開幕迫る、さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」に杉原邦生「最後まできっちりと」

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さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」が明日12月19日に初日を迎える。ステージナタリーでは16日、その舞台稽古初日の現場に潜入した。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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さいたまゴールド・シアターは、“年齢を重ねた人々が、その個人史をベースに、身体表現という方法によって新しい自分に出会う場を提供する”ため、前芸術監督・蜷川幸雄が、2006年に立ち上げた劇団。最終公演となる「水の駅」では、作者・太田省吾の教え子でもある杉原邦生が演出を担当する。

劇場に入ってまず聞こえてきたのは、絶え間なく流れる水の音。ほとんど素舞台のような舞台の真ん中には、なんの装飾もない、シンプルな水道がポツンと1つ配されていて、その蛇口からちょろちょろちょろ……と水が流れ続けている。稽古開始10分前になると、衣裳を着たキャストが舞台上に姿を現し始め、それぞれに水道に近づいて四方から見てみたり、水に触れてみたりし、ぐるりと舞台を見回した。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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稽古開始時間になると、まずは舞台監督から装置など舞台空間の説明が行われ、「今日は初めて水に触れるところをやっていきます」とアナウンスされた。そしてすぐに冒頭シーンの稽古がスタート。バスケットを持った少女が駆け込んでくるシーンで、真っ白いワンピースを着た石川佳代は大ホールの大きなステージをタターっと横切る。そこからちょっと振り返って水道を見つめた彼女は、バスケットからコップを取り出し、最初は怖々と、続けてごくごくと、最後はグッと一気に水を飲み込む。シーンとしてはわずか5分程度だが、コップに水が注ぎ込まれる瞬間、絶え間なく流れていた流水音が一瞬消え、しばらくするとコップに当たる音として聞こえてくるその音の変化が劇的だ。杉原は「もっとゆっくり!」と伝えつつ、コップを傾ける角度や水を入れる時間の長さなど、石川の側に立って細かに指示をする。石川はコップに水を入れて飲む、を何度も繰り返しながらその指示を身体に叩き込んでいった。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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続けて、大きな荷物を背負いながら竹居正武と客演の小田豊の2人が登場。手をつないで現れた2人は、ゆっくりと後ろ向きで水道に近づき、まずは竹居演じる男が水に触れ……。杉原は客席の間を歩き回りながら、男たちが蛇口を奪い合う様をさまざまな角度から確認し、「もっと口からあふれるような感じで(水を飲んで)良いですよ」と声を掛けると、2人はすぐさまそれに応じ、水で濡れることもいとわずに大胆に水を飲み始めた。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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次に現れたのは田村律子演じる、日傘を持つ女。うなだれて歩く女は、強い日差しに手をかざして黒い日傘を開く。が、中からいくつもの紙屑がこぼれ落ち……。真っ白なロングヘア、唇からはみ出た真っ赤なルージュは最初奇怪な印象を与えるが、水道を見つけ、絡みつくように水を飲もうとする様には躍動感と妖艶さがにじみ出た。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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日傘の女と入れ替わりでやって来たのは、長いロープを肩にかけて歩く北澤雅章演じる夫。白く細いロープが大ホールの空間を斜めに横切ると、その先に乳母車を押す百元夏繪演じる妻が姿を現す。夫がロープを引っ張ると乳母車と妻はそれにグッと引っ張られるが、妻が先に水を飲むと2人の関係は変化を見せ……。つぶれた大きなペットボトルからスムーズに水が出て来ず、2人はなんとか水を飲もうと、入れる水の量やペットボトルを掲げる角度を変え、試行錯誤を繰り返した。そんな2人に続いて現れたのは、大きな段ボールを背負った井上向日葵演じるスーツ姿の若い女。女は無表情に水道に近づき、水を指に受け……。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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舞台稽古はこのように、登場人物それぞれと水の絡みを確認する形で進んでいき、杉原は演出席に座っていることはほとんどなく、あるときは舞台上で俳優たちの傍らに立ち、またあるときは照明・音響スタッフの隣で相談しながら空間を作り上げていった。また本公演には今年解散したさいたまネクスト・シアターの元メンバーがゴールド・シアターのサポートとして数名参加しているほか、舞台美術の一部にはゴールド・シアター公演をはじめ蜷川演出作品に登場したさまざまな小道具が使用されている。ゴールド・シアターを支えてきた人たちの多様な思いがつまった舞台に、杉原は演出家としての鋭さを緩めることなく、しかし自ら和やかな空気を作り出しながら現場を盛り上げていった。休憩時間中、杉原に現在の手応えについて話を聞いた。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」舞台稽古の様子。

