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細野ゼミ 7コマ目(後編) [バックナンバー]

細野晴臣とニューウェイブ

ニューウェイブたらしめるものとは何か、アーティストの音楽性やスタンスから考証する

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ニューウェイブの定義って?

──ここまでニューウェイブについてあれこれ話してきましたが、安部さん、なんとなくつかめてきましたか?

安部 本当に僕全然知らないので、話を聞いてるだけで楽しくて。Canとかなんとなく知ってたけど、そうだったんだ!とか。

ハマ Canは俺も言われて気付いた。灯台下暗しっていうかね。

安部 全然通ったことない音楽だったんで、ちょっと興味出てきました。まずゲートをかけるってことをやってみたいなと思いましたね(笑)。

ハマ 細野さんにはうんざりされるけどね(笑)。

安部 ちょっと楽しそうだなと思って(笑)。

──そんな安部さんにオススメするならどのへんの曲がいいんですかね?

ハマ “バーバー”で言ったらTalking Headsとか外れちゃうと思うんだよな。

細野 Talking Headsはゲートかけてないよね。

ハマ Talking Headsは聴いてほしいけどバーバーではないから。

安部 そうなんだ! Talking Headsは違うんだ。

ハマ 全然。もっと肉体的なバンドというか。でもそれこそ、やっぱりDuran Duranとかは“バーバー”とポップさでわかりやすいかもしれませんね。

──ニューウェイブの陽の部分ですね。

安部 ドラムはゲートで“バーバー”だとして、僕のイメージだとギターはリバーブとかコーラスがかかったフワッとしたイメージで。ニューウェイブって、なんとなくそんな印象があるんですけど、やっぱりドラムの音が印象強めですか?

──わかりやすいのはドラムですよね。

ハマ そうですね。わかりやすいのは。

細野 ギターが前面には出てこない。ニューウェイブは。

ハマ けっこうカッティングとか。

──リズムギターですよね。

細野 あとはシンセが多い。

ハマ で、けっこうファンキーな印象もありますね。ポップだろうがアングラだろうがリズムセクションがファンキーでカッコいいみたいな。Talking Headsのバンド内ユニットのTom Tom Clubもそうだし。

安部 ニューウェイブは結局なんでもいいんですか?

ハマ ははは。

安部 何から派生して生まれてきたんですか?(笑) パンクの人がシンセを取り入れたり、ドラムをバーバーいわせたらニューウェイブになった、みたいなことなんですか? 単純にどこから始まってるんだろうと思って。

細野 わかる。

ハマ 社会的なメッセージを歌っていたりパンクから派生したグループも多いと思うんだけど、ニューウェイブのバンドって全体的にインテリジェンスな雰囲気がありますよね。音像もパンクに比べて洗練されてるし。

安部 パンクとかがルーツにある人が新しい音楽を始めたっていうこと?

ハマ 単純にやっぱりパンク的なことに飽きてきたんじゃないの? 血だらけでダウンピッキングみたいな。あとはそれこそYMOもそうだと思うけど、テクノロジーの進化もかなり影響してるんじゃないかな。それまでの時代に比べて、スタジオでやれることも格段に増えただろうし。新しいことを試してみたい意欲的な人たちが「こういうのもう古くない?」って、いろいろやり始めた時代なんだろうね。

ニューウェイブに怖い人はいなかった

──細野さんは80年代という時代は肯定的に捉えてらっしゃいますか?

細野 今ちょっと考え中なんだよね……(笑)。

ハマ 細野さんが即答しないで「考え中」っていいな(笑)。

細野 記憶を全然たどれなくなっちゃってて。5、6年前に「あれなんだっけな……」ってずっと考えてたことがあるんだよ。で半日くらいかかって思い出したんだけどね。それがScritti Politti。

──あ、Scritti Politti!

細野 いろいろ落ち着いてきた80年代中旬にScritti Polittiが突然出てきてミュージシャンたちはみんなびっくりしたね。あの音聴いて「すげえ!」って。

ハマ ははは。

細野 それが今聴くと普通なんだよ。なんで普通かっていうと、みんなが彼らのサウンドをマネしてポップに取り入れられちゃったんで。今聴くと全然衝撃じゃない。そういうことっていっぱいあるんだよね。でも聴いたときはびっくりしたね。こんな緻密な音楽があるのかと。

──確かにScritti Polittiはサウンドが緻密でしたよね。

細野 機材を豊富に使ってるからね。スタジオとかすごいよ。潤沢な制作予算があった。パンクはそれがなかったね。イギリスなんか、ああ見えて階層社会だから、パンクは不良の溜まり場みたいなところもある。どっちかっていうとニューウェイブって学生っぽい。

──確かにインテリっぽいですね。

細野 で、アートスクール出身者が多いんだよ。

安部 ああ、でも確かにそんな感じします!

