にしな特集|大切な人との永遠の別れ──新曲「輪廻」で歌う、巡り合いの先にある希望

にしなの新曲「輪廻」が8月20日に配信リリースされた。

「輪廻」は、にしなが今年6月に開催したワンマンツアー「MUSICK 2」で初披露されたナンバー。大切な人との永遠の別れをきっかけに生まれた1曲で、にしなの新機軸を感じさせるラヴァーズロック調のメロウチューンとなっている。

音楽ナタリーでは「輪廻」のリリースを記念して、にしなにインタビュー。「輪廻」の制作エピソードはもちろん、「MUSICK 2」を通して得たものや、コンスタントなリリースを重ねる彼女の現在のモードについて聞いた。

取材・文 / 小松香里撮影 / 垂水佳菜

「輪廻」が生まれたきっかけ

──「輪廻」は大事な人との永遠の別れを経験して作られたそうですが、具体的にどんなきっかけがあったのでしょうか?

祖母が亡くなったときに曲のパーツが生まれたんです。祖母と自分はすごく近しかったわけではなくて、年に1回会うかどうかぐらいの関係だったけど、祖母の体調がどんどん悪くなっていく中で最期ぐらい何かできることをしてあげれたらと考えるようになって。次第にごはんが食べれなくなってしまったんですが、家族からチーズケーキなら食べられると聞いて、ライブで地方に行ったときにチーズケーキを探して祖母の家に届けたりしていました。亡くなる直前は週1ぐらいのペースで顔を見せに行っていたんです。仕事で最期には立ち会えなかったんですが、その仕事の帰り道に「会えなかったな」と思いながら空を見たら、丸くて大きい赤い月が出ていて。祖母が自分にさよならを告げに来てくれてるような気がして、強いエネルギーをもらったみたいで曲を書き始めました。祖母との思い出に加えて「自分自身が存在することってどういうことなんだろう?」とか「自分はどこから来てどこに行くんだろう?」といった疑問と向き合いながら歌詞を書いていきました。

──おばあ様との別れの後、すぐに曲作りに取り組み始めたんですか?

いえ、その出来事が1つのきっかけとしてあって、そのあとに長い時間をかけて、ほかの経験や日々感じていることをつなぎ合わせながら書いていきました。パズルのように組み合わせて作っていった感覚があります。音楽をやっている身からすると、空気の振動が耳に届くという意味では人の声も音楽なんですよ。その音がずっと記憶に残る現象ってすごいことだなと考えていたら、光の粒が目に入って脳の中で処理されることで人の姿が見えるというのも不思議に思えてきて。一度祖母の死から切り離して、自分のそういった思考をつないで書きました。

にしな

──「輪廻」の歌詞には、悲劇も喜劇もすべて必ず糧にするということや、自分が宇宙の一部だということがポジティブな視点で書かれているなと感じました。この曲を作る中で何かマインドの変化はあったんでしょうか?

人間は大きな循環の中にいるというか、“宇宙と自分”みたいな感覚は昔からなんとなくずっと持っていました。以前は自分は“大きな宇宙の中にいる小さな存在”という認識だったけど、歳を重ねるうちに“回っていく生命の中の1つ”という感覚がより強くなっている気がします。友人たちに子供ができて親になった姿を見たり、身近な人が亡くなったりする経験が増えていく中で、自分も大きなサイクルの歯車の1つなんだなって。

──そういった話と少し重なりますが、お祖母様の死をきっかけに「輪廻」という曲が生まれたように、にしなさんの楽曲が誰かに届いて、なんらかの作用をおよぼすこともあると思います。

例えば友達が結婚式で私の曲を流してくれてたときには「そんな使われ方をしてもらえるんだ。うれしいな」と思ったり、ありがたいなと思う経験が増えてきましたね。

にしな

「輪廻」は振り返ると側にいてくれる曲

──「輪廻」はラヴァーズロック調のアレンジで、これまでのにしなさんの楽曲にはないアプローチに仕上がっています。アレンジを手がけたトオミヨウさんに何かリクエストをしたんですか?

私は普段、そこまで具体的にアレンジに関してリクエストをするタイプではないんですよ。ただ祖母のことだけでなく、例えば震災だったり、そういう悲しい出来事があったりしても、亡くなってしまった大切な人とまた巡り合えるかもしれないという希望を感じさせる曲にしたいという、曲の大きな世界観はお伝えしました。作品によっては「ちょっと違うかな」となって、アレンジャーと何度か擦り合わせることもあるのですが、今回は最初からトオミさんとサウンドのイメージが合致していましたね。

──6月末に閉幕したワンマンツアー「MUSICK 2」のアンコールでいち早く披露されていましたが、ファンの方の反応はいかがでしたか?

