Vol.3となる今回はジャケットデザインについて知るために、デザイン事務所Central67を訪ね、椎名林檎やスピッツなどさまざまなアーティストの名盤ジャケットを手がけてきたアートディレクターの木村豊さんにインタビュー。音楽が好きな木村さんがどのようにアートディレクターの道を歩むことになったのか、またどういったことを心がけてジャケットをデザインするのか、話を聞きました。ちょっぴりシャイな木村さんとありぼぼさんが打ち解けていく様子もお楽しみください。
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“合っている”とうれしくないですか?
ありぼぼ 木村さんと言えば東京事変さんとか椎名林檎さん、スピッツさんのジャケットのイメージがあって。今回対談のオファーを受けてくださって、改めて木村さんが手がけたジャケットを確認していたら、赤い公園の「公園デビュー」のジャケットも作られていたことを知りました。「公園デビュー」、ジャケ買いしたんですよ。
木村豊 発売当時?
ありぼぼ はい。CDショップに並んでいるのを見て、すごくインパクトがあって。あと、坂本真綾さんの「シンガーソングライター」のジャケットもすごく好きです。ピアノの鍵盤に坂本真綾さんがいるジャケット。
木村 猫と一緒にいるやつですね。
ありぼぼ そうです。「シンガーソングライター」の収録曲を聴くと「あのジャケットのアルバムに入っていたやつ!」と思い出すくらい視覚的にしっかり覚えています。ジャケットのアートディレクションって、つまりは音楽を視覚化するということだと思うんですけど、制作するうえで心がけていることを教えてください。
木村 単純に作品に“合っている”とうれしくないですか? 合ってないよりも合っているほうがいいだろう、ということを心がけながらやっていますね。
ありぼぼ 木村さんの作るジャケットはどれも「これしかないやろ」ってくらいぴったりだなと思うものばかりです。
木村 それはその作品を愛しているからだと思いますよ。そういうマジックはきっとある(笑)。
大事なところだけわかればいい
ありぼぼ 木村さんは有名な作品のジャケットをたくさん手がけていますが、作品をまるっと聴いてデザインを仕上げていくのでしょうか?
木村 そうだといいんですけど、最近は作品がまだできていない状態で頼まれることも多いですね。タイトルだけ決まってるとか歌詞だけできてるとか、曲があってもCM用の1小節だけとか。
ありぼぼ そんなこともあるんですね。でも本当は作品がちゃんとある状態のほうがイメージは膨らみやすいですよね?
木村 うーん、結局ジャケットってその作品の隅から隅まで全部説明するものではないので、大事なところだけわかればいいっちゃいいんですよ。「この曲のこの部分をジャケットで表現したい」っていう方も多いですし。
ありぼぼ その作品のキーになるものがあれば、ということですね。
木村 そうですね。
ありぼぼ 最近は配信のみでリリースされる楽曲も増えましたけど、それによってジャケットの作り方に変化はありましたか?
木村 レコードからCDになって、そこからさらに携帯画面に収まるようなサイズになりましたからね。同じものではないなと思っています。レコード、CD、配信、それぞれ別物として考えて、目にしたときに一番いいものになるように制作していますよ。
いつの間にかアートディレクターになった
木村 ありぼぼさんたちがジャケットを作るときは、自分たちからアイデアを持っていきますか?
ありぼぼ ヤバTの場合は学生時代からずっと一緒にやっているイラストレーターの子がいて、その子にだいたいのイメージを伝えて作ってもらう感じですね。
木村 絵だけではなく、その方にデザインもやってもらうんですね。
ありぼぼ はい。例えば「スペインっぽくしてほしい」とかそんな感じですけど(笑)。木村さんにジャケットをお願いするアーティストの方たちはどんなふうにアイデアを持ってこられますか?
