Vaundy、WurtS、紫今、Ayllton、Rol3ert…2000年代生まれのアーティストは、いかに日本の音楽シーンを変えたのか

2000年代生まれのアーティストは、いかに日本の音楽シーンを変えたのか? 2000年代生まれと言えば、10代の多感な時期からYouTubeやストリーミングサービスを使ってすべての年代やジャンルの音楽に気軽にアクセスできた世代。そして新人発掘や楽曲ヒットなどにおいて、SNSが大きな影響力を持つようになった2020年代に活動している世代である。

スマートフォンがあれば楽曲制作を始められて、チュートリアル動画も教科書代わりの情報も無料で手に入る。さらにはワンクリックで楽曲や映像を世に発表できることから、アマチュアたちが作る作品の平均点は高くなった。だからこそ第一線で活躍する2000年代生まれのアーティストたちは、多すぎる情報から必要なものを選び取るセンス、個性やオリジナリティを磨き上げる探究心とセルフプロデュース力において群を抜いている。

この記事では2000年代生まれの「ソロアーティスト」に焦点を当て、このシーンに造詣の深い音楽ライター / 編集者の矢島由佳子氏が代表的な存在をピックアップ。世に出てきたタイミングで世代を区切り、2000年生まれのソロアーティストたちがつないできた音楽シーンの流れを紹介する。

文 / 矢島由佳子

① Vaundy

2000年代生まれのソロアーティストを代表する存在と言えば、Vaundyだ。2000年生まれのVaundyは、2019年6月に初めて自作曲「pain」をYouTubeに投稿。その後、同年9月に投稿した「東京フラッシュ」のミュージックビデオが2カ月で100万再生されるほど大きな注目を浴び、さらに2020年1月にリリースした「不可幸力」がSpotifyのテレビCMに起用されたことで、より幅広い層の間で話題に上がるようになった。

Vaundyは、同世代や下の世代のアーティストたちに多大なる影響を与えている。楽曲をリリースするたびに異なるジャンルの音楽を提示してきたVaundyは、「1人のソロアーティストが多彩なジャンルに手をつけていい、むしろそれが評価されるべき点である」という流れを国内で作った存在だと言っていい。またVaundyの登場以降、映像やビジュアルの影響力が大きくなった時代性も相まって、彼のように作詞・作曲・編曲のみならず映像やアートワークの制作・プロデュースまで手がけるソロアーティストが増えた。

同時期に出てきた「2000年代生まれのアーティスト」の代表的存在といえば、Vaundyと同じく2000年生まれのikura / 幾田りらだ。彼女がボーカルを務めるYOASOBIは、2019年11月にYouTubeに初投稿した楽曲「夜に駆ける」が瞬く間に広がり、2020年のコロナ禍ではYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」やテレビ番組にて積極的に顔出ししたことで、ネットシーンを飛び出してメインストリームでも存在感を高めていった。Vaundyやikura / 幾田りらを、2000年代生まれのソロアーティストの「第1世代」と位置付けたい。

② WurtS

2000年代生まれのソロアーティストの「第2世代」には、WurtS、Ado、和ぬか、asmi、imase、なとりを挙げたい。WurtSは大学生の頃、海外に留学してマーケティングやエンタテインメントを学ぼうとしていたところ、コロナ禍により中止になったことをきっかけに音楽活動を開始。最初は自身の肩書きを「研究者×音楽家」と掲げ、2021年1月にTikTokに投稿した楽曲「分かってないよ」で注目を浴びた。その後、ショート動画やライブ配信を通じて「ライブの熱量をSNSで見せる」というオフラインとオンラインのクロスオーバーにいち早く取り組み、「SNSバズから出てきた存在」というポジションからは脱却して、ライブシーンでの存在感を高めていった。今やロックフェスでトリを務める存在にまでなっている。

2002年生まれのAdoは、2020年10月に発表した「うっせぇわ」で一気に知れ渡った。2000年生まれの和ぬかは、2020年11月に「寄り酔い」をTikTokに投稿。当時のTikTokのフィードを染め上げ、その後2021年5月に発表したMAISONdes「ヨワネハキ feat. 和ぬか, asmi」も、Billboard JAPAN「TikTok HOT SONG Weekly Ranking」で4週連続1位を獲得するほどのヒットに。2001年生まれのasmiは「ヨワネハキ」で認知を高めたあと、meiyoが書き下ろした「PAKU」でさらなるバズを起こした。

WurtSや和ぬかなどの動きを見て、2021年5月3日にTikTokへ初投稿を行ったのが、2000年生まれのimaseだ。そしてimaseの投稿を見て、12日後の5月15日に初投稿を行ったのが、2003年生まれのなとり。2人はすぐに互いをフォローし合い、翌月にはTikTokでコラボ配信を行った。2人を「第2.5世代」と位置付けるべきか悩むところだが、大きくくくって「第2世代」と呼ぶことにする。

