Girls be bad「sixteen's pleasure」特集|松隈ケンタ、独白

福岡を拠点に活動するガールズグループ・Girls be badが、8月20日に2ndアルバム「sixteen's pleasure」をリリースする。

総合プロデューサー・松隈ケンタが「もう一度BiSHを作る」と立ち上げたGBBは、結成1年で独自のエンタメ性を確立。野球の応援団さながらの太鼓を用いたパフォーマンスや、ファン参加型のレコーディング企画が話題となっている。

音楽ナタリーでは、松隈ケンタとGirls be badそれぞれのインタビューを掲載。前編では松隈が地元・福岡にこだわる理由、GBBの斬新なコンセプト、音楽制作の裏側、そしてWACKとの別れと新たな挑戦などについてたっぷりと話を聞いた。後編ではGBBメンバーが1年の活動を振り返りつつ、アルバムの注目ポイントを紹介する。

取材・文 / 田中和宏撮影 / 大橋祐希

松隈ケンタ インタビュー

福岡から世界へ、松隈ケンタの新たな挑戦

──ひさしぶりのインタビューですね。以前、PIGGSのリリースに伴うプー・ルイさんとの対談取材以来、約2年ぶりです(参照:PIGGS「RAWPIG」特集|プー・ルイ×松隈ケンタ対談)。

それこそ全盛期はナタリー、OTOTOY、ナタリー……みたいな感じでたくさんメディアに出てましたけど、ちょっと期間が空きましたね。今回はひさびさということもあって、話したいことがいっぱいあるから楽しみです。

──松隈さんは福岡出身かつ在住ですが、長らく東京でも活動していましたよね。再び拠点を福岡に移したのはどのタイミングなんですか?

2018年に福岡に戻りました。結婚して子供が生まれ、娘が2歳くらいになったタイミングで地元に帰ろうと決めたんです。妻も九州の出身で、こっちで結婚して子供も生まれたから、家族で戻ってきました。

──2018年前後というと、BiSHをはじめ、WACK所属グループの楽曲を大量に手がけていた印象があります。当時は年間どのくらいの曲を作っていたんですか?

リリースした曲だけで最大200曲くらい。ボツ曲を含めるともっとたくさん。コンペもあったから全部が使われるわけじゃないけど、めっちゃ作ってましたよ(笑)。

松隈ケンタ

松隈ケンタ

──年間200曲以上! どんな制作スタイルだったんですか?

基本は分業。SCRAMBLESでクリエイターが集まって、メロディ、トラック、アレンジ、ミックスを分担する。世間だと僕は「曲を作る人」と思われがちだけど、レコーディングのディレクターとしての時間のほうが長いんです。ギターやドラムのチェックを全部やるし、今回のGirls be badのアルバムで言うと、ミックスも新スタジオ(福岡の西側・糸島に作られたBADKNee Garage)で全部やりました。曲作りはゾーンに入ると1日で何曲も作っちゃうけど、エンジニアとしての作業が時間の大半を占めてます。作曲だけに専念できたらもっと作れるってことです(笑)。

──松隈さんの会社はSCRAMBLESとBADKNeeという2つの表立った部門がありますが、それぞれの内容は?

SCRAMBLESはクリエイター部門、BADKNeeはアーティスト部門ですね。会社としては同じ株式会社SCRAMBLESですけど、役割を分けて効率化している。分業って言うと特殊に見えるかもしれないけど、メジャーな音楽制作やテレビの現場でも普通のことですよね。カメラはカメラマン、照明は照明のプロがいるように、うちもチームで動くから質が高いものが早く作れるんです。

福岡へのこだわりとGBBの立ち上げ

──松隈さんはこれまでサウンドプロデューサーとして活躍してきましたが、2024年夏には総合プロデューサーとしてGirls be badを始動させました。松隈さんの出身地である福岡へのこだわりを感じます。

日本ってなんでも東京に集中しすぎてる気がするんですよね。海外だとロスやニューヨークみたいにいろんな都市にミュージシャンがいるし、リモートでレコーディングする文化も根付いてる。僕はこれまでマレーシアでアイドルを作ったり、イタリアでオーケストラを録ったり、海外での音楽制作を経験しました。日本でも、福岡や札幌、大阪から音楽シーンが広がったらいいなって。福岡にはHKT48やLinQみたいな地元に根付いたアイドルがいるし、Pale Duskや、残念ながら解散が決まってしまいましたけどDeep Sea Diving Clubといったバンドも全国区で活躍するようになった。そういったアーティストに負けじと、「福岡から日本や世界を目指す」というのが、僕のテーマと言えます。

──やはり地元愛が強いですね。具体的にはどんな活動を?

