Non-Fungible Token:非代替性トークン。ブロックチェーン上で発行・流通するデジタルデータの一種で、デジタルコンテンツの固有性や所有権を証明できる)への関心が音楽業界でも高まる中(参照:まふまふ、NFTマーケットプレイスに出品意欲「画期的なシステムを伝えたい」)、NFTを使った新たなサービスを提供しているのがGaudiyだ。今年10月には「TOKYO IDOL FESTIVAL 2021」にて「TIFコミュニティ」を提供したことでも話題になったが、具体的にどんなことをしているのか。ファンエコノミーを形成したいと語る石川氏の発言から、エンタメ業界のこれからを探る。

取材 / 宮本浩志、丸澤嘉明 / 丸澤嘉明 撮影 / KOBA

Gaudiyが提供するのはコミュニティを中心としたソリューション

──まずは2018年にGaudiyを設立した経緯を教えてください。

もともと自分は周囲からちょっと浮いている人間だったんですけど、コミュニティに救われてきた自覚があって。コミュニティが自分の居場所になったり、エンパワーメントしてくれたりしていたので、そういうものを作りたいとずっと考えていたんです。それで2017年にDApps(※Decentralized Applications / 分散型アプリケーション。中央管理者が存在せず、オープンソースで提供され、利用者の合意によって仕様変更や改良が行われるアプリケーション)というブロックチェーン(※取引履歴[ブロック]が暗号技術によって過去から1本の鎖のようにつながる形で記録され、多数の参加者に同一データを分散保持させる仕組み。データの破壊や改ざんが困難で、障害によって停止する可能性が低い特徴を持つ)を用いた概念が出てきたときに「これだ」と思ったんですね。そのDAppsはエンタメと相性がいいと思いました。今のエンタメ企業の課題を解決できるので事業として成り立ちやすいし、自分の目指していた世界観を作るのにも合ってると思ったのでベットしている感じです。

──そのエンタメ企業の課題というのは具体的に言うと?

一番の課題はプラットフォーム依存なところですね。プラットフォーム側にデータもお金も取られてしまってクリエイターに還元されない状況を打開できるなと。GAFA(※Google、Amazon、Facebook、Apple)がいらなくなるなっていう。それに加えて、エンタメ業界はいい意味でも悪い意味でもみんな自分の城を作りたがるんですよ。ミュージシャンも自分たちのレーベルを立ち上げますよね? こだわりがあるのはいいことでもあるんですけど、運用まで自分たちだけでやろうとするので、例えばECサイトや分析ツールなど同じようなシステムがいっぱい出てくるわけです。横のつながりがなくて、同じ会社でほかのチームに流用できるシステムがあるのにIDがいっぱいある状態ってエンタメ企業でよくある話なんですけど、そういう複数あるIDをうまくつなげることもブロックチェーンはできます。ブロックチェーンは網目状につながっている複雑な構造を統合するのではなくて、そのまま共存させる仕組みなので。

──シナプスみたいなイメージですか?

そうですね。よく「統合」ではなく「ブリッジ」と言われますけど、そういう技術なので今のエンタメ界の構造の中にも入りやすいなっていう。

──GaudiyはFPaaS(エフパース)というサービスを提供していますが、これはどういったものでしょうか?

Fan Platform as a Serviceの略なんですけど、コアユーザーが集まるファンプラットフォームのことで、コミュニティを中心としたソリューションを提供しています。

──FPaaSは、どういうところが同業だったりライバルになってくるんでしょうか?

FPaaSの同業はいないですね。そもそもIP(※Intellectual Property / 知的財産)を有する企業はそういう概念でやってると思いますけど。あるブランドに対して映画というソリューションに書き出したり、ゲームというソリューションに書き出したりしていますよね。そういったものをシステムに置き換えた感じ。要は、人と人が話すという構造に対して対面でなくても会話ができる電話という解決策ができたとか、手紙という伝達手段に代わるものとしてEメールができたように、既存の構造に対してFPaaSというソリューションを提供しています。エンタメ業界の構造はまだソリューションができてない。それぞれが持っているサービスをうまくつなげて掛け算で戦っていくという意味ではMicrosoftやAdobeは近いかもしれないですね。

──AdobeはPhotoshopやIllustrator、Premiere Proなどのクリエイターツールを提供していますね。

それらのサービスの互換性で戦いにいく感じ。Microsoftもサービスとしては最低限のポジションを取ってるわけですよね。オンラインミーティングをするならZoomのほうが使いやすいし、コミュニケーションツールとしてはSlackのほうがいいけど、「これさえできていればいいよ」という最低限のサービスを提供して、それを掛け算することで価値を拡張している。

石川裕也

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「TOKYO IDOL FESTIVAL」で提供した初めての体験

──10月に開催されたアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL 2021」では「TIFコミュニティ」を提供しましたが、具体的にどういうものだったか説明していただけますか?

TIFのオンライン周りを全部ひっくるめたサービスを提供させていただきました。背景としては、去年初めてTIFがオンラインで開催されたんですけど、そのシステムが非常に使いづらかったんですよ。フェスだから何会場もあるのにプラットフォームに配信周りをお願いしていたので、画面の切り替えがスムーズにできなかったり、IDもいっぱいあったり。ユーザー体験があまりよくなかった。それで今回うちに話が来て、Gaudiyがやったことは、プラットフォームに依存していた状態をやめて「TIFコミュニティ」というTIF単体のサービスを提供することからスタートしました。

──プラットフォームというのは、配信サービス業者だったりチケット販売業者だったり?

