髙山徹

エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第15回 [バックナンバー]

Cornelius、くるり、スピッツ、indigo la End、sumikaらを手がける高山徹の仕事術(前編)

出音がカッコよければ何でもいい、機材へのこだわりはない

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単音で録ったものを左右に配置してコード感を出す

──そのあと小山田さんがソロでCorneliusを始めてからもずっとやられていますよね。「FANTASMA」(1997年8月リリース)は実験的な作品だったと思いますが、あの作品はどういう感じで制作したんですか?

「FANTASMA」のときはまだ僕はテープが基本で、当時マニュピレーターで、今メインでCorneliusの録りをやっている美島(豊明)さんがPro Toolsを使い始めた頃ですね。あとサウンドアーティストの藤原和道さんが作ったダミーヘッドマイクを使って、スタジオの屋上や目黒川沿いでいろんな音を録りしましたね。藤原さんは虫の交尾の音とか不思議な音を録ってる人で、普通のレコーディングスタジオだと、ノイズに埋もれちゃってそんな弱音とても拾えないのですごく面白かったです。

──小山田さんとは30年近い付き合いになると思うんですが、関係性の変化みたいなものはありますか?

昔は「こういう感じにしたい」というお手本を提示されて、僕はそれに近付けるにはどうしたらいいか考えていたんですけど、今のCorneliusってものすごくオリジナルな世界に入っていて、もはやCorneliusでしかないじゃないですか。なので今はもう、聴いたものに対してどう表現するか考えるようになっていますね。

──最近の作品で言うと、「あなたがいるなら」(2017年4月にアナログリリースされたあと、6月リリースの「Mellow Waves」に収録)ではどういうやりとりがありましたか?

「え! 歌モノじゃん、どうしたらいいの?」って最初はビックリしました(笑)。それまで、彼はアレンジでズバ抜けた才能を発揮する人だなとは思ってたんですけど、ものすごい美しいメロディが出てきたので、「メロディメーカーとしても才能すごいんだな」と思って。作業的には、事務所のスタジオで美島さんとものすごく細かいところまで詰めて、そこで録音されたものを僕がスタジオで微調整する形ですね。空間を大きく取って、細かいところまでよく見える音楽の作り方をしてるので、より小さな部分が重要になってきていて。音量を0.2dBぐらいずつ、ちょっと上げたり下げたりすごく時間をかけてやってます。

──音の抜き方がヒップホップに近い流れというか「ストリーミング時代に対応してきたな」と思いました。ただ、音色はまるでヒップホップじゃないので、それがすごいオリジナルだなと。例えば、ドライにザラッと音を出す感じではなくて、ギターもドラムも初期反射(※壁や床から最初に跳ね返ってくる部屋鳴りの成分)っぽい感じの音色は付いていますよね。それはもう録音の時点から付いている部屋の音なんですか? それともミックスで付け加えているんでしょうか?

初期反射的なやつは正直に言うと、エディットの粗が見えないようにあとでぼやかせてるんですよね。単音単音で録ってると、音の途切れる最後の最後で空間がプツッと切れちゃって、どうしても音楽よりそっちに耳が引っ張られてしまうので。なので、そのフラッターエコー的なものはミックスの段階で足しています。音の隙間の消えていく瞬間をおいしく味わっていただくように。あとスプリングリバーブとか、そういう意思を持った残響的なものは音楽を作っていくうえで小山田くんのほうでかけてますね。

──ドラムなどはすべて、キットごと鳴らさずにパーツを個別で録ったものを受け取っているんでしょうか?

最近はほとんど打ち込み音源ですね。前はあらきゆうこちゃんにフレーズで叩いてもらって、それをサンプリングすることもあったんですけど。

──では録ってる素材はギターと歌だけ?

