カイジューバイミー インタビュー|4人が獲得した“見せかけではない根拠のある自信”

「唯一無二の初期衝動」をテーマに掲げるロックアイドルグループ・カイジューバイミーは、2021年のデビュー以降、幾度も壁にぶち当たりながらも“生”の情動をぶつけるような、嘘偽りのないパフォーマンスを届け続けている。音楽ナタリーでカイジューバイミーの特集記事を掲載するのは2024年4月以来だが(参照:カイジューバイミー インタビュー|不器用なロックアイドルグループに希望が満ちるまで)、そこからの1年強の間にも彼女たちは試行錯誤を繰り返しながらグループの強度を高めてきた。

今回もメンバー4人と、カイジューバイミーのほぼすべての楽曲を手がけているプロデューサー・メルクマール祐にインタビュー。最近の活動を振り返ってもらいつつ、6月にリリースされた最新ミニアルバム「ROVER」に込めた思いや、8月27日に開催される通算二度目のLIQUIDROOMワンマンへの意気込みを聞いた。「今のカイジューにはすごく勢いがある」とメルクマール祐が自信を持って語るグループの最新形を、この記事を読んで感じてほしい。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 石垣郁果

昨年の東名阪ツアーで経験した悔しい思い

──1年前の話題になりますが、まずは昨年7月に開催された結成3周年記念の東名阪ワンマンツアー「愛、三大都市壊滅ツアー」についてお聞きしたいと思います。渋谷CLUB QUATTROでスタートし、デビュー当初からなじみのある心斎橋VARONとRAD HALLを経て、SHIBUYA CYCLONEでファイナルを迎えました。手応えはいかがでしたか?

スタンド・バイ・エレナ 大阪と名古屋は結成初期からライブをしに行っていて、関東以外でもカイジューを好きになってくれる人が増えてきた。そんな思い出深い場所で、私たちが経験してきたことや気持ちをしっかりと届けられたと思います。

スタンド・バイ・ミーア 以前は多くても月1本だったワンマンライブを、1カ月で4本も経験して。メンバーといる時間がすごく増えて、ツアー後に初めてメンバーの家に行って一晩中一緒に過ごしたんです。それまでお互いに話していなかったことも言い合えたから、メンバーの思いを知るきっかけにもなりました。

スタンド・バイ・エレナ

スタンド・バイ・エレナ

スタンド・バイ・ミーア

スタンド・バイ・ミーア

──カイジューバイミーの皆さんには何度かインタビューをさせてもらっていますけど、メンバーの家で一緒に過ごすって……これまでだったら考えられないですよね。

一同 あはははは!

エレナ 確かにそうかも!

ミーア メンバーの家に行ったのは、あの日が初めてだよね? というかこれまでは活動以外で会うこともなかった。

スタンド・バイ・菜月 社内命令で無理やりメンバーが集まる機会を作られるくらい、プライベートで集まることは皆無だった(笑)。

カイジューバイミー

カイジューバイミー

メルクマール祐 話すことや用事があって4人で集まることも必要。でもそれだけじゃなくて、特に話すことはないけど一緒にいる。そういう時間があると、普段は話さない不満やうれしかったことを打ち明けて、お互いに気付きが生まれるんですよね。ふざけ合いから生まれることだってたくさんあるし、そういう何気ないときこそ「一緒にいて楽しいな」と感じられる。でも、メンバーはそれぞれが自由人なので、それまでは理由がないと集まらなかった。話し合いが終わったら散り散りになるだけでした。

──言ってしまえば“ビジネスパートナー”という割り切った関係でもあった。

 そういう意味では、お互いの距離をグッと縮めるきっかけになったツアーだったと思います。

──ほかにもツアーでの収穫はありましたか?

 それまでツーマンライブで遠征をしたことはありましたけど、ワンマンで東名阪を回ったのは初めてだったんです。うまくいったこともあったし、悔しい経験を通じて気付いたこともあったから、とてもいい機会になったと思います。

──悔しい経験というのは?

 東名阪ツアーの3カ月前にZepp Shinjuku(TOKYO)でワンマンをやって、会場を満員にすることができたんです(参照:カイジューバイミー、Zeppのステージで見せた全身全霊のパフォーマンス「まだこんなもんじゃない」)。だからメンバーは「これならキャパ数百人の会場で東名阪ツアーをやったら、速攻でソールドアウトできるでしょ」という気持ちでツアーに挑んだと思うんですよ。ところが、蓋を開けたら会場が埋まらなかった。どうして名古屋や大阪へワンマンをしに行くのか、その意図をメンバーが発信できてなかったし、彼女たち自身もちゃんと理解できていなくて。そういう気付きがいっぱいあったよね?

