CENT(セント)は、2023年6月に東京ドームで解散したBiSHの元メンバー、セントチヒロ・チッチの音楽プロジェクト。始動から3周年を迎える今年8月20日、ビクターエンタテインメントからメジャー1stミニアルバム「らぶあるばむ」をリリースした。今作には詩羽(水曜日のカンパネラ)、北澤ゆうほ(Q.I.S.、the peggies)、SATOH、THIS IS JAPAN、J. og、おかもとえみ(フレンズ)、ミト(クラムボン)らが作家として参加。BiSH時代から変わらない“愛”を軸に、新たな表現者としての挑戦と成長を続けるCENTの魅力が詰まった作品となっている。
今作のリリースを記念したインタビューでは、チッチが人として、ソロアーティストとして、役者として抱えていた思いについて言及しつつ、BiSH解散以降の変化について語ってくれた。そして豪華アーティストを迎えたミニアルバムの制作エピソードを通じて、彼女の“らぶ”──ファンや仲間への感謝、自己との対話、そして多様な愛の形を肯定する姿勢が色濃く反映されていることが伝わってきた。
特集の後半にはチッチを知る著名人8名によるお祝いメッセージを掲載。奥田修二(ガクテンソク)、木梨憲武、さとうほなみ(ほな・いこか / ゲスの極み乙女)、純(しずる)、奈緒、ノブ(千鳥)、松下洸平、渡辺淳之介(元WACK代表)のコメントも、チッチの言葉と合わせて、ぜひチェックしてほしい。
取材・文 / 森朋之撮影 / 大橋祐希
BiSH時代から大切にしてきた“らぶ”
──メジャー1stミニアルバム「らぶあるばむ」のリリース日、8月20日はソロ活動3周年の日です。この3年間を振り返って、どんな思いがありますか?
2023年6月にBiSHが解散して、考えることが一変したんですよね。それまではグループのことを考える時間が多かったけど、解散以降は自分と向き合う時間が増えて、それがよくも悪くも自分自身に影響しています。
──「ソロアーティストとしてどうあるべきか?」ということですか?
そうですね。人としてどうあるべきかもそうだし、アーティストとしても役者(※加藤千尋名義で活動)としてもそうだし。まだまだ模索中というか、表現者としてあるべき姿をずっと追い求めてしまうんです。正解はないかもしれないけど、それはずっと自分の課題だと思ってます。自分のことが一番わからないからこそ、考えていかなきゃなって。
──周りから求められることもあるでしょうし。
はい。BiSHが解散して、メンバーみんな、それぞれの形で生きていて。私は今こういうフィールドで活動していますけど、私を愛してくれてる人はどういう私が好きなのか?というのはやっぱり考えるし、独りよがりではいけないと思ってるんですよ。「私は勝手にやるから、好きになって!」は違うと思うし、応援してくれる人たちの意見も聞きながら、1つひとつ形にしていけたらなって。
──音楽に関しては当然、チッチさん自身がやりたいこともありますよね?
はい。やりたい音楽をやっています。グループのときはプロデュースされていましたが、それはそれで生きやすかったし、BiSHの音楽も大好きなので、すごく幸せだったんですよ。CENTの音楽は、私が発信したいことを曲にしてますし、もっと自分に寄った形でできあがっていて。やりたいことをやってるなという感覚が強くあります。スタッフの皆さんも音楽が好きな方ばかりで、発信したいことを一緒になって形にしてくれるし、今までになかった楽しさもすごくありますね。とにかく必死にやってきたBiSH解散からの2年間でした。
──ミニアルバム「らぶあるばむ」からも、CENTの活動における充実ぶりが伝わってきました。このタイトルはいつ頃決めたんですか?
そんなに前じゃないですね。メジャー移籍が決まって、ミニアルバムを出すことになったときに、「私が一番大事にしてきたことってなんだろう?」と振り返ったら、やっぱり「愛を伝えることだな」と思って。BiSHの頃から私は“愛”を大事にしてきたし、それを形にして、言葉にしてきた。今回のミニアルバムでも改めて愛を伝えられたらなと思って、「らぶあるばむ」というタイトルにしました。
──やっぱり愛が大事だと。
タイトルを決めるときに今までの歌詞も全部振り返ってみたんですけど、どの曲にもちゃんと“らぶ”があったんですよね。それが自分でもうれしかったし、時間が経っても「これが私だな」と思える曲を届けられたらいいなって。おばあちゃんになってもずっと同じ思いを伝えていきたいです(笑)。
いろんな“らぶ”が詰まったミニアルバム
──では「らぶあるばむ」の収録曲について聞かせてください。1曲目の「堂々らぶそんぐ」は昨年8月に配信されたシングル曲です。ミニアルバムの起点になった曲だと思いますが、チッチさんにとってはどんな楽曲ですか?
