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細野ゼミ 補講8コマ目 [バックナンバー]

細野晴臣が再び歌い始めた20年前を振り返る(後編)

20世紀が遠ざかりつつある今、細野晴臣が向かう先は?

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細野晴臣が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する「細野ゼミ」。2020年10月の始動以来、「アンビエントミュージック」「映画音楽」「ロック」など全10コマにわたってさまざまな音楽を取り上げてきたが、細野の音楽観をより深く学ぶべく現在は“補講”を開講している。

補講8コマ目で展開しているのは、今年10月、SPEEDSTAR RECORDS期のアルバム7作品のアナログ盤が再発されたことを記念した企画「細野晴臣のビクター / SPEEDSTAR RECORDS期」。細野を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という2人のゼミ生とともに、前回に続き各作品について深掘りするも、話は思わぬ方向に。細野の金言も飛び出したクロストークをお楽しみください。

取材・/ 加藤一陽 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

変わりゆく時代、変わりゆく自分を形にした「HoSoNoVa」

──前回に続き、今回も細野さんがビクター・SPEEDSTAR RECORDSからリリースしてきた一連の作品について伺っていきます。お二人それぞれ、思い入れのある作品はありますか?

細野晴臣 無理に答えなくていいよ(笑)。

ハマ・オカモト 無理したことは1回もないですよ(笑)。僕は「FLYING SAUCER 1947」は後追いですけど、「HoSoNoVa」以降はリアルタイムで聴いていますね。僕らからすると「細野さんが動いた!」って感じだったんですよ。細野さんがオリジナルアルバムを出すことに驚いた記憶があります。

安部勇磨 「HoSoNoVa」の音、大好き。

細野晴臣「HoSoNoVa」

細野 あの年、みんな新譜を出さなかったんだよな。震災(東日本大震災)があって。すでに音源はできていたんだけど、「出していいのかな?」って思ってた。でもビクターが出してくれて、幸いにも聴いてくれる人がいたんで、出してよかったと思った。

ハマ 当時「HoSoNoVa」の細野さんの歌や音楽に救われた人、たくさんいたと思います。あのカバー曲の時代の音楽って、知らなくても体に入ってくる感覚があるんだなって気が付いた。

安部 懐かしい、とかね。

ハマ 僕はこの作品以降は全部リアルタイムですが、「Vu Jà Dé」のアナログが10inch盤でリリースされてぶったまげましたね。そういうのも含めて、細野さんのルーツみたいなものを感じながら聴いてました。勇磨はトロピカル3部作を先に聴いていたんだっけ?

安部 同じ人だとは思ってなかったけどね(笑)。はっぴいえんど時代のモジャモジャの細野さんと、ソロになってからの細野さんのイメージが最初結び付かなかったんだよ。僕はさかのぼって聴いていくタイプなんで、細野さんの作品を通していろんな音楽を知っていった感じ。

──それぞれの作品の制作時、どんなことを考えられていたのかに興味があります。

細野 「FLYING SAUCER 1947」は何も考えずに作ってたんだよね。僕は1947年生まれなんだけど、7月8日にアメリカのロズウェルで空飛ぶ円盤が墜落して、その翌日に僕が生まれたってことにちなんで、円盤がテーマなんだ。ただその頃、僕はみんなに「カントリーをやるよ」って言っていたの。でも、できたものはカントリーじゃなかった(笑)。野音(日比谷野外大音楽堂)のライブで誰かが「これ、カントリーじゃないよね」って言ってて。

細野晴臣「FLYING SAUCER 1947」

ハマ 細野さんはカントリーをやっていたつもりだったんですよね?

細野 作る前はカントリーをやろうと思ってた。僕は「Pistol Packin' Mama」という曲が好きでね。それをやれば、全部カントリーになるかなと思ってたんだ。でも同時期に日比谷野音でのトリビュートライブの企画が出たとき、「生誕60周年なんて嫌だから、円盤墜落60周年にしたらいいんじゃないか」と思ったことで、アルバムタイトル含め、“円盤”にテーマが変わった。次の「HoSoNoVa」は、震災の2年前から作っていたんだよ。それを予感していたわけじゃないけど、「時代の変わり目に合わせて自分も変わっていくんだろうな」と思いながらレコーディングしていたのは覚えている。そしたら、大震災が起こったでしょ。それで思考停止しちゃったんだ。放射線のことばかり考えてたから。それが落ち着いてきて……次は何を出したんだっけ?