僕個人の活動としては、久留米ふるさと大使として地元の音楽振興に携わったり、福岡音楽都市協議会で100人近い福岡ゆかりのミュージシャンと曲を作ったり。コロナ禍では地元の高校生向けの音楽イベントもやりました。そこではGBBのメンバー、あやかをスカウトしたんですよ。福岡ソフトバンクホークスで始球式もやらせてもらう予定がありますし、音楽以外でも福岡を盛り上げたいと思っています。鮎川誠(SHEENA & THE ROKKETS)さんのような偉大な地元の先輩とも一緒に仕事をした経験もあります。福岡の音楽シーンを本気で大きくしたいので、なるべくいろいろなことに携わりたいんです。

Girls be badと松隈ケンタ。

Girls be badと松隈ケンタ。

松隈イズムが宿るGirls be bad

──福岡の音楽シーンを大きくする。そんな思いを抱きつつ、昨年8月に始動したGirls be badのコンセプトは?

「福岡からもう一度BiSHを作る」という意気込みで始めました。BiSHやBiSのときみたいに、常識にとらわれない自由なエンタメを追求したかったんです。個性的な4人のメンバーがそろってから方向性が固まった部分もありますけど、最初から「やりたいことをやる」と決めてました。アイドルの枠組みを取り入れつつも、大きくはみ出して。例えばRed Hot Chili Peppersにメンバーカラーなんてないですよね。Aerosmithに「メンバーカラーが青のジョー・ペリー」とか言わないし、そんなの求めないですよね(笑)。既成概念にとらわれず、面白いと思ったことをなんでもやるのがGBBのスタイルです。

──GBBのステージはエンタテインメント性が高いと思いました。遠征をすれば福岡のお土産をお客さんにばら撒いたり、車のハンドルを使ってパフォーマンスしたり。

そう! 「湾岸高速」って曲の振付で運転の動きがあったから、「ハンドル持ったら面白いんじゃね?」って思い付いたんです。ちょうど僕が趣味でレトロな国産スポーツカーを買おうとしていて、ハンドルだけ試しにステージで使ってみたら、アメ車みたいな大きいものだからインパクトが強くばっちりハマって(笑)。公私混同というのは承知しつつ、ライブで定番になったから、そのハンドルはステージ用。自分のハンドルは別で買い増しました。

結成から1年、Girls be badの成長

──結成から1年、GBBの成長をどう見てますか?

最初は厳しいことも言ったけど、ツアーを経て彼女たちの初期衝動がいい感じのアウトプットに変化してきたと思います。先日、西川口HeartsでBADKNeeの新イベント(「BADKNee presents "BUFFERING...#001"」)があって、BADKNee所属アーティストのGirls be bad、新たに事務所にジョインすることになったPOPPiNG EMO、新グループ・KIRA:MINAの3組が出演して。GBBはトリだったんですけど、ほかのグループのゴリゴリでパワフルなパフォーマンスに飲まれず、GBBらしいカッコよさを見せてくれたんです。最近ではセットリストを自分たちで組むようになって、自主性も出てきた。4人とも自立しているというか、ちゃんと自分で考えて動いてる印象がありますね。特にまりかは最初、何もかもわからないままだったんですけど(笑)。

──なかなかパンチの効いた天然キャラで、いろんな人を元気にするパワーがあるような。

うん。まりかはピエロみたいなマスコット感もありつつ、見てるだけで面白いという独自路線を突き進んでくれてますね。

松隈ケンタとGirls be bad。

松隈ケンタとGirls be bad。

──ライブのどんな瞬間が印象的でしたか?

その西川口のライブはほかの2グループがゴリゴリやったから、GBBが押されるんじゃないかと心配だったけど、いつも通り前のめりなパフォーマンスをしてくれて、むしろカッコよかった。頭から太鼓を叩いて野球の応援ソングみたいな振りにしてたり、GBBの“エンタメ衝動”みたいなところがバッチリ出てた。ツアーを回った成果だと思いますし、GBBにしかできない空気感ができてるなって思いました。

──いきなり太鼓を抱えてメンバーがステージに出てきて、にぎやかでしたね。

太鼓を持つアイデアはメンバーとも相談しながら決めたんですよ。ほかにもモデルガンを持って何かやろうとか、アイデアを渡して、彼女たちが自分たちなりに昇華させていく。まりかはやっぱり最初、何もわかってなかったけど(笑)、今はちゃんと見せられるものになっていると思います。決して歌が上手ではないメンバーもいますが、楽しさで伝わるものがある。それがGBBの強みです。