安納想(Vo, G)とトヨシ(G, Dr, Cho)からなる2人組バンド・エルスウェア紀行が、メジャー1st EP「ghost walk e.p.」を配信リリースした。
「魔改造シティポップ」をテーマに掲げた独自の音楽性が高く評価され、今年2月にシングル「のびやかに地獄へ」でメジャーデビューしたエルスウェア紀行。このたび届けられたEPには「のびやかに地獄へ」「温度と一部」という同時並行で制作した曲、「ベッドサイドリップ」の再録バージョンなど全5曲が収録されている。
音楽ナタリーでは本作のリリースを記念して、エルスウェア紀行にインタビュー。メジャーデビューを発表した今年2月の東京・日本橋三井ホール公演や、メジャーに対する率直な思い、2人にとって実験的な作品となった「ghost walk e.p.」のこだわりポイントなど、じっくりと話を聞いた。
取材・文 / 金子厚武撮影 / 髙野立伎
これまでやりたかったことが三井ホールで実現
──昨年11月から続いた全国ツアー「tour "strange town" 2025-2026」が今年2月に日本橋三井ホールでファイナルを迎えました(参照:エルスウェア紀行、過去最大規模ワンマンで新天地への決意表明「これからも変わらずに変わり続けたい」)。ツアーを振り返っていただけますか?
トヨシ(G, Dr, Cho) 今回のツアーからアコースティック編成とバンド編成に、それぞれ「微光奏」と「遠景奏」という名前を付けたんです。アコースティック編成にはアコースティック編成ならではの魅力があるというか……バンドのときはビートを中心に置くイメージですけど、アコースティックはもっと対話的にリズムを組むイメージがあって。1つのツアーを通して両方のよさを感じながら回ることができて、ここからの活動の方向性が見えたツアーでした。
安納想(Vo, G) エルスウェア紀行にとって“2つの心臓”と言えるような微光奏と遠景奏という両方の形態で1つのツアーを回ることも、ファイナル公演で1日にどちらの編成でも演奏することも初めての機会だったので、すごく新鮮でした。「これがエルスウェア紀行なのかな」と思える輪郭がイメージ以上に体感できたような手応えがあって。SEだったり、口上のつなぎだったり、舞台の演出的な部分にもこだわって、エルスウェア紀行を始めた頃から「こういうことをしたい」とイメージしていたものをファイナルでは一旦実現できた気がします。満席のホールも本当にうれしかったですし、いろいろな意味で見たことのない景色を見られた公演になりました。
トヨシ ファイナルでは、本編もアンコールも、まだリリースしていない、お客さんも知らない曲で締めくくったんですが、それはこちらからの「ついてこい!」というメッセージの表れでもあります(笑)。
──MCでのトヨシさんの「ついてこいよ!」はファイナルの名シーンの1つですが、その気持ちはセットリストにも表れていたわけですね。そして、アンコールのラスト「のびやかに地獄へ」の前にメジャーデビューが発表されました。メジャーデビューについてお二人はどう捉えていますか?
安納 これまでと地続きという気持ちはあるんですが、シームレスに向かう意識はあんまりなくて、やっぱり覚悟が必要なことだったと思います。個人でもできることが増えた時代に、自分たちが今メジャーに行くことに自信を持てるのか?という不安があったんです。でも、2024年にWWWでやった「幌をあげる」という公演をきっかけに、自分たちのマインドが開いていった感じがして。あの日に芽生えた「もっと遠い場所まで行けるんじゃないか」という気持ちと向き合い、そこから2年かけて、徐々に覚悟が持てたと思います。
──トヨシさんはMCで「これからも変わらずに変わり続けたい」と話されていました。
トヨシ メジャーを意識して、「よりわかりやすいものを作らなきゃ」みたいな意識はあまりないし、逆張りで「もっとマニアックにしよう」みたいな意識が強いわけでもないんです。自分たちらしい変わり方を見つけていけたらなという気持ちでいます。
安納 誰も置いていかないことは、きっと難しいですけど、「わかる人にだけわかればいい」という気持ちが寂しいという感覚はいつもあるので、マインドはこれまで通りでもいいのかな。その感覚は自分たちがポップスを目指す理由の1つだと思ってます。
エルスウェア紀行は臆病で頑固
──エルスウェア紀行の音楽には「魔改造シティポップ」というキーワードがあって、プログレ的な側面を持っているけど、「トガったことをやってやろう」じゃなくて、エルスウェア紀行なりのポップスとしてそれを鳴らしているわけですよね。
