
ありぼぼの音楽おしごと探検隊 Vol.01 [バックナンバー]
「なんでもやります」と作編曲を20年続けてきた神前暁さん
会社員から始まりジャンルレスに楽曲を作れる作編曲家に
2025年6月4日 20:00 29
作編曲家に向いているのは「こだわり抜ける人」
ありぼぼ 編曲家や作曲家にはどんな人が向いていると思いますか?
神前 編曲家はジャンルも問わず音楽を聴いている音楽博士みたいな人が向いていると思います。
ありぼぼ ちょっとオタクみたいな。
神前 そうですね。編曲するには音楽オタクの要素は必要だと思います。作曲家はそうとも限らなくて、たくさん音楽を聴いていなくても感覚的に最高のメロディを叩き出せる人もいるので。でもやっぱりこだわりが強い人が多いと思いますよ。どういう作曲スタイルにしても。
ありぼぼ 作編曲して歌が乗っていざ聴き直してみたら「もうちょっとこっちのほうがいいな」と、そこから手を加えることもあるんですか?
神前 ありますよ。音色もそうですし、歌詞が乗ったときに思っていたのと違うなと思ったら最後のほうの段階でも直します。そこまでこだわることで、絶対に曲がよくなるだろうと自分は信じているので。
ありぼぼ 神前さんのように最後まであきらめずにこだわり抜ける人がいい曲を作れるのかもしれませんね。
神前 うーん、僕はただ単にそこまでしないと曲に強度を持たせられないなと思うんです。世に送り出して、たくさんの人に聴いてもらえる曲にするにはそういう強いこだわりが必要かなって。ただ、これは自分で作編曲をやっているからできることで、編曲だけを担当する方は僕よりも圧倒的に作業をできる時間が少ないと思うんですよ。だから編曲家は限られた時間の中で正解を導けるような引き出しとスキルがある人が多いんじゃないかと思います。
ありぼぼ 確かに。
神前 あとはプレイヤーによっても仕上がりが大きく変わるので、よりよい楽曲を作るためにはそこも大事な要素です。歌や演奏によって自分が気付いていなかった曲のいいところを引き出してもらえたときにはとてもうれしい気持ちになります。逆に歌い手さんが何度やっても歌い間違える箇所があったら、やっぱりそれはメロディがよくないってことなんですよね。歌馴染みのよさも大事なので、あまりにうまくいかないときは現場でメロディを変えることもあります。
ありぼぼ そこまで!
神前 レコーディングもトラックダウンも全部現場に行きますよ。じゃないと怖いんです。それに編曲も自分だから、幸い口を出せる立場ですし。そういう意味では作曲家オンリーの方もすごいなと思いますね。メロディの時点でそれだけ完成形をイメージできるわけですから。僕の場合は徐々に完成形が見えてくるので、とてもじゃないですけど途中で手放すことはできません。
多くの人に刺さるにはそれなりの理由がある
ありぼぼ 作曲家や編曲家をやっていてどういうところにやりがいを感じますか?
神前 売れる、広がる、評価されるっていうのはもちろんうれしいですけど、自分で「この曲いいな」って思えたときが一番うれしいかな。あんまり売れてなくても「これは来た!」って自分で思える曲が好きなので。
ありぼぼ 完成したご自身の曲は自分でよく聴かれますか?
神前 自分の曲を聴きたくなるときがたまにあって、そういうときにたくさん聴くと感覚が研ぎ澄まされていく感じがするんです。というか、それをたまにやらないと自分が好きなものがなんだったのか忘れちゃう気がするんですよね。自分の好きなものはなんだったっけの確認で、自分の曲を聴くタームが必ずあります。
ありぼぼ となると一番の喜びは、自分が好きだと思う曲が売れてくれることですね。ヤバTにはよくあるんですよ。自分たちが気に入ってる曲ほど、売れない(笑)。こんな曲で大丈夫かなってリリースした曲のほうが人気が出たりすると、世間とのギャップを感じますね。
神前 ははは。でも多くの人に刺さるということはそれなりの理由が何かあるんだと思いますよ。パッと聴いて耳に残る強さとか。絶対作り手ってマニアックになるじゃないですか。そこが世間とのギャップなのかも。
ありぼぼ あー、それは確かに……。神前さんのヒット曲の中で、リリースする前から「これはいけるぞ!」と思って、その通りに売れた曲ってなんですか?