③ 紫今

2000年代生まれのソロアーティストの「第3世代」には、紫今、乃紫、友成空、Leinaを挙げようと思う。2002年生まれの紫今は、2022年末にTikTokへ投稿した「ゴールデンタイム」から徐々に認知を高めていった。その後、2024年4月にリリースした「魔性の女A」もバイラルヒットソングに。紫今は両親の影響でアフリカンミュージック、ゴスペル、ファンク、ソウルなどに触れながら育ち、2000年代生まれのソロアーティストの中でも特に音楽的なルーツが深く、そのソングライティング・編曲力には驚かされるばかり。さらには幼少の頃から母親に厳しく鍛えられたという歌唱力、歌の表現力がすさまじく、ライブを観た人の心を鷲づかみにする力がある。2000年代生まれのアーティストにとってSNSは楽曲の“入り口”として欠かせない場であるが、リスナーに「SNSでバズっていて曲はなんとなく聴いたことがあっても、別にフル尺を何度も聴きたいとは思わない、ライブには興味ない」と思わせてしまうケースもたくさん発生している中で、紫今は楽曲やライブに引きずり込む確かな表現力を持っている。

2000年生まれの乃紫は、2022年12月に「杯杯」をリリース。それから今に至るまで、リリースしたほぼ全曲でバズを起こしている。女の子たちの自撮りのフォーマットまでイメージして書いた「全方向美少女」は、2023年11月にTikTokに投稿、2024年1月に配信リリースされ、社会現象になるほどのトレンドになった。乃紫の、日本人の琴線に触れるメロディを紡ぐ力、コピーライター的な発想のある作詞力は、ズバ抜けている。

2002年生まれの友成空は、2023年11月にTikTokに投稿した「鬼ノ宴」が、2024年「日本のYouTube年間ランキング」の「国内トップ楽曲」部門でOmoinotake「幾億光年」とNumber_i「GOAT」に挟まれて6位にランクインするほどの大ヒットに。2005年生まれのLeinaは、2023年9月にリリースした「どうでもいい話がしたい」や、2023年10月にTikTokに投稿した「来世は貴方のギターになりたい 密着しながら激しく揺れたい」という歌詞が印象的な「うたたね」で、アジアを中心に海外でも認知を広めていった。「食わず嫌い」「恋に落ちるのは簡単で」などの楽曲や、そのライブ力でも存在感を高めつつある中、今年4月にリリースした「medicine」もバイラルヒット。9月にメジャーデビューすることが決定している。

もう1人ここで挙げたいのが、AKASAKIだ。2024年7月にSNSへ投稿された「Bunny Girl」が、リリースから4か月でストリーミング再生累計1億回を突破するほどの大ヒットに。2006年生まれの彼が「Bunny Girl」を世に広めたのは高校3年生の頃。今年11月からは、日本人ソロアーティスト史上最年少でアジアツアーを開催する。第1世代から第3世代までのSNSの使い方や楽曲の傾向を研究したうえで、自身のオリジナリティを発揮しているAKASAKIは「3.5世代」と位置付けたい。

④ Ayllton

この記事でいう「世代」は、2000年代生まれを対象に、生まれた年ではなく世に出たタイミングで位置付けているわけだが、次の世代と呼ぶべき2024年後半から2025年の現在までの動きはまだ流動的であり、ラベルを付けるような言い方をするのは時期尚早な気がしている。その中でも、「2000年代生まれのソロアーティスト」の動きとして、最近見られる事象を2つ挙げようと思う。

1つ目は、「ライブ・フェスシーンの復興」だ。新型コロナウイルスの蔓延によってライブやフェスの中止・規制が続き、人々の足が遠のいてしまった時代を経て、ようやく活況を取り戻した。2024年から現在にかけてはワンマンライブやイベント、フェスが多く開催されるようになり、オーディエンスにとっても安心して思う存分遊び尽くせる状況になった。それでも不景気は続き、“コスパ”や“タイパ”が支持される時代だ。音楽ファンは、数多あるライブやフェスの中から、自分の時間やお金をどこに使うのかを相当厳しい目でジャッジしている。だからこそ、ファンを増やすためには、SNSの活用ももちろん重要でありつつ、ライブ力の重要性がコロナ前と同じくらいに増してきているように思う。

そんな中で、今「ネクストブレイクアーティスト」として業界内の人たちが目を付けているのがLavtだ。2002年生まれのアーティストで、中2の頃から「歌ってみた」動画をネットにアップし、ボカロPとしてオリジナル作品を投稿。2023年よりLavt名義で楽曲を発表しているが、多彩なジャンルを飲み込んでキャッチーさを研ぎ澄ました楽曲群と、ポップシーンもロックシーンも一瞬にしてかっさらっていきそうなポテンシャルのあるライブが高い評価を得ている。

