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桑田佳祐 人誑し / ひとたらし
“NEW 70’S”で開く新たな扉、アニソンとしても高い強度を持つ10年ぶりシングル
文 / 近藤隼人
ここからが始まりでしょ──桑田佳祐が今年2月26日に70歳の誕生日、古希を迎えたのに合わせて公開された特設サイトや映像の中で、堂々と打ち出されたこの表明。今や「人生100年」と言われる時代だが、45年以上にわたり音楽シーンの第一線で活躍し続け、不朽の名を残すレジェンドに堂々と宣言されると心を打たれる。
桑田は70代のソロ活動を“NEW 70’S”と定めた。自らの血肉となった1970年代の音楽を令和の世に生まれ変わらせる。原点回帰と開拓、その両方の精神がうかがえるテーマだ。そしてその幕開けとして、約10年ぶりのCDシングルとしてリリースされる「人誑し / ひとたらし」。穏やかに鳴るアコースティックギターの音色で始まり、一発目のストローク音から聴き手に高揚感をもたらす。そこに勇み足のビートと哀愁を帯びたギターリフが加わることで推進力が生まれ、衰え知らずの歌声が叙情的かつ妖艶に響いてくる。
音楽的な土壌と文脈がにじむ“桑田佳祐印”とも言っていいナンバーだが、特筆すべき新たな試みがある。この曲がテレビアニメ「あかね噺」のオープニング主題歌として作られたことだ。桑田がアニメ作品の主題歌を歌詞、楽曲ともに書き下ろすのは長いキャリアの中で初。「アニソン界の大型新人」という声をSNSで見かけたが、大型どころではない。古希にしてなお新たな扉を開くバイタリティに驚かされる。
そして「人誑し / ひとたらし」はアニメソングとしても完成度が高い。落語家の父親を尊敬する少女・朱音が、真打になるべく噺家として奮闘する「あかね噺」の世界にサウンド、歌詞ともに呼応している。曲中に笛の音が盛り込まれているが、西洋由来のサウンドに和のエッセンスを織り交ぜるのは桑田の十八番。また歌詞の面では、古典落語「火焔太鼓」のサゲ(落ち)に使われる地口「半鐘はいけないよ オジャンになる」や、「浮世床」「首ったけ」といった演目名がちりばめられているところに桑田の落語愛が粋に表れている。さらに楽曲タイトルは、人を言葉で狂わせる“人誑し”へと脱皮していく朱音の姿と重なり、楽曲全体を通して職人芸が光っている。
とにかく聴きどころの多いこの曲で、桑田は古希という人生の節目を新たなスタートラインへと鮮やかに塗り替えてみせた。どうやら“NEW 70’S”をキャリアの晩年にする気はさらさらないようだ。
桑田佳祐 - 人誑し / ひとたらし [Anime Lyric Video]
桑田佳祐(クワタケイスケ)
1956年2月26日生まれ、神奈川県茅ケ崎市出身。1978年に「勝手にシンドバッド」でサザンオールスターズのメンバーとしてデビュー。1987年リリースの「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」でソロアーティストとしての活動を開始した。デビュー以来、常に日本のミュージックシーンのトップを走り続けている。2026年に古希を迎え、「NEW 70’S」をテーマにソロ活動を本格再始動。テレビアニメ「あかね噺」オープニング主題歌「人誑し / ひとたらし」を配信リリースした。同曲はCDシングルとして6月24日にリリースされる。7月から全国10カ所22公演におよぶアリーナツアーを行う。