スタンド・バイ・華希 すごく大きな経験でした。

 「前回は大きい会場を埋められた。今回はそれより小さい会場なのに、どうしてお客さんが入らないんだ?」って、僕もアーティストとして人前に出ていたときは同じように思っていたんですよ。当時はすごく不思議だったけど、プロデューサーとしてアーティストを外側から見るようになって気付いたんですよね。ライブをする意図がお客さんに伝わらないと「このワンマンは行かなくていいかな」と判断されてしまう。Zepp Shinjukuは過去最大規模のワンマンという、足を運ぶうえでわかりやすい理由があったじゃないですか。「カイジューが新しいステージに進む瞬間を見てみよう」と思ってもらえた。それに対して、東名阪ツアーは開催の意図がお客さんに伝わらないと「前回よりもキャパが少ない会場でワンマンをやるということは、人気が下がったんじゃないか?」と誤解されかねない状況だった。メンバーとしては「言わなくてもお客さんは汲み取ってくれるでしょ」というおごりがあったんだと思います。

メルクマール祐

メルクマール祐

──ステージ上で最大限の表現をすることはもちろん大事だけど、事前にSNSなどで発信する必要があると。

 SNSって人となりが出るじゃないですか。ステージ上で気持ちや個性を出すことは大前提として、やっぱり我々は応援してもらってなんぼで、カイジューを知らない人もいれば、アーティストのライブ自体に行ったことがない人だっている。自分はどういう人間で、何が好きかとか、それを普段から発信することが、僕たちのやっている音楽にも説得力を持たせる1つのアーティズムになるはずだし、その結果がチケットの売上にもつながると思います。

菜月 いまだにSNSの投稿は苦手ではあるけど、「ちゃんと発信しなきゃ」という気持ちは芽生えました。それも大きな収穫でしたね。

“ソールドアウト”問題で炎上

──ライブの話題を続けると、今年3月には渋谷近未来会館でワンマンライブ「怪獣大全集」が開催されました。それまでに発表してきた楽曲をすべて披露するライブでしたが、これがいろんな意味で話題になって。

 事の経緯を説明すると、フジテレビNEXTで放送中の番組「スパイストラベラー」発のイベント「MasalaMix2025」に出演しまして。出るからには、初めてカイジューを知った人がワンマンに足を運びたくなるきっかけを作りたいと思って、急遽ではありましたがワンマンの開催を発表して、イベント当日にそのワンマンの無料招待チケットを配布させてもらったんです。

華希 その結果、今までで一番お客さんがパンパンのワンマンになりました。

 無料招待とは別に一般チケットの販売もしたんですよ。これがSNSで問題になりまして……。

菜月 炎上しました(笑)。

スタンド・バイ・華希

スタンド・バイ・華希

スタンド・バイ・菜月

スタンド・バイ・菜月

エレナ 一般販売のチケットが売り切れたときに、Xに「ソールドアウトしました!」とポストしたんです。でも今回は無料招待分もあるわけだから、一般販売チケットが売り切れただけで会場が埋まるわけではない。そのことに私も気付いていたはずなのに、あたかも会場が満員になることが確定しているかのように「ソールドアウト」と伝えてしまったため、祐さんから愛のお説教を受けました。

 場内にお客さんが入りきらなかったら問題になるから、一般販売の上限枚数を会場のキャパよりも少なめに設定していたんです。だからその分はすぐに売り切れたんですけど、無料招待分に関しては、当日になってみないとどれだけお客さんが来るのかわからない。それなのにメンバーがうれしそうに「ソールドしたぜ!」と発表していたから、僕と温度感が違うなと。もしも招待分のお客さんが全然来なくて、スカスカのフロアになってしまった場合、「これでソールド? カイジューはそれで満足なんだ」と思われかねない。それは嫌だったんですよ。何より「ソールドアウト」って、ミュージシャンがとても大事にしている言葉だと思うから、そんな簡単に言ってほしくない。それでSNS上でメンバーにメンションして「こんなのはソールドアウトじゃない」と書いたんです。

菜月 「ダサいことするな」って。

 そしたらその投稿を見た方から「ソールドアウトしてないのに嘘を言ったのか!」「そういうやりとりはSNSじゃなくて楽屋でやれ」と書かれたんだよね。

ミーア うん(笑)。しかも、その投稿がかなりのインプレッション数になって。

 その騒動を見て「ライブに行きたい」と思ってくれた人もたくさんいて、急遽、入場者数の枠を増やしたんですよ。蓋を開けたら当日は収容人数の限界までお客さんが入って、中に入りきれない人たちが外に大勢並んでいる状態。やむなく入場規制をしてライブを終えました。後日、公式に謝罪をして、そのワンマンライブの映像を全編無料公開しました。さらにより大きい会場で追加公演を無料でやって。炎上はしたものの応援してくれる人は増えました。今のカイジューにはすごく勢いがあると思っているんですけど、その一端にはなったのかなと。

菜月 騒動の渦中に、祐さんと電話したんですよ。そしたら「こういうのってゾクゾクするよな。俺らはこの気持ちを忘れていたんだ! 昔はもっとギラギラして攻めていたんだよ!」と言っていて。私も「ですよね、わかりますよ!」って盛り上がりました(笑)。その気持ちがミニアルバム「ROVER」にもつながっているんですよね?

 そうだね。僕は楽曲を書いて、グループのプロデュースをして、プロダクションの代表取締役をしていますけど、それぞれ違う自分なんですよ。プロデューサーや事務所の社長としては、もっとお客さんに寄り添いたい。ただ、そっちに傾きすぎると演者としてのエゴが薄れていく。ある意味、矛盾するんですよね。その中で今年に入ったぐらいから「ちゃんと売れたいな」と強く思うようになり、これまでの自分が空回りしていたように感じた。一度、全部の肩書きを捨てたいと思ったんです。純粋に音楽と向き合っていた自分に戻りたいと思って作ったのが「ROVER」です。