アマチュアアーティストが、安心して楽しく音楽活動できる世界を作りたい──そんな思いから生まれた、「muside(ミューサイド)」というアプリがある。
musideは、アマチュアの音楽シーンで必要な情報を網羅・管理できる、音楽活動サポートアプリ。ライブハウスやスタジオの情報提供、楽曲・映像・チケットの管理機能、さらにはメンバー募集機能と、アマチュアアーティストの利便性に適うさまざまな機能を有している。
2024年2月にローンチされたこのアプリは、西日本鉄道株式会社の社内起業家育成制度「X-Dream(クロスドリーム)」をきっかけに誕生した。企画立案をしたのは、もともと音楽好きで、かつ音楽活動の経験があった社員たち。彼女らはどのような思いを持ってこのアプリを開発したのか。音楽ナタリーではmusideを運営する近藤真由氏、結城隆充氏、渡邉元輝氏にインタビューし、その思いを聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 須田卓馬
音楽活動サポートアプリ「muside(ミューサイド)」
音楽活動を行うアーティストとライブを愛するリスナーのためのアプリ
主な機能
- ライブ出演・鑑賞の記録機能
- メンバー募集機能
- 楽曲・映像・チケットの管理、告知機能
- オーディション機能
- ライブハウス・ライブバー・練習スタジオ・イベント情報の提供
- 直近のイベントやmusideがピックアップしたアーティストのレコメンド
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最初は軽い気持ちで企画した
──お三方の担当業務と言いますか、それぞれどのような役割を担っているんでしょうか?
近藤真由 役割というのは……あまり明確に分かれてはいないですね。基本、この3人ですべてをやっています。
結城隆充 そうですね。3人ともなんでもやっている(笑)。
渡邉元輝 イベントや企画ごとに仕事を分担することはもちろんありますが、誰が何をするかはハッキリ決まっていないですね。
近藤 一応プロジェクトリーダーは私なのですが、決まっていることといえばそれぐらいで(笑)。
結城 出自的なことで言うと、近藤はもともと西鉄エージェンシーという会社にいて、マーケティングや広告方面に強い。私は以前までずっとシステム会社に出向していたので、システム構築などにまあまあ詳しいという特性はあります。で、渡邉に関しては……。
渡邉 私はもともと西鉄グループの建物や工事などを運営管理する部署にいて、musideの事業とはまったく関係のないことをしていました(笑)。
結城 彼はもともとバンドマンで、新入社員の頃から「バンドやってます!」というキャラを前面に押し出していて。それで僕らが始めたmusideの事業に興味を持ってくれて、こっちも2人では人手が足りていなかったので……。
渡邉 去年の10月からこちらのプロジェクトに加わりました。
──なるほど。プロジェクトの立ち上がった経緯としては、近藤さんと結城さんが社内公募の新規プロジェクト募集にこの企画を出したことが始まりだと聞いています。
近藤 そうです。「X-Dream」という社内起業家育成制度がありまして、それが始まった年にちょうど私が西鉄本社勤務になり、結城と同じオフィスで働くようになっていたんです。仕事内容は全然違ったんですけど、雑談の中でお互いに音楽活動経験があることを知って。
結城 私がバンドをやっていたのはもう20年くらい前の話なんですが、近藤は弾き語りのライブ活動を始めたくらいの時期だったんです。
近藤 「じゃあそういう感じの企画を出してみようか」と、最初はすごく軽い気持ちで企画書を出して(笑)。それがトントン拍子で採用されて会社からゴーサインが出たので、一昨年の2月にアプリの開発がスタートしました。そして昨年2月にリリースに至った、という流れですね。
結城 最初の段階では「こういうアプリがあったら便利だよね」というのをひたすら紙に書き出したり資料にまとめたりして、それを周りの人に見せて意見を聞いたりしながら仕様を固めていった感じでした。
“外”へ出ていくためのハブのような存在に
──実際に音楽活動をする人の目線で「こういうアプリが欲しい」と思うものを考えたわけですね。
近藤 はい。私がいざ「ライブ活動を始めたい」と思ったときに、意外と情報がなかったんですよ。「何をどうしたらライブハウスに出演できるのか」って、ネットで調べても決定的な情報にはなかなか出会えなくて。それに、ライブハウスってちょっと怖そうなイメージもあるじゃないですか(笑)。私自身が活動を始めるときにそういうところでつまづいたので、その不安を解消できるようなアプリを作りたいなと思ったのが発想の取っかかりでした。
──実際にそういった音楽活動をしている人が、周りに1人でもいれば全然違うんですけどね。
近藤 そうなんですよ!
渡邉 私の場合は軽音楽部出身なので、その最初のハードルはなかったんですが、部員たちの世代が下へいくに従ってライブハウスというよりはネット音楽の方向へ傾いていくのを感じていました。ライブハウスで活動する際の連絡手段であったりノルマのシステムであったりが不透明でわかりづらい部分も多いので、今の若い人たちの感覚には合わない世界になってきているのかな?とは思っていて。
結城 そうなんですよね。ライブハウス業界って、私が音楽をやっていた20年前からほとんど変わっていない。「いろんな障壁を自分の力で乗り越えて来い」というスタンスなんですよ。しかも、出演する際のいろんなルールもハコごとに全然違ったりする。そのあたりがもうちょっと透明化されて、ライトな気持ちで入っていける世界になったらいいな、という気持ちがありますね。
渡邉 ライブハウスに出演することでしか出会えない音楽仲間ができたり、そこからイベントに呼ばれたりと、広がっていくものがたくさんあるんです。もちろんネットの世界でもそういうつながりが生まれることはありますが、個人的にはライブハウスの文化も必要なものだと思います。
近藤 もちろんネットで音楽活動をするのも素晴らしいことですし、そこで楽しんでいる人たちにライブハウスでの活動を強制するつもりはまったくなくて(笑)。ただ、その選択肢を最初から消してしまうのはもったいないという思いはあります。私たちはmusideというアプリだけですべてを完結させようとは思っていなくて、個人で音楽活動をしている方々が“外”へ出ていくためのハブのような存在になれたらいいな、という考えで開発・運営にあたっています。
まずはデータの統一化を
──そうした思想で始まったアプリ開発ですが、昨年2月のリリース時点で機能としてはどこまで実装されていたんですか?