安納 そうですね。プログレッシブな曲を作り始めたのは「少し泣く」がきっかけですけど、なぜそういう曲を作るようになったのかを考えてみたんです。自分たちを簡潔に表したら“臆病で頑固”なのかなと思って。それは新曲の「温度と一部」の話にもつながるんですけど、例えば1つのジャンルにくくるとか、明確なメッセージを言い切ることで、温度が変わるような違和感を覚えることがある。臆病な気持ちもあって、「あれもやって、これもやって」と作っていった結果、プログレっぽい側面が生まれたり。最初から「展開の多い曲ってカッコいいよね」というよりは、「このままじゃ終われないな」という、ある意味マイナスの発想から展開が増えていく、それはそれで自分たちらしいのかなと思っています。
──最初は自分たちの足りなさ、臆病さを埋める作業だったのかもしれないけど、それをやっていく中で、「これが自分たちのやり方なんだ」という自信が生まれて、今はそれを堂々と鳴らせるようになった。
安納 そうかもしれないです。
トヨシ 「魔改造」と言いつつ、どこまでも複雑になっていくんじゃなくて、いろんな変化があるように見えながらも実は1台のメトロノームを聴きながら最初から最後まで演奏できる曲ばかりで。そういう1つの法則に乗っかって作りたいんです。
安納 理系のトヨシさんらしい(笑)。
競わせるように作った「のびやかに地獄へ」「温度と一部」
──ツアーファイナルでは「ghost walk e.p.」から「温度と一部」と「のびやかに地獄へ」の2曲が披露されました。
トヨシ メジャーから出すにあたって、「温度と一部」と「のびやかに地獄へ」を2曲同時に作っていったんです。
安納 「少し泣く」と「ひかりの国」を作ったあたりから起きていることなんですけど、1曲を煮詰めていくときに、違う景色や音像のもう1曲を同時に作りたくなっちゃうというのがあって。
トヨシ 「あなたを踊らせたい」と「無添加」とか。
安納 1曲だけに向き合ってると、どうしても止まってしまう瞬間もあるけど、2曲あると交互にできるから作りやすいのかもしれないです。「温度と一部」と「のびやかに地獄へ」のテーマは方向性こそ違いますけど、根本は似ていて。今回は2曲とも、直近で私がタイトルをいくつか、トヨシさんはリフをいくつか作っていた中のマッチングから制作していきました。
トヨシ 「のびやかに地獄へ」は、はじめはループミュージックを意識していて(笑)。
安納 「プログレしない」というテーマもありました(笑)。これまでのリード曲はきっと魔改造でイメージしてもらうようなバキッとした音像が多かったけど、自分たちにはアコースティックというアイデンティティもあるので、「のびやかに地獄へ」ではそれを真ん中に置いて、音数を極力減らしていって。ちゃんとリードトラックになるものを作りたい、という挑戦でした。
トヨシ ものすごくやり直しました(笑)。
安納 ゴールを決めながら作った「のびやかに地獄へ」と、自由に作った「温度と一部」なので、スルスルとできたのは「温度と一部」なんですが、「のびやかに地獄へ」も絶対よくなるからって、なんだか競わせるように作った2曲でした。
──一般的な目線で言ったら、展開もリズムパターンも多い「温度と一部」のほうが作るのが大変そうに見えるけど、そうじゃないのがエルスウェア紀行らしいですね。
トヨシ 「のびやかに地獄へ」はAメロまではすんなりできたんですけど、そこからループを生かしてBメロ・サビへと進んでいくのにものすごく難航して、14パターン目、15パターン目、16パターン目……と試行錯誤して(笑)。音数も最初はもっと多かったんですけど、どんどん間引いて、電子系の音とアコースティックギターをメインにするスタイルまで絞りました。あと魔改造シティポップの“シティポップ”の部分って、僕ら的にはエレピの音とコーラスをかけたエレキギター、この2つが主軸であれば、わりかし好きなことをやっていいという考え方で。
──音色でシティポップらしさを保っていた。
トヨシ それが今までのスタイルだったんですけど、エレピの音もコーラスをかけたエレキギターの音も使ってなくて、シティポップの部分をだいぶ薄めた状態の音像の曲でメジャーデビューするという1つの挑戦をしました。それは頑なに決めてたわけではないんですけど、結果的に新しさを見つけられました。
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バンドに対する気持ちも重なった「のびやかに地獄へ」




