コラボ作品「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」発売記念特集 菅波栄純(THE BACK HORN)×住野よる|共鳴する2つの魂

THE BACK HORNと住野よるがコラボレーションした小説「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」が9月16日に発売された。

この小説は、平凡な生活を送る高校生のカヤが爪と目しか見えない異世界の少女・チカと出会い、互いの世界の不思議なシンクロニシティに気付いて交流を深めていく物語。2018年10月から約1年にわたって「週刊新潮」で連載され、このたびTHE BACK HORNが小説のために書き下ろした楽曲と合わせて書籍化されることとなった。THE BACK HORNと住野は作曲や執筆の前段階から打ち合わせを重ね、創作が始まってからも定期的に集まって感想を伝え合いながら共作を行ったという。付属のCDには、コラボプロジェクト始動時に配信リリースされた「ハナレバナレ」に新曲4曲を加えた全5曲が収録される。また、10月19日には小説および同タイトルの配信音源がそれぞれ単体でリリースされることも決定している。

音楽ナタリーではTHE BACK HORN・菅波栄純と住野よるの対談を実施。お互いがどのように影響を与えあってプロジェクトが進行していったのか、その背景を裏話満載で語ってもらった。作品の副読本として楽しんでほしい。

取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / 笹原清明

「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」

「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版あらすじ

退屈な日常に飽き飽きしながら暮らす高校生のカヤ。平凡なクラスメイトを内心で見下しながら、自分自身も同じくつまらない人間であることを自覚していた。そんなカヤが16歳の誕生日を迎えた直後、深夜のバス停で出会ったのは、爪と目だけしか見えない謎の少女だった。思いがけない突然の出会いに動揺するカヤ。しかしそれは一度だけのことではなく、その後、カヤは少女・チカと交流を深めていく。どうやらチカはカヤとは異なる世界の住人らしい。2人の世界には不思議なシンクロがあり、チカとの出会いには何かしらの意味があるのではないかとカヤは思い始める。

行き先を決めないノープランの旅

──もともと住野さんがTHE BACK HORNのことを好きだったそうですが、どういう流れで2組がコラボすることになったのでしょうか?

菅波栄純

菅波栄純 住野さんがTHE BACK HORNのライブに来てくれたり、手紙をくれたりして交流が始まり、しばらくしてから「小説と音楽で何か面白いことやりませんか?」という連絡が届きました。まだ具体的に何か決まっていたわけではないんですが、おそらく住野さんは「とにかくなんかやりたい!」という熱量を伝えてきたのかなと思って。俺らもそういう熱量が嫌いじゃないので、二つ返事で「やる!」と返したんですよね。

住野よる 本当にまだ何も決まってない段階でオファーさせていただきました。そこから一緒に走り出したので「この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版」の小説ができあがったのも、曲が全部できあがったのも、どっちが先とかじゃなくて。

──作曲や執筆に取りかかる前から会って、連載が始まってからも定期的に感想を伝えあいながら進めていったそうですね。

住野 最初に物語のあらすじと冒頭部分をお渡しして、そのあとに「ハナレバナレ」を聴かせていただき、「ハナレバナレ」を聴いて影響を受けて小説を書き進め、それをお渡しして、今度は「輪郭」を聴かせていただいて……という感じで、お互い積み木を1つひとつ乗せていくような作り方でしたね。

菅波 今の積み木の例えすごくわかりやすいね。違う人が積み木を乗せると、なんとなく「このへんに乗せるだろうな」というのはわかるけど、「この向きで乗せる?」みたいなことはやっぱりあって。その影響をお互いに受けるから思いがけないところに進んでいくんですよ。住野さんとTHE BACK HORNでノープランの旅に出た感じで、それぞれが「こっちに行ってみよう」って行き先を提案する感じというか。今まで映画の主題歌とかいろいろやらせてもらいましたけど、今回のコラボは最大級にスリリングな感じでした。すごく面白かったです。

住野 僕は作家である前にファンなのでありがたい限りでした……。

菅波 でも一緒にやってみてわかった人間らしさもあったんじゃない? ファン目線100%だったところからの変化というか。そのへんのTHE BACK HORNの人間味はどんな感じだったの?

住野 今でこそ栄純さんと普通にしゃべってますけど、最初の打ち合わせのときは「(目の前に)座ってる……!」と思って、それだけでドキドキしてました(笑)。

菅波 あはははは!(笑)

住野 そこから創作を進めるにつれ、作中での描写にも表れているんですけど、THE BACK HORNの皆さんが人であることを少しずつ知っていく感じでした。僕が小説家・住野よるじゃなければファンだけの状態でいいんですけど、お互いプレイヤーなので、自分の中でどう折り合いをつけるかは難しかったです。打ち合わせをしたり、ごはんを一緒に食べたりして普通のお兄さんたちだと思う瞬間もあるんですけど、ライブを観に行くとやっぱりステージ上の4人は特別な存在で。ファンである自分に「自分もプロなんだぞ」と言い聞かせる葛藤の日々でした(笑)。

菅波 住野さんが話してくれたから正直に言うと、俺らも最初の頃は距離感については悩んだ。すごく近付きすぎたり、俺らがやたら「次の展開はこうしてほしい」って言ったりするのはやめようってメンバーと話した記憶はある。俺は小説を書いたことないからわからないけど、たぶん自分の脳内の映像を文章にしていくのかなと思うと、外からの刺激は場合によってはノイズになったりもするのかなと思って。それで、俺らの中で純化させたものだけを刺激として与えたいよね、つまり研ぎ澄まされた音楽を届けたいよねってメンバーと話したんだよね。

これじゃない!

