「映画って、音なくてもよくない?」
細野 すごく面白いのは、自分のオリジナル作品を作ると面白くなくても、映画音楽を作ると素晴らしいっていう人もいるんだよね(笑)。実はニーノ・ロータもそうだよ。もともとクラシック畑の人だから、自分の作品では「第何番」とかそういう曲を作るんだけどよくわからない(笑)。
ハマ&安部 あははは(笑)。
細野 ただ、映画という枠があると違うものが出てくる。映画音楽の面白さはそこだよね。
ハマ 絵コンテとか台本もあるし。
細野 時間も30秒とか40秒とかね。
ハマ あの帳尻を合わせる作業は本当に細かいですよね。僕らも「HELLO WORLD」という作品の劇伴を丸々やらせていただいたことがあるんですけど。それこそ30何曲みたいな(笑)。
細野 なんだ、やってるんじゃない、同じようなことを(笑)。
ハマ あのタイムコードを合わせるという作業はバンドのレコーディングにはないですから大変でした。
細野 そうだよね。
ハマ 例えば「ジャーン!」って音がもっと長いほうがいいと思っていても、絶対に切られちゃうから、そこで帳尻合わせたり。
安部 へえ。そんな細かく時間が決まってるんだ。
ハマ それも随時変わっていくから。
細野 そうなんだよ。
安部 お二人がその感覚をわかってるのは、いいなあ(笑)。
ハマ 申し訳ないけど経験しましたっていう(笑)。
安部 気持ちがわからなくて悔しいです(笑)。
ハマ 勇麿にもやってほしいよ。ネバヤンでは映画の主題歌をやったんだよね?
安部 うん、「ロマンスドール」という映画で。オファーが来たとき、どうしていいかわからなかったんで、細野さんの映画音楽のインタビューとか読んで参考にしながら作りました。
細野 そうだったんだ(笑)。
安部 でも自分でやってみて、極論を言うと、「映画って、音なくてもよくない?」って思っちゃったんですよ。役者さんの雰囲気とかすごく素敵だから、「変な音楽を入れても邪魔になっちゃうだけじゃない?」ってなっちゃって。
ハマ だから究極の引き算だよね。いかに音を減らしていくかっていう。
安部 当時、細野さんが手がけた「万引き家族」のサントラをよく聴いてたんだけど、「なんだ、このさりげない感じは」って聴くたびに思ってたんですよ。
ハマ 「万引き家族」の音楽は、あのさりげなさの中にビートがあるのがすごいなって思いました。
細野 ビートあったっけ?
──あります(笑)。
安部 過剰に物語を盛り上げるわけでもなく、ぶわーっと全体的にいいというか。
ハマ 実際に自分で作ったら、あの感じ出すのは無理だよね。
細野 でも監督によっては必要以上に音楽を付けたがるんじゃない? 間が持たないから。
安部 あー、なるほどなるほど。
細野 音楽をまったく使わず、すごい映画を作る人で、ハンガリーにタル・ベーラっていう監督がいるけどね。
ハマ まったく音楽を使わないんですか?
細野 少し使ってるかな……でも印象がない。
ハマ 台詞と自然の音のみ、みたいな。
細野 風の音だな。「ニーチェの馬」という映画はそういうふうにできてる。
ハマ まったく音楽を使わず全編持たせるっていうのも、また逆にすごいことですね。
最近の映画音楽は狙いすぎ
──皆さん映画音楽を作られるにあたって留意されていることはありますか?
ハマ 勇磨が「ロマンスドール」の主題歌を作ったときはどうだった?
安部 あっ、僕?
