左からありぼぼ、神前暁。

ありぼぼの音楽おしごと探検隊 Vol.01 [バックナンバー]

「なんでもやります」と作編曲を20年続けてきた神前暁さん

会社員から始まりジャンルレスに楽曲を作れる作編曲家に

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ヤバイTシャツ屋さんのベース&ボーカル・ありぼぼさんの新連載「ありぼぼの音楽おしごと探検隊」。この連載は「音楽に関する仕事をしたいけど、どういう仕事があるのかわからない」という声をよく耳にするというありぼぼさんが、読者の皆さんに代わって音楽業界で働くさまざまな職種の人にインタビューし、仕事内容やその職業に向いている人をリサーチする企画です。

ありぼぼさん自身もバンドで何曲か作詞作曲をしていますが、ほかのアーティストやアニメ作品などに音楽を提供する作曲家の仕事内容は、きっとぜんぜん違うはず。そこでVol.1となる今回は、アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の挿入歌「God knows...」やアニメ「らき☆すた」のオープニング主題歌「もってけ!セーラーふく」、「THE IDOLM@STER」シリーズの楽曲などを手がける作曲家、編曲家、音楽プロデューサーの神前暁さんを訪ねます。自分の好きなコンテンツの多くにクレジットされている神前さんに、ありぼぼさんは作編曲家という職業について根掘り葉掘り質問を投げかけました。

/ 清本千尋 撮影 / YURIE PEPE

実はあんまり音楽を聴いてこなかったもので……

ありぼぼ はじめまして。今回神前さんにお声がけさせていただいたのが、自分が好きなコンテンツの楽曲のクレジットでよくお名前を見かけて、あれもこれも神前さん!?となったからで。中でも驚いたのが「ことばのパズル もじぴったん」のBGMでした。

神前暁 そうだったんですね。ちなみに「もじぴったん」は僕が初めて1人で音楽を担当したタイトルなんです。そういう意味でキャリアの原点ですね。

ありぼぼ 神前さんの作家業は本当に幅広いですよね。一番好きなのは「涼宮ハルヒの憂鬱」の「Lost my music」です。メロディが切なくて青春パンクな雰囲気もあって、ストレートにいい曲。

涼宮ハルヒ(CV.平野 綾)「Lost my music」

神前 「Lost my music」派なんですね。僕もです(笑)。世の中では「God knows...」派のほうが多いと思っていたので、同志が見つかってうれしいです。

涼宮ハルヒ(CV.平野 綾)「God knows...」

ありぼぼ 「God knows...」も好きなんですけど、「Lost my music」が一番心に刺さりましたね。キュンと来る切なさがあって。あと「化物語」の「まよいマイマイ」(アニメの第3話から第5話までのストーリー)の曲も好きなんですよ。

神前 「帰り道」かな? あれは根幹に四つ打ちサウンドがあって、そこに電子音やギターを付け加えているので、ミクスチャーな感じですよね。

物語シリーズ「帰り道」

ありぼぼ そうです! ピコピコした電子音が入った曲もやられてるんですよね。神前さんの音楽ってホンマに幅広くて、どんなルーツの方なんやろうと思ってたんですけど……。

神前 ルーツを聞かれるのが一番困るんですよ。実はあんまり音楽を聴いてこなかったもので……。クラシックピアノをやっていたのと、ブラスバンドでトランペットを吹いていたのがルーツですかね。Earth, Wind & Fireとか、ファンクは好きです。でも本当にそれくらいしか挙げるものがなくて。

ありぼぼ そうやったんですか。だからこそいろんな要素を自由に取り入れて、ミクスチャーしていけたところもあったんですかね。

神前 そうかもしれません。毎回オーダーがあるたびにそのスタイルを勉強してアウトプットして、自分の新しいカードにしていった感じですね。

オーダーの仕方は本当にさまざま

ありぼぼ 楽曲のオファーはどういう形でもらうことが多いですか? テーマだけだったり、リファレンスがあったり……。

神前暁さん。

神前暁さん。

神前 リファレンスをくれる場合もありますけど、すっごい漠然としたイメージだけ来て、ジャンル選びから任されるときもありますね。僕の場合はキャラクターソングを書くことが多いので、歌う人とかキャラクターをもとにすり合わせをして方向性を決めていきます。

ありぼぼ 「バンドサウンド1本で」とか「ピコピコサウンドで」とかっていうオーダーのされ方もしますか?

神前 ありますね。さっきお話ししていた「まよいマイマイ」の曲は、篠原ともえさんや電気グルーヴの石野卓球さんの曲のイメージで、というリクエストを受けて制作を進めていきました。同じアニメシリーズでも別の曲だと全然違うオーダーの仕方だったり、特にリクエストはないパターンもあったりして、本当にさまざまですね。

ありぼぼ そうなんですね。楽曲を作るとき、神前さんはどこから手を付けるタイプですか?

