ENHYPEN特集|ENGENEと駆け抜けた、日本“史上最速”の物語

ENHYPENが7月29日に日本4thシングル「宵 -YOI-」をリリース。そして、その数日後の8月3日、東京・大阪で計4日間にわたったスタジアムツアーを完走した。

2020年のデビューからわずか5年足らず。ENHYPENは日本においても驚異的なスピードでスターダムを駆け上がり、数々の記録を塗り替えてきた。2023年1月には“第4世代”のK-POPアーティストとして日本最速で単独ドーム公演を開催し、同年9月にはK-POPボーイグループ史上最速で東京ドームのステージへ。2024年にはK-POPアーティストとして初めて「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」に出演し、そのおよそ1年後の2025年7月、単独スタジアム公演の夢を実現させた。

彼らの歩みには、音楽への情熱、研ぎ澄まされた表現力、そしてファンであるENGENEとの深い絆が刻まれている。本特集では、ENHYPENの日本での軌跡を振り返りながら、2年ぶりに届けられた日本シングル「宵 -YOI-」に託された思いを紐解いていく。

文 / 岸野恵加

デビュー当初から絶大な支持

鮮烈なデビューからもうすぐ5年。数々の記録を打ち立て、表現力やステージでの存在感に磨きをかけてきたENHYPENが、この夏、日本で初のスタジアムツアーを盛況に終えた。本稿では日本での活動を中心とした彼らのこれまでの道のりと、最新日本シングル「宵-YOI-」に込められた思いについてつづっていきたい。

ENHYPEN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

ENHYPEN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

ENHYPENを生んだ超大型プロジェクト「I-LAND」の様子は、ABEMAを通じて日韓同時放送され多くの視聴者が見守っていたこともあり、ENHYPENはデビュー当初から日本でも絶大な人気を誇っていた。韓国で2020年11月30日にリリースされたデビューミニアルバム「BORDER :DAY ONE」は、韓国国内で同年にデビューしたK-POPグループ中最高記録となる31万枚超を売り上げ、日本ではオリコンデイリーアルバムチャートで1位を獲得。またENHYPENはデビューの3日後となる12月2日に音楽特番「2020 FNS歌謡祭」に出演し、地上波でパフォーマンスを披露している。

デビューから約7カ月後の2021年7月6日には、早くも日本デビュー。日本デビュー決定の発表は、5月10日にメンバーのNI-KIとJAKEがパーソナリティを務めた「ENHYPENのオールナイトニッポンX」で行われた。その際の動画を見返すと、2人が新人らしいフレッシュさを放っていて、なんとも初々しい。

韓国でリリースする作品では、バンパイアをモチーフとするなど、ダークで耽美なコンセプトを表現することが多いENHYPEN。一方で、日本オリジナル曲は温かみのある楽曲が多く、ひと味違う彼らの色を堪能できる。

日本オリジナル曲が持つ魅力

日本デビューシングル「BORDER : 儚い」のキービジュアルでは7人が光に包まれ、“少年美”を強調した幻想的なムードが表現されていた。「Given-Taken」と「Let Me In (20 CUBE)」の日本語バージョンとともに同作に収録された初の日本オリジナル曲「Forget Me Not」は、疾走感あるギターサウンドに乗せて「この声が尽きるまで 『前に進む』と叫ぶよ」と歌うさわやかな1曲。リリース当時も新鮮な印象を残していた。

2022年5月には日本2ndシングル「DIMENSION : 閃光」を発表。「Tamed-Dashed」「Drunk-Dazed」の日本語バージョンに加えて収録された日本オリジナル曲「Always」は、聴いた人の背中をそっと押してくれるポップな応援ソングで、ファンの間でも人気が高い。2023年にはJAYが音楽性に憧れている優里とこの曲でコラボし、温かい歌声を響かせた。

同年10月にリリースされた日本1stアルバム「定め」は、それまでの日本作品の集大成のようなアルバムで、新たな日本オリジナル曲「Make the change」を収録。同曲では「この世界はそう素晴らしい」「新しい風をもっと肌で感じよう」という前向きなメッセージが明るく歌われている。

2023年9月には日本3rdシングル「結-YOU-」をリリース。この作品に収録されている「BLOSSOM」は、ENHYPENにとっても、ENGENE(ENHYPENファンの呼称)にとっても大切なバラードで、最新シングル「宵 -YOI-」を語るうえで欠かせない1曲となっている。その理由はのちほど詳述したい。またENHYPENはこの年の12月30日、「第65回 輝く!日本レコード大賞」に生出演し、特別国際音楽賞を受賞している。