結城 まず初めにやったのが、ライブハウスの情報を一元的に検索・比較できるデータベース構築ですね。ライブハウスの情報ってお店ごとに内容も形式もバラバラで、ホームページにすごく力を入れているところもあれば、ほとんど情報が載っていないところもある。それを統一のフォーマットで均一に並べるだけでも、かなり便利なものになりますから。
──言うなればライブハウス版の食べログみたいなことですね。
結城 まさにそういうことです。それが大きく1つあって、もう1つの柱がアーティストのプロフィール機能。言うなればFacebookのような感じで、アプリ内に自分のプロフィールやライブ予定、活動履歴なんかを登録して閲覧できる機能です。その2軸がある程度形になったところでリリースした感じですね。
近藤 普段ライブ活動をしていて、「この日のライブには何人お客さんが来て、セットリストはこうだった」みたいな情報をまとめられる機能があったら便利だなと思っていたんです。その記録方法って人によってまちまちで、紙に書いている人もいれば、なんらかのアプリを使っている人、そもそも記録をつけていない人など(笑)、千差万別なんですよね。musideではアーティストページの中にライブ情報を登録できるようになっていて、その情報がそのまま告知にも使えるし、ファンがそのライブに対して「チケット取り置き」を依頼できる機能もあります。そしてライブが終わったあとは、そのままアーカイブとして活用できるようになっています。
──チケット取り置きができるということは、アーティストだけでなくお客さんもmusideにユーザー登録できるんですね。
渡邉 そうです。ユーザー登録していないお客さんからの取り置き依頼についても、一応手入力で管理できるようにはなっています。ただ、現状はただの文字情報でしかないので、アーティストさんはライブ当日にそのリストをお店側にいちいち伝えないといけないんですけど(笑)。将来的にはそこをデータとしてつなげたり、決済までできたらいいなとは考えています。
結城 なのでお客さん側も、自分のライブ鑑賞履歴をアプリ内に残すことができるんですよ。さかのぼって「あの日の3曲目よかったな、なんて曲だろう?」と調べることもできる。アーティスト側がちゃんとセットリストを記録していれば、ですけど(笑)。
ゆくゆくは全国で使えるアプリに
──お店のデータベース化に関しては、どうやって実現しているんですか? 普通に人海戦術で?
結城 そうですね(笑)。1軒1軒電話やメールで連絡をして、「こういうサービスを作ろうとしているのですが、情報を載せていいですか?」と許可を取っています。
近藤 許可をいただけた店舗さんは「認証店舗」と呼んでいまして、アプリ内のリストにピックのマークが付きます。まだ許可をいただけていないところもリストには一応載せていて、住所や電話番号など最低限の情報だけを記載している感じですね。最終的にはリストのすべてを認証店舗にすることが目標です。
結城 現在は福岡エリアのライブハウスがどうしても中心にはなっているんですが、ここから全国へ広げていこうと考えています。東京エリアなども含めて、かなりメールの投げ込みは行っていて。全国の情報をある程度網羅できるようになれば、普段は地元だけで活動しているアーティストが遠征ライブを行うようなこともしやすくなると思いますし。
近藤 福岡以外ですと、東北エリアなどでちょっとずつ認証が増えてきている状況ですね。まだまだこれからではありますが……店舗さんのお話を聞いていて、地方のお店ほどこういったアプリを必要とされていることが判明してきたんです。例えば週末だけライブを行っている飲食店さんなどは、ネットで「〇〇県 ライブハウス」と検索してもなかなか出てこない。でもそういうお店のオーナーさんほど音楽に熱意を持っていらっしゃって、もっといろんなアーティストをブッキングしたいと思っていらしたりするんですよ。
──アーティスト側にも、そういうお店でこそ演奏したいと思っている人は一定数いそうですよね。でも、出会い方がすごく難しいという問題がある。
近藤 そうそう、そうなんです。
結城 そういうアーティストとライブハウスのマッチングの場になっていくのが、我々としても理想ではあります。ゆくゆくはマッチング機能も付けたいんですよ。例えばライブハウス側が「この日のイベントに出演者が足りないので、こういうバンドを探しています」という情報を出せて、アーティスト側はそれを見て「やったことないお店だけど、家から近いし音楽性も合いそうだから出てみたいな」と申し込んだりできるような仕組みを考えています。
近藤 その際にお店側もアーティストのプロフィールページを確認できるので、SNSなどに分散している情報をがんばって収集しなくても、その人がどういうアーティストなのかをある程度わかったうえでブッキングできるメリットがあります。普段どこで活動しているのかも見えますし、演奏動画なども載せられるので、音楽性や演奏レベルも知ることができますから。
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ニワトリが先かタマゴが先か、みたいなことになっている