「細野ゼミ」メインビジュアル

細野ゼミ 補講8コマ目 [バックナンバー]

細野晴臣が再び歌い始めた20年前を振り返る(前編)

細野晴臣を歌に向かわせた狭山でのライブ、キラキラの伊藤大地がもたらした影響

11

73

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 12 36
  • 25 シェア

細野晴臣が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する「細野ゼミ」。2020年10月の始動以来、「アンビエントミュージック」「映画音楽」「ロック」など全10コマにわたってさまざまな音楽を取り上げてきたが、細野の音楽観をより深く学ぶべく現在は“補講”を開講している。

補講8コマ目のテーマは「細野晴臣のビクター / SPEEDSTAR RECORDS期」。今年10月、SPEEDSTAR RECORDSから発表したアルバム7作品のアナログ盤が再発されたことを記念した企画となる。ゼミ生として参加するのは、細野を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)というおなじみの同世代2人。彼らが細野との接点が生まれた時期にリリースされた作品群について、あれこれ聞いてもらった。

取材・/ 加藤一陽 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

細野晴臣が再び歌い始めた理由

──今回は細野さんのビクター・SPEEDSTAR RECORDS期の作品に的を絞ったお話を、前編と後編に分けてお届けできればと思います。本稿で“ビクター期”と定義する作品はHARRY HOSONO & THE WORLD SHYNESS名義の「FLYING SAUCER 1947」(2007年)、「HoSoNoVa」(2011年)、「Heavenly Music」(2013年)、「Vu Jà Dé」(2017年)、「HOCHONO HOUSE」(2019年)までのオリジナルアルバム5作品です。「HOCHONO HOUSE」はつい最近の作品だと思っていましたが、もう5年以上前になるんですね。

ハマ・オカモト 早いですね。ライブ盤(2021年発売の「あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019」)などは出ているけれど。この連載の初期に「HOCHONO HOUSE」の話をしてますよね。安部勇磨の発言がきっかけだったという話を。

安部勇磨 何回も読み返してニヤニヤしてる(笑)。

ハマ 勇磨の功績だからね。

──「FLYING SAUCER 1947」の前のアルバムになると、「ナーガ」(1995年)までさかのぼります。12年も空いていて。

ハマ安部 ええええ!

細野晴臣 そんなに前なんだ。何やってたんだろう?

──2005年に映画「メゾン・ド・ヒミコ」のサントラ盤を手がけられたりしていましたね。というわけで、まずは12年ぶりのオリジナルアルバムとして大いに話題になった「FLYING SAUCER 1947」について伺っていきましょう。制作時、細野さんはどんな気分だったのでしょうか。

細野 2005年に「ハイドパーク・ミュージック・フェスティバル」(※埼玉県狭山市狭山稲荷山公園で行われたイベント)に出たのがきっかけになったんだ。それまではアルバムを出すなんて考えていなかったんだよ。第二の故郷とも言える狭山の人たちが主催したイベントだったから、「こりゃ出ないといけないな」「狭山で作った『HOSONO HOUSE』の曲をやらなきゃな」と思ってね。で、いっぱいリハーサルしたんだ。ひさしぶりに歌を歌ったから、声が枯れて出なくなっちゃったのを覚えているよ。

──このとき、細野さんは東京シャイネスというバンドを率いて出演されました。その東京シャイネスを発展させたのが、「FLYING SAUCER 1947」のワールド・シャイネスで。

細野晴臣「FLYING SAUCER 1947」

ハマ 東京シャイネスのメンバーは?

細野 鈴木惣一朗と浜口茂外也、高野寛。その時から(高田)漣くんもベースの伊賀(航)くんもいたね。あとは弦楽器奏者の三上敏視。

ハマ 当時はライブをやってなかったですよね?

細野 やってない。しかも、それまではずっとアンビエントをやっていて、インストばかり作っていたでしょ? 歌うことも全然考えていなかった。でも、とにかく狭山で「HOSONO HOUSE」の曲をやらなきゃいけないという義務感が強かった。だから、1回だけだと思っていたの。

安部 歌ってみたら、楽しいと思えたんですか?

細野 いや、ちょっとつらかったよね。声が出ないから。

ハマ 「ハイドパーク~」を終えて、歌うことはしんどかったけど、その後も歌い続けてみようと思ったんですね。

細野 確か、フェスのギャランティが少なかったんじゃないかな(笑)。実際のところは知らないけれど、僕は勝手にそう思ってて。それで「バンドメンバーにもっといい思いをさせなきゃ」ということで、もう1回ライブをやろうと思ったんだ。九段会館でやったね。それでおしまいにしようと思ったら、また手を挙げてくれる人がいて、今度は福岡の大学のホールでもやって。するとまたライブに声がかかるようになった。それがいまだに続いてる(笑)。

ハマ そのうちに、「『HOSONO HOUSE』の曲だけやるのもな」って気持ちになっていったんですか?