──曲はメロディの段階で渡したんですか? それとも歌詞も付けた状態で?

菅波 最初に作った「ハナレバナレ」は、歌詞がはっきりしてないと物語が進まないと思ったので、けっこうできあがった状態で渡しました。曲調はいろんな方向性が考えられると思ったんですよ。時期的に「カルペ・ディエム」の制作期間で曲をいっぱい作っていたので、バリエーションはいくらでもあったし。実は「カルペ・ディエム」に入ってる「I believe」を最初「ハナレバナレ」のポジションに持ってこようと思っていたんですよ。

住野 へえー!

菅波 「I believe」ができたときは小説にぴったりだと思っていたんだけど、定期検診で病院で採血してもらってるときにふと「これじゃない!」と思って(笑)。

住野よるの“本体”

住野 そのタイミングですか!(笑)

菅波 理由はわからないですけど。それで急いで180°方向転換して、歌詞の方向性もガラッと変えて「ハナレバナレ」を完成させたという。住野さんのところに持っていくときにはズバッと単刀直入に提示してるように見えていたかもしれないけど、実は俺らもけっこう紆余曲折していて。

──「I believe」のようなドリーミーな曲が上がってきていたら、小説も全然違う方向に進んでいたでしょうね。

住野 間違いないですね。「ハナレバナレ」がなかったら書いてないシーンがいくつかあります。キスシーンとかまさにあの曲の「聴かせてよ君の物語を」のメロディに合うようなシーンを作りたいと思って書いたので。

菅波 でかいね、それ!

煮込んで煮込んで煮込みまくる

──住野さんはTHE BACK HORNのレコーディング現場にも行かれたんですよね?

住野 「ハナレバナレ」と「突風」のレコーディングを見学させていただきました。ワンフレーズレベルで何テイクも録り直しされていたのですごく驚きました。僕は今回のコラボをするうえでTHE BACK HORNの名を自分が汚してはいけないと思いながらやっていたんですけど、レコーディングを拝見し、とんでもなく時間をかけて曲が作られていることがわかって、改めて背筋が伸びる思いでした。

菅波栄純と住野よるの“本体”。

菅波 面白いね、俺らが当然のようにやってる作業がそう見えるんだ。凝縮されていくことにフェティシズムを感じるんだよね。レコーディングが好きなミュージシャンってみんなそうだと思うんだけど。1音1音詰めていって、そのときはパーツしか見えてないけど、全部できあがって俯瞰で見たときにめちゃめちゃ凝縮されたものになってることにゾクゾクするんだよね。

住野 ものすごい量の食材を煮込むみたいな感じですか?

菅波 そうそう。煮込んで煮込んで煮込みまくる、みたいな。でもそれは住野さんの小説にも感じるよ。音楽だったらサビって1曲にだいたい1種類だけど、住野さんの小説はサビみたいに盛り上がるところが1冊の中に10回くらい出てくるから。

住野 ありがとうございます。以前誰かが「読者はいつでも読むのを止める権利を持っている」って言ってるのを見たことがあって。読むのを途中で止められる恐怖があるんですよね。もちろん音楽や映画も同じですけど、読んでほしいところが後半にもっとあるのに、途中で止められたくないという気持ちが強いんですよね。

菅波 わかるな、それ。最近THE BACK HORNの昔の曲のミュージックビデオをフル尺でYouTubeに公開していく企画があって、「砂の旅人」のMVをひさしぶりに観返したんですよ。「いろいろ詰め込まなきゃ」なんてまったく考えないで作っているので、すごく新鮮で。この曲のあとに最近のTHE BACK HORNの曲を聴いてもらうと、情報量が膨れ上がっているのがわかると思います。よくもわるくも近代化というか。俺らもロックバンドなので大雑把でいい加減な部分はあるけど、ある程度時代の変化にちゃんとついていけてるから20年以上やってこれてるのかなという気はしますね。

──「ハナレバナレ」もまさにそうですよね。一聴すると疾走感のあるロックナンバーですけど、実はすごく複雑な作りになっていて。

菅波 そうですね。サビ始まりのように聞こえるけど実はサビは別にあって、テンポチェンジも激しくて、ガラッと雰囲気の変わるパートがあって、全体では3分半ちょっとで終わるという。住野さんの作品の情報量に負けないように、俺らも気合い入れて作りました。