May'n「おばあちゃんになるまで歌っていたい」、20周年ベストで示す感謝の思いと未来の姿

May'nのアーティスト活動20周年を記念したベストアルバム「TWENTY//NEXT」がリリースされた。

「TWENTY//NEXT」にはMay'n名義での1stシングル曲「キミシニタモウコトナカレ」や映画「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」の主題歌「シンジテミル」などの代表曲14曲を大胆にリアレンジした再録バージョン、約20年前に発表した中林芽依名義のデビュー曲「Crazy Crazy Crazy」のオリジナル版、新曲「the SEA has dreams」を含む全21曲をCD2枚組に収録したベスト盤。May'nの足跡をたどりながら、未来への期待も感じさせる充実の内容となっている。

音楽ナタリーではMay'nにインタビュー。ときめく心に従いながら、音楽活動に励んできたMay'nの言葉はポジティブな思いにあふれていた。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 須田卓馬

自信を持って「20周年だぞ!」

──May'nとしての活動は2008年に始まったものの、本名の中林芽依名義でのメジャーデビューは2005年です。今年で20周年という事実にまずびっくりしました。

20年という期間を私は音楽とともに過ごしたのかと改めて思うと、「あっという間だな」という感慨深さと「そんなに経ったのか!」と驚きの両方があって。でも、10周年のときは「また1つ、大きな節目だな」という感覚と同時に、「まだできないこともたくさんあるのに」という焦りもあったんです。またそこから10年という年月が経った今、できることも10年前より増えた結果、自信を持って「20周年だぞ!」と言えるようになりました。

──May'nさんはアニメ「マクロスF」シリーズに登場する歌姫シェリル・ノームの歌を長年担当してきました(参照:シェリル・ノーム&ランカ・リー、「マクロスF」歌姫たちの奇跡の軌跡)。10周年の頃の焦りというのは、当時の「マクロスF」からの恩恵だけに頼らず、もっといろんな自分を見つけていかなきゃいけないというのもあった?

確かにそうですね。昔から自分がやりたい音楽やライブにこだわってはきたけど、2015年以降はより自分らしさを生かして、自己プロデュースをしながら音楽を楽しむことができています。なので、10周年以降はより一層楽しく音楽ができていますし、さらに言うと30周年を迎えられていたら「30周年の今が一番楽しいです!」と言っているんだろうなとも思います。

May'n

──10年前って、20周年を迎える自分をイメージできていましたか?

一生歌っていたいとは思っていたので、「20周年を迎えられるのかな?」という不安はまったくなかったですし、きっと楽しく音楽をやれているだろうなっていうイメージはできていたかな。特に、10周年以降はよりシンプルに、楽しく自分らしく音楽をやっていこうという思いでいられたからこそ、今を笑顔で迎えることができたんだろうなと。

──20年というと、ご自身の人生において半分以上を占めているわけですが、May'nさんの中で音楽活動と同じように長く続けられているものってほかにありますか?

好きになると、どれも長いんです。例えば、たい焼きも20年ぐらい好きだし、カバも20年ぐらい好きだし、キックボクシングも習い始めてからもう10年経ってます。そういった「好き」が全部音楽につながっているんです。最近は野球観戦も好きなんですけど、選手の皆さんを自分と重ねて見てしまいがちで。選手の方々はプロとして「好き」が職業になって、「自分のためだけじゃなくてファンのためにも野球をしなきゃいけないってどういう気持ちなのかな」とか、「自分1人のパワーだけじゃなくて仲間と一緒に力を合わせて勝利につなげなきゃいけないけど、プレッシャーもすごいんだろうな」とか、「毎日試合があるからどんな体調管理をしているのかな」とか……そういうところにアーティストとしてたくさん刺激を受けて、トレーニングを参考にさせてもらって自分のライブに生かしたりもしています。野球選手のインタビューを読んで「この気持ち、ちょっとわかる」と共感した部分を膨らませて歌詞を書いたりもします。

──いろんな方向に興味を持つものの、その中心に音楽がある。点と点がつながって、最終的に音楽という線を描いていると。

本当にその通りです。周りからよく「趣味が多いよね」と言われるんですけど、私にはそういう感覚は一切ないです。単純に楽しいことが好きなだけで、それが結果としてすべて音楽につながっているだけなんです。

May'n

これこそMay'nの人生!

