嵐イラスト

令和のアーティストとSNS 第5回 [バックナンバー]

嵐のSNS投稿に見る、ファンとのつながり

国内外“すべての人”に向けたSNSコミュニケーション

13

1351

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 335 994
  • 22 シェア

アーティストとファンのコミュニケーションの形を、SNSの観点から探るこの連載。第5回では国民的アイドルグループ・を取り上げる。嵐のSNSアカウントが一気に開設されたのは2019年11月。その衝撃からはや11カ月、まもなく1年が経とうとしている。2020年10月現在、Twitterフォロワーは241.2万人、Instagramフォロワーは425.9万人、Facebookのフォロワーは38.9万人、TikTokフォロワーは220万、YouTubeチャンネル登録者数は303万人、Weiboフォロワーは31.5万人。どれも驚異的な数字である。

「嵐」という存在自体が最強のコンテンツであるため、この数字は一見、当然のものと思われる。一方で、この1年間、彼らがSNS上で発信してきたコンテンツは、彼ら自身の存在感に甘えることなく、目的意識をもって綿密に企画され、的確にトレンドをキャッチしながら作成されたことが明らかにわかる内容だった。その結果、既存のファン、これまで存在は知っていたがファンではなかった人々、そして海外のファンにいたるまで実に多くの人々が、彼らのことを身近に感じられるようになった。

本稿では、数ある投稿の具体的事例から嵐のSNS戦略を考察することで、その成果を改めて理解したい。

文・構成 / 桂木きえ イラスト / フロマージュ

SNS一斉解禁の理由

そもそも、嵐が各SNS、および音楽のストリーミング配信を一斉に解禁した理由はなんだったのか。Netflixのドキュメンタリー番組「ARASHI’s Diary -Voyage-」第12話「デジタルの世界へ」で、松本潤は時代の変化に対する危惧をこのように語った。

ここから10年、20年……今のスピード感で言ったら10年かからないかもしれないけど、あらゆるところでCDを聴かない可能性すら、俺はあると思うんです。(その中で)自分たちの音楽がなかったことにされるのは、俺は悔しい。

二宮和也も自身たちの活動について、「時代がそこまで来ていたっていうことを、見ながらにして無視していた」とコメントしている。

ジャニーズ事務所が肖像権・著作権の保護の観点から一切の写真や映像をインターネットに公開していなかったのは周知の事実だ。所属タレントのプロフィール写真すらも公開されない徹底ぶりだった。そうした状況の中で嵐は、メンバー自身が危機感を抱き、大野智曰く「どこまでいけるかは知らないけど、それを面白がろう」と思って、変化することを望んだのだ。

時代の変化に対応してSNSで活動することの目的を、櫻井翔は「海外のファンの人たちが気軽に手軽に僕らのことを感じられるようにしたい」と話している。一方で、嵐のことをバラエティ番組などで知ってはいるが、コンサートや楽曲には触れたことがないという人々に「嵐、こんなコンサートやってたんだ、すげえ」と思ってもらいたい、という趣旨もあるという。相葉雅紀は「今まで応援してくれてきた人たちにも、やっぱりいろんなことを伝えたい」と話す。

彼らの言葉から考えられる、SNSコンテンツでリーチしたい対象は、日本国外の人、国内外問わず自分たちのことをよく知らない人、既存のファン。つまり、ほぼ「全員」だ。そうした大規模な挑戦を決めた彼らのSNS投稿を、「グローバル戦略」「既存ファンサービス」「新規開拓」という3つの観点から見てみたい。

世界のファンを喜ばせるグローバル対応

ドキュメンタリー内で松本や櫻井の口から最初に飛び出してきたのが「海外のファン」という言葉だったことからも、“海外進出”が彼らにとって一番の狙いだったことが窺える。それを裏付けるのは当然、英語でのSNS投稿だ。現在、すべてのSNSで日本語 / 英語双方で同じ内容を投稿することが徹底されている。Twitterではメンバーの何気ないつぶやきにもリプライで英訳がつくし、Instagramのストーリーでも、1枚のストーリー中に必ず英訳を載せている(相葉雅紀ストーリーハイライト)。

9月18日リリースの新曲「Whenever you call」の告知動画も、日本語バージョン / 英語バージョンが作成された。これまでの動画はおおよそ、メンバーが日本語で話しているところに英語テロップが入っているつくりだったが、ここ最近はメンバー自身が英語を話す動画での告知が見られる。さらにグローバル対応を進める意思が感じられる。

中国ではYouTube、Instagram、Twitter、Facebookのいずれも使用できないが、世界でもっとも人口が多い中国のファンにしっかりとアプローチするため、Weiboでの発信も怠らない。メンバーが中国語で挨拶し、中国の七夕を祝う動画の投稿は26,000likeを獲得している。

こうした徹底した英語 / 中国語対応が、世界中にいる嵐ファンを喜ばせていることは間違いない。YouTube上で動画を投稿すれば、必ず海外からとみられる英語のコメントが多数ついていることからも明らかだ。

