2025年のオールナイトフェス「SONIC MANIA」に“THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES”名義で出演し、BOOM BOOM SATELLITES楽曲のみで構成されたライブを披露した中野雅之と小林祐介。彼らはTHE SPELLBOUNDの結成5周年、そしてBOOM BOOM SATELLITESの川島道行がこの世を去ってから10年という大きな節目に、5月から“THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES”としてのツアーという大胆な試みに打って出る。ツアーファイナルの10月9日は川島の命日であり、この日は最新鋭の音響設備とイマーシブオーディオシステムを導入した東京・SGC HALL ARIAKEにてスペシャルイベントとして開催される。
THE SPELLBOUNDを結成した当初はBOOM BOOM SATELLITESのレパートリーを演奏するつもりはなかったという中野が、なぜ今、小林とともにかつての楽曲をよみがえらせることにしたのか。そこには懐古とはまったく違う、現在進行形の2人の生き様があった。インタビューの終盤では中野の口から“THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES”名義での新曲の構想も語られているので、最後までお見逃しなく。
取材・文 / 小野島大文中カット撮影 / 草場雄介
公演情報
「THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES presents 川島道行10周忌LIVE“FRONT CHAPTER” -DECADE- Tour 2026」
- 2026年5月10日(日)福岡県 DRUM SON
- 2026年6月6日(土)宮城県 仙台MACANA
- 2026年6月27日(土)北海道 SPiCE
- 2026年7月3日(金)愛知県 ell.FITS ALL
- 2026年7月4日(土)大阪府 Shangri-La
- 2026年10月9日(金)東京都 SGC HALL ARIAKE
東京・SGC HALL ARIAKE公演オフィシャル二次 / 先着先行はこちら
2026年2月28日(土)12:00~2026年3月15日(日)23:59
※各券種予定枚数に達し次第受付終了となります
BOOM BOOM SATELLITESの楽曲が、自分たちだけでなく多くの人にとっても財産だと知った
──今年はTHE SPELLBOUND結成5周年であり、BOOM BOOM SATELLITESの故・川島道行さんの10周忌でもあります。それにあわせて5月から「THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES presents 川島道行10周忌LIVE“FRONT CHAPTER” -DECADE- Tour 2026」ツアーが行われます。節目の年ということで、今現在のお二人の現在地みたいなものを探ろうというのが、今回の取材の趣旨です。このツアーは全曲、BOOM BOOM SATELLITESの曲をやるツアーということでしょうか。
中野雅之 そうです。去年は「SONICMANIA」にTHE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITESとして出演して、そのあと渋谷CLUB QUATTROでもBOOM BOOM SATELLITESの曲だけやるライブをやったんですが、今回はそれを全国6カ所で展開する。川島君の命日である10月9日の東京・SGC HALL ARIAKEでのファイナルに向けて、今年は活動していこうと思っています。
──今まで何度も聞かれていると思いますが、改めてお伺いします。BOOM BOOM SATELLITESは、今の中野さんと小林さんにとってどういう存在ですか。
中野 もともと僕は、THE SPELLBOUNDを始めるにあたって、BOOM BOOM SATELLITESの曲を演奏することはまったく想定してなかったんです。小林くんにやったほうがいいと強く勧められるまで、そういう発想がなかったんですね。でもそれがきっかけで、まず1曲、もう1曲と、THE SPELLBOUNDのライブにBOOM BOOM SATELLITESの曲がだんだん組み込まれていったんですが、その都度BOOM BOOM SATELLITESの曲を演奏する理由や意味を見つけようとしながら演奏しているところがありました。
──ああ、なるほど。
中野 小林くんはBOOM BOOM SATELLITESの曲を歌いたいと心の底から思ってくれている。そこで、どうして歌いたいのかというところもしっかりヒアリングして。小林くんの人生にとって、BOOM BOOM SATELLITESの曲がどういうものなのか、それも考えて、だったらちゃんと演奏する理由がある。そういうことを1つひとつ確認していったんです。すごく慎重になりましたね。実際、THE SPELLBOUNDというバンドを始めて、僕の新しい活動を楽しみにしてくれている人が、BOOM BOOM SATELLITESの楽曲が演奏されることにモヤモヤした気持ちを感じることも実際あったみたいで。それで葛藤もあった。でもライブでTHE SPELLBOUNDの楽曲とBOOM BOOM SATELLITESの楽曲を並べて一気に演奏してしまうと、自分の音楽のキャリアと小林くんの音楽のキャリアを一気に一筆書きで書いているような感覚になって、自分の中で落としどころがちゃんとできたんです。
──ふむ。
中野 実際に演奏してみると、過去に作られた曲に対する学びが毎回すごく大きいんです。例えばTHE SPELLBOUNDの楽曲にないフィジカルの強さとか機能性とか、いろんなものが内包されていて、それにいつも気付きがある。大音量で流れたときの効果とか、単純にオーディエンスのリアクションも含めて、今まで作ってきた楽曲、過去に演奏されてきた楽曲を、今もう1回演奏することは意義深いことなんだということを、演奏するまでは知らなかった。楽曲というものが、自分たちだけでなく多くの人にとっても財産なんだと同時に深く知ることになって、それでやっとこう、積極的に演奏していこうという気持ちになったんです。
──BOOM BOOM SATELLITESの曲をやらないと決めていたのはどうしてですか?