初の東京ドームと「BLOSSOM」

これらの日本での楽曲リリースと並行して、ENHYPENはコンサートの動員数も着々と増加させてきた。2023年1月には「ENHYPEN WORLD TOUR 'MANIFESTO' in JAPAN」の追加公演として、日本デビューからわずか1年半で初の京セラドーム大阪公演を2日間にわたって開催。“第4世代”のK-POPアーティスト中最速で単独ドーム公演を実現した。また2023年には、東京ドームと京セラドーム大阪で計4公演を行うドームツアー「ENHYPEN WORLD TOUR 'FATE' IN JAPAN」を実施。デビューからわずか2年10カ月というK-POPボーイグループとして最速のスピードで、東京ドーム単独公演を成功に収めている。

この東京ドーム公演の初日、あるENGENEが手にしたボードがスクリーンに映し出されたことをきっかけに、会場のENGENEが自然発生的に「BLOSSOM」を合唱するひと幕があった。筆者もレポート取材でこの場に立ち会い、ENGENEからENHYPENへの愛がこもった歌声に深く感動したことを覚えている。

そしてその翌日には、ENHYPENがお返しをするように、ステージで「BLOSSOM」をサプライズ披露。メンバーが感極まったように涙を流し、ステージ中央でお互いをねぎらうように円陣を組む姿に、嗚咽するENGENEも少なくなかった。

この公演でENGENEが掲げた紙のスローガンに記されていたのは「ENHYPENとENGENEは永遠に共にする運命だよ」という言葉。このスローガンが掲げられた光景を振り返って、NI-KIはのちのインタビューで「一生懸命走ってきたこの道が正しかったと確認できたような気がして、胸がいっぱいになりました」「これまでのステージの中で、忘れられないステージの1つ。いまだにあの日の映像を見ると胸が熱くなります」と語っている。

「史上最速」を重ねて

2024年には、7月に韓国でリリースしたアルバム「ROMANCE:UNTOLD」がトリプルミリオンセラーを達成。8月には日本を代表する野外ロックフェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」にK-POPアーティストとして初出演を果たした。メンバーはバンドの生演奏をバックにしたエネルギッシュなパフォーマンスで観客を盛り上げ、「Drunk-Dazed [Japanese Ver.]」では、JAYがエレキギターの生演奏を披露したことも話題に。なおロックを愛するJAYは、この年に30周年を迎えた日本の伝説的ロックバンド・GLAYの楽曲に参加。GLAYデビュー30周年記念シングルの収録曲「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-」では歌唱のみならず、日本語歌詞の作詞にも挑戦している。

2025年もENHYPENの勢いは止まらない。4月にはアメリカ最大規模の音楽フェスティバル「Coachella Valley Music and Arts Festival」に唯一のK-POPボーイグループとして出演し、自分たちの存在とライブパフォーマンス力の高さをアメリカのオーディエンスに印象付けた。メンバーは1カ月にわたって準備を重ねたそうで、ステージングにも意見を出し合ったという。「ParadoXXX Invasion」のラストでNI-KIを中心にダンサー12人とダンスバトルを繰り広げるなど、フェス仕様の構成も好評を博した。

続く6月にリリースした6thミニアルバム「DESIRE : UNLEASH」では自身3作目のダブルミリオンセラーを記録し、キャリアハイを更新。そして3回目のワールドツアー「WALK THE LINE」の日本公演は、ドームツアーとスタジアムツアーの2段階で展開された。ドームツアーは2024年11月から2025年1月にかけて、埼玉、福岡、大阪で実施。そしてENHYPENは2025年7月、ついに日本でスタジアムの舞台に立った。

スタジアムツアー「ENHYPEN WORLD TOUR‘WALK THE LINE’IN JAPAN -SUMMER EDITION-」は7月に東京・味の素スタジアム、8月に大阪・ヤンマースタジアム長居で計4公演が開催された。これは海外アーティスト史上デビュー後最速となる日本スタジアム公演、さらにK-POP“第4世代”グループとしても初の日本2都市でのスタジアムツアー開催という快挙だ。ドームツアーとスタジアムツアーを合わせた動員数は約40万人と、驚異的な記録を打ち立てている。

2年ぶりの日本シングル、2つの日本オリジナル曲

このツアーの合間の7月29日、約2年ぶりの日本シングルとしてリリースされたのが、日本4thシングル「宵 -YOI-」である。前作「結-YOU-」では“君”との運命的なつながりを信じる少年の姿が表現されていたが、「宵-YOI-」ではその少年が自身の欲望に気付いていく、というストーリーが描かれており、愛する人への「欲望と本能」を伝えるコンセプトの作品となっている。