既存ファンと、これまでにない距離の近さでコミュニケーション

海外展開を拡大する一方で、これまで応援してきた国内の元来のファンにも、大量のファンサービスを欠かさないのが嵐だ。とにかく距離感が近い。これまでのジャニーズタレントの活動からは考えられないほどの距離感の近さが、SNS上での活動の醍醐味である。そうした点では、Instagramのストーリーやライブ配信、Twitterの使い方が巧妙だといえる。

Instagramのストーリーでは、先に挙げた相葉のストーリーのように、個々のメンバーが日々近況報告を投稿している。相葉は緑、松本は紫、二宮は黄、大野は青、櫻井は赤、とそれぞれメンバーカラーの文字で投稿することで、「事務局」ではなく、メンバー1人ひとりが自分で投稿していることがわかる。テーマは日々の筋トレの様子(

櫻井翔ストーリーハイライト)や、料理をしたこと(大野智ストーリーハイライト)、その日測った体重(二宮和也ストーリーハイライト)まで個性豊か。フォロワーは、まるで彼らの普段の生活を垣間見ているような気になれる。松本のストーリー上では、Instagramのお決まりの機能「質問返し」もよく使われる。こちらも、これまでのジャニーズになかったリアルタイムでの相互なコミュニケーションであり、応援し続けてきたファンにとっては喜ばしい機会ではないだろうか。

また同じくストーリーで、テレビ番組の収録やロケ現場での様子がアップされていることも印象深い。8月の松本の誕生日には「VS嵐」(フジテレビ系)の収録現場でサプライズでお祝いをしている様子が投稿されていた。ファンにとっては、テレビ番組の裏側での嵐を観られることは、より彼らを身近に感じられる特別な機会だ。

Instagramでは、ファンとのコミュニケーションを活性化するためにインスタライブも行われる。5人全員集まって行うものもあれば、1人のメンバーがホストとして開催し、残りの4人に代わる代わる出演してもらうという1対1形式のものもある。その中で、まるで彼らはインスタグラマーか生配信者であるかのように、流れていくコメントを律儀に読み、丁寧にコメント返しをし、おしまいには「スクショタイム」まで設けるのだ。人気アーティストや芸能人がInstagramやYouTubeで生配信を行うことはここ最近多くなってきたが、このようなコメント返しやファンサービスを行うことは多くはない。こうした行動をしてファンを喜ばせなくても、すでにファンは十分に彼ら彼女らを愛しているからだ。そんな中で、トップアイドルの嵐がこのような律儀なファンサービスを行っていることは驚きに値する。

さらに、ファンにとっての深いコミュニケーションの場となったのがTwitterだ。2020年の5、6月にかけて期間限定配信された「嵐のワクワク学校オンライン」では、公式Twitterアカウントを開設した。「楽しく待つ過ごし方」「嵐のメンバーの肖像画」など、配信内で視聴者に「宿題」を課し、ハッシュタグを付けて投稿してもらう。アカウントではその投稿を、メンバー本人たちが自分の名前で引用RTし、感想をツイートしていた。

こうした活動により、リアルタイムに、直接コミュニケーションしている感覚をファンに与えることができる。彼らにとっては今までにしてこなかった、そしてこれ以上にないファンサービスだろう。

過去のファンを呼び戻す仕掛けも

嵐のSNSに影響を受けている“既存のファン”は、“ずっとファンだった人”だけではない。“過去にファンだった人”も、再びその嵐に巻き込まれている。コロナ禍が深刻化し、外出自粛要請の影響で自宅で過ごす人が多くなった4月。彼らはYouTubeチャンネルで、2012年のコンサート「アラフェス NATIONAL STADIUM」の映像をフルサイズで配信した。5月に予定されていたコンサート「アラフェス2020」が延期になったこともあり、また自粛期間中を少しでも楽しんでほしいという目的から配信が決定されたという。

またInstagramアカウントでは同時期の4月後半から6月にかけて「スローバックサーズデー」と称し、毎週木曜日に過去のコンサートや記者会見の写真や動画を投稿していた。

こうした過去の彼らの写真や映像を改めてSNS上に公開するという試みによって、かつて嵐のファンだったが、今はそうではない人々も、心を揺り動かされたのではないだろうか(実際、筆者は2003~2010年頃にもっとも彼らを応援していたファンだが、2007年の映画「黄色い涙」の舞台挨拶を取り上げたスローバックサーズデーに胸を打たれてしまった)。活動休止を前に、これまで時間をともにしてきたファンたちを1人残らず、精一杯喜ばせようとする意気込みが、こうした試みからも感じられる。

次のページ
このタイミングで、新しいファン層開拓

読者の反応

うるみ @momojunmama7

嵐のSNS投稿に見る、ファンとのつながり | 令和のアーティストとSNS 第5回 https://t.co/9wtqrXEqP2
#嵐 #ARASHI @arashi5official #WheneverYouCall

コメントを読む(13件)

関連記事

嵐のほかの記事

リンク

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。