中野 それがアーティストとして真摯な姿勢なのではないかと捉えていました。
──甲本ヒロトと真島昌利は、バンドを変えるたびに前のレパートリーを全部封印するじゃないですか。ザ・クロマニヨンズではザ・クロマニヨンズの曲しかやらない。ザ・ブルーハーツの曲はやらない。すごく潔いと思うんですが、それに近い感覚ですか。
中野 たぶんそういうことだと思います。ただ、僕はそれほど彼らに明るくないですけど、例えば彼らがブルーハーツの曲を演奏したらと想像すると、それは素晴らしい光景じゃないかなと思うんです。1人ひとりのオーディエンスの中に刻まれたものが、その瞬間一気に表面に湧き上がってくる。記憶に刻まれたり、心に刻まれたり、そういうものが一瞬で立ち上がってくる。それでまた明日以降の未来に向かって行ける、そういうエネルギーみたいなものを、その場で生成するようなところがあると思います。
──川島さんがいないのに、なぜこの曲を演奏するんだという反応も当初はあったかもしれないけど、そうしたネガティブなものをポジティブなものに転化していくような、そういう演奏ができればいい。
中野 はい、そうです。そう言っていいと思います。実際、現場で起きている熱量に自分の身を投じたときに受け取れるものは、そんな批判を飛び越えたもっと大きなものだと確信しているので。
BOOM BOOM SATELLITESは今では求められないものが全部あるバンドだった
──小林さんがBOOM BOOM SATELLITESの曲をやりましょうと言い出したのは、どんな理由ですか。
小林祐介 最初はもう、すごくシンプルに言っちゃうと直感なんですけど、もともと僕はBOOM BOOM SATELLITESに人生を導いてもらったと言っても過言じゃないぐらいのファンだったんです。THE SPELLBOUNDがコロナ禍で始まったバンドだというのも影響があったのかもしれないですけど、僕にとってBOOM BOOM SATELLITESは解放とか自由とか癒しとか、今ではなかなか求められないものが全部あるバンドだった。だから今の時代にやったらきっとたくさんの人が幸せになるんじゃないかという勘のようなものがあった。それで覚悟を持って中野さんに提案したのが最初です。
──BOOM BOOM SATELLITESとTHE SPELLBOUNDの違いについて、小林さんはどういうふうに認識していましたか?
