菅波栄純(THE BACK HORN)

令和のアーティストとSNS 第4回 [バックナンバー]

菅波栄純(THE BACK HORN)が伝える、SNSの真実

バズを狙う必要はない

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YouTubeは店を1つ出すくらいの価値がある

──菅波さんが考えるそれぞれのSNSの特徴を教えていただけますか?

いいですよ。YouTubeからいきましょうか。YouTubeはユーザーがすごく多いので、観ている人の趣味嗜好がほかのSNSと比べてフラットだと思っていたんですけど、意外とそうでもないですね。俺のチャンネルの男女比はわりと半々だけど、YouTube全体のユーザーはたぶん男性のほうが多いです。6、7割が男性と考えて投稿したほうがいいと思います。YouTubeがほかのSNSと比べて優位なのは、自分の投稿のアナリティクスがものすごく細かいところ。情報のレベルが圧倒的に違うので、YouTubeにチャンネル1つ作るのは店を1つ出すくらいのポテンシャルがありますね。YouTubeの仕組みに乗っかって運用しているうちに、一応のマーケティングの知識が身に付くと思います。ほかのSNSよりも“なんにせよやったほうがいいSNS第1位”ですね。

──YouTubeで動画をアップする際、ある程度クオリティが高くないといけない気もするのですが。

俺は試しに今年の4月に15秒の動画とか30秒の動画とか相当数上げたんですけど、思ったより観てもらえるんですよ。“バンドあるある”なんですけど、リハスタで休憩時間とかにメンバーが担当パートを入れ替えて適当に演奏している動画をアップしたらたくさん観られました。そういう意味ではカジュアルにYouTubeに上げていいと思うんですよね。最初の投稿で100万再生いくことなんてまずないので、量で攻めたほうがいい。好き放題上げても、最初は登録者数も少ないので「通知がうざい」と思われることもないし。あと著作権の問題もクリアになって、YouTube的にはどんどん弾き語りのカバーとかやってほしいと思ってるというのはお伝えしておきます。

全部の機能が集まっているInstagram

──Instagramはいかがですか?

もともとインスタは「インスタ映え」の時代があって、今はカジュアルというか、リアルなほうに舵を切ってきています。おそらくインスタ映えの時代って、ユーザー数は増えたけど投稿数はそこまで伸びていなかったと思うんですよ。それでストーリーズを投入してカジュアル路線に方向転換した。正確に言うとインスタ映えとストーリーズの時代はけっこう並行してはいるんですけど。さらに今、リールという15秒のループ動画を上げられる新機能も実装されました。要はTikTokへの対抗策ですよね。IGTVという最大60分まで動画を上げられる機能はYouTubeを意識してましたけど、とにかくインスタにすべての投稿を集めてほしいんだと思います。あれだけユーザーがいるインスタでYouTubeやTikTokの機能もあるのってかなりすごいことで。何か知りたいことはインスタで調べる人も多いですし。

──旅行や食事したいときにインスタで検索するという話はよく聞きますね。

ミュージシャンだと、コード理論とかギターの弾き方をインスタで観る人もけっこう多いです。ストーリーズに質問機能も導入されてファンコミュニティを作れるくらいの仕様になってきていて。あとはこの先、月額制の有料アカウントを作れたらインスタの機能全部使ってファンクラブを運営できるくらいのポテンシャルはあると思います。ファンとの一番の交流場所になれるんじゃないかと。

──菅波さんもインスタライブを配信してファンと交流されてますよね。

この間の配信なんてキス顔させられましたからね(笑)。そのときやって思ったのは、今はアプリでのライブ配信の主流って、コメントの読み上げなんですよ。インスタライブではそんなにコメントを読み上げる人はいないと言われたんですけど、俺はめちゃめちゃ読み上げたらいいんじゃないかと思いました。本当に会話しているくらい近い距離感でできるし、そのほうがエンゲージメントが高まるので。インスタは気持ち的に上着1枚脱ぐくらい心を開いてやるのがいいと思いますね。

今一番クオリティが高いのがTikTok

──TikTokはいろいろな意味で話題になっていますね。

俺はTikTokはけっこう誤解されていると思っていて。TikTokの情報漏洩の問題が本当かどうかは俺にはわからないですよ。そこの肩を持つ気はまったくないですけど、TikTokは今一番クオリティが高いです。なのでTikTokは絶対にチェックしたほうがいい。もちろん自分で投稿するのが一番ですけど、手が回らなければ見るだけでもいいです。TikTokに集まってるコンテンツの量が本当に多くて、TikTokで流行ってる曲はほぼ流行るので。

──最近本当に多いですね。

TikTokでだいぶ前に流行って、みんなもう飽き飽きしているような曲がようやくテレビで流れますからね。ミュージシャンだけじゃなくて音楽業界の人は本気でTikTokをやったほうがいい。TikTokのインサイト(※投稿やアカウントのアナリティクス)を見ると、本当に最初の3~5秒で離脱するかどうかが決まるんですよ。確かに次の動画に流しやすい仕様になっているんですよね。そういう意味ではめちゃめちゃ勉強になるというか、一番ハイクオリティなものが集まってるのはTikTok。ということで必修科目。まあ若い世代にしたらTikTokで音源を上げるのが普通なのかもしれないですけどね。だからTikTokはキャリアのあるミュージシャンの人ほどやったほうがいいかもしれない。

──菅波さんはカバー動画もたくさん上げていますが、それはTikTokの影響もあるんですか?

