左からFORK、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.3(後編) [バックナンバー]

韻にこだわり続ける“RHYME SAVER”:FORK

「フリースタイルダンジョン」で編み出したバトルスタイル

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バトルも1つの作品

FORK

FORK

──“韻のマシマシ”スタイルではなくなりましたね。

FORK ライムよりも「何を言うか」の方向に重きを置いたし、そこでちゃんと意味のあることを言って流れを生み出すことができれば、ケツで3文字ぐらい踏めばちゃんとそれがパンチラインになるから。だから「相手に何を言うか」が、今のバトルで自分に課してることかもしれない。ちゃんと言い返せば韻がそこまで固くなくても相手やリスナーに刺さるのが、今のバトルのあり方だと思うし。

KEN アンサーがどう決まるかのほうが大事になってますよね。

FORK それを自分に気付かせたのには、呂布カルマの存在もデカい。韻の数や固さじゃなくて、意味やアンサー能力で勝つというのは、やっぱり呂布カルマが切り開いた道だと思うし、それは自分も意識してる。俺自身、KENみたいに3連で畳みかけるとかってタイプでもないし。だから、自分のラップスタイルとの折り合いの部分でもあるよね。そうやって、いろんなアップデートとか変化は意識しつつも、「フリースタイルである」の根本は変わらないと思うし、それは自分の自信のある部分だから、そこは意識し続けないとなと。

KEN 「うまい言い回しを冷静に踏んで落とす」という今のFORKくんのバトルのスタイルは、音源に近付いていってると思うし、結果としてバトルと音源がつながってるのかなって。

FORK それは本当にある。「ダンジョン」で見つけた今のバトルスタイルは、自分でもリリックを書くときの俺に近付いているんですよね。だから「ダンジョン」で見つけたと思ったスタイルが、本来の俺のスタイルだったのかもと気付かされた部分もあって。KENとの「インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q」は、俺が2代目モンスターに抜擢されてすぐくらいに作った曲だったから、如実にそういう部分が出てるかもしれない。一方で、曲のリリックでは言えないことがバトルではスッと出てきたり、逆にバトルで言うようなことはリリックにはできないなと思うときもある。バトルは正直、「いやー、うっかり言っちゃったな、てへへ」で済ませられる部分もあるじゃん。

KEN よほど普段の発言とかけ離れてない限り、そうですね。

FORK でも音源は言い訳ができないし、「言葉に対する責任感」みたいな部分はちょっと違うかもしれない。もちろん、バトルだから無責任という意味ではないんだけど、極端に言えばバトルと音源は「そもそものジャンルとして違う部分がある」と思う。

──ただ、FORKくんが出るような大きなイベントになると、映像などアーカイブ化されることも今は普通だし、音源と同じように“残る”ことがスタンダードな形になっていますね。

FORK だからここ何年かは、「バトルも1つの作品」と思うようになってきてますね。そのアプローチの違いが、フリオチや言葉遊びはちゃんと落とし込みつつ、そこにいかに責任のある言葉、意味のある内容を込められるかという今のバトルに対する姿勢につながってるし、フリースタイルの形になってるんだと思う。

KEN FORKくんの今のバトルスタイルって、「その場の輝き」に加えて、「あとに残っても通用する言葉の耐久力」も意識してると思うんですよね。それはパンチラインの重さや、韻の質みたいなことから感じる。

FORK やっぱり「フリースタイルダンジョン」で、「バトルでの言葉に字幕が付いた」というのが大きい。字幕になったときを意識するし、うっかり変なことは言えないなと。でも、それで変にかっちりしすぎてもフリースタイルならではの面白さはなくなってしまうし、みんなが観たいものは即興ならではの、バトルならではの妙だというのはわかってるから、そのバランスは意識してた。

──そこでもバトルに対する意識が変わったと。

FORK 常に変わってますね。相手の言葉のケツから始めることが最近は多いのは、そのほうが字幕になったときにわかりやすかったり、今のバトルでは通じやすいという部分もある。そして、相手の言葉から始めつつ、その中で自分のフィールドに導けたときは勝ち筋に近付いてると思うし、逆に着地できなくてフワフワしたときは負けがち。だからバトルの中で「うわ、戻れた!」とか「つなげられたはずなのに……」とか、自分でも驚くことがありますね。

KEN ラッパー側の高揚感やひらめきが伝わって、オーディエンスが湧く部分はありますよね。

FORK 「これは今ひらめいたな!」というのは観てても戦っててもわかるし、それは絶対ぶち上がる。逆に「これは固めてきたな」も聞けばわかるし、それが臭ったら負けだよね。

KEN 「あ、これは仕込んでたな」と臭う瞬間があるんですよね(笑)。

FORK 切り返し方だけじゃなくて、フロウでも「あ、これは置きに行ったな」とわかることもあるし、今はみんなそれを嗅ぎつける。

KEN だからFORKくんみたいに固く踏みつつ名言を生み出す、みたいなことが即興でできるのは本当に今のバトルにフィットしてるんだろうなって。

FORK 名言……自分でそうやって言い出したらヤバいから反応しづらいけど(笑)。

KEN でもFORKくんは名言を求められるところありません?

