左からZeebra、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.6(後編) [バックナンバー]

「フリースタイルダンジョン」が見せた夢:Zeebra

「世界で一番デカいMCバトルシーンは日本にある」と言わせたい

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「BATTLE SUMMIT」参戦と「FSLトライアウト」での誤算

左からZeebra、KEN THE 390。

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──Zeebraさんは、2022年に日本武道館で行われた「BATTLE SUMMIT」に出場されます。

Zeebra 「逃げ切れなかった」っていうのが正しいのかな(笑)。俺の性格上、あれ以上バトルから逃げられなかった。それに、こんなにMCバトルのプロジェクトに関わる以上、その現場にもちゃんと参戦しないと、いい加減もうカッコつかないなとずっと感じてはいたし、俺自身、本気でやってみたい、本気だったらどこまでいけるのか興味があった。もし俺が出ることでみんなが沸いてくれて、面白いと思ってくれるんだったら、そんなうれしいことないからね。

──負けることによるリスクも考えられたと思いますが。

Zeebra コテンパンに負けたり、途中で詰まって何も言えなくなるようなダサダサのバトルをしたら、マイナスにしかならないし、ラッパーとして終わるとは思ってた。でも、負けるとしてもちゃんと全力を出し切ったなら、観客はもちろん、俺自身も納得できるだろうなと。それでUZIと出場前にスパーリングをした……けど、そこまで根を詰めてはやらなかったかな。どちらかと言えばイメトレ。殺しのラインを頭の引き出しに入れておいて、それをバッチリのタイミングで出せるように心を整理していたというか。

KEN バトルでは漢さんとDOTAMAさんに勝利しましたね。

Zeebra 2人とは縁もあるし、ぶつかったときのシミュレーションができてたのは大きかった。だけど、Authority戦は完全にノープラン。でも、彼との試合が一番評判がいいのは、そういう潔さとか、生の部分が垣間見えたからなのかな。

──そして2023年にはチェアマンを務める「FSL(FREE STYLE LEAGUE)」内のプログラム、「FSLトライアウト」の予告動画を巡って、端的に言えば“炎上”が起きます。Zeebraさんがさまざまな試行錯誤を繰り返してきたことは、今回のインタビューでも伝わると思いますし、「FSLトライアウト」もその1つではありますが、一方で口論、諍い、暴力が表出した予告動画には、個人的にも強い違和感を感じました。

Zeebra はっきり言えば“見誤り”があった。FSLは「BreakingDown」(BD)と運営の母体が同じだから、まず運営上の連携がある。俺もBDが好きだし、梵ちゃん(梵頭)もBDに出場したりするから、視聴者層が近いと思ってたし、それを連動させることができたら、より外に広がるんじゃないかという目論見があったんだよね。だけどフタを開けてみたら、BDへの認知度やプロップスが、MCバトルファン、ヒップホップファンの中では予想以上に低くて、BD的な煽りへの拒否反応が強かった。完全な誤算だったね。

──それは出場者も然りだったんではないでしょうか。

Zeebra そう。「FSLトライアウト」に応募してくれたラッパーは、シリアスにラップに取り組みたい人も多くて、BD的なやんちゃなタイプは想定よりも少なかった。だけど映像の制作側が、見た目が派手なほう、そこでのいざこざのほうにより強くフォーカスしたから、やんちゃな側が余計に悪目立ちしてしまって、正直言えば最初にイメージしていた方向とはだいぶ違うところに着地してしまった。だから、構成のチェックや映像の確認も、チェアマンである俺がするべきだったという反省がある。

KEN なるほど。例えば「ダンジョン」で、T-Pablowが晋平太の胸ぐらをつかんだシーンも、そこだけを切り取ったら、炎上してた可能性があると思うんです。でも、試合の流れを見れば、それだけではないことがわかるし、「FSLトライアウト」もそういう部分があったのかなと、本編を観て思いました。

Zeebra FSLに関して、俺はチェアマンではあるんだけど、完全な統括ディレクターのような立場ではないんだよね。ただ、対外的な立場にいるならば、責任は俺が持つべきだし、俺がステートメントを出したり、叩かれたりするのも仕方ないと思ってる。

KEN 「FSLトライアウト」の件は、炎上とひと言で片付けるのは乱暴だなって。あの事象が起こったことは、1つの問題提起になったし、それに対しての意見を、アーティストもリスナーもSNSを中心に発信して、Zeebraさんもステートメントを通して、どんな意図があって、ここが間違ってた、こう変えていく、という言葉を残した。そういう議論が生まれたのは、すごくヒップホップ的だと思ったんですよね。

Zeebra 当事者である俺が言っちゃいけないというのを前提としたうえで発言をするけど、あの議論はすごく健康的で、うれしいことだった。やっぱりヒップホップは文化だなと思ったよね。

KEN 美化してると思われるかもしれないけど、あの事象が無視されたり、何も議論が生まれなかったりするよりは、炎上することでコミュニケーションが生まれたのは、健全だなと思いましたね。

Zeebra 世の中で起きていることに対して、どう捉えて、どう対処していくかを自分の頭で考えることがヒップホップだと俺は信じているし、みんなもそうなんだなと改めて感じたな。

KEN 全員がシーンの参加者であり、当事者であるという。

Zeebra 俺のやり方が違うと思ったら、そう言ってほしいし、俺もそれが考えるきっかけになるからね。

「世界で一番デカいMCバトルシーンは日本にある」と言わせたい

左からZeebra、KEN THE 390。

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──では、これからのFSLにはどのようなイメージを持たれていますか?