ENHYPEN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

ENHYPEN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

収録されているのは、リード曲「Shine On Me」と「Echoes」という2つの日本オリジナル曲に加え、「DESIRE : UNLEASH」のタイトル曲の日本語バージョン「Bad Desire (With or WithoutYou) [JapaneseVer.]」の3曲。日本オリジナル曲がリード曲となること、そして、日本オリジナル曲が2曲収録されることは今回が初の試みで、ENHYPENからENGENEへの深い愛情がにじんでいる。筆者は7月発行の音楽フリーマガジン「INPOST」でENHYPENにインタビューを行ったが、その際、NI-KIは「『BLOSSOM』が日本にいらっしゃるENGENEの皆さんにすごく人気の楽曲なので、『BLOSSOM』に近いバラードの楽曲を準備しました」と、メンバー同士で話し合い、ファンの喜ぶ顔を思い描いて選曲したことを教えてくれた。

「Shine On Me」は夏の夕暮れのムードにぴったり合いそうな、エモーショナルなメロディとさわやかなバンドサウンドが耳に残る1曲。「星が光り夜空照らし 僕を照らす 君と見たい未来forever 僕のそばに」と、相手への独占欲とその幸せを願う感情が共存する胸中を、メンバーが豊かな声色で歌い上げる。スタジアム公演では、スタンドマイクの前に横一列に並び、この曲を繊細かつエモーショナルに歌う7人の姿が、ENGENEの胸を熱くした。またMVでは、蝶が舞う幻想的でエモーショナルなアニメーションとメンバーの姿が交差して登場し、温かく包み込むような楽曲の雰囲気が繊細に描かれた。

ENHYPEN(P)&(C) BELIFT LAB Inc.

ENHYPEN(P)&(C) BELIFT LAB Inc.

「Echoes」は、愛する人への独占欲を表現したラブソング。トレンディなポップトラックに乗せて「どこにいても君のことをいつも考えている」という気持ちが“響く”ロマンチックな楽曲で、メンバーの甘い歌声は中毒性抜群だ。この原稿を書いている8月上旬現在、Spotify日本の急上昇チャートで1位にランクインし、アメリカ「Rolling Stone」が週次で選出するプレイリスト「Songs You Need to Know」に選出されており、海外からもその魅力が注目され始めていることがうかがえる。

「宵 -YOI-」はリリース初日から好成績を記録。発売翌日付のオリコンデイリーランキングでは、初日に30.7万枚を売り上げて1位を獲得し、ENHYPENにとって日本シングルの初日売上枚数で自己最高を更新。そして8月5日に発表されたBillboard JAPAN週間シングル・セールス・チャート“Top Singles Sales”では57万5330枚を記録し、2位にランクインした。この数字は、ENHYPENが日本でリリースしたシングルおよびアルバムの中で最高記録となり、グループとして初の初動ハーフミリオンセラー達成となった。

記念すべき初の日本スタジアムライブでは、ウォーターキャノンや花火など、会場のスケールに合わせたにぎやかな演出でENGENEを楽しませた7人。「宵 -YOI-」のリリース後に行われたショーケースでは、HEESEUNGが「僕たちはいつもENGENEのために歌ってきました。これからもENGENEのために歌い続けます。どうかずっと幸せでいてください」と真摯な思いを伝えていた。興奮と感動に満ちたスタジアム公演の余韻を感じながら、彼らの日本オリジナル曲が描く柔らかな世界に耳を傾けてみては。

プロフィール

ENHYPEN(エンハイプン)

2020年に放映されたMnetの超大型プロジェクト「I-LAND」から誕生した、JUNGWON、HEESEUNG、JAY、JAKE、SUNGHOON、SUNOO、NI-KIの7人で構成されたグローバルグループ。2020年11月に「BORDER : DAY ONE」でデビューし、2023年11月リリースの5th ミニアルバム「ORANGE BLOOD」ではグループ初のダブルミリオンセラーを達成。その後リリースしたアルバム「ROMANCE : UNTOLD」「DESIRE:UNLEASH」では初動でのダブルミリオンセラーを記録し、「ROMANCE : UNTOLD」は初のトリプルミリオンセラーを達成した。日本では、2021年7月にシングル「BORDER : 儚い」で日本デビュー。2023年1月には大阪・京セラドーム大阪公演を実施し、デビューからおよそ2年で単独ドーム公演を成功させた。その後、2023年9月にはワールドツアー「FATE」で初の日本ドームツアーを開催し、K-POPボーイグループの中でデビューから史上最速で単独東京ドーム公演を実現。2025年7月から8月にかけてはグループ初の日本スタジアム公演「ENHYPEN WORLD TOUR ‘WALK THE LINE’ IN JAPAN -SUMMER EDITION-」を東京と大阪で開催した。なおスタジアム公演期間中の7月29日、約2年ぶりの日本シングル「宵 -YOI-」を発売した。

※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2025年8月16日更新