神前 「恋愛サーキュレーション」ですかね。あれは自分が大好きなテイストの曲なので。5年に一度くらいアイドルとかが歌ってくれたり、TikTokで使われたり、最近だと中国でも流行っていて、定期的にバズるんです。一方で「もってけ!セーラーふく」は作詞やレコーディングでかなり化学変化が起きてあの形になったので、あんなに売れるとは初めは思っていなかったのが正直なところです。
物語シリーズ「恋愛サーキュレーション」
泉こなた(CV.平野 綾)「もってけ!セーラーふく」
ありぼぼ 神前さんくらいヒット曲がたくさんあると、カバーされる機会も多いと思うんですが、そういう動画は観ますか?
神前 観ますよ。オリジナルに忠実なカバーもうれしいですけど、けっこうアレンジが加わっているものも楽しく観ています。
「涼宮ハルヒの憂鬱」楽曲は革命
ありぼぼ 神前さんは締め切りのギリギリまで粘って成果物を納品するタイプですか?
神前 粘るというか、僕は本当にスタートが遅いんです。「エンジンがかかる」とよく言いますが、エンジンがかからなきゃアクセルを踏んでも進まないですからね。さっさとかければいいのに遅いんですよ(笑)。
ありぼぼ ははは。最初のほうの話に戻りますけど、「Lost my music」はどんなふうにオファーされて作った曲なんですか?
神前 カップリング的な曲だったのであまり細かいオファーはなかったですね。パンクっぽい感じというイメージはあって、JUDY AND MARYの恩田快人さんが書くような曲を作ろうと思ってできた曲です。そのテイストは僕の中に引き出しとしてあったので、そんなに苦労せず書けました。「Lost my music」ってほとんど4分音符しかないシンプルな曲なのに、ラストにかけて込み上げてくるものがあるいい曲になったと思います。
ありぼぼ 本当に大好きな曲です。
神前 あれは意図せずに好きなものを出したら結果的にいい仕上がりになった幸せなパターンです。一方で「God knows...」のほうはなかなか難産で20個くらいデモを出した中から選んだんですよ。最終的に16ビートで、シンコペーションが多いテクニカルな感じの曲になりました。
ありぼぼ 特に「God knows...」はアニメが好きな人でなくても知っていて、世間にいい曲として浸透しているのが本当にすごいなと思います。革命ですよね。
神前 主題歌じゃなくて挿入歌なので、普通だったらアニメで1回流れて終わるところが、10年以上経っても愛してもらえているのは本当にありがたいことです。当時聴いた人がカバーしてくださったりとか、今は過去のコンテンツにもアクセスしやすくなったので、最近初めて聴いた人もいたりしてうれしいですね。カラオケでもよく歌われています。
ありぼぼ それってなかなか狙ってできることじゃないですもんね。「もってけ!セーラーふく」はベースラインがカッコよすぎて「これ弾きたい!」って思ったときに、「音楽だけ聴いてこの曲を知った気になってはあかん!」という気持ちになってアニメも観たんです。
神前 そういう話を聞くと、アニソン作家冥利に尽きます。
神前暁 プロフィール
1974年大阪府生まれ。有限会社モナカに所属する作編曲家。京都大学工学部情報工学科を卒業し、株式会社ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)を経て、モナカ所属の作編曲家に。「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズや「らき☆すた」、「化物語」シリーズ、「THE IDOLM@STER」シリーズなどの音楽制作を担当し、西川貴教やももいろクローバーZへの楽曲提供でも知られている。最新の劇伴担当作品はテレビアニメ「薬屋のひとりごと」。
ありぼぼ プロフィール
ありぼぼ(@yabaT_aribobo)|X
ありぼぼ(@shibata_aribobo)|Instagram
ありぼぼ(@shibata_aribobo)|TikTok
ヤバイTシャツ屋さんのほかの記事
タグ
ぼぼちゃん(neüron/にゅうろん) @aribobo_neuron
#ありぼぼ探検隊 ←ハッシュタグこれ使って感想や知りたい音楽関係の職業教えてくれるとうれしい! https://t.co/oKCoAXyjq2