そうですね。「Mellow Waves」では、中にはアコギもあえて単音で録ったものを左右に配置してますね。並べるとコードになるように単音のデータで来て、定位を分けたりとか。さすがに「ジャラーン」ってコードを弾いているのは1つのサンプルですけど、重なってコードになるのは単音です。2ミックスだけじゃなくて、5.1chサラウンドも作ったし、1曲だけ実験的にDolby Atmosでミックスしたりもしていて、ギターの音がいろんなスピーカーから同時に鳴って、それで和音が構成できるように考えてやってるんです。普通にマイク1本でコード弾いてるのを録るとモノラルでしかないけど、音程ごとに分けて録れば、右のスピーカーと左のスピーカーで和音を作るみたいなやり方もできるので。

──ギターだけでも、ものすごいトラック数になりそうですね。ちなみに最近の作品はサウンドがものすごくクリーンで真空っぽいですが、これはコンピュータ内部でミックスしているんですか?

そうですね。Corneliusに関しては完全に内部処理です。でもそれはアーティストによっていろいろで、アウトボードを通す場合もあります。

映像に収められない高橋幸宏のドラミング

──例えば最近では、どのアーティストでアウトボードを通したんでしょうか?

バンドものは多いですね。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ソルファ」の再レコーディング盤(2016年11月リリース)は、このスタジオで全部アウトボードを通して、それをまたPro Toolsに録音し直しました。

──METAFIVEは通してないですか? 「META」(2016年1月リリース)とか。

曲によってバラバラですね。通したのもあるし、通してないのもあるし。僕がSound Cityで録った「Don't Move」は確か通したかな。

──あれが出た当時「こういうふうに高域が抜けた感じのリバーブ感にしてほしい」というオーダーが僕のところにもきて、全然できないなと思った記憶があります(笑)。空間の上が広いというか、天井が高い感じってプラグインのリバーブだけでできるものなのかなと。

リバーブはほぼプラグインです。ただ、サンプリングリバーブが多いかもしれないです。AUDIO EASE Altiverbを使いました。

──普通ですね(笑)。なんでそういう感じに抜けてるのか不思議で仕方ないです。「Don’t Move」のスタジオライブバージョンとか、The Power Stationみたいな感じなのに空間が広くて。

よく言われますね。みんなが演奏しながら、撮影隊も入れて同時に映像も録るっていう趣旨だったんですけど、(高橋)幸宏さんのドラムが素晴らしかったです。普通、ゴーストノートってスネアで「ダララ」って入れたりするじゃないですか。幸宏さんはハットで入れるんですよ。32分とか64分音符くらいの「チッチタララ、チッタチ」みたいなのが入ってるんです。映像で観れるかなと思ったんですけど、映像って1秒間に30フレームとかなので、64分の細かいフレーズはコマの間に抜け落ちて映らないっていう。たぶん、ハイスピードカメラじゃないと撮りきれない(笑)。

──これだけ個性が強い人が集まると、方向性を決めるだけで大変そうな気がします。

そうですね。METAFIVEはネタがあふれちゃってて、削るのがもったいなくて大変でした(笑)。どんどんアイデアがメールで送られてくるんですけど、ちょっと恐れ多いですが削っていかないといけなくなって。本人たちも途中でそれ気が付いて、後半はやっぱり抜いていこうよっていう話になっていきましたけど。

──METAFIVEのドラム録りではどういうプリアンプを使っているんでしょうか?

基本的にはSSLのHA(※ヘッドアンプ=マイクプリアンプ)を使ってるんですけど、アルバムのときはRed Bull Music Studios Tokyoで録ったので、そこにあったNEVEのHAをキックとスネアでちょっと使ったかな。でも僕、機材はあまりこだわってなくて、基本的にありものでなんとかするタイプです。

──これだけスタジオに機材がたくさん並んでいてこだわってないと言われると不思議な気持ちになってきますが(笑)。FAIRCHILD670(※The Beatlesが使用した事で有名なコンプレッサーの名機)なんかも置いてありますよね。

これは大好きですね。METAFIVEのドラムも670を経由してます。ドラムをまとめたステムミックスに対してかけてます。バンドものを録るときは使いますね。この上に置いてあるCHANDLER LIMITED TG1(※The Beatles後期やPink Floydの作品で使われたコンプレッサーの復刻版)もドラムに通すことが多いですね。

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小室サウンド全盛の時代にジョン・レノン

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