小林 もうまったく別のものと思ってました。僕と中野さんで作るTHE SPELLBOUNDの世界と、中野さんと川島さんが残してきたBOOM BOOM SATELLITESは、1つの物語の中のグラデーションとして共通点を見出すことはもちろんできるわけですけど、僕の中ではやっぱり別の世界のことだと思っていました。ただ、さっき中野さんが言ったように、1つのライブでBOOM BOOM SATELLITESとTHE SPELLBOUNDの曲、同じステージで、同じオーディエンスの前で、同じ空気を震わせたときに、もうなんていうか、そういう区別みたいなものがなくなって、全部でひとつの大きな音楽になった気がしたんです。たくさんの人と、今この場所で大きな「音楽」というものをシェアしてるんだなって。これは感覚としか言いようがないですけど、そういった達成感とか、充実感とか、「きっとこれはすごくいいことなんだ」という感覚がすごく残っています。それがいまだに僕の中で指標になっている。
──THE SPELLBOUNDを立ち上げた当初、BOOM BOOM SATELLITESとは違うものを求めた、ということはあったんでしょうか。
中野 明確に違うことをやる、ということよりは、小林くんと何が作れるのかということを考えました。小林くんの日本語の世界観とか、メロディの世界観とか、そういうものをどう自分の音楽表現で拡張していけるか。一緒に何かをやって、The NovembersでもBOOM BOOM SATELLITESでもないまったく新しい生き物みたいなものが生まれたらいいなと思って。具体的なものというよりイメージなんですけど。
──ふむ。
中野 Xでボーカルを募集して、小林くんが名乗りを上げたとき、BOOM BOOM SATELLITESのファンだからという認識はまったくなかったんです。志のある音楽家としてしか考えていなかった。もちろん年下ですし、僕のほうが経験値があるけど、僕は知らなくても小林くんが知っている世界もある。お互い学びながら、2人の新しい音楽を作る、ってことを考えて過ごしてきたわけで。
──じゃあ最初にボーカルを募集した時点では、どういうことをやるかはまだはっきり決まってなかったということですか?
中野 こういう音楽をやりたいからそれに見合ったボーカリストを探してる、というよりは、何か縁が生まれないかなと思ってました。その人に関心が持てれば、自ずと物ができるだろうと。僕が興味を持てるその人と何かをやってみたいと。一緒に時間を過ごして、何かを育むような時間が持てるような関係性があれば、そこで自然に生まれてくる音楽が、その後の僕の音楽になるっていう考え方ですね。
現実の延長にあるバーチャルな体験ではなく、人生の中の根源的な大きな体験を作りたい
──小林さんと一緒にやってみて、BOOM BOOM SATELLITESとの違いは何か気付きましたか?
中野 えーと、日本語の文学と、その日本語のムードから発せられる、文化的なテイストというのが絶対にあると思います。同じロックンロールミュージックだとしても、英詞からスタートするのと日本語詞からスタートするのでは、共通項がないくらい違う文化だと思うから。すごくやってみたかったことでもあったし、一度きりの人生の中でまだ実現できてなかったことなので、僕にとってはすごく楽しかった。普段、例えばプロデュースとか作家的な仕事で日本語のロックミュージックを扱うことはあるわけですけど、あくまでもそのアーティストの作品だから。自分の音楽作品としてそれを作っていくことで、日本語から立ち上がってくるムードだったり、メッセージだったり、意思みたいなものをちゃんとサウンドデザインしていくことは、すごくやりがいがあることなんです。そこにおいて小林くんの言葉の力というのはすごく大きいです。
──ある種の洋楽カルチャーから生まれてきた中野さんの音楽と、小林さんの文学的、日本語的な部分から生まれてきた文化を融合したのが今のTHE SPELLBOUNDだとしたら、その両者はどういうふうに接続して今に至るのでしょう。
中野 「接続する」っていう意識は働いてないですね。僕が自然にその音楽に接することでできあがっていくんで。今の僕があるのは、これまでの人生の中で培ってきたものがあるから。その自分が小林くんの人生と交錯するところで何をするのかというところで、ガラガラポンと出てくるものがある。意識的にBOOM BOOM SATELLITESの何々を小林くんの日本語詞にくっつけるとか、そういうある種の足し算、掛け算みたいなことは意識してなくて。なんていうのかな、もっとオーガニックにひとつの造形物を作っていくような感覚です。
──それが目指す理想像みたいなもの。
中野 理想……本当に理想ですけど、それは英語も日本語も関係なくて、無意識にどっかすごいところに連れて行かれるような、トランス的な感覚だったりとか、解脱的な感覚だったりとか、何か成就するような体験みたいなもの。そういうものが得られるような音楽。目標というか、達成できるかわからないですけど、自分の音楽体験の中でもそういう瞬間が何度かあって。こんなに気持ちよかったら明日のことなんかもうどうでもいい、くらい気持ちよくなれたりとか、完全に委ねられてしまったりとか。何度かそういう経験を人生の中でしてきた。そういうときは、音楽の記号性みたいなものは関係ないんです。例えば流行っているビートスタイルとか。ポップミュージックのトレンドはいつも移ろっているわけで、何がどうだからカッコいいとか気持ちいいみたいな理屈ではないところで究極の音楽体験は起きると思うし、そういうところまで行けたらいいなと思っています。それは100人に聴かせて3人ぐらいしか起こらないことかもしれないけど、その3人はもしかしたら根本的に感覚が変わったり、人生が変わったりするかもしれない。音楽にはそんなスピリチュアルな力があると思うんです。
──そうですね。そう思います。
中野 例えば疑似恋愛をするためとか、友情を確認するためとか、現実世界の延長上にある架空のエンタテインメントを楽しむというのが、多くの人にとっての音楽の機能なんですけど、僕が求めているのはそういう現実の延長にあるバーチャルな体験ではなくて、もっと人生の中の根源的な大きな体験というか。「なんか人生観変わっちゃったわ」みたいな、視点が変わってしまうような、意識レベルが変わってしまうような、そういう体験です。
──野暮な質問ですが、それはどうすれば実現できるんですか?
