Ivy to Fraudulent Game特集|結成15周年、充実の6thアルバム「Ivy to Fraudulent Game」完成

Ivy to Fraudulent Gameが8月20日にニューアルバム「Ivy to Fraudulent Game」をリリースした。

2010年10月に群馬県で結成され、今年で15周年を迎えるIvy to Fraudulent Game。彼らにとって約2年ぶり通算6枚目のオリジナルアルバムであり、そのバンド名を冠した「Ivy to Fraudulent Game」には先行配信曲「FACTION」「BOW WOW」など、Ivyのこれまでとこれからが詰まった全11曲が収録されている。

音楽ナタリーでは充実の仕上がりとなった「Ivy to Fraudulent Game」の魅力を掘り下げるべく、メンバーにインタビュー。カワイリョウタロウ(B, Cho)が体調不良により急遽欠席となったため、寺口宣明(Vo, G)と福島由也(Dr, Cho)の2人に本作に込めたこだわり、バンドが歩んできた15年について語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 堅田ひとみ

タイトルは「Ivy to Fraudulent Game」

──アルバム「Ivy to Fraudulent Game」、とてもリアルな作品だと感じました。臨場感のある状態で“Ivyの今”がパッケージングされているし、そんなアルバムにセルフタイトルが掲げられているところが、とても美しいなと思います。

寺口宣明(Vo, G) そもそもセルフタイトルのアルバムを作る予定ではなくて、制作を進める中で「Ivy to Fraudulent Game」というタイトルしかないと思えたんです。前作の「inside = RED」(2024年11月発表のミニアルバム)はオルタナな雰囲気のあるロックアルバムで、自信を持って出した1枚だったけど「じゃあ次はどうしようか?」と考えたときに、自分たちは残響(レコード)的な楽曲から始まって、そこから色とりどりの音楽性を好きにやってきたバンドだよなと思ったんです。そういう、今までの自分たちの進化と幅を最大限引き出したいなと。それでいて、今までやってきたことをトレースしてアウトプットするだけじゃなくて、サウンドも歌詞も含め、チャレンジが入っているものが作りたかったんです。

福島由也(Dr) 僕は15周年という部分はかなり意識しました。今の自分たちの引き出しの多さや音楽性の幅をしっかりと見せたうえで、バンドとしての未来を提示するといいますか。ちゃんと今を表現して未来を見せられるアルバムを作りたかった。そのことを念頭に置いて作ったアルバムに「Ivy to Fraudulent Game」というタイトルを付けられたこと、自分たちとしても納得のいく作品にできたことはうれしいです。

左から寺口宣明(Vo, G)、福島由也(Dr)

左から寺口宣明(Vo, G)、福島由也(Dr)

──黒地に白文字でバンド名が記載されているシンプルなジャケットも素晴らしいですが、このジャケットはどのようなアイデアから生まれたんですか?

寺口 以前からIvy作品のデザインを担当してくださっている、神村卦祢さんという本当に素晴らしいデザイナーさんがいらっしゃって。昔から俺らとその方のセンスには近しいところがあると感じていたし、セルフタイトルを付けるとなったら絶対にお願いしたいなと。でもこれ、資料だと黒地に白文字に見えるけど、実物は違うんですよ。黒地の部分が透けていて、模様が入っているんです。皆さんの期待を超えるようなカッコいいデザインになっているので、CDが発売されたら実物を見てほしいなあ。

福島 うん。実際に手に取ってもらいたいよね。

Ivy to Fraudulent Game「Ivy to Fraudulent Game」ジャケット

Ivy to Fraudulent Game「Ivy to Fraudulent Game」ジャケット

それぞれの15年

──寺口さんは15周年をどの程度意識されていましたか?

寺口 歌詞を書いているときに「15年かあ」と思う瞬間はありました。11年目とか12年目のときはそんなに長くやってきた実感がなかったけど、ここ1、2年くらいで急に「え、そろそろ15年⁉」と考えたりして(笑)。自分が子供の頃、当時のトップバンドが「結成15周年!」と言っているのを見て、「すげえ、レジェンドだ!」と思いながらCDショップに行っていたけど、自分たちもそのバンドと同じくらいのキャリアになった。なんというか……「うれしい」とも違う、「すげえな」って俯瞰で思ってる自分がいる感じです。

福島 俺とノブ(寺口)は今年で31歳なんですけど、人生の中でバンドをやってきた時期とそうじゃなかった時期がちょうど半々くらいになってきたんですよ。そういう節目のタイミングにいるんだっていう意識はありますね。自分ひとりじゃ続けられなかったし、改めて「メンバーとここまで歩んできたんだな」って。自分にとっては、この15年が宝物のように感じる瞬間もあります。

──昨年は「inside = RED」に加えて、1stミニアルバムの再録盤「行間にて_2024」もリリースされましたよね。あの作品のリリース時にオフィシャルYouTubeにアップされたインタビューで、寺口さんが「この数年間はバランスを取ってきた時期だったけど、最近は極端な方向に振り切りたいモードだ」というふうにおっしゃっていたのが印象的で。今回のアルバム、僕はそのモードも感じるんです。かなり極端な感情まで歌われているなと。バランスよりも極端さを求める感覚って、今回のアルバムを作るうえでも寺口さんの中にあったと思いますか?