「どストレートなラブソングを作ったぞ!」という感じですね。それまでは抽象的に愛情を表現することが多かったんですけど、この曲を作っていたときは「今しかない、女の子としての時間を生きていく中で、堂々としたラブソングを歌い残しておきたい」と思って。私は平成生まれですが、平成のラブソングってストレートだったよなと思い返すこともあったし、まっすぐな言葉を伝えられるのも私の長所だなと。そんなことを考えながら、「夏らしく、カラッと行こうぜ!」という気持ちで作った曲です。
──ファンの皆さんの反応はどうですか?
ライブですごく盛り上がる曲になってて、ちゃんと育ってくれた感覚があります。いつもライブを想像しながら曲を制作してるんですけど、やっぱりライブってナマモノなので、どうなるかわからないじゃないですか。それが楽しみでもあるんですけど、「堂々らぶそんぐ」は「こうなったらいいな」と思っていたことがちゃんと実現して。特に「Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah!!」ってみんながシンガロングしてくれるのがうれしくて、ライブでもそのパートが来るのが楽しみです。
──2曲目の「ラブシンドローム」は、北澤ゆうほさん(Q.I.S、the peggies)が作曲を担当したポップロックチューンです。作詞はチッチさんとゆうほさんの共作ですね。
ドラマ「北くんがかわいすぎて手に余るので、3人でシェアすることにしました。」の主題歌なんですけど、まずは脚本を読ませてもらって、登場人物に感じたことを噛み砕いて歌詞にしていきました。そういう歌詞の書き方は新鮮だったし、この作品を通して、私が今まで知らなかった愛の形を教えてもらえたことにもすごく感謝してます。
──今まで知らなかった愛の形と言うと?
凝り固まった価値観が嫌いだったはずなのに、「恋愛の形は男女の1対1」と思ってたところがあったんですよね。この曲を作っていく中で、それぞれの愛の形に正義があるし、すべてを肯定したいと思うようになって。自分自身も新しい価値観を教わったし、もっと広い視野でいろんなことを見ていきたいなと。聴いてくれた人の背中を押せる曲になったらいいなと思いますね。ゆうほが曲を作ってくれたのもうれしかったです。もともと彼女とは友達なんですけど、ゆうほが作るラブソングはすごくポップでキュートだし、この曲でもその魅力が炸裂していて。いつも刺激をもらっていますね。
──そして「ポーカーフェイス・カウボーイ」は、SATOHのLinna Flaggさんが作詞作曲、SATOHがアレンジを手がけています。
全部SATOHにやってもらった曲です。もともとSATOHの曲が大好きで。ジャンルでいうとハイパーポップだと思うんですけど、いろんな要素が入っていて、ちょっと懐かしさもある。それを唯一無二の形で表現しているのがすごくカッコいいし、ほかのアーティストにはないクリエイティブだなと。SATOHを知ったときからずっとリスペクトしていて、いつか一緒にやれたらいいなと思っていたので、実現できてうれしいです。
──楽曲を聴いたときの印象は?
最高でした。こちらからは何も言わず、すべてお任せしたんですけど、届いた音源を聴いたときはすごく高まりましたね。あまりにもSATOHすぎて、もちろんそれがいいんですけど、「はたして私にカッコよく歌えるのか?」って心配になっちゃったんですよ。レコーディングはLinnaくんが立ち会ってくれて、すごく細かいところまで指導してくれました。「歌い方ってこんなにいっぱいあるんだな」と思ったし、時間はかかったけど、いいテイクになったと思います。
──特にこだわった部分は?
私、実は滑舌がよくなくて、特に“た行”の発音が苦手で。この曲の速さで歌うとうまく言えなかったんですよ。でもLinnaくんが「こういう感じでやってみて」と教えてくれて……文字にしてもわからないと思いますけど(笑)、かなりうまく発音できるようになりました。あと、「このワードはこの人を思い浮かべながら歌って」みたいなアドバイスもありました。やってみたら今までとは違う歌い方になって、それもよかったですね。
──新たな表現を引き出せたんですね。この曲、ライブでも盛り上がりそうですね。
もう何回かやったんですよ。この前のライブでは撮影OKにしたから、みんな撮るほうに夢中になってました(笑)。今後は踊り狂える曲になったらいいなと思ってますね。
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チッチ作詞作曲「Girlfriend」に込めた思い