中野 包み込まれるような、空気の振動を介して自分が未知の世界に放り込まれたような感覚になるためには……いろいろ条件がそろわないと難しいと思うし、オーディオ体験でもあるから、ライブのほうが関係を作りやすいかもしれません。例えばAirPodsとかじゃなかなか難しいかもしれない。いやAirPodsだったらありえるかな……なんて、話がだいぶ逸れちゃいましたけど。
──いや、それはけっこう本質的な話だと思います。自分の人生の総体みたいなものが自分の表現に反映される──言い換えると、音楽が自分の人生そのものであって、聴く人のそれと重なり合うことによって、より大きな体験になる。そういう感覚は、BOOM BOOM SATELLITESの頃からずっと持ってらっしゃった?
中野 そうですね、だんだんそうなっていったようなところがあります。川島道行が若くして亡くなって、僕はその人生を終えていく過程をすごく凝縮された時間の中で見ていたので。人は誰しも「死」という終わりに向かって生きている。その終わっていく、1つの炎が消える瞬間までの過程を見ていて、なぜ人は音楽を聴くのか、歌を歌うのかということを、どうしても考えさせられたわけです。
──なるほど。
中野 「なんのために生きているのか」「人生がなんのためにあるのか」ということを本当は考えたほうがいいんだけど、「あなたが生きている理由はなんでしたっけ?」と問われて「たまたま生まれてきちゃったんで」とか「死ぬのが怖いんで」とか、そういう“とりあえず”な感じで時間が過ぎていく人も多いんじゃないかなと思います。でも誰もが命は1つしかない。時間は10年の人もいれば、1年の人もいれば、100年の人もいるわけですけど、死ぬことは必ず共通に与えられる。で、それがどういう意味を持つのか。私たちに与えられているものは何か。なぜ君は歌うんだ?っていう。小林くんともその話をしました。なぜ僕たちは音楽をやってるんだ? 小林くんは僕と何がしたいんだ? みたいな。
──出会ってから実際に音を作るまで1年ぐらいあったんですよね。主にそういう会話に費やしてたわけですか。
中野 そういう会話は多かったですね。
──では小林さん、なんのために歌ってるんですか?
小林 僕は「歌うことで自分が幸せになること」が「周りが幸せになること」とイコールと言っていいぐらい大事なことだと思っています。言ってみれば、自分がその歌を歌うことで世の中が少しでもよくなったりとか、自分が本当のことを言うことで世の中の理想が少しでも実現したりとか、そういうことを考えないといけない。
──昔からそうでした?
小林 昔はそんなことまったく考えてなかった(笑)。何も考えてなくて、音楽が好きだなとか、自分たちの作ったこの楽曲が大好きだとか、ただ本当に音楽が好きだったっていうだけ。この音楽を聴いた自分のファンはどんなものをシェアしたんだろう、といったことにも頓着ないくらい。でも中野さんと対話して、それこそ曲を作る前段階からそういう話をずっとしていたんです。実際に音楽を作り始めて手を動かしても、何かが宿るような感覚だったり、「何かを起こそうとしてこれは自分から出てきたんだ」という感覚だったり、そういったものがわかるところに行くまではさらに時間がかかったんですね。