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杉原は「もともと『水の駅』って、とても密な小さな空間で作られた作品で、お客さんもグッと集中して観るような作品だから、今回の大ホールのような空間でどうやって作品を立ち上げるかがまずはポイントでした。でもこの劇場に慣れた、この空間をよくわかっているスタッフさんたちが、すごく協力的にサポートしてくださるので、繊細なこともダイナミックなことも、両方観せられる空間になっているのではないかと思います」と手応えを述べる。ゴールド・シアターのメンバーについては「俳優ってやっぱり、舞台で観るのが一番カッコ良いですね(笑)。僕もこれまで、ゴールドの皆さんのカッコ良い姿を客席でずっと観てきたし、今日の舞台リハーサルでもそれを感じました」と話し、「1人ひとりの存在感が力強く見えたら良いなと思っていたのですが、舞台リハを重ねることでさらにそれが実現できるのではないかと思います」と笑顔を見せた。

また「水の駅」の演出は、杉原にとって2019年に続き2度目となる。「セリフがないし、台本に具体的なことが書かれていない分、解釈の仕方がいろいろできて、世代や国籍も乗り越えられる作品だなと」と作品に対する思いを述べつつ、「今回はゴールド・シアターの歴史も感じるし、演劇や日本の歴史も感じられるし、そういったものがレイヤーとして見えてくるのが良いなと思います。太田(省吾)さんはずっと老いや死をテーマにしていましたが、今回そういった部分がよりくっきりと見えるというか。冒頭で男2人が出てくるシーンも、稽古の中で『あれ? 片方の男は死んでるのかもしれないな』って見えてきた瞬間があって。老いや死の匂いが、彼らの身体や表現力から見えてくるから、その点はもし太田さんがこの舞台を観たら喜んでくれるんじゃないかな(笑)」と自信をのぞかせた。

今回、ゴールド・シアターの最終公演を任された点については「僕が演出家を目指すきっかけになったのが蜷川さん。そして太田さんに出会わなければ演劇をやって来なかったと思う。その2人が今回この舞台で出会うのは、すごくうれしいことですね。舞台上に水道がポツンとある様子を見て、そのことを実感しました。ただ僕のそういった思いはお客さんには直接関係ないことなので、演出家としては最後まできっちりと、作品を仕上げることをやり遂げたいと思います」と力強く思いを語った。

さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」は12月19日から26日まで埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて。

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さいたまゴールド・シアター最終公演「水の駅」

2021年12月19日(日)~26日(日)
埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

作:太田省吾
構成・演出・美術:杉原邦生
出演:さいたまゴールド・シアター(石井菖子、石川佳代、大串三和子、小渕光世、上村正子、北澤雅章、佐藤禮子、田内一子、高橋清、滝澤多江、竹居正武、谷川美枝、田村律子、都村敏子遠山陽一、林田惠子、百元夏繪、渡邉杏奴 / 井上向日葵 / 小田豊

※高橋清の「高」ははしご高が正式表記。

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休館中|彩の国さいたま芸術劇場<演劇> @Play_SAF

ステージナタリーさんに舞台稽古初日を取材していただきました✨✨

初日間際の稽古場を包みこむ、期待と緊張が入り交じる独特の空気をレポートが公開されました📸

https://t.co/vzJXrQgQqv

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