──主題歌を作るのと劇伴を作るのとでは、ちょっと意味合いが変わってくるかもしれませんね。
安部 監督から「あの曲のテイストでお願いします」という感じのイメージをいただいたんですが、実際の映像を観たら僕のイメージとはちょっと違っていたんですね。それで「こういうテンションはどうでしょうか?」って何度かやり取りをさせてもらって。できるかぎりシンプルにしたいなと心がけました。泣かせにかかるとか、そういうことではなくて、あくまでもフラットな感じで行ければなと。
細野 僕とまったく同じだ。
安部 そもそも細野さんのインタビューを読んで僕が影響されていますから(笑)。
細野 そっか(笑)。
安部 最近の映画を観てると、あまりにも狙いすぎじゃないかって思うことが多いんです。「このタイミングでこの曲かけるのズルくない?」って。過剰に泣かせにかかったり。もうちょっと穏やかに泣く人もいるだろうし、もしかしたら泣かない人もいるかもしれない。もっといろんな選択の余地があったほうが面白いんじゃないかなって。そういう気持ちで曲を書きました。
細野 偉い(笑)。
ハマ 「偉い」をいただきました、ゼミ長に(笑)。
──物語や映像を邪魔しないというのは1つ大事なことかもしれないですね。
安部 ごはんとか全部つながっているなって思います。今の時代のごはんとかもそうですし、添加物いっぱいだったり、なんでも濃いソースぶっかければいいみたいな風潮があるというか。素材がよければ、ちょっとの塩コショウだけでも十分おいしく味わえると思うので。ハマくんは映画音楽の仕事どうだった?
ハマ うちはメンバーで分担したんですよ。例えばこのシーンはボーカルのショウが担当して、とか。ただ、男女の出会いみたいな恋愛のシーンがあったんだけど、うちのバンドは“恋愛”って言われると、モータウンビートしか出てこなくて(笑)。
安部 懐かしいほうなんだ(笑)。
ハマ そうなっちゃうんだよ、なんか(笑)。The Supremesの「恋はあせらず」みたいになっちゃうから、これは外注しようって、恋愛のシーンはOfficial髭男dismの藤原(聡)くんに頼んだ(笑)。
安部 そういうことだったんだ!
ハマ ナウなみんながキュンキュンする音楽をやってるバンドにお願いして。
安部 じゃあ、みんなの得意分野みたいなところでやったというか。
ハマ うん。最終的には30曲ぐらいを俺らが作ったんだけど、主題歌と違ってシーンに合わせて演奏するということが初めてだったからそれが単純に面白くて。ドラムをあんまり入れないとか、ピアノを主体にするとか、ソフト音源を使ってオーケストレーションっぽいことをやってみたり。いろんなチャレンジをしました。
細野 面白いよね。普段やれないことができるから。
ハマ だからサントラもいっぱい聴きましたよ。何か参考にできないかなと思って。でも結局、大野雄二さんが手がけたカドカワ映画の音楽を聴いて「カッコいいなー」と思って終わりみたいな(笑)。
──日本の映画音楽界には大野雄二さんという巨匠がいますもんね。
ハマ そうなんです。「人間の証明」とか「犬神家の一族」のサントラを聴いて、影響を受けた曲を提出して全部却下されるみたいな(笑)。「バーンって始まりたいんですよね」と言っても「そういうんじゃないんで」とか言われて(笑)。でも結局は、極力音が鳴ってないほうがいいんだなというところに行き着きました。曲単位ではいい感じなんだけど、ここに台詞が乗ったら果たしてどうなるんだろうとか。ベースもボーンって弾いた音じゃなくて、弦をシャカシャカやってディレイで飛ばした音が採用されたり、面白かったですね。
細野 なるほど。それは正しい作り方だなあ。
ハマ 本当ですか? サウンドを積み立てていって、結局壊すということのほうが多かったので。そういう意味ではなるべく余白を用意することは意識しました。
──やっぱり皆さん映像を極力邪魔しないようにというところに意識が向かうんですね。
ハマ かたや僕らが作ったデモ音源をアニメのスタッフが現場でエンドレスで聴いていて、それによって展開が変わることもあったり。この曲が流れるという想定で絵を描き始めたので、逆に曲を編集しないでほしいと言われることもありました。相乗効果があるんだなって。それはうれしかったですね。
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2020年11月3日の「レコードの日」には過去6タイトルのアナログ盤がリリースされた。
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安部勇磨
1990年生まれ、東京都出身。2014年に結成された
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ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
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