寺口 そうですね。最近になって自分のことがわかってきたのかもしれないです。本当に言いたいことや、自分が発して一番体重が乗る言葉、そういうものをようやくつかめるようになってきた。以前は“3人での言葉”をすごく考えていたし、そういう言葉を書こうと意識していたんですよ。でも、今は僕が言いたい言葉を書きたい。浮かんだものを自分の好きなように出して、それが違和感なく“Ivy to Fraudulent Gameの言葉”になるのが一番健康的なことだと思うんです。「これは自分の言葉すぎるな」という違和感が多少あっても、最近は隠さず曲にするようになりましたね。

寺口宣明(Vo, G)

寺口宣明(Vo, G)

バンドは1つの生き物になっていく

──福島さんは、寺口さんから出てくる言葉に変化を感じますか?

福島 強度が増しているなと思います。フロントマンとしてずっと前に立ち続けて、自分の思いを生で伝えてきたすごみが歌詞からも感じ取れるようになってきた。

──寺口さんの言葉から、今まで自分になかった感情が芽生えることもありますか?

福島 ノブが言った「3人の言葉を探すんじゃなくて、自分の気持ちをまっすぐに出す」というのもそうだけど、3人それぞれ人間性が違うのは当たり前じゃないですか。そのうえで自分1人だったら考えつかなかったようなビジョンや感情が生まれるのがバンドだと思うんです。それぞれの違いが最後まで残り続けることも作品にとっては大切なことだと思うし、同じくらい「合わせよう」とせずともシンプルにその人からできたものと共鳴するのは、バンドをやっていてうれしい瞬間の1つですね。

──確かに、例えば寺口さんが作詞されたアルバム1曲目の「song for you」と、福島さんが作詞されたラストの「love」は、トラックリスト的にも一番遠い場所にある曲同士ですけど、伝え方は違っても、どこか近いことを言おうとしている曲という感じがします。どちらも「人が何かを感じる」ということが、未来にどんな作用を生み出し得るのかを歌っているような気がする。もちろん、作者毎にまったく違うカラーの楽曲もありますが、全体を通して「違うけど、通じている」みたいなことが、どんどんと浮き彫りになっている印象を受けました。

福島 ありがとうございます。それが、バンドが1つの生き物になっていくってことなんだと思います。そういうことを「Ivy to Fraudulent Game」というタイトルで提示できることが、今の僕の自信ですね。

福島由也(Dr)

福島由也(Dr)

「ありがとう」を伝えたかった

──「song for you」は歌詞の中に「檻の中」や「革命」「day to day」「共鳴」など、過去のIvy楽曲を想起させる言葉がたくさん入っていますが、やはり15周年ということを意識して歌詞を書かれたのでしょうか?

寺口 そうですね。俺たちの音楽に一瞬でも触れてくれる人たちがいたからこそバンドを続けることができているので、その人の人生に俺たちの1曲、ワンフレーズ、ひと欠片でもいいから何か持って帰ってもらえるものがあればいいなと思うんです。なんというか……本当に「ありがとう」って、そんな気持ちで書いた曲です。

──歌詞には「また一つ歌になったよ」というフレーズもありますけど、「歌はどうやって生まれるのか?」という問いも、この曲を作るうえで考えられていましたか?

寺口 基本的に俺が曲を書こうと思うときに、うれしいという感情が動機になったことが一度もないんですよ。いつも結局は、自分の中にある許せないこと、自分の好きじゃない部分、怒りや悲しみ……そういうものをエネルギーにして走ってる。でも、そういう思いで書いた曲もライブで歌うときは笑っているし、どんな鬱々とした気分で書いた曲でも完成したときは興奮していたりするんですよね。もちろん、「song for you」は「ありがとう」を届けたくて書いた曲だけど、「こうやって僕は曲を作っているんだよ」ということも伝えたくて。

──僕はこの曲を聴くと、「無駄じゃない」と言われている感覚になります。どんな感情も無駄じゃないんだと。さっきも少し話しましたけど、この曲と最後の「love」は歌われている内容が通じている感じがします。

福島 ああ、確かに。共鳴って感じがしますね。トラックリストを公開したときに、SNSで「1曲目が『song for you』で最後が『love』。それが『Ivy to Fraudulent Game』というタイトルのアルバムの流れになっているのが感動する」と言っていた人がいて。それもたまたまなんだけど(笑)、「確かになあ」と思ったんですよね。これから先も自分たちが意図してないような発見があるんでしょうね。それは3人で作っている、バンドだからのこその面白みですよね。