こういうどっしりとした雰囲気の曲をアンコールの2曲目にやったことがなかったので「どうなるんだろう?」と手探りなところもあったのですが、お客さんがしっかりと受け止めてくれた感じがあってうれしかったです。

──「輪廻」は今後にしなさんにとってどんな曲になっていきそうですか?

時間が経つにつれて聞こえ方が変わっていく曲もありますが、「輪廻」は変わらず、どっしりとしていて、振り返ると側にいてくれる1曲になるんじゃないかなと思っています。

ツアーを通して深まったファン、バンドメンバーとの関係

──ここからは少し、直近の活動についても聞かせてください。にしなさんが音楽ナタリーに登場するのは「It's a piece of cake」の特集以来で約1年半ぶりです(参照:にしな「It's a piece of cake」特集)。その間に「輪廻」含めて6曲もの新曲がリリースされています。加えて、複数のツアーも行っていますが、今はにしなさんにとってどんな時期なんでしょう?

私はパパッとすぐに1曲が仕上がるタイプではないということもあって、並行して何曲か作っていることが多いんです。この1年半は自分ではそんなに忙しいとは思っていなくて。終わったばかりの「MUSICK 2」ツアーの記憶が強いですね。それを終えて、今は本格的な制作モードに自分を持っていかなきゃと思ってるところです。

にしな

──「MUSICK 2」ツアーのライブレポートを拝読しましたが、とても楽しかったそうですね。

はい。ツアーをするのが本当にどんどん楽しくなってるんですよ。バンドメンバーとの付き合いも長くなってきていて、「MUSICK 2」は日程的に公演が詰まっていたので、次の会場までの移動がみんなと一緒で、よくごはんも一緒に食べていました。距離が縮まって、気兼ねなくディスカッションできました。お互いのいいところだけをほめ合うのではなくて、「もっといいライブをするために何が必要か?」という話がたくさんできましたし、その時間があったことで、ステージ上でもっと信頼し合って楽しくパフォーマンスをすることができました。お客さんも私の歌に応えてくれましたし、すごくいい形でエネルギーを回せたツアーだったと思います。

──今回のツアーを経てご自身が一番変化したことはなんだと思いますか?

自分としては以前からラフな気持ちでやっていたつもりなんですが、悪いところを指摘してくれる信頼できる人が側にいることで、より自分自身をステージでさらけ出せるようになりました。それがお客さんにも届いて、お客さん自身も自分を解放して楽しんでくれているなと思えるツアーでした。

──以前は「デビュー当初はどう見られたいかとか、どういうアーティストであるべきかということを考えすぎていた」とおっしゃっていましたが、そのモードを完全に抜けて、気負いがなくなった?

そうですね。素の状態になれて「あまり面倒くさいことを考えるのはやめよう」というモードかもしれません。すごく楽です。昔は右も左もわからなくて、何が正解かを必死に探していたけど、活動を続ける中で徐々に「なんでも正解になるのかな」と思えるようになりました。あれこれ思考するというよりは、今そうでありたい自分にフォーカスできるようになった気がします。

──それもあってお客さんとのコミュニケーションも素できるようになったんですかね。

そうですね。今回はライブハウスツアーだったので物理的に距離が近いし、お客さんに話しかけるとうれしそうに応えてくれるので、信頼感のもと積極的にコミュニケーションを取れるライブになったと思います。

にしな
にしな

──ツアーのファイナルで「忘れかけていたものをいっぱい見つけられた。音楽って幸せだなって実感できたツアーだった」とおっしゃっていたのが印象的でした。その忘れかけていたものとはなんだったんでしょう?

今回のツアーは基本的にイヤモニを外してライブをやったんです。音楽を始めた頃は正確に歌うことがすべてじゃなかったのに、活動を続けていくうちにイヤモニから聞こえる音をすごく意識して、それが正義になって足枷になっていた部分がありました。もちろんちゃんとピッチを取れていないといけないとは思うけど、そのことに捉われすぎちゃうのは違うなって。ライブの躍動感のようなものを思い出せたツアーだったので、そういう話をしたんだと思います。イヤモニは素晴らしい道具ではありますが、個人的にはそこに頼りすぎてしまうと多少なりともライブ感が減っちゃうと思う。だからベストな付き合い方を模索していきたいですね。