はい。お客さんの入り口になっているところですね。今回我々が提供した「TIFコミュニティ」で何ができたかというと、まずはチケッティングですね。NFTチケットで配信が視聴できるということを最初にやりました。NFTチケットはソニーとGaudiyが共同で特許を取っていて、これまでのチケットと違って転売されたとしてもちゃんと収益が運営に返ってくるようなシステムを入れています。ほかにも「オンラインで参加したんだけどオフラインでも観たい」と思ったときに、同じNFTチケットで切り替えることができるシステムを導入しました。それと「NFTサイン会」という取り組みもやりました。(「TIFコミュニティ」のアプリを立ち上げて画面を見せながら)アイドルが会場でサインを書いてくれて、そのサインが視聴者のアプリに飛んできて受け取ることができるという。

──そのサインがリアルタイムに「TIFコミュニティ」のアプリに格納されるわけですね。

そうです。プラットフォームの仕様から逆算すると、こういう体験って作れないんですよ。例えばYouTubeだったらYouTubeの仕様に依存せざるを得ないわけです。エンタメ界の人って面白いことを考えるのが得意なのに、何かの枠にはめられて表現させられていることが多くて、そのことでユーザー体験が狭められてしまっている。コンテンツと僕たちが提供するソリューションを掛け合わせることによって、ファンの人たちに「こんな体験初めてだ!」と思ってもらえることを実現しました。

石川裕也

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NFTが可能にした2つの利点

──NFTチケットという言葉が出てきましたが、NFTを言葉の字面としてはわかっていても体感的に理解できていない人も多いと思います。

NFTが可能にしたのは“所有”という概念と、“移転のプログラミング”です。今までデジタルコンテンツは閲覧しかできなかったわけです。例えば僕が友人に写真画像をLINEで送ったら、自分のデータベースの画像をコピーして送っている状態。だから僕のデータベースにも写真は残っています。だけど所有という概念は、写真を送ったら自分の手元にはなくなります。この概念をデジタル上に作ることができたのがNFTですね。

──なるほど。

これが起こると何がいいかと言うと、シンプルに金額が上がります。基本的にレンタルと所有って値段が違うんですね。住居にしても賃貸だったら毎月10万円とかだけど分譲マンションを購入しようとしたら数千万円するし、DVDもレンタルだったら300円程度だけど買うなら数千円します。所有の概念があるデジタルコンテンツと所有の概念がないデジタルコンテンツだと前者のほうが高くなるのはわかりますよね。そういう話なので、デジタルというものの価値が一段階上がったのがまず1ついいところ。2つ目の移転のプログラミングができるという話は……例えばテーブルの上に置いてあるペットボトルを左から右に移動したとします。これって物理として動いているのは理解できると思いますけど、ここに関してのルールメイクってできないんですよ。もっとわかりやすい例で言うと、読み終わった本を古本屋に売っても、別の誰かにお金が入るというルールメイクはされてないじゃないですか。

──著者に印税は入らないですね。

契約をすればいけるかもしれないですけど、現実的には厳しい。友人同士の移転だったら追いかけられないし。でもNFTを使えば移転にプログラミングができるようになるので、例えばプロダクトが別の場所に移動するときに10円入ってくるというルールメイクができるようになります。そうするとクリエイターへ還元できるようになるし、移転可能な場所を制限することもできる。コンテンツを作っている人は、これまで最初に売った金額、プライマリーセールのみが収入でセカンダリーは入ってこない。ゴッホはまったく儲かってないわけですよ。だけどNFTによって移転が行われるたびに作者に報酬が返ってくるようにできるので、エンタメコンテンツを作っている人により還元される社会を作れるのが移転をプログラミングできる利点ですね。

──今の話を伺うと、デジタルコンテンツは今後どんどんNFTに移管されそうですね。

そう思います。あとはちょっと難しい話になってしまうんですけど、トークングラフという概念があります。トークングラフというのは、先ほど所有の概念の話をしましたが、この所有の絶対量を示したものになります。お金のようにどれくらい発行されているかがわかる。運転免許証って本来は車を運転できる権利を証明するものですが、身分証明としても機能しますよね。NFTでもそういう役割を担うことができるわけです。例えば「このNFTの価値が世の中の市場としては100万円だから、このNFTを担保にお金を借りる」というような。NFTfiというサービスがあってそういうことができるので、例えばゲームのアイテムなどのデジタルコンテンツを資産として計上できます。今までは土地とか高額なものだったら担保にできたと思うんですけど、小額のものは担保として認められなかったですよね。計算するのがめんどくさいので。でもデジタルなのでその計算も一瞬でやってくれる。ソシャゲで破産したという話もありますけど、逆にソシャゲで持っているアイテムを担保に家を建てることもできる。ゲームアイテムが資産になるわけですね。

──その価格は需要と供給のバランスで変動するんですよね?

基本的には物理的な物と一緒ですね。

──アーティストの場合、ファンには知ってもらいたいけどファン以外の人も見るオープンプラットフォームでは発表したくないセンシティブな話題もあると思うんですが、ファンだけ見ることができて外に出ることを防ぐこともNFTを使ってできるんですか?

「この権利を持っている人しか見られない」という制御の仕方もできるので、例えば「ファンクラブ会員証のNFTと閲覧のNFTの2つを持ってないと閲覧できない」といったルールメイクはできます。

石川裕也

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Gaudiyが目指すのはファンエコノミーの形成

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山口哲一 エンターテック×スタートアップスタジオ @yamabug

日本は文化力で勝負という考え方に強く同意
→Gaudiy石川裕也に聞く、NFTがエンタメ業界に起こす革命的変化 | 令和のアーティストとファンベース 第5回 https://t.co/U3ipu4qjbn

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