──「Heavenly Music」です。

細野 そうだ。「Heavenly Music」が一番好きだと言う人がいるんだよ。例えば、小西康陽くん。すごくうれしいんだ、誰も言ってくれないから。

──大竹伸朗さんもお好きだと言ってましたよ。

細野 うれしいね。僕もこのアルバムが一番好きなんだよ。作るきっかけがあったんだ。NHKの特番のテーマ曲用にチャップリンの「Smile」を使った曲を作ってほしいと言われてアン・サリーさんに歌ってもらったんだけど、まずその余韻があって。もう1つ、TOYOTAのCM用に曲を作ってほしいと言われたんだけど、課題曲が決まってて、「Something Stupid」を使ってくれと。それもアン・サリーさんに頼んで、僕も歌った。すごくレトロに作ったら、CMのスタッフから「もう少し今風にしてください」って言われて。「なんだと~?」と思ったけど少し変えたのかも(笑)。でも、「『Something Stupid』も入れたいし、そうするとやりたい曲がいっぱいあるな」と気付いて。カバーを並べたら「これ、もう今はない音楽だな」と感じて「Heavenly Music」というタイトルを付けたんだ。

安部 なるほど。

細野晴臣「Heavenly Music」

ハマ 「この曲が入るんだったら、この曲も入れたい」みたいな感じでアイデアが膨らんでいったんですね。

細野 そう。何かきっかけがある。1曲だけじゃなくて、アルバムを作るわけだから。それに、選曲を考えるのが好きなんだよね。

「FLYING SAUCER 1947」から気付けば話題は宇宙へ

──その次の「Vu Jà Dé」はCD2枚組でした。

細野 自分の中では“総集編”だね。あちこちに散らばった音楽をまとめたから、とりとめがない。それで2枚組になっちゃったわけで、トータルなコンセプトはないよ。それから「HOCHONO HOUSE」を経て今は新しい作品を作っているわけだけど……ただ、音楽に対する距離感がそれまでの自分と違うんだ。これまでは音楽愛好家としてどっぷりやってたんだけど、今は音楽と距離があるというか、どっぷり浸かってないの。どちらかと言うと、3I/ATLASという彗星のニュースとか、そういうほうに意識がいってる(笑)。

ハマ 細野さん、もともとお好きな分野ですもんね。

安部 その彗星が地球にぶつかるとか、そういう話ですか?

細野 今は太陽の裏を飛行してるから、こちらからは見えない。最初は太陽系の惑星を1つずつ観光気分で探索してたという。でも、そのうち普通の彗星じゃないということがわかってきた。軌道が変わったり、普通の彗星と違う発光の仕方をしてたりしているからね。そこまではNASAも発表して……って、この話続けてていいの?

一同 (爆笑)。

安部 僕は興味ありますけど……(笑)。

ハマ 「FLYING SAUCER 1947」から始まる話の流れで、この話題になってるのはすごい。違うゼミだよね(笑)。

細野 だから、「3I/ATLASは人工物なんじゃないか」という話も出ていて。NASAが突然沈黙して公式発表がないから、みんなの妄想が蔓延してる。SFが本当になっちゃったみたいで。知らない人が多すぎるんだよ。ニュースで報道しないから。

<しばらく彗星や惑星探査機ボイジャー、地球外生命体などの話で大いに盛り上がる3人>

細野 ……という話なんだよ。

安部 ……そういうことがあるのか 。

細野 でも、僕は違う考えだね。たぶんすごく進化してるわけでしょ? 進化というのは、技術だけじゃないんだよ、本当は。

ハマ 「ファンタスティック・プラネット」みたいにならないといいですけどね……。

──……はい、“ビクター期”の話に戻りましょう(笑)。

ハマ 「ビクター期」。なんか星の名前みたいに聞こえてきた。

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