木村 同じように「◯◯っぽいやつ」とかそういうところからですよ。そこからどうするか、打ち合わせでイメージを膨らませていきます。その場で決まっちゃうときもありますけど、1回持ち帰るケースが多いですね。
ありぼぼ 木村さんがアイデアを一度形にして、そこから何度かラリーがありますか?
木村 それで決まる場合もありますし、さらに意見をもらって変更することもありますね。まあ、それぞれに予算もありますから。とはいえ、1回のラリーで8割くらいは方向性が固まりますね。
ありぼぼ 木村さんはどういった経緯で、音楽作品のアートディレクションを手がけるようになったのでしょうか?
木村 アートディレクターを目指していたというよりも、デザイナーの仕事をしていたら音楽周りの仕事が増えたという感じですかね。ジャケットデザインに写真を取り入れたいとなったら、その撮影のディレクションをしないといけない。じゃあ撮影を誰にお願いするのかとか、そういうことも自分でやるようになったらいつの間にかアートディレクターになったみたいな感じなんですよ。
ありぼぼ 気付いたときにはアートディレクターだった。
木村 そうなんです(笑)。だからどうやってアートディレクターになったかと言われると、そもそも目指していたわけではなく自然にそうなったみたいな感じで。
ありぼぼ アートディレクターとして最初に携わった作品はなんだったんですか?
木村 撮影ディレクションも含めて自分がやるようになったきっかけはスピッツの「ハチミツ」ですね。これがアートディレクションというものなんだなと実感した作品です。
平成と言えば……
ありぼぼ 今、私はソロでも活動しているんですが、ジャケット作りで煮詰まっていて……。平成カルチャーが好きで、そういうテーマでジャケットを作りたいんですけど、そういったテーマでジャケットを作るとしたら木村さんならどんなものが思い浮かびますか?
木村 平成って具体的には何年くらいですか?
ありぼぼ 私が平成6年生まれなので、そこから大体2012年くらいまでですかね。平成っぽいサブカルチャーが好きなので、そういったものを表現したくて。
木村 学生の頃、流行っていたサブカルチャーってどんなものでした?
ありぼぼ 自分が中学生の頃はニコニコ動画とかボーカロイドも主流になっていて、アイドル文化や深夜アニメがまだアンダーグラウンドだった感じですね。
木村 アンダーグラウンドだったサブカルチャーがわかりやすくていいんじゃないですか?
ありぼぼ あとは2ちゃんねるとかのネット文化もサブカルチャーかなと思うんですけど……。
木村 暗黒な文化(笑)。でもそういうのって令和になっても残っているサブカルチャーですよね。逆にメジャーで流行っていたものはなんでしたか?
ありぼぼ 学校ではジャニーズがすごく流行っていましたね。友達もみんなHey! Say! JUMPとかを聴いていました。
木村 なるほど。まだスマホはなかったですか? 音楽は何で聴いていた世代ですか?
ありぼぼ スマホはまだ持ってなくて、MDでプレイリストを作ってウォークマンで聴いてました。
木村 この間、30歳くらいのバンドの人が「MD最後の世代だった」と話していて。MDの時代はせいぜい10年そこらで終わって、そこからすぐにiPodになっちゃいましたよね。レコードやカセットとは違ってMDって絶対復活しなさそうだし、あの時代だけのものだと思うんですよ。
ありぼぼ 確かに。でもいろんなデザインのMDがあったし、ウォークマンまであったのに。
木村 そうそう。だからジャケットにMDを登場させるのはどうですか?
ありぼぼ それめちゃくちゃいいアイデアですね。絶対かわいくなる。ありがとうございます!
スピッツ「チェリー」短冊ジャケットの裏話
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音楽ナタリー @natalie_mu
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Vol.03 ゲスト:Central67 木村豊さん
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名盤のジャケットを多数手がけるアートディレクターの木村豊さん。音楽が大好きな木村さんは作品のジャケットをどのように考え、制作しているのか、話を聞きました。
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