細野 そうだね。ライブをやっていると声が出るようになって、それから昔の曲をカバーしたりして。そのうちだんだん楽しくなってきたんだね。

伊藤大地はキラキラしていた

ハマ ビクター期の作品には細野さんのルーツミュージックのカバーがたくさん収録されていますけど、それに至るまでに「ハイドパーク~」からの流れがあったんですね。

細野 ガラッと変わったのが、日比谷野音のライブに出たとき(※2007年7月28日、日比谷野外大音楽堂にて開催されたトリビュートライブ「細野晴臣と地球の仲間たち“空飛ぶ円盤飛来60周年・夏の音楽祭”」)。

──細野さんの還暦を記念したイベント。

細野 そうそう。あのとき、当時SAKEROCKの伊藤大地くんがドラムで参加してくれて、ものすごく張り切って叩いてくれたんだ。それでね、なんか自分の音楽が生き生きと生まれ変わったように感じたんだよ。

ハマ すごくいい話ですね!

安部 そこで新しい音楽の形を見つけたって感じなんですね。

ハマ 大地さんがバンドに入るまでは、どういう流れだったんですか?

細野 それが、経緯がわからないんだよ(笑)。

ハマ ええ?(笑) 今振り返ると、のちに大地さんと同じSAKEROCKの星野源さんと交流を深めていくこと含め、なんらかの文脈があったんでしょうね。

細野 今にして思えばそうなんだけど、当時は行き当たりばったりだったから。星野くんにも「ハイドパーク~」で初めて会ったんだよ。SAKEROCKのギタリストとしてね。彼はまだ20代だった。

ハマ でも、すごくいい話。そんなこと言われたら、大地さんも本当にミュージシャン冥利に尽きますよね。細野さんとしては、どのあたりに大地さんの気合いを感じられたんですか? 曲を理解する姿勢とか、そういうところですか?

細野 理屈抜きで、音が跳びはねている感じがしたんだよ。リズムの感じがすごくいいんで、こっちも新しい気持ちになるんだ。つまりノっちゃうわけだね。「若いな~」と思った。

ハマ 大地さんって僕らからすると冷静な印象がありますけど。

安部 クールな先輩って感じだよね。細野さんは、大地さんが何者かわからない状態で一緒にスタジオに入ったんですか?

細野 いや、さすがにスタジオで「はじめまして」ではなかったと思うけど(笑)。でも、深くは知らなかった。

──当時は大地さんもとてもお若いですから、緊張していたでしょうね。

細野 緊張と言うよりも、目がキラキラしてたね。“ギラギラ”じゃなくて、“キラキラ”ね(笑)。そこがよかった。

ハマ 死後くんに目がキラキラしてる大地さんのイラストを描いてほしい。

[高画質で見る]

──その後、漣さん、伊賀さん、大地さんは細野さんのバンドメンバーとして固定されていきます。

細野 そうだね。「FLYING SAUCER 1947」は狭山組が多かったけれど、その後のビクターで作った作品はそのメンバーが中心だね。

──バンド名のようなものはないにせよ、細野さんのキャリアで最も長く一緒にやったバンドになりましたね。

ハマ ポール・マッカートニーのWingsみたい。The Beatlesよりも長い。

細野 そうそう。はっぴいえんどより長いし、YMOよりも長くなって。ずっと続けるはずだったんだけど、パンデミックで全部の活動が途切れてしまった。そこからあのメンバーと会う機会がなかなかなくて。

ハマ 最近は違うメンバー(原田郁子角銅真実Chappo、海老原颯)でライブをやられてますよね。

細野 そうなったね。それも成り行きだけど。

ハマ なんか不思議。大地さんに会うと「細野さん、元気?」って言われるんですよ。

細野 大地くんは元気なんだよね?

ハマ はい。相変わらず電車にいっぱい乗ってるみたいです。

細野 へえ、いいね。彼はぶどうマニアでもあるんだよ。「その品種は皮ごと食べなきゃダメです」と言われる(笑)。

一同 (爆笑)。

コラム
次のページ
「10年後が楽しみだね」に込められた真意

読者の反応

高野 寛 🍥 @takano_hiroshi

僕の記憶が正しければ、伊藤大地くんが細野さんと初めて一緒に演奏した日を目撃してたはず。青山CAYで細野さんが定期的に開催していたイベント。大地くんは太陽バンドで久保田麻琴さんの目に止まって、麻琴さんが細野さんに紹介した...とその時聞いた気がする。

https://t.co/RDIeQN5An8

コメントを読む(11件)

細野晴臣のほかの記事

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 細野晴臣 / never young beach / OKAMOTO'S / 高野寛 / 高田漣 / SAKEROCK / 星野源 / 原田郁子 / 角銅真実 / Chappo の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。