Zeebra 2023年までは大会を開く、ランキングを作るみたいな動きが中心だったけど、2024年はもっとコンテンツや内容を膨らませていこうという話になってる。トライアウトも含めて、積極的に新人の発掘もしたいよね。

KEN ニュースターの発見や、今の既存のMCバトルシーンではスポットが当たりきらないラッパーをどうやって見つけるかは、大事になりそうですね。

Zeebra まさにそれ。新陳代謝を起こしたい。あとはバトルだけで食える人間を生みたいね。それにはFSL自体のマネタイズの問題は当然大きくなる。ランキング制度を含めて、コミットするMCの活躍に見合った賞金を渡すために、スポンサーを見つけたりもしないといけないし、そういう代理店的な動きも含めて、もっとMCバトル業界にお金を流せるようにしたい。それがバトルを盛り上げるモチベーションには確実になるだろうし。

──ネガティブな意味ではありませんが、“産業としてのMCバトル”を成立させるというか。

Zeebra ただ、それが行き過ぎると、炎上させて収益を得るというビジネスモデルにもつながってしまう。俺はバトルでそれをやるのは不本意だと思ってるし、スレスレのことをあえてやりたいとは思ってないけど、それが数字につながるのも、1つの事実だからさ。そのバランスを考えないといけないよね。

──“ヒップホップピュアネス”と“話題性と数字”とのバランスですね。

Zeebra 俺を古くから知ってくれてる人は、俺がどう考えているかわかってくれると思うけどね。でもFSLでは新しいことをどんどんやらないといけないと思ってる。MCバトルシーン全体のためにもね。

──これからのシーンはどのように進んでほしいと思っていますか?

Zeebra 大きくなるに越したことはないと思う。もちろん、大きくなることで薄まって終わっていく、という流れには気を付けるべきではあると思うけど。それでもMCバトルで何万人も集められる国なんて、ほかにはないでしょ。「Red Bull Batalla」ぐらい?

KEN あれはスペイン語の話者が対象だから、そもそも母数が大きいですからね。

Zeebra だから、ここまでいったら「世界で一番デカいMCバトルシーンは日本にある」と言わせたいよね。それぐらいの気概を持ちたい。日本に関して言えば、“MCバトルだけで完全に成立する”と“ヒップホップの一部として成立する”の2パターンがあると思うんだよね。今までは後者をメインに考えていたけど、前者の考え方もあると思うんだ。

──いわゆる“ヒップホップイズム”よりも、“ラップ / バトルという表現形態”が中心になるというか。

Zeebra そこにどうFSLが関わるのか、すくい上げるのか、距離を置くのか、とか考えることはたくさんあるよね。「Red Bull Roku Maru」みたいな持ち時間制も話題になってるけど、あの形式だとトップオブザヘッドには適正がなくても、構築したリリックなら自信がある人間も出られるじゃない?

KEN ディスることが苦手なラッパーも、それを聴くのが苦手なリスナーもいるし、そういう人にアプローチしやすいコンテンツですよね。

Zeebra そうそう。いわゆる“バトル派”と“音源派”の溝も埋められるんじゃないかなって。そういう選択肢を増やすことが、これからは必要だと思うし、それはFSLでも積極的にやっていきたい。

KEN より広いアプローチを考えているんですね。

Zeebra 俺は「とにかくヒップホップを盛り上げたい」という一心で生きてるから。MCバトルも盛り上げると同時に、音源や“ヒップホップゲーム”も盛り上げていきたいとずっと思ってるからね。

KEN ちなみに、バトルへの参戦はこれからも考えていますか?

Zeebra まあ、オリンピックより頻度は低いかもしれないけど。まだKENとも戦ってないわけだしね(笑)。

KEN 楽しみにしてます(笑)。

Zeebra(ジブラ)

東京都出身のヒップホップ・アクティビスト。キングギドラのフロントマンとして1995年にデビューする。日本語ラップの礎を築いたグループとして高い評価を得つつも、翌年にグループは活動を休止。1997年にシングル「真っ昼間」をリリースし、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。日本のヒップホップシーンの顔役として活躍し、2014年に自身のレーベル「GRAND MASTER」を設立。同年夏には自身がプロデュースするヒップホップフェス「SUMMER BOMB」をスタートさせた。2015年にはZeebraがオーガナイズとメインMCを務めるMCバトル番組「フリースタイダンジョン」がテレビ朝日で放送開始。2017年、ヒップホップ専門ラジオ局「WREP」をインターネットラジオとして開局した。東京都渋谷区の「渋谷区観光大使ナイトアンバサダー」を務めるなど、その活動は多岐にわたる。

Zeebra -Information Headquarters-

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。

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