──昨年から動き出した「Road to 20th Anniversary」というメジャーデビュー20周年企画も、“楽しいこと”の一環ですよね。このプロジェクトを始動してから改めて気付いたことや発見したことは何かありましたか?

はい。デビューをした15歳のときからずっと、「おばあちゃんになるまで歌っていたい」という気持ちを事務所のスタッフさんにもお話していました。そんな思いでキャリアをスタートさせて、途中から名前をMay'nに変えても「ずっと歌い続けられる音楽を作っていこう」という姿勢で続けてきたので、自分にとって「ちょっと背伸びしてるかな?」と思うようなチャレンジもたくさんありましたけど、ただただ楽しいという気持ちで向き合ってきました。この「Road to 20th Anniversary」の一環で、昔の楽曲を再レコーディングしてみると、「これは10代の私っぽいよね」とか「あの頃はこう思ってたけど、今は変わったな」という曲が1つもなくて、どれも「今の私が作詞したのかな? これこそ今私が一番伝えたい思いだな」と錯覚したほどなんです。「May'n☆Space」の中に「好きなこと全部 やろうって決めたとき 今日が光だしたんだ」という歌詞がありますけど、当時はかわいいポップなナンバーだなという感覚で歌っていたものの、今は「これこそ私の人生!」と思うぐらい大切な曲ですし、「Ready Go!」の「100年経っても ありのままでいい」という歌詞もまさにそう。どちらの曲も私自身が作詞をしたわけじゃないんですけど、作詞家の先生たちが「20年後のMay'nはきっとこれを伝えたいんだよ」みたいに託してくださった言葉を、今ナチュラルに歌えているのってすごいことだなと、制作期間に再認識しました。

──もしかしたら「May'nに将来、こうなっていてほしい」という、作詞家さんからの願いが込められていたのかもしれませんよね。

そうですね。振り返って思うのは、自分にとってチャレンジングな曲は全体的にポップなナンバーだなということです。シェリル・ノームを経てMay'nの音楽はカッコいい系の曲が軸になっていたものの、「May'n☆Space」「Ready Go!」「ViViD」みたいなポップな曲を通してかわいらしさを出すことが当時は難しくて、「ポップなMay'nってなんだ?」ともがいていたこともありました。でも、チームのスタッフさんは「May'nに合ってるよ!」と褒めてくれたし、ポップでキュートな曲もファンの方にすごく愛してもらって「すごく好きです!」という声もたくさんいただいた。リリースから年月が経った今、一番自分らしい曲は何かと問われたら、ここで挙げたようなチャレンジだと思っていた曲なんです。これも長く歌わせてもらってきたからこその気付きであって、表現を模索しながらも自分らしさを見つけられたことって本当に幸せだなと、特にここ数年は強く実感しています。

May'n

──この20年を振り返ったときに、May'nさんの中でいろんなターニングポイントがあったと思いますが、そこからいくつか挙げるとしたらどんなトピックがありますか?

まずは「マクロスF」ですよね。20年前に本名でデビューしたけどなかなかうまくいかず、数年で最初のレーベルとの契約が切れてしまい「どうしよう?」と悩んでいたときに「マクロスF」のお話をいただき、そこからまた音楽人生を始めることができました。「マクロスF」がなかったら今の私はいないと思うし、キャリアという意味でも「マクロスF」という作品やシェリル・ノームという最強の歌姫の強い気持ちから確実に影響を受けましたし、私を語るうえで絶対に欠かせないトピックだと思います。そして、もう1つ大きなターニングポイントとして挙げられるのが、2015年の10周年のタイミングですね。10周年という一番気合いを入れなきゃいけないときに私は喉を壊してしまって、ツアーも途中で中止になり、3カ月ちょっと休むことになって、そのときは「私の人生、終わった……」と本気で考えていたんです。当時の私は「プロの歌手=喉が壊れるはずない」と思っていたんですけど、手術をしたあとから肩の力がどんどん抜けていって。「ああ、私も人間だったんだ」と認めることができたし、自分の体のちょっとした変化やSOSにも敏感に反応できるようになりました。あと、自分の弱い部分も周りに見せられるようにもなり、音楽でもありのままの自分を表現できるようになったんじゃないかな。うちのライブチームは私がこの活動を初めてからずっと一緒なんですけど、みんな「2015年からの10年は、それ以前よりも楽しくライブを作れているよね」と言ってくれます。きっとそういう私の変化がみんなに伝わったんでしょうね。