@sugaaachannel

フジファブリック「若者のすべて」(cover) 1min Ver.##歌ってみた ##いいね

♬ オリジナル楽曲 - THE BACK HORN菅波栄純

TikTokかインスタか忘れたんですけど、「カバーが見たい」というリクエストがあったので上げ始めました。そうやってコミュニケーションが取れるのがやっぱりいいですよね。

Twitterにメリットを求めるな

──Twitterについてもお伺いできればと思います。

TwitterはほかのSNSとはまったく別物だと捉えたほうがいいですね。Twitterが一番顕著にギャンブル性があります。バズるときはバズるし、炎上もするので、たぶんもっとも人生を狂わせやすい。嘘か真か、Twitterのリツイートの仕組みを考えた人がいまだに後悔しているという話を聞いたことありますけど、本当に異常なことになるときはなっちゃうので。Twitterはリスト機能を使って、リストごとに見るのがオススメですね。そうするとノイズはちょっと減るので。情報収集で使ってる人も多いだろうから見るだけだったらそれでいいと思います。先ほどYouTubeにクセがないと思ったらけっこうあったという話をしましたけど、Twitterは一番わからないですね。Twitterがもし擬人化して人間だったら相当不気味な人物だと思います。

──優しいかと思えば急に凶暴になったり?

めちゃめちゃ天才的なことを言ったかと思えば炎上するようなことを言って。Twitterを積極的にマーケティングに活用しようと言われていたのはひと昔前で、みんなもう薄々気付いてると思うんですけど、Twitterに何かのメリットを求めちゃいけない。むしろ、Twitter以外のところで作った投稿をTwitterで流すという考えにしたほうがいいです。

──ベースとなるSNSを別に持っておいて、Twitterは情報を流通させるために使うわけですね。

そう、Twitter以外で作ってTwitterで流す。若い子は自然とやってますよね。TikTokから始めて、人気が出てきてTwitterも手を付けるとか。だからTikTokのフォロワーのほうが断然多いアカウントも最近は多いと思います。

──菅波さんがTwitterで投稿するときに意識してることはありますか?

なんだかんだで俺はTwitterばかりやってきたので、腐れ縁的なところがあるんですよね。フォロワーとの間に一朝一夕ではできないノリができちゃったというか。インスタだと、「この間観たアニメのキャラクターのおっぱいがでかくて興奮しました」みたいな投稿をできる空気ではないんですけど、Twitterはなんの問題もなくて。俺が「おっぱいとかツイートしても一切動じないフォロワー 頼もしすぎるな」ってつぶやくと、「なんも問題ないんですけど、何か?」みたいなリプがつくという長年のノリがあるので。そういう意味では実家感はありますね。

本当のオススメ

──先ほどYouTubeでどんどん弾き語りのカバーをやったほうがいいというお話がありましたが、著作権の話も伺ってもいいですか?

YouTubeは著作権をチェックしてくれるContent IDという仕組みを採用しています。YouTube側で問題がないか確認してくれるので、これはカバー動画を上げる人にとってはものすごく助かる仕組みで。弾き語りしてる大多数の人がその動画を収益化していないので、ほぼ問題なくアップできます。収益化してる人の場合は一段階ハードルがあって「収益を折半しましょう」とか細かい話になるんですけど。自分の曲がカバーされてどんどん広がっていくというのは、著作権の問題を置いておけば、ミュージシャン側にとってもすごくありがたい話なんですよね。そこがある程度クリアになってきたのは本当にいいことだと思います。一方でカバー動画ってある一定の大きい需要があるので、YouTube側としても思惑通りなんですよね。

──ほかのSNSでもカバーを上げることは問題ないですか?

TikTokはそもそもリップシンク(口パク)動画としてスタートしていて、かなり初期の段階でJASRACなどとライセンス契約を結んでいるので問題ないです。インスタも、なぜか大々的に言ってないですけど、去年の終わり頃にやっと著作権問題をクリアにしました。だからインスタでも弾き語りの動画をアップしても問題はないですね。もちろん曲によって例外はありますけど。収益化の話で言うと、これから音楽活動を始める人──例えば大学生とかに俺が本当にオススメしたいのはライブ配信なんです。ライブ配信といってもSNS系のライブ配信ではなく、ライブ配信に特化したアプリ。今だったらPocochaとか17LIVEが人気ですし、ふわっちという雑談系のアプリもあります。これら後発のアプリは収益化が意識されているので、そこでやったほうがバイト感覚でできるし、話術も鍛えられるし、うまくいけばファンも付く。SNSについて話すこのインタビューの本筋とはズレますけど、これが真実ですね。

菅波栄純(THE BACK HORN)

菅波栄純(THE BACK HORN)

リリース情報

THE BACK HORNと小説家・住野よるがコラボレーションした「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」が発売中。10月19日には、CDの収録曲と同内容の音源集「この気持ちもいつか忘れる」をiTunes Storeほか主要配信サイト、音楽ストリーミングサービスにて配信予定。
住野よる『この気持ちもいつか忘れる』特設サイト | 新潮社

菅波栄純

1979年生まれ、福島県出身。1998年に結成、2001年にメジャーデビューしたTHE BACK HORNのギタリストで、バンドの多数の作詞作曲を手がける。みゆはんやJUNNAなど、他アーティストへの楽曲提供も行っている。THE BACK HORNとしては2020年6月に配信シングル「瑠璃色のキャンバス」をリリース。9月には作家・住野よるとコラボレーションした「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」を発売した。

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「ナタリー」

令和のアーティストとSNS 第4回
“菅波栄純(THE BACK HORN)が伝える、SNSの真実”

○菅波栄純インタビュー掲載

https://t.co/30Q1IRjzQ8

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