細野 ブライアン・イーノもそうだし、ニューヨークのデイヴィッド・バーンもアートスクール系だし。アート系の連中がやり始めたってところもあるよね。

ハマ それ言われると納得するな。なんか、みんなちょっと飄々としてますもんね。そこが怖い人たちと違うところかもね(笑)。

安部 なるほど、確かにそんな感じすると思った。

細野 ニューウェイブに怖い人は全然いなかったよ(笑)。

ハマ アートスクール系ね。それはこの国に置き換えても言える気がしますよね。80年代のニューウェイブ周辺の方々って、それ以前の時代のアーティストと確かに全然作るものが違いますよね。

安部 アウトプットの仕方が違うもんね。

ハマ シティ感とはまたちょっと違うけど、なんかやっぱりちょっと余裕があるっていうか。

安部 確かに余裕があるね。それはそうだね。

ハマ パンクとかやってる人のことはバカにしてるよね、確実に。そういう奴って学年に何人かいるじゃん。

安部 確かに!

ハマ ヤンキーとうまく付き合ってるけど裏でものすごいバカにするやつ(笑)。ニューウェイブには、そういうインテリジェンスな側面がある気がします。

いい音楽が生まれていた80年代

──ニューウェイブ~80’sについてお話してきましたが、お二人は今回のテーマについて理解が深まりましたか?

安部 僕はだいぶ深まりました。

ハマ 僕は自分なりにニューウェイブをいろいろ聴いてきたつもりだったんですけど、細野さんのお話を聞いたらニューウェイブの「ニュ」の字ぐらいしか聴いてなかったんだなと思いました(笑)。

細野 いや、僕もそうなんだよ。忘れてることが多いんで、今まさに思い出そうとしているところ。この対談が終わったあとに思い出すかもしれない(笑)。

ハマ 80年代に関していうと、MTVの登場によって音楽が総合芸術になった時代なのかなと思いますね。MVが話題になって曲が売れるみたいな。曲はもちろん、とにかくMVを作れと言われていたみたいだし。音楽を「聴く」だけではなく、「観て」楽しむ時代が訪れたわけですよね。

細野 そうそう。ニューウェイブはそれが始まった時代だよね。

──その影響でアーティストもメイクするようになったり。

ハマ っていうのがあるんでしょうね。ニューウェイブを皮切りに。僕が大好きな、Journeyの伝説のMVがあって。この世で一番ダサいんじゃないかって思えるようなMVなんですけど(笑)、そういう作品が作られるくらい映像が重視されていたんでしょうね。

細野 その走りがデヴィッド・ボウイとDuran Duran。MVがとにかく素晴らしかった。

ハマ おっしゃってましたよね。ビデオが面白かったって。

細野 Duran Duran は、MVを作った監督まで覚えてるから。ラッセル・マルケイっていうんだけど、その人はのちにハリウッドいってB級映画ばっかり作ってダメになっちゃった(笑)。

ハマ 映画監督になるんだ! 面白いですねそれ。

──そこも含めてのニューウェイブカルチャーですよね。

ハマ 確かに。あの時代を活性化したジャンルなのかもしれないですね。80年代って元気ですもんね。音楽を聴いても。

安部 楽しそうだなって思うね。みんなが活気であふれてたんだなって。

ハマ Huey Lewis & The Newsっているじゃないですか。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でかかる、「The Power of Love」とか、あの曲を聴くとどれだけ落ち込んでても半笑いになってきます(笑)。とにかく曲が元気で。

安部 確かにそうだね! 聴くだけで元気になっちゃうね、無条件で。

ハマ レコーディングのこととか想像しちゃうんだよね(笑)。「おい! 元気!?」みたいな(笑)。

安部 ははは。

ハマ 「お前、また船買ったらしいじゃん!」みたいな(笑)。わかんないけど、時代も含めて、すごく元気だったんだろうなって。

安部 確かに音に出てるよね、そういう雰囲気が。

ハマ そう、音楽に出てるから(笑)。ポップスは特に。だからすごく好きなんですけどね。80年代の日本の音楽にもそういう元気さを感じるし、その一方で憂いがあるというか、陰のある作品も多くて。世界的に見ても、すごくいい音楽が生まれていた時代なんだと思いますね。その時代を語るうえでニューウェイブがすごく重要なトピックだということが今日のお話を聞いてよくわかりました。

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリースした。

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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsよりリリースした。

never young beach オフィシャルサイト
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ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO’Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2021年9月29日にニューアルバム「KNO WHERE」をリリース予定。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

OKAMOTO'S OFFICIAL WEBSITE
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※記事初出時、本文の一部に事実誤認がありました。お詫びして訂正いたします。

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読者の反応

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大野台介 @daisukeohnosgm

細野さんの記事で、スクリッティ・ポリッティの衝撃が語られていて、確かに言説上ではよく語られるんだけど、実際に聴いてみて、何がすごいのか意味がわかっていなかったのだけど、この記事でようやく理解。こういうサウンドはそれまで存在しなかったけど、みんな真似してあっというまに世俗化した、と

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