FORK よく言われるんだけど、そっちに行きすぎるとヤバいから、絶対ふざける部分は入れようと思ってる。「名言を残す」がテーマになったら絶対ケガするから。だから、もう「名言集」みたいな本は絶対読まないようにしてる。絶対影響を受けちゃうし、それがバレたら全部終わる(笑)。

KEN バレたらキツい(笑)。

FORK だからメッセージのような部分は自分の中から見つけないといけないのかなって。

KEN でも、それはちゃんとラップとしてのパンチラインだから意味があると思うんですよね。例えば「ダンジョン」でのNAIKA MC戦(3rd season Rec 5-1)での「お前のスタイルが王道になっちまうんだったら / 今後バトルの熱は相当冷める / それが正義だって言うHIP HOPシーンなら / 俺は抜いた刀をそうっと収めるよ」。

FORK あのときは「じゅう~」(字幕では「お前じゃなくてハンバーグが食いたいな焼いて / じゅう~」)みたいなことをNAIKAが言って、それに会場が沸いたから「なんだよ、冷めるな」と思って、それであの切り返しが生まれたんだよね。

KEN FORKくんのマインドから出てきたと。本当にありえないクオリティの名言であり、名パンチラインだと思うんですよね。

FORK もちろん自分の中にストックされてたライミングだけど、このバトルであの言葉を言おう、あの韻につなげようとは思って出てはないよね。

──あれはNAIKA MCというFORKくんとはまったく対極的なラッパーだったからこそのスタイルウォーズだったし、あの内容に意味がしっかり生まれたと思います。

FORK あれとSAM戦の「いろんな調べてきた固有名詞出して / 韻踏まれても全員こういう目して見てると思うよ」は自分でも手応えがある。

KEN 確かに、あれも「まだこんな韻が日本語には残ってるんだ」と思いましたね。

FORK SAMが出した「ポーカーフェイス」という言葉に引っ張られたのと、「チェダー ボム」を俺が「ジェダイ」と聞き間違えたことから始まってるから、実は切り返しとしてはミスってるんだよね。でも、それがフリになって、自分でも笑うぐらいいい着地になったので、それがフリースタイルの面白さだよね。

図抜けたやつが出てきてもおかしくない

左からFORK、KEN THE 390。

左からFORK、KEN THE 390。

──最後に、今後のMCバトルはどうなっていくと思いますか?

FORK 巨大化したことで、言い方は難しいけれどもヒップホップやB-BOYというアティチュードを持たない人も参加するようになったと思うし、運営する側はそれをどう舵取りするかを考える必要があるのかなって。大きくなったことでネガティブな部分も増えてると思うけど、それをポジティブにひっくり返すことも可能だと思うんですよね。それに、ネガティブな意見が生まれるのは、ポジティブなイベントや、「いいバトルが観たい」という気持ちがあるからだと思うし。

KEN 無関心だったら、ネガティブな意見すら出ないですからね。

FORK そう。バトルを好きな人が増えたからこそだと思うし、いい方向に持っていくチャンスでもあると思ってて。

KEN 「いいバトル」「いい方向」は大まかにいえば、アティチュードや誰が出るかといった「内容」と、小節なのか持ち時間なのかといった「構造」の2軸があると思うんですが、プレイヤーとして「構造」の部分ではどう思いますか?

FORK THE BRIDGE YOKOHAMAでやってるイベント「CLEAN UP」のエキシビションで、「8小節×2、4小節×2、2小節×4、アカペラ」と16小節がどんどん細かくなってくルールで晋平太とバトルしたことがあるんだけど、長くするんじゃなくて短くするのも面白いかなって。だからシステムとしてもいろんな方向性や可能性が残ってると思う。バトル全体のことで言えば、「バトルのプレイヤーとして世の中に知られる大スター」はまだ出てきてないと思うし、それが見たいな。これだけメンツが多くなれば、そこで図抜けたやつが出てきてもおかしくないし、それが今の希望ですね。

FORK(フォーク)

横浜を拠点に活動するラッパー。2001年にヒップホップクルー・ICE BAHNを結成し、同年の「B-BOY PARK」出場を皮切りに、多くのMCバトル大会に参加。ICE BAHNで出場した「3 ON 3 MC BATTLE」で優勝し、個人でも2006年の「ULTIMATE MC BATTLE」、2021年の「KING OF KINGS」で優勝を飾っている。2017年8月からテレビ朝日にて放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」には、2代目および3代目モンスターとしてレギュラー出演した。徹底した押韻スタイルでシーンに大きな影響を与えている。

Ice Bahn

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。これまでに11枚のオリジナルアルバムを発表している。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。テレビ朝日で放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。2023年11月に新作EP「Unfiltered Red」を配信リリースした。

KEN THE 390 Official

※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。

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KEN THE 390 @KENTHE390

後編も公開されました!
改めてFORKくんの分析力とストイックさに驚かされました。 https://t.co/dckrSjlG7J

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