神前 先にメロディを作りますね。作曲するときはシンプルなピアノの音で考えるんですけど、ピアノとメロディだけで「これは名曲だ!」と確信できるほどのメロってそうそう出てくるものではなくて、途中でメロは一旦保留してアレンジの肉付けを始めることが多いかも。そしたらなんとなくいい曲っぽく思えてくる。そういう意味だと作曲とアレンジを同時進行しているかもしれません。

ありぼぼ トラックがあってメロディを乗せるのではなく、メロを考えながら肉付けをしていくというのは珍しい気がします。

神前 そうですかね。ギター1本で名曲を書いて編曲はアレンジャーに投げるという方もいると思うんですけど、僕にはちょっとそういうのは無理。作曲とアレンジはセットですね。ありぼぼさんはどうやって曲を作られるんですか?

ありぼぼ バンドのときはギター&ボーカルのこやまさんがデモを作ってきてくれるんですが、ギター1本の弾き語りのときもあるし、リズムだけ打ち込みで入ってるときもあって。でもドラムを叩く人じゃないので、現実的じゃないリズムだったりすることもあります(笑)。

神前 腕が3本必要なパターンとかね(笑)。とはいえヤバイTシャツ屋さんは3ピースじゃないですか。ということは、3人でスタジオに入ってアレンジを詰めていくんですか?

ありぼぼ そうですね。

神前 いいなあ。僕、そういう曲の作り方にめちゃくちゃ憧れがあるんです。ずっと打ち込みで最後にスタジオに入ってダビングしたり、リズムを差し替えたりするんですけど、そこまではずっと自分だけのカラーで、スタジオに入って初めて自分以外のカラーが入ってくる。曲作りやアレンジの段階でいろんな人の音楽性を取り入れられる曲作りもいいなあと思っていて。

ありぼぼ でも神前さんはやっぱりお一人でやっているとは思えない楽曲の幅広さですよ。

神前 「なんでもやります」って、20何年やっていたら結果的に広くなりましたね(笑)。

神前暁がありぼぼの歌声にあわせた曲を作るなら

ありぼぼ 楽曲制作の依頼を受けるときに細かくオーダーがあったほうが作りやすいですか? それともある程度丸投げでも楽しく作れるタイプですか?

神前 情報が多いほうがブレないので、細かくオーダーがあるほうがありがたいですね。リファレンスとして何か楽曲が来たときには、丸パクリはもちろんできないので、そこからどの要素を求めているのか、それを汲み取ることにはかなり気を使っています。

ありぼぼ 私はヤバTのほかにソロでも楽曲をリリースしているんですけど、もし神前さんが私の声を生かした曲を作るとしたらどんな曲が浮かびますか?

神前 お会いしてみて思ったのは、ありぼぼさんは歌っているときはかなりキーが高いですけど、普段からすごく高いわけじゃないんですよね。その音域の幅広さを生かして1人オペラなんてどうですか? 声が高い人の役から低い人の役まで全部1人でやるという(笑)。Queenみたいなイメージで。

ありぼぼ ははは。1人で何人分も歌うのは面白いですね。

神前暁さんからの提案に笑うありぼぼさん。

神前暁さんからの提案に笑うありぼぼさん。

神前 音源と同じキーでライブでも歌うんですよね? 歌う声としゃべる声にこれだけ差がある人もなかなかいない気がします。

ありぼぼ もともと地声が高かったんですけど、中学生の頃に「ぶりっ子やん」みたいなことを言われたのがけっこうトラウマになって、低い声でしゃべるクセを付けたらこうなりました。

神前 わあ、そういう話って本当にあるんですね。ヤバTって男性とユニゾンでオクターブが入ったりしますけど、あのバランスもとてもいいなと思っていて。

ありぼぼ 元が高いので歌うときは高いほうが楽なんですよ。逆に低いキーを歌うのが難しいんです。

会社員としてキャリアをスタート

ありぼぼ そもそも神前さんはどうやって今の職業に就いたんですか?

神前 就職活動のときに音楽に関わる仕事がしたいと思って、ローランドやヤマハといった楽器メーカーなども受けたんですけど、結果的にはデモテープを送ったナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)さんに採用していただいて入社しました。作曲家になろうと思ってなったというよりも、音楽に関する仕事をしたいと思ったところからゲーム会社に拾っていただき、会社員として何年か働いたあとに独立してアニメソングを担当する作曲家になりましたね。

ありぼぼ 編曲家にもなろうとしていたわけではなく?

神前 曲を作って、ほかの人にアレンジを頼まなかったら自分に編曲のクレジットも付くんですよね。たとえ弾き語りであっても。僕はほかの方の編曲だけをお受けするってことはほとんどなくて、自分の楽曲をアレンジまでやっているだけなので、編曲専門でやられている方のスキルってすごいなと思います。

神前暁さんの話を真剣に聞くありぼぼさん。

神前暁さんの話を真剣に聞くありぼぼさん。

ありぼぼ ほかの人が作った曲をよりよいものにできるように膨らませるってすごいですよね。相当知識がないとできない。

神前 そうなんですよ。たまにやるときは頭を悩ませてます。その曲のよさをどうやったら引き出せるのか、またそこに自分の色をどこまでプラスするのか……。自分の曲だったら最初のメロディを作るところから最後にトラックダウンするところまで見届けるんですけどね。

ありぼぼ そこまで曲につきっきりなら、作家というよりアーティストっぽい感じもしますね。

神前 そうですね。職業作家とは言い切れないかもしれません。

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作編曲家に向いているのは……?

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