そしてここでもう1人紹介したいのが、2004年生まれのAyllton。遠くまで伸びてきた深みのあるハイトーンボイスに誘き寄せられるようにしてAylltonの路上ライブを初めて観た際、デビュー前のあいみょんのライブを観たときの感覚がよみがえった。メロディと言葉のマッチング具合が長けており、普遍的なJ-POPとして老若男女を惹き付けられる大きな入り口を持ちながらも、その歌は実にエモーショナル。Aylltonのルーツもこの世代らしく多彩ではあるが、両親が大好きだった吉田拓郎、長渕剛の音楽が体に染み付いているそうだ。そんな要素も、私の脳内であいみょんを思い出させたのだろう。

その路上ライブでは、堂々とした歌い姿とまったく焦りのないMCで魅せていた。これは確実に下積みのある人の佇まいだと思いながら本人に話を聞くと、Aylltonとして活動スタートしたのは昨年であるが、彼も小学生の頃からカバー動画をYouTubeにアップし、これまでに100本以上のライブ経験があるという。昨年「出れんの!? サマソニ!? 2024」のオーディションにて応募総数約2000組の中から勝ち抜いて、「SUMMER SONIC 2024」のSONIC STAGEへの出演を果たしたことも納得だ。

作詞作曲のみならず編曲まで自身で手がけるAylltonの楽曲は、例えば最新EP「ダメね」の表題曲で言えば、彩り豊かなホーンアレンジ、パーカション、コーラスワークスなども映えるポップネス全開のトラックでありながらも、歌詞では、まるで独白のように個人的な思いを赤裸々にぶちまけている。「ダメね」の「才能があるって訳でもない 歌が上手いって訳でもない 自信に満ちた人間なんかじゃない」や、代表曲「裸足」の「いつからか 夢はリアルよりも 恥じらいになってしまっていた?」といった、Aylltonの今をリアルに歌った言葉の羅列には無視できない強さが宿っている。多くの人の思いを受け入れるポップ性と、個人的なエモーションをぶちまけるアツさ、それらを両立させているのがAylltonの楽曲の強さであるように思う。そのうえで、歌詞で描いているさまざまな感情の機微を声に乗せる表現力やコントロール力もあり、ギター演奏やトラックがなくともアカペラだけで景色を浮かび上がらせることができるほどの歌力を持っているアーティストだ。

⑤ Rol3ert

最近の「2000年代生まれのソロアーティスト」のムーブメントとして、もう1つ挙げたいのが「グローバル志向」。CD全盛期は、国内で活躍したあとに「世界デビュー」という道筋になるのが通例であったが、現在は楽曲をアップロードすれば、国内と同じタイミングで世界各国に配信される時代だ。誰もが国内デビューと同時に世界デビューをしている状況である。さらに2020年代に入ってからはAdo、imase、藤井風、新しい学校のリーダーズなど、近年海外進出の契機として大きいアニメタイアップというルート以外に、SNSやネットを通じて日本の音楽が世界へ広がっていく成功例が生まれ始めた。年始にはグラミー賞主催団体が「J-POPが2025年に世界的ブームになる」と発表するなど、世界的にもJ-POPの存在感が高まっている。そして音楽主要団体が団結して「MUSIC AWARDS JAPAN」を開催するなど、業界内で手を取り合ってJ-POPを世界へ届けようとする動きもようやく活発になってきた。

そんな背景の中で、最初から自身の音楽を国内だけでなく世界へ届けることを見据えて活動するアーティストたちが登場している。その代表的存在が、現在19歳のRol3ertだ(「B」を「l3」と表記し「ロバート」と読む)。英語をメインに扱って歌っているが、絶妙な塩梅で日本語もリリックに用いており、世界中の人がノスタルジーを感じるような音像にJ-POP由来のメロディと情緒的な歌詞が乗っかることで、親しみやすさとオリジナリティの両面を浮かび上がらせている。現状リリースされているシングルは4曲のみであるが、すでに世界各国のプレイリストに入り、日本に次いでインドネシア、台湾、タイ、韓国、アメリカなどでリスナー数を増やしている。

ほかには、Nulbarich・JQがプロデュースを手がけるREJAY、ケイティ・ペリーなどに携わるニューヨーク在住のJason Gillがプロデュースした楽曲で今年4月にメジャーデビューを果たしたMOMMOなども、国内と同時に世界を見据えて活動しているソロアーティストだ。Rol3ert、REJAY、MOMMOは、全員2005年生まれという共通点もある。

はっきり言って、ここですべての「2000年代生まれのソロアーティスト」を網羅できているわけではない。例えば、『ユイカ』、れん、とた、手がクリームパンなど、2020年頃のTikTok初期からギター弾き語りを投稿し、昨年から今年にかけて、顔を出したりメジャーデビューを果たしたりと本格的な音楽活動をスタートさせたシンガーソングライターたちの動きもある。また、バンドシーンについては異なる語り方ができるだろう。あくまで「2000年代生まれソロアーティスト史」の1つの目安として、この記事を